上 下
45 / 81
第二章 始まりの街アンファン

第45話 実は三年後でした

しおりを挟む
「まさか、アイリスちゃんが拾ってるとは思わなかったよ……」

 実はフォレストテイルがダレス・ネイワードの捜索依頼を受けていたと教えてくれた。

「それであんなに驚いてたんですね」

「ああ。まさか子どもに先を越されるとは思わなかったけどな……」

「見つけたのはスノウの母親ですけどね。それに、探そうと思ってたわけじゃないですよ」

「それはわかってるんだがな……」

 クレイブは頬を掻きながら苦笑している。

「あと遺品は遺族がいるなら返そうと思ってるんですけど、わかります?」

 私が言葉を続けると、またもや五人が驚いた顔でこっちを凝視する。

「律義だな。普通は回収にかかった費用を請求するもんだが。まぁどちらにしろダレスは独り者で家族はいない。その遺品もお嬢ちゃんの物で問題ないよ。自分で使うもよし、不要なのであれば売り払えばいい」

「そうなんですね。あとこの鞄なんですけど」

 時空の鞄とは言わずに口が閉まっていて開かないとだけ伝える。

「なんだアイツ……わざわざ鍵でもかけてやがったのか。どっちにしろその鞄もお嬢ちゃんのもんだ。ナイフで切るなりして中身を取り出せばいいんじゃないか?」

「あ、そうですか」

 どうやら鞄の正体は知らないらしい。ならばもらえるのであればもらっておこう。それにしても家族がいないんなら、どこから捜索依頼が出たんだろうな?
 あとさっきから「お嬢ちゃん」と連発されてるけどもしかして……。

「とはいえだ、あいつの短剣と盾は秘宝具アーティファクトだったはずなんだよなぁ」

「え?」

「そこら辺の店じゃ高すぎて買い取ってもらえない可能性があるが……。まぁどちらにしろ、フォレストテイルのお前らは、お嬢ちゃんが高価なものを持ってるなんて言いふらすんじゃねぇぞ」

「当たり前じゃねぇか」

 ギルドマスターからの思わぬ情報に、テーブルの上の遺品を見つめる。さすが一流の探索者ともなれば、秘宝具アーティファクトもいくつか所持してるものなのか。

「さて……、だいたい聞きたいことは聞けたか」

「お嬢ちゃんから何か聞きたいことはあるかな?」

 クレイブが腕を組みながらうなずいていると、ギルドマスターから逆に尋ねられた。やっぱりお嬢ちゃんっていうのは私のことだったらしい。というか私は男なんだけど、まぁ名前がアイリスだしなぁ……。
 自分の服装を見下ろせば、そういえばマリンに着せられたシャツを着たままだった。足首まですっぽりと覆われたそれは、ワンピースを着ているようにも見える。そういえば服も欲しい。

「えっと、スノウをテイマーギルドで登録するように言われたんですけど」

「ああ、それなら探索者ギルドの向かいにある」

「ありがとうございます。行ってみますね。あとはちょっと買い物をしたいのと、宿を紹介してもらえると助かります」

「はは、思ったよりしっかりしているな。子どもとは思えん。そういえばいくつなんだ?」

 ええ、中身は三十一歳ですから。でもステータス上は。

「えーっと、あ……、四歳になってる」

 念のためにステータスを確認すると一つ歳をとっていた。ということは誕生日を迎えたってことで……。というか今日が何日なのかもよく知らないことに気が付く。

「は? 四歳?」

「嘘だろ? ホントに見た目通りなのか……」

「そういえば、今って何月何日なんですか?」

 とりあえず気になったので驚いているみんなに聞いてみる。

「あー、今日は新聖歴1768年の六月二十日だが……」

「えっ!? 1768年!?」

 記憶が確かならば、私が幼児化する原因になった遺跡の見回りに出た日は1764年の十月だったはずだ。その日からもう三年八か月も経っているらしい。
 思わず自分の両手を見つめるが、確かに年相応の体の大きさをしているように思う。半年以上かけて森から出たことを考えると、私はあの遺跡で生まれたばかりのゼロ歳児くらいに戻されたってことに……。

「おい、お嬢ちゃん、大丈夫か?」

「え? あ、はい……、大丈夫です」

 たぶん、大丈夫。すごくキースに文句を言いたくなったけどこの場にいないし、今更か……。死なずに済んだことには感謝してるので、強く言うつもりはないけど。

「とりあえずだ。他にもやらないといけないことがあるみたいだし、俺たちがいろいろと街を案内してやるよ」

「そうね。アイリスちゃんをこのまま街に放り出すなんてアタシにはできないわ」

 クレイブに続いてマリンが同意すると、残りの二人もうんうんと頷いている。

「じゃあ決まりだな。フォレストテイルに任せた」

「ああ、任せてくれ」

 ギルドマスターがそう宣言すると、この場は一旦解散となる。

「まずはテイマーギルドだな」

「うん」

 ソファから降りるとテーブルに出したタグ以外を回収する。死亡した探索者のタグは、探索者ギルドへ返却することがルールになっているのだ。

「クレイブ」

 ギルドマスターがタグを掴んで立ち上がると声を掛け。

「ん?」

「依頼主に説明するのに必要だろ。持っていけ」

 それだけ告げるとタグをクレイブへと投げてよこした。

「ああ、悪ぃな。終わったら返しに来るよ」

「おう」

 そういえば捜索依頼が出ていたんだっけか。家族じゃないけど、依頼主がちゃんといたんだね。

「あの、まだお仕事が残ってるなら、わざわざついてきてくれなくても大丈夫ですよ?」

「何言ってるのよ。アイリスちゃんのサポートより大事なものなんてあるわけないじゃない」

 フォレストテイルのみんなの仕事の邪魔はしたくなかったんだけど、マリンが強い口調で宣言する。

「へ?」

 思わず間抜けな声が出てしまったけど、他の三人も同じだったらしく。

「子どもがそんな気を使わなくていいんだよ」

「そうね。いろいろ教えてあげるから、安心してね」

 口をそろえて気にするなというみんなが、順番に私の頭を撫でてから執務室を出て行く。その様子を微笑ましく見ていたギルドマスターも、私の頭にポンと手を置いて。

「ははっ、あいつらはガキには甘いからな」

 と言いながら執務室を出て行った。
 ポカンとその様子を眺めていると、隅で座っていたスノウに「行かないの?」と顔を摺り寄せられて、慌ててみんなを追いかけていった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

小さなわたしたちが1000倍サイズの超巨大エルフ少女たちから世界を取り返すまでのお話

穂鈴 えい
ファンタジー
この世界に住んでいる大多数の一般人たちは、身長1400メートルを超える山のように巨大な、少数のエルフたちのために働かされている。吐息だけでわたしたち一般市民をまとめて倒せてしまえるエルフたちに抵抗する術もなく、ただひたすらに彼女たちのために労働を続ける生活を強いられているのだ。 一般市民であるわたしは日中は重たい穀物を運び、エルフたちの食料を調達しなければならない。そして、日が暮れてからはわたしたちのことを管理している身長30メートルを越える巨大メイドの身の回りの世話をしなければならない。 そんな過酷な日々を続ける中で、マイペースな銀髪美少女のパメラに出会う。彼女は花園の手入れを担当していたのだが、そこの管理者のエフィという巨大な少女が怖くて命懸けでわたしのいる区域に逃げてきたらしい。毎日のように30倍サイズの巨大少女のエフィから踏みつけられたり、舐められたりしてすっかり弱り切っていたのだった。 再びエフィに連れ去られたパメラを助けるために成り行きでエルフたちを倒すため旅に出ることになった。当然1000倍サイズのエルフを倒すどころか、30倍サイズの管理者メイドのことすらまともに倒せず、今の労働場所から逃げ出すのも困難だった。挙句、抜け出そうとしたことがバレて、管理者メイドにあっさり吊るされてしまったのだった。 しかし、そんなわたしを助けてくれたのが、この世界で2番目に優秀な魔女のクラリッサだった。クラリッサは、この世界で一番優秀な魔女で、わたしの姉であるステラを探していて、ついでにわたしのことを助けてくれたのだった。一緒に旅をしていく仲間としてとんでもなく心強い仲間を得られたと思ったのだけれど、そんな彼女でも1000倍サイズのエルフと相対すると、圧倒的な力を感じさせられてしまうことに。 それでもわたしたちは、勝ち目のない戦いをするためにエルフたちの住む屋敷へと向かわなければならないのだった。そうして旅をしていく中で、エルフ達がこの世界を統治するようになった理由や、わたしやパメラの本当の力が明らかになっていき……。

男子中学生から女子校生になった僕

大衆娯楽
僕はある日突然、母と姉に強制的に女の子として育てられる事になった。 普通に男の子として過ごしていた主人公がJKで過ごした高校3年間のお話し。 強制女装、女性と性行為、男性と性行為、羞恥、屈辱などが好きな方は是非読んでみてください!

入社した会社でぼくがあたしになる話

青春
父の残した借金返済のためがむしゃらに就活をした結果入社した会社で主人公[山名ユウ]が徐々に変わっていく物語

マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。 攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる! そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。

女子に虐められる僕

大衆娯楽
主人公が女子校生にいじめられて堕ちていく話です。恥辱、強制女装、女性からのいじめなど好きな方どうぞ

転職してOLになった僕。

大衆娯楽
転職した会社で無理矢理女装させられてる男の子の話しです。 強制女装、恥辱、女性からの責めが好きな方にオススメです!

断罪済み悪役令嬢に憑依したけど、ネトゲの自キャラ能力が使えたので逃げ出しました

八華
ファンタジー
断罪済みの牢の中で悪役令嬢と意識が融合してしまった主人公。 乙女ゲームストーリー上、待っているのは破滅のみ。 でも、なぜか地球でやっていたオンラインゲームキャラの能力が使えるみたいで……。 ゲームキャラチートを利用して、あっさり脱獄成功。 王都の街で色んな人と出会いながら、現実世界への帰還を目指します!

僕は絶倫女子大生

五十音 順(いそおと じゅん)
恋愛
僕のコンプレックスは、男らしくないこと…見た目は勿論、声や名前まで男らしくありませんでした…。 大学生になり一人暮らしを始めた僕は、周りから勝手に女だと思われていました。 異性としてのバリアを失った僕に対して、女性たちは下着姿や裸を平気で見せてきました。 そんな僕は何故か女性にモテ始め、ハーレムのような生活をすることに…。

処理中です...