56 / 81
第二章 始まりの街アンファン
第56話 心配してくれる人たち
しおりを挟む
「ごめんなさい」
私は今、スノウの背に揺られながらフォレストテイルの説教を聞いているところだ。心配して探しに来てくれた時には日は沈み始めていて、もうちょっと遅ければ真っ暗になっていたかもしれない。
「しっかしまぁ、従魔のスノウがいるとはいえ、草原で一人で昼寝たぁ相当肝が据わってるよな」
「ちょっと据わりすぎじゃないかしらね」
がっはっはと笑うクレイブに、マリンがジト目を向けている。
そう言われても森の中に比べたらぜんぜん大したことないし、すごく安全ですよ、とは決して言えない。
みんな私のことを心配して、ここまで探しに来てくれたのだ。じんわりと温かい気持ちになると同時に申し訳なくなってくる。
「うう……、ちゃんと帰ってくるようにします」
『私は目覚まし代わりにはならないからな』
ちょっと期待したけど、キースに釘を刺されてしまった。
倒したコボルトは爪と牙がお金になるようだ。クレイブが採取して渡してくれたけど、そのことにまったく気が付いていなかった。森で生活していたときは食べるものさえあればよかったし、素材を剥ぎ取っても加工する術がなかったし。
日が暮れて門を通ったときも、門番からの心配する言葉にますます肩身が狭くなってきた。宿に帰ったらシルクさんにも怒られるんだろうなぁと思ったけど、帰らないわけにもいかない。
宿に帰るとカウンターの内側でそわそわしているシルクさんがいた。スノウから降りてゆっくりと玄関に入っていく。
「あの……、ただいまです」
「アイリスちゃん!」
私を見つけたシルクさんがカウンターを迂回してまっさきに走り寄ってくる。がしっと両肩を掴まれると、シルクさんの目が吊り上がっていた。
「もーどこ行ってたのよ! すごく心配したんだからね!」
「はい。ごめんなさい……」
まったくもってその通りで何も言い返せない。そこまで気を張らなくていい草原とはいえ、魔物がうろついているのだ。昼寝するにしても日が沈むまで起きないとか、緊張感がなさすぎた。
心の中でため息をついていると、自然と視線が地面へと下がってくる。
反省しているとシルクさんに抱きしめられた。
「アイリスちゃんは小さいんだから、ちゃんと帰ってこないとダメよ」
「うん」
心配してくれるシルクさんの温かい気持ちが体温と共に伝わってくる。
こんなに誰かに心配されたのっていつ以来だろうか。王宮で暮らしていた時期を思い返してみても、ピンとくる記憶はない。私の専属侍女だったレイラだったら、同じように心配してくれただろうか? いやそれ以前に王宮内にはそんな危険なことなどなかったけど、でも遺跡の視察に行ったときは探索者に刺されたし……。
いろいろな感情が渦を巻いてきてまとまらなくなってくる。でもこうやって心配してくれる人がいるのは事実だ。胸が温かくなってくるとじーんときて、自然と涙がこぼれてきた。
「え、あ、怒ってるわけじゃないのよ! 私たちはアイリスちゃんが心配だっただけだから、泣かないで」
急に泣き出した私にシルクさんが慌てながら抱きしめなおしてくれると、背中をぽんぽんと叩かれる。
「わかってます。……だけど、心配かけてごめんなさい」
私もシルクさんの背中……、には手が届かなかったので精一杯腕を伸ばして抱き着くと、幼児なのをいいことに目一杯甘えることにした。
「さぁお腹すいたでしょ。いっぱいあるからたくさん食べていってね」
ひとしきり頭をよしよしと撫でられたあと、シルクさんが笑顔になる。そういえば確かにお腹が空いたかも。おなかをさすると、ぐーという音が聞こえてきた。
「あっはっはっは、じゃあ飯にするか!」
クレイブに大笑いされたけど、まぁこういうこともあるよね。
「ごちそうになります!」
「またかよ! まぁいいけどよ」
「うふふ」
そんな私たちのやりとりを楽しそうに見ていたシルクさんと一緒に食堂へと入っていく。この時間帯の食堂は大いににぎわっている。がやがやしていた食堂だったけど、私が足を踏み入れた瞬間に視線が集まり、場が一瞬にして静かになった。
「……え?」
いったい何が起こったのがわからなくて凍り付いたが、次の瞬間。
「嬢ちゃんおかえり!」
「帰ってきたか!」
「見つかってよかったな!」
一斉にその場が沸いた。
宿に泊まっているみんなも、私をちょっとでも気にかけていてくれてたらしい。
話したこともない人たちだけど、温かい人たちに囲まれて幸せだなぁと思った。
「ただいま!」
みんなに聞こえるように、大きい声で返事をする。
「よっしゃ、嬢ちゃんが帰ってきた記念だ! 飲むぞ!」
「嬢ちゃんも飲め!」
「これ食うか?」
「嬢ちゃんも食え食え!」
空いているテーブルへとフォレストテイルの四人と向かっていると、席に座って注文する前から料理が次々と乗せられていく。
「おお、ラッキー! お前らゴチになるぜ!」
それを見たクレイブが高らかに宣言して席に座ると、周囲の客から一斉にブーイングが上がった。
「お前じゃねぇよ!」
「帰れ!」
「嬢ちゃんにあげたんだからお前は食うな!」
「ぷっ、あははははは!」
あっという間に騒ぎになった食堂に耐えきれなくなって笑ってしまう。誰も私をいらない子扱いしないこの街に、とても居心地のいいものを感じていた。
私は今、スノウの背に揺られながらフォレストテイルの説教を聞いているところだ。心配して探しに来てくれた時には日は沈み始めていて、もうちょっと遅ければ真っ暗になっていたかもしれない。
「しっかしまぁ、従魔のスノウがいるとはいえ、草原で一人で昼寝たぁ相当肝が据わってるよな」
「ちょっと据わりすぎじゃないかしらね」
がっはっはと笑うクレイブに、マリンがジト目を向けている。
そう言われても森の中に比べたらぜんぜん大したことないし、すごく安全ですよ、とは決して言えない。
みんな私のことを心配して、ここまで探しに来てくれたのだ。じんわりと温かい気持ちになると同時に申し訳なくなってくる。
「うう……、ちゃんと帰ってくるようにします」
『私は目覚まし代わりにはならないからな』
ちょっと期待したけど、キースに釘を刺されてしまった。
倒したコボルトは爪と牙がお金になるようだ。クレイブが採取して渡してくれたけど、そのことにまったく気が付いていなかった。森で生活していたときは食べるものさえあればよかったし、素材を剥ぎ取っても加工する術がなかったし。
日が暮れて門を通ったときも、門番からの心配する言葉にますます肩身が狭くなってきた。宿に帰ったらシルクさんにも怒られるんだろうなぁと思ったけど、帰らないわけにもいかない。
宿に帰るとカウンターの内側でそわそわしているシルクさんがいた。スノウから降りてゆっくりと玄関に入っていく。
「あの……、ただいまです」
「アイリスちゃん!」
私を見つけたシルクさんがカウンターを迂回してまっさきに走り寄ってくる。がしっと両肩を掴まれると、シルクさんの目が吊り上がっていた。
「もーどこ行ってたのよ! すごく心配したんだからね!」
「はい。ごめんなさい……」
まったくもってその通りで何も言い返せない。そこまで気を張らなくていい草原とはいえ、魔物がうろついているのだ。昼寝するにしても日が沈むまで起きないとか、緊張感がなさすぎた。
心の中でため息をついていると、自然と視線が地面へと下がってくる。
反省しているとシルクさんに抱きしめられた。
「アイリスちゃんは小さいんだから、ちゃんと帰ってこないとダメよ」
「うん」
心配してくれるシルクさんの温かい気持ちが体温と共に伝わってくる。
こんなに誰かに心配されたのっていつ以来だろうか。王宮で暮らしていた時期を思い返してみても、ピンとくる記憶はない。私の専属侍女だったレイラだったら、同じように心配してくれただろうか? いやそれ以前に王宮内にはそんな危険なことなどなかったけど、でも遺跡の視察に行ったときは探索者に刺されたし……。
いろいろな感情が渦を巻いてきてまとまらなくなってくる。でもこうやって心配してくれる人がいるのは事実だ。胸が温かくなってくるとじーんときて、自然と涙がこぼれてきた。
「え、あ、怒ってるわけじゃないのよ! 私たちはアイリスちゃんが心配だっただけだから、泣かないで」
急に泣き出した私にシルクさんが慌てながら抱きしめなおしてくれると、背中をぽんぽんと叩かれる。
「わかってます。……だけど、心配かけてごめんなさい」
私もシルクさんの背中……、には手が届かなかったので精一杯腕を伸ばして抱き着くと、幼児なのをいいことに目一杯甘えることにした。
「さぁお腹すいたでしょ。いっぱいあるからたくさん食べていってね」
ひとしきり頭をよしよしと撫でられたあと、シルクさんが笑顔になる。そういえば確かにお腹が空いたかも。おなかをさすると、ぐーという音が聞こえてきた。
「あっはっはっは、じゃあ飯にするか!」
クレイブに大笑いされたけど、まぁこういうこともあるよね。
「ごちそうになります!」
「またかよ! まぁいいけどよ」
「うふふ」
そんな私たちのやりとりを楽しそうに見ていたシルクさんと一緒に食堂へと入っていく。この時間帯の食堂は大いににぎわっている。がやがやしていた食堂だったけど、私が足を踏み入れた瞬間に視線が集まり、場が一瞬にして静かになった。
「……え?」
いったい何が起こったのがわからなくて凍り付いたが、次の瞬間。
「嬢ちゃんおかえり!」
「帰ってきたか!」
「見つかってよかったな!」
一斉にその場が沸いた。
宿に泊まっているみんなも、私をちょっとでも気にかけていてくれてたらしい。
話したこともない人たちだけど、温かい人たちに囲まれて幸せだなぁと思った。
「ただいま!」
みんなに聞こえるように、大きい声で返事をする。
「よっしゃ、嬢ちゃんが帰ってきた記念だ! 飲むぞ!」
「嬢ちゃんも飲め!」
「これ食うか?」
「嬢ちゃんも食え食え!」
空いているテーブルへとフォレストテイルの四人と向かっていると、席に座って注文する前から料理が次々と乗せられていく。
「おお、ラッキー! お前らゴチになるぜ!」
それを見たクレイブが高らかに宣言して席に座ると、周囲の客から一斉にブーイングが上がった。
「お前じゃねぇよ!」
「帰れ!」
「嬢ちゃんにあげたんだからお前は食うな!」
「ぷっ、あははははは!」
あっという間に騒ぎになった食堂に耐えきれなくなって笑ってしまう。誰も私をいらない子扱いしないこの街に、とても居心地のいいものを感じていた。
0
お気に入りに追加
278
あなたにおすすめの小説
マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました
東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。
攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる!
そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。
断罪済み悪役令嬢に憑依したけど、ネトゲの自キャラ能力が使えたので逃げ出しました
八華
ファンタジー
断罪済みの牢の中で悪役令嬢と意識が融合してしまった主人公。
乙女ゲームストーリー上、待っているのは破滅のみ。
でも、なぜか地球でやっていたオンラインゲームキャラの能力が使えるみたいで……。
ゲームキャラチートを利用して、あっさり脱獄成功。
王都の街で色んな人と出会いながら、現実世界への帰還を目指します!
男子中学生から女子校生になった僕
葵
大衆娯楽
僕はある日突然、母と姉に強制的に女の子として育てられる事になった。
普通に男の子として過ごしていた主人公がJKで過ごした高校3年間のお話し。
強制女装、女性と性行為、男性と性行為、羞恥、屈辱などが好きな方は是非読んでみてください!
僕は絶倫女子大生
五十音 順(いそおと じゅん)
恋愛
僕のコンプレックスは、男らしくないこと…見た目は勿論、声や名前まで男らしくありませんでした…。
大学生になり一人暮らしを始めた僕は、周りから勝手に女だと思われていました。
異性としてのバリアを失った僕に対して、女性たちは下着姿や裸を平気で見せてきました。
そんな僕は何故か女性にモテ始め、ハーレムのような生活をすることに…。
ユニコーンに懐かれたのでダンジョン配信します……女装しないと言うこと聞いてくれないので、女装して。
あずももも
ファンタジー
【護られる系柚希姫なユズちゃん】【姫が男? 寝ぼけてんの?】【あの可愛さで声と話し方は中性的なのが、ぐっとくるよな】【天然でちょうちょすぎる】【ちょうちょ(物理】(視聴者の声より)
◆病気な母のために高校を休学し、バイトを掛け持ちする生活の星野柚希。髪が伸び切るほど忙しいある日、モンスターに襲われている小さな何かを助ける。懐かれたため飼うことにしたが、彼は知らない。それがSクラスモンスター、世界でも数体の目撃例な「ユニコーン」――「清らかな乙女にしか懐かない種族」の幼体だと。
◆「テイマー」スキルを持っていたと知った彼は、貧乏生活脱出のために一攫千金を目指してダンジョンに潜る。しかし女装した格好のままパーティーを組み、ついでに無自覚で配信していたため後戻りできず、さらにはユニコーンが「男子らしい格好」だと言うことを聞かないと知り、女装したまま配信をすることに。
◆「ユニコーンに約束された柚希姫」として一躍有名になったり、庭に出現したダンジョンでの生計も企んでみたらとんでもないことになったり、他のレアモンスターに懐かれたり、とんでもないことになったり、女の子たちからも「女子」として「男の娘」として懐かれたりなほのぼの系日常ときどき冒険譚です。
◆男の娘×ダンジョン配信&掲示板×もふもふです。主人公は元から中性的ですが、ユニコーンのスキルでより男の娘に。あと総受けです。
◆「ヘッドショットTSハルちゃん」https://kakuyomu.jp/works/16817330662854492372と同時連載・世界観はほぼ同じです。掲示板やコメントのノリも、なにもかも。男の娘とTSっ子なダンジョン配信ものをお楽しみくださいませ。
◆別サイト様でも連載しています。
◆ユズちゃんのサンプル画像→https://www.pixiv.net/artworks/116855601
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる