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第二章 始まりの街アンファン

第54話 体を動かそう

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「よし、じゃあお昼からはちょっと剣の鍛錬でもするかな」

 お昼を食べて少し休憩したあとは体を動かすことにする。精霊魔術でバフをかけた二刀持ちがちょっと楽しかったのだ。魔力の短剣はなんだか魔力の通りがよくなったし、素早さの短剣も確かに素早く動けるようになる気がする。

『精霊にはまだ未知の可能性があるようだな』

 キースにはできるだけ知られたくないとは思うものの、設備があればできるというだけで、キース本人にはいろいろ実験ができるわけでもない。可能性を見出したいようだけど問題はないだろう。

 まずは二刀に慣れるところからだなと思い、鞘から抜いて右手の素早さの短剣を正眼に構える。左手の魔力の短剣は……、盾のように防御に使ってもいいし、攻撃に使ってもよさそうだ。
 二刀の剣術なんて習ってはいないけれど、自分であれこれと考えて実践するのは楽しいかもしれない。だって鍛錬すればきっとレベルは上がるのだから。

「ふっ、ほっ、はっ」

 腹ごなしにしばらく運動していると、寝そべっていたスノウがふと顔をあげる。じっと一点を見つめて動かないので、私も同じ方向をみているとがさがさと草が揺れた。
 油断なく両手の短剣を構えていると、醜悪な犬の顔をした私と同じくらいの背の魔物が現れた。

『コボルトか』

 えーっと、コボルトといえば……。確か群れる習性のある二足歩行の犬型の魔物だったっけ。ゴブリンよりは強いけど、そこまで警戒するほどじゃないって習った覚えがある。スノウも顔だけは上げているけど寝そべったままだし、大した相手じゃなさそうだ。

「これはちょうどいい相手が現れたのかも」

 コボルトからすれば草原に謎の広場ができて戸惑っているんだろうか。もう一体のコボルトが顔を出すと、キョロキョロ見回している。スノウを視界に収めてギョッとしているけど、私を見て目を光らせた。鼻をクンクンさせて鍋にも反応しているようだ。全部食べられなかったのでまだ残っているのだ。

 ……匂いに釣られて現れただけかもしれないなぁ。

 さらに後ろから二体のコボルトが現れると、先頭にいた二体が私の方へと突っ込んできた。短剣を構えて腰を落としていた私は、先制攻撃とばかりに敵へと突っ込んで行く。
 あまり頭のよくないコボルトは、予想外の動きをされるとすぐに戦線が崩壊すると聞く。先頭一体の首を斬りつけると、後方の二体へと向かっていく。

 まさか後方の自分たちに来るとは思っていなかったのか、すぐに動揺を見せたコボルトは私の敵ではなかった。そのまま二体を切り伏せると、残った一体の喉を突いて終わらせる。最初に切りつけた一体も、よくみればそのまま動かなくなっていた。

「思ったよりよく斬れるな……。さすがは秘宝具アーティファクトなのかな?」

 遺跡で見つけたナイフもよく切れたけど、これも似たようなものかもしれない。

『ふん。この時代の刃物が切れなさすぎだろう。技術が伝わらずに途切れるのは嘆かわしいことだ』

「なんだよ。精霊についてはよく知らなかったくせに」

 なんとなく馬鹿にされたように思って頬を膨らませて反論すると、『ふむ』としばし間が開く。

『それは利用方法に関する見識の違いというものではないかな。他に効率のいいやり方があっただけに過ぎない。我々の時代の刃物には切れ味増加の付与が組み込まれている』

「えっ? 付与?」

 なんだか新しい言葉が出てきたぞ。私には因子が組み込まれているって言ってたけど、刃物には付与? 非生物には因子じゃなくて何かを付与するってこと?

『その短剣についてもそうだ。素早さや魔力の増加する付与がされている』

「え、でも、切れ味がいいなんて効果は言ってなかったんじゃ……」

『むしろその切れ味は我々の標準なんだが……』

 戸惑いを含んだキースの言葉にようやく私も納得する。あえて言うほどのものではなかったらしい。だから私たちの世代で作った刃物が「劣化品」ね。

「うぬぅ」

 なんとも反論しがたい現実に唸り声が出る。
 くそう、誰かすごい鍛冶師の人、キースに一泡吹かせてやってください!
 心の中で他人任せに叫びをあげると、この話題は一旦置いておくことにする。

 短剣に付いた血をぬぐって鞘に納めると、短剣を装備していない状態での動きも確認しておくことにした。
 いざというときに動きの違いで失敗すると大変だからね。

「はぁ、疲れたー」

 しばらく体を動かした後、しずくにお願いして汗を吸ったワンピースごと自分の体をさっと洗う。そのまま自分ごとパッと乾かせば服も乾くのでお手軽だ。
 そのまま地面へと寝転がると、空を見上げた。

 空は青くどこまでも広がっている。風が草原を通り抜けるとワンピースの裾がはためく。ズボンとシャツも悪くなかったけど、今まで着ていた布を巻きつけただけの物と似たような服はワンピースだったのだ。
 以前の自分から遠ざかるのもそうだけど、ワンピースのほうがしっくりくるというのもある。本当はぱんつも脱いでしまいたい衝動に駆られるけど、誰もいないとはいえなんとか自重している。

「……平和だねぇ」

 スノウも寄ってきて一緒になって横になると、自然と笑みがこぼれる。森ほど緊張感なく過ごせる草原は気を緩められる場所だ。といっても精霊たちにお願いして、周囲の警戒はいつものようにやっているけれど。

 運動後の疲労感も心地よく、気持ちよくなってくるとだんだんと眠くなってきた。スノウも大きい欠伸をしているのをみて目をつぶる。
 自然とそのまま昼寝へと突入するのだった。
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