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第二章 始まりの街アンファン
第67話 匂いに釣られました
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フォレストテイルと一緒だと、それはもうあっさりと街の外に出ることができた。門番に渋い顔をされることもなく、むしろ笑顔で見送られたくらいだ。
ある程度終焉の森に向かって進んだところでわき道に逸れる。多少草原が開けた場所に陣取ると、みんなでお昼ご飯の準備に取り掛かった。
「はいどうぞ」
フォレストテイルのみんなが火を熾したあたりで、鞄から取り出した魚をみんなに配って回る。
「おいおい」
「こ、こんなにあるの?」
「うん。まだあるから早く食べないとね」
「いやしかし……」
渋るクレイブに、外に連れ出してくれたお礼だと告げるとなんとか納得してもらった。私は早く魚が食べたいのだ。問答している時間も惜しい。早く魚が食べたいので何度でも言う。
自分の分の魚も取り出すと、続けてコンロも取り出して用意を進める。金網も取り出して魚を乗せると塩を振りかけてコンロに火をつけた。
しばらく上機嫌で魚が焼ける様子を見ていると、フォレストテイル全員の視線が集まっていることに気づく。
「どうしたの?」
「………………なんでもねぇ」
恐る恐る聞いてみたけど長い沈黙の後にそんな答えが返ってきた。
その反応って絶対何かあるよね……。
しかし焼ける魚から漂ってくる匂いには勝てるはずもない。
「美味そうだな」
トングで魚をひっくり返していると、話題をそらすようにクレイブがそう言葉にする。
「きっとおいしいよ」
フォレストテイルのメンバーはスープも作っていたようで、すぐ横を見れば大きな鍋がぐつぐつ煮えているのが見える。魚が焼ける以外の匂いも漂ってきた。
「そろそろできたかな?」
ティリィがかき回す鍋を覗き込みながら、マリンが鼻をひくひくさせながら匂いを嗅いでいる。
「そろそろいいんじゃねぇか?」
クレイブの一言で、出来上がった料理の配膳が始まった。
「ん?」
ちょうどそのとき、周囲の警戒をお願いしていた風の精霊のふうかが、何かの魔物が近づいてくることを感知して知らせてくれる。
何が出てくるのかそっちに視線を向けていると、スノウも気が付いたのか伏せていた状態から顔をあげて同じ方向に顔を向けた。
「どうした?」
私たちの様子に気が付いたクレイブが、スープの器を持って私に手渡しつつも聞いてくる。
「ありがとうございます。んーと、何か来るみたいです」
「は?」
私の言葉にハテナが飛びつつも、同じ方向に顔を向ける。しばらくして急に顔つきがまじめになったかと思うと、斥候のマリンとアイコンタクトを取る。
頷いたマリンが鞘から短剣を二本引き抜くと、ほかの皆も私の前に出て警戒態勢を取った。終焉の森が近いとはいえ街の近くの草原だ。そうそう手ごわい魔物が出るとも思えない。
でもそういえば最近、終焉の森の魔物が草原をうろついてるのが見つかったんだっけか。それを思えば私という足手まといがいると考えて、フォレストテイルの警戒具合もうなずけるかもしれない。
「来るぞ!」
そうしてクレイブの言葉と共に草原の向こう側から顔だけ出したのは、額に二本の角が生えた、茶色い毛で覆われた狐のような魔物だった。
うん、なんかどこかで見た記憶があるよね。
「くっ……!」
クレイブから苦悶の声が聞こえてくる。
それなりに手ごわい相手なのかもしれないけど、私からすると焼き魚の匂いに釣られて崖から落ちてくるような相手だ。
睨み合ったまま動かないフォレストテイルのメンバーではあるが、網の上に乗せられた魚はいい具合に火が通ってきている。このまま時間だけが過ぎても魚が焦げてしまうだけだ。かといって火を止めてこのまま睨み合いを続けたとしても、せっかく焼けた魚が冷めてしまう。
となればとる手段は一つしかない。一度成功もしているし、次もうまくいくだろう。
ちょうどいい具合に焼けたことを確認し、コンロの火を止めてトングで魚をつかむと二本の角が生えた魔物――ルナールに向かって歩き出す。
「あ、おい! 危ないぞ!?」
「アイリスちゃん!?」
クレイブの制止とマリンの悲鳴が聞こえるがきっと大丈夫。
「この子には前にも焼き魚をあげたことがあるから」
「……はぁ!?」
ルナールの視線はがっつりと魚に固定されていて、鼻をひくひくさせている。二メートルほど手前まで近づくと、ルナールの目の前に焼き魚を置いた。
「食べていいよ」
私と魚と交互に視線をやるルナールだったが、ゆっくりと近づいてくるとふんふんと魚の匂いを嗅ぐ。以前会った時ほど警戒心がなくなっているようで、しばらく匂いを嗅いでいたかと思ったらそのまま魚にかぶりついた。咥えてそのまま去っていくかと思いきや、その場でがつがつと平らげていく。
ちょっとだけ背中を撫でたくなったけど、警戒心の高い魔物らしいので何もせずにコンロの位置まで戻ってきた。
「あ、ごめんねスノウ」
戻ってきたところでスノウが悲しそうな表情をしており、ルナールにあげた魚はスノウ用だったことを思い出して素直に謝る。
「すぐに焼くから……」
鞄をもう一度漁ると、お肉の塊を取り出してスノウにあげる。
「焼けるまでこれで我慢して」
改めて魚を鞄からもう一匹取り出すと、網の上に乗せて塩を振って焼き始めた。
「よし」
「よし、じゃねぇよ!」
私にはクレイブたちが作ってくれているスープもあるし、あとは魚が焼けるのを待つだけだなと思っていると、間髪入れずにクレイブからツッコミが入るのだった。
ある程度終焉の森に向かって進んだところでわき道に逸れる。多少草原が開けた場所に陣取ると、みんなでお昼ご飯の準備に取り掛かった。
「はいどうぞ」
フォレストテイルのみんなが火を熾したあたりで、鞄から取り出した魚をみんなに配って回る。
「おいおい」
「こ、こんなにあるの?」
「うん。まだあるから早く食べないとね」
「いやしかし……」
渋るクレイブに、外に連れ出してくれたお礼だと告げるとなんとか納得してもらった。私は早く魚が食べたいのだ。問答している時間も惜しい。早く魚が食べたいので何度でも言う。
自分の分の魚も取り出すと、続けてコンロも取り出して用意を進める。金網も取り出して魚を乗せると塩を振りかけてコンロに火をつけた。
しばらく上機嫌で魚が焼ける様子を見ていると、フォレストテイル全員の視線が集まっていることに気づく。
「どうしたの?」
「………………なんでもねぇ」
恐る恐る聞いてみたけど長い沈黙の後にそんな答えが返ってきた。
その反応って絶対何かあるよね……。
しかし焼ける魚から漂ってくる匂いには勝てるはずもない。
「美味そうだな」
トングで魚をひっくり返していると、話題をそらすようにクレイブがそう言葉にする。
「きっとおいしいよ」
フォレストテイルのメンバーはスープも作っていたようで、すぐ横を見れば大きな鍋がぐつぐつ煮えているのが見える。魚が焼ける以外の匂いも漂ってきた。
「そろそろできたかな?」
ティリィがかき回す鍋を覗き込みながら、マリンが鼻をひくひくさせながら匂いを嗅いでいる。
「そろそろいいんじゃねぇか?」
クレイブの一言で、出来上がった料理の配膳が始まった。
「ん?」
ちょうどそのとき、周囲の警戒をお願いしていた風の精霊のふうかが、何かの魔物が近づいてくることを感知して知らせてくれる。
何が出てくるのかそっちに視線を向けていると、スノウも気が付いたのか伏せていた状態から顔をあげて同じ方向に顔を向けた。
「どうした?」
私たちの様子に気が付いたクレイブが、スープの器を持って私に手渡しつつも聞いてくる。
「ありがとうございます。んーと、何か来るみたいです」
「は?」
私の言葉にハテナが飛びつつも、同じ方向に顔を向ける。しばらくして急に顔つきがまじめになったかと思うと、斥候のマリンとアイコンタクトを取る。
頷いたマリンが鞘から短剣を二本引き抜くと、ほかの皆も私の前に出て警戒態勢を取った。終焉の森が近いとはいえ街の近くの草原だ。そうそう手ごわい魔物が出るとも思えない。
でもそういえば最近、終焉の森の魔物が草原をうろついてるのが見つかったんだっけか。それを思えば私という足手まといがいると考えて、フォレストテイルの警戒具合もうなずけるかもしれない。
「来るぞ!」
そうしてクレイブの言葉と共に草原の向こう側から顔だけ出したのは、額に二本の角が生えた、茶色い毛で覆われた狐のような魔物だった。
うん、なんかどこかで見た記憶があるよね。
「くっ……!」
クレイブから苦悶の声が聞こえてくる。
それなりに手ごわい相手なのかもしれないけど、私からすると焼き魚の匂いに釣られて崖から落ちてくるような相手だ。
睨み合ったまま動かないフォレストテイルのメンバーではあるが、網の上に乗せられた魚はいい具合に火が通ってきている。このまま時間だけが過ぎても魚が焦げてしまうだけだ。かといって火を止めてこのまま睨み合いを続けたとしても、せっかく焼けた魚が冷めてしまう。
となればとる手段は一つしかない。一度成功もしているし、次もうまくいくだろう。
ちょうどいい具合に焼けたことを確認し、コンロの火を止めてトングで魚をつかむと二本の角が生えた魔物――ルナールに向かって歩き出す。
「あ、おい! 危ないぞ!?」
「アイリスちゃん!?」
クレイブの制止とマリンの悲鳴が聞こえるがきっと大丈夫。
「この子には前にも焼き魚をあげたことがあるから」
「……はぁ!?」
ルナールの視線はがっつりと魚に固定されていて、鼻をひくひくさせている。二メートルほど手前まで近づくと、ルナールの目の前に焼き魚を置いた。
「食べていいよ」
私と魚と交互に視線をやるルナールだったが、ゆっくりと近づいてくるとふんふんと魚の匂いを嗅ぐ。以前会った時ほど警戒心がなくなっているようで、しばらく匂いを嗅いでいたかと思ったらそのまま魚にかぶりついた。咥えてそのまま去っていくかと思いきや、その場でがつがつと平らげていく。
ちょっとだけ背中を撫でたくなったけど、警戒心の高い魔物らしいので何もせずにコンロの位置まで戻ってきた。
「あ、ごめんねスノウ」
戻ってきたところでスノウが悲しそうな表情をしており、ルナールにあげた魚はスノウ用だったことを思い出して素直に謝る。
「すぐに焼くから……」
鞄をもう一度漁ると、お肉の塊を取り出してスノウにあげる。
「焼けるまでこれで我慢して」
改めて魚を鞄からもう一匹取り出すと、網の上に乗せて塩を振って焼き始めた。
「よし」
「よし、じゃねぇよ!」
私にはクレイブたちが作ってくれているスープもあるし、あとは魚が焼けるのを待つだけだなと思っていると、間髪入れずにクレイブからツッコミが入るのだった。
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