上 下
44 / 81
第二章 始まりの街アンファン

第44話 ギルドでの話し合い

しおりを挟む
「うーん。まずは俺から話そうか」

 そう言ってクレイブさんが私を見つけた時の状況を詳しく語ってくれる。

「なるほど。それでアイリスちゃんと、その虎のスノウが終焉の森から来たんじゃないかと?」

「ああ、そうだ」

「……終焉の森? もしかして、あそこの森の名前ですか?」

「そうだが、聞いたことはないか?」

 キースからは神霊の森って聞いてたけど、一気に物騒な名前になったじゃないか。でも終焉の森か……、そういえば聞いたことがあるような。ラルターク皇国の東側に広がっている森だった気がする。そうするとここは森を越えたどこか?

「そういえば聞いたことがあります。魔物が多い危険な森だって……」

「うむ。キミはその危険な森からやってきたんだ」

 そうだったのか……。通りで強い魔物しかいなかったわけだ。でも待てよ? 私はその森でしばらく生活していたし、川の氾濫がなければ普通に森を移動できてたよね。
 まぁそれは置いておこう。今はなんで私があの森にいたかだね。

「あたしは……、無能だって、才能がないからって、捨てられました」

「え?」

「「「「は?」」」」

 ギルドマスターを含めた全員の目が点になる。

「気が付いたら森にいて、スノウたちに拾われて、半年くらい森で生活していました。最近ようやく、スノウのお母さんに見守られて森から出てきたところなんです」

「……こんな子どもを無能だと捨てるなんて信じられんな」

「どこをどう見たらアイリスちゃんが無能に見えるのかしら……」

 無能だったのはオッサンの時ですから……。などと言えるはずもなく。

「どこの出身とかわかるか?」

「……わかりません。というか、この街のこともよく知らないです」

 ラルターク皇国と答えてもよかったかもしれないが、少しでもサイラス・アレイン・ラルタークと結び付けられたくはなかった。

「そうか。さすがにそれはしょうがないな」

 ガシガシと頭を掻いてため息をつくギルドマスター。

「ここはレイセル王国の西の端にある、始まりの街アンファンだ。終焉の砦とも呼ばれるがな」

 レイセル王国と言えば、終焉の森を挟んでラルターク皇国のちょうど反対側にある国だ。森も結構な広さがあったはずで、そうすると思ったより遠くまで来たんだな。ラルターク皇国と国交はなかったはずだし、ここなら故郷のことを考えずに過ごせるかもしれない。

「終焉の森から現れる魔物を食い止める役割を持っているのがこの街だ。そうそう森から魔物が出てくることはないが……、万が一の時は危険になる街でもある。……クレイブ」

 そこでいったん話を切ると、ギルドマスターがクレイブに向かって鋭い視線を投げかける。

「はい」

「保護したのはこの子だろうが、これからどうするんだ?」

「あー、うーん……。順当にいけば街の孤児院なんでしょうけど……」

「そうだなぁ……」

 何やら考え込んでいる二人。孤児院っていうと孤児がいる施設だよね。うーん……、子どもがいっぱいいるんだろうなぁ。私自身は子どもと接したことはないけど、どうにも元三十一歳の私とは話が合う気がしない。

 そこでちらりと視線が向けられたのはスノウだったけど、まさか孤児院でスノウの面倒まで見てもらえるとも思っていない。

「宿があればそこで生活しますけど……」

 思わず声に出すと、部屋にいる五人全員の注目を浴びる。子どもが何言ってんだという視線も含まれているが、子どもじゃないので。

「お金はあるのか?」

 至極まっとうなことを聞かれたけど、お金に換えられそうなものはたくさん持っている。あ、そういえば昔、お金の入った袋も拾ったっけか。探索者のタグも拾ったから渡しておかないと。

「いくらか森で拾ったものがあります」

 背負ったままだった鞄を前に持ってくると、口を開いてお金の入った革袋と探索者のタグ、短剣三本、小盾に時空の鞄を取り出す。盾はなんとか鞄より小さいので不審には思われてないと思う。
 目の前のテーブルには手が届かなかったので、一度ソファを降りてからテーブルに出してソファへと戻ってきた。こういうところは小さいと不便だなぁ。

「うん? 森で拾った? これは……! ダレス・ネイワードだと!?」

「「なんだって!?」」
「「えっ!」」

 あれ? そんなに驚くところなのかな? そこまで有名な人だったり?

「こ、これはどこで!?」

 はてなを飛ばしているとクレイブがソファから立ち上がって詰め寄ってきた。

「え、あの……」

「あ、こら! クレイブ! アイリスちゃんが驚いてるじゃないの!」

 思わず引いているとマリンから叱責が飛んでくる。

「あ、すまん……」

 素直に引き下がったクレイブがソファに座りなおすと、改めて真面目な顔で問いかけてきた。

「それでその、ダレス・ネイワードのタグはどこで見つけたのか教えてくれないか?」

「あ、はい。……拾ったのは半年くらい前で、私たちがスノウとしばらく過ごした小さい川沿いなんだけど、場所までは詳しくはわからないです」

 キースがいれば正確な場所はわかったかもしれないけど、この場にいないのでどうしようもない。肝心な時に役に立たないやつである。

「そうか……。行方不明になった時期とは一致してるが」

「あ、でも」

 何日かけて森を抜けてきたか思い出そうとしたところで、正確に数えていたわけでもないことに気付いてしまう。

「川に流されるまではひと月くらいは歩いたから、ここからひと月くらい歩いた場所かも?」

 なんとかうろ覚えの記憶をほじくり出すが、子どもの足での一か月だ。あんまりあてになるとも思えない。

「ふむ。ひと月か……。その虎に乗って移動したと考えると、それなりの距離になりそうだな……」

「あ、いえ、森の中はずっと、自分で歩いてました」

 なんか変に勘違いして遠い距離になりそうなので訂正したら、みんなに目を丸くされた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

小さなわたしたちが1000倍サイズの超巨大エルフ少女たちから世界を取り返すまでのお話

穂鈴 えい
ファンタジー
この世界に住んでいる大多数の一般人たちは、身長1400メートルを超える山のように巨大な、少数のエルフたちのために働かされている。吐息だけでわたしたち一般市民をまとめて倒せてしまえるエルフたちに抵抗する術もなく、ただひたすらに彼女たちのために労働を続ける生活を強いられているのだ。 一般市民であるわたしは日中は重たい穀物を運び、エルフたちの食料を調達しなければならない。そして、日が暮れてからはわたしたちのことを管理している身長30メートルを越える巨大メイドの身の回りの世話をしなければならない。 そんな過酷な日々を続ける中で、マイペースな銀髪美少女のパメラに出会う。彼女は花園の手入れを担当していたのだが、そこの管理者のエフィという巨大な少女が怖くて命懸けでわたしのいる区域に逃げてきたらしい。毎日のように30倍サイズの巨大少女のエフィから踏みつけられたり、舐められたりしてすっかり弱り切っていたのだった。 再びエフィに連れ去られたパメラを助けるために成り行きでエルフたちを倒すため旅に出ることになった。当然1000倍サイズのエルフを倒すどころか、30倍サイズの管理者メイドのことすらまともに倒せず、今の労働場所から逃げ出すのも困難だった。挙句、抜け出そうとしたことがバレて、管理者メイドにあっさり吊るされてしまったのだった。 しかし、そんなわたしを助けてくれたのが、この世界で2番目に優秀な魔女のクラリッサだった。クラリッサは、この世界で一番優秀な魔女で、わたしの姉であるステラを探していて、ついでにわたしのことを助けてくれたのだった。一緒に旅をしていく仲間としてとんでもなく心強い仲間を得られたと思ったのだけれど、そんな彼女でも1000倍サイズのエルフと相対すると、圧倒的な力を感じさせられてしまうことに。 それでもわたしたちは、勝ち目のない戦いをするためにエルフたちの住む屋敷へと向かわなければならないのだった。そうして旅をしていく中で、エルフ達がこの世界を統治するようになった理由や、わたしやパメラの本当の力が明らかになっていき……。

男子中学生から女子校生になった僕

大衆娯楽
僕はある日突然、母と姉に強制的に女の子として育てられる事になった。 普通に男の子として過ごしていた主人公がJKで過ごした高校3年間のお話し。 強制女装、女性と性行為、男性と性行為、羞恥、屈辱などが好きな方は是非読んでみてください!

入社した会社でぼくがあたしになる話

青春
父の残した借金返済のためがむしゃらに就活をした結果入社した会社で主人公[山名ユウ]が徐々に変わっていく物語

マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。 攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる! そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。

女子に虐められる僕

大衆娯楽
主人公が女子校生にいじめられて堕ちていく話です。恥辱、強制女装、女性からのいじめなど好きな方どうぞ

転職してOLになった僕。

大衆娯楽
転職した会社で無理矢理女装させられてる男の子の話しです。 強制女装、恥辱、女性からの責めが好きな方にオススメです!

断罪済み悪役令嬢に憑依したけど、ネトゲの自キャラ能力が使えたので逃げ出しました

八華
ファンタジー
断罪済みの牢の中で悪役令嬢と意識が融合してしまった主人公。 乙女ゲームストーリー上、待っているのは破滅のみ。 でも、なぜか地球でやっていたオンラインゲームキャラの能力が使えるみたいで……。 ゲームキャラチートを利用して、あっさり脱獄成功。 王都の街で色んな人と出会いながら、現実世界への帰還を目指します!

僕は絶倫女子大生

五十音 順(いそおと じゅん)
恋愛
僕のコンプレックスは、男らしくないこと…見た目は勿論、声や名前まで男らしくありませんでした…。 大学生になり一人暮らしを始めた僕は、周りから勝手に女だと思われていました。 異性としてのバリアを失った僕に対して、女性たちは下着姿や裸を平気で見せてきました。 そんな僕は何故か女性にモテ始め、ハーレムのような生活をすることに…。

処理中です...