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第二章 始まりの街アンファン

第47話 買い物は大胆に

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 テイマーギルドでスノウを登録してタグをもらったら、次は買い物だ。ちなみに従魔が一体でもいればテイマーギルドランクは2になるらしい。

「ところで、何を買うんだ?」

 ギルドの外に出たところでクレイブが尋ねてくる。

「生活用品とか、服とか欲しいです。……このシャツも借りたままですし」

 服のお腹の部分を摘まんで引っ張ってみる。下着も穿いておらずスースーするけど、それは森の中でもずっと一緒だったので慣れたものだ。

「わかった……、ところで予算を聞いてもいいか?」

 ふむ。もしかして予算によって案内してくれる店の質でも変わるんだろうか。拾ったお金しか手持ちにないけど、そういえばいくら入ってるのか数えてなかったなぁ。

「えーと、拾った袋には小金貨が入ってたので、それくらいまでなら……」

「小金貨!? 生活用品とかだけを買うにしてはえらい奮発することになるが……」

「そうなんですか?」

「小金貨一枚あれば、切り詰めたら半年は生活できるぞ……?」

 マジか。百万ゼルあったらそれだけもつんだ……。王宮での生活を思い出してみるも、そこまで贅沢をしていた実感はない。むしろ他の兄妹に比べたら質素だったくらいだ。
 呆れた表情のフォレストテイルのメンバーに、苦笑いを返すことしかできない。無能と言われながらも自分は王子だったんだなと強く実感した。

「大丈夫です。お金は惜しみませんので」

「そ、そうか。じゃあ俺たちが世話になってる店に行くか」

 どうせお金があるなら質がいいものを買っておくに越したことはない。自分が幼児なのをいいことに細かいことは気にしないことにした。



「おう、ベギンはいるか。客を連れてきてやったぞ」

 店に入るなりクレイブが声を掛けると、しかめっ面をした店主らしき男性が姿を見せる。ここはテイマーギルドの数軒隣にある、大通りに面した商店だ。三階建ての大きめの建物には所狭しと商品が並べられている。

「んだよクレイブか。って客ってのはどういうことだ?」

 視線を私に向けてしばらくすると、後ろにいたスノウに気付いたのかちょっとだけ後ずさる。

「だから客だよ。日用品全般まとめ買いするからちったぁ割引してくれよ」

「は?」

「……商品見ていっていいですか?」

 目が点になっている店主に声をかけると生返事が返ってきたので、肯定と受け取って店の中へと入っていく。

 手触りのいいタオルなどをはじめ、歯ブラシや石鹸類に筆記用具などなど、いろいろと必要なものを買い揃えていく。なんだかんだとフォレストテイルのメンバーが見繕ってくれたものもあれば、自分で選んだものもある。

「そろそろ一人で持ち歩けないんじゃねぇか? このあと服も買うんだろ」

「ほほほ、従魔用のこんな鞄も当店では取り揃えてございますよ」

 クレイブが呟くと、店の主人が得意げになって奥から鞄を持ってきた。背中に帯をかけてその左右にポケットのついた、鞍のような鞄だ。
 店主も次第に商売人としての自分を思い出したのか、気付けば大量の商品を購入する私に丁寧な言葉遣いになっていた。

「へぇ、こんなのもあるんだ」

 確かにあれば便利かもしれない。お金はあるし買っておこうか。

「毎度ありー」

 特にスノウも嫌がらなかったし大丈夫そうだ。
 そうしたら次は自分の服だ。借りたままのシャツも返さないとだし、街に来てまで布を巻きつけただけの衣装でいる必要もない。
 商店のとなりの古着店に入ると、商店のときと同じようにクレイブが声を掛ける。

「おう、ジャックいるか。客を連れてきたぞ」

 似たようなやり取りの後、子ども用のシャツやズボンを選んでいくが数が少ない。

「そこそこ賑わってる街だが、ここは終焉の森から一番近い街だからね。そんな危険な街で子育てする親なんてのはまずいない。子どもが少ない分古着も少なくてね」

 肩をすくめながらそう零す店主だが、言われてみれば当たり前だった。

「じゃあアイリスちゃん、こっちの服なんてどうかな?」

 そうしてマリンに薦められたのはフリフリのついたワンピースだった。

「はは、可愛らしいアイリスちゃんには似合うかもな」

 私のことを男だと知ったクレイブが揶揄からかってくるけれど、つまり私は女の子に見えるということだろうか。いや実際に見えるんだろう。それはそれでサイラスからかけ離れていいのではないかと思い始めてきた。それになんだか『可愛い』と言われて悪い気はしない自分がいる。

「そうかな? じゃあ着てみようかな」

「は? え? いいのか?」

 予想外の答えだったらしく、クレイブが逆に戸惑っている。
 袖を通してみると悪くない。ややくすんではいるが鏡があったので、自分の姿を映してみる。
 水色の髪を胸元まで伸ばした、蒼い瞳の幼児がそこにいた。目は大きく頬はふっくらとしており、袖口から伸びた二の腕はぷにぷにしていて健康そうだ。遺跡で目覚めたばかりの、やせ細った自分はもういなかった。

「きゃぁ! アイリスちゃん可愛い!」

 マリンとティリィがはしゃいでいるけど、確かに悪くはない。悪くはないんだけど……。

「ちょっと汚いなぁ」

 誰にも聞こえない声でポツリと呟く。
 よく考えれば濁流に流された後、水分は拭ってくれたけど体を洗ったわけではないのだ。あちこちが薄汚れていてとても見れたものじゃなかった。今までこんな格好で街を歩いていたのかと思うと恥ずかしくなってきた。

「はっはっは! やっぱり恥ずかしいんじゃねぇか」

 顔を赤くする私に得意げなクレイブだけど、そうじゃない。
 店主が不思議そうにしているけど、訂正する気もないのでスルーだ。
 結局女の子用の服も多めに買って、古着屋を後にした。
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