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第一章 神霊の森

第39話 川の氾濫

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「レベルが上がったね」

『上がったな。やはり契約数なんだろうか』

「でもこさめちゃんで精霊契約数は11だよ?」

『きりのいい数字とも言えないな』

「うん。でもかえでは中位精霊だし、精霊の階位にもよるのかも?」

『その可能性が高いが……、仮にかえでを10と数えるとして、他の精霊たちの数値はと考えると……』

「さっぱりわからないね」

『そうだろうな』

 キースと考えるも答えが出るはずもなく。とりあえずその日は一日のんびりと過ごすことにした。



 翌朝目覚めると広場を出発することにする。半日のんびりしたせいか、何となく気分はいい。
 夜中に少しだけ雨が降ったようだけど特に問題はなさそうだ。川の流れは昨日と変わらなさそうだし、相変わらず魚の影も見える。空は相変わらず曇ったままだけど、新しく仲間になったこさめを連れて川岸を下っていく。

「こさめちゃんは何ができるかな」

 雨の精霊と聞いて思い浮かぶのはもちろん雨を降らせることだ。それは昨日試してみてできたけど、どこまでの範囲ができるのかなと。でも水の眷属だろうし、水に関することならいろいろできそうだね。

 試しに川の水を雨のように操って飛ばすことはできた。どうにも細かくした水ほど操りやすい傾向にあるみたいで、やっぱり雨なんだなと思った。

「きりともお願い」

 霧状にまですれば霧の下位精霊であるきりとがもちろん活躍するが、こさめも負けてはいない。むしろ両方にお願いすれば効果は抜群だ。
 だけど複雑なイメージを込めると途端に難しくなる。まだどちらかの精霊一体にお願いした方がうまくいくことも多かった。

『それぞれの精霊が違うやり方でアイリスのイメージを実現させようとしているのかもしれないな』

「なるほど?」

 水を前方に向かって撃て。などの単純なことなら力を合わせられるが、水を細かく制御しようとすると、お互いの制御力が相殺し合うというような説明をキースがしてくれた。

「ふむ……」

『ふっ。そういうもんだと思っておけばいいんじゃないか』

 またもや鼻で笑われた気がしたが、実際によくわからなかったので反論のしようもない。とりあえず結果だけもわかっていればいいと自分を納得させることにした。

 ごつごつとした岩場を進んでいると、歩いていた川岸まで川の水が浸食していることに気が付いた。

『これはまずいかもしれん』

 キースが上流に目を向けながらそう零している。
 同じように上流を振り返ると、どんよりと厚い雲がかかっていて激しい雨が降っているように見えるが、なにがまずいのかよくわからない。

「なんで?」

 素直に聞いてみると舌打ちが返ってくる。うん、これはいつものやつか。

『これだから都会育ちは……。上流で降った雨は全部川に集まって下流へと流れてくるんだ。実際にここの川岸周辺はすでに水浸しになっていることを考えると……』

 つまり川の水が増水するってことかな。王宮にいた頃にも確かに大雨の被害を受けた村や街の報告を聞いたことはある。どんなことになっているのか現場を見たことはないけど、畑が流されて作物が収穫できずに補償を出したなどと聞く。

『ここの谷全部が雨で水没する可能性があるな』

「えっ?」

 ぼけっとラルターク皇国内で発生した水害について思い出していると、キースから重大な言葉が飛び出てきた。

『下手すると全員が流されるぞ』

「ええっ!? ど、どうすれば」

『高台に避難するしかない』

「高台って……」

 おろおろして周囲を見回してみるが、ごつごつした岩場にまばらに生えた細くて低い樹木、谷の中心を流れる川と、両側にそびえる崖しか視界には入ってこない。崖は十メートル以上も高さがあり簡単には登れそうにない。

『とにかく下流に向かって進むしかない。崖を登れるところか、大きい岩を探すんだ』

「わ、わかった」

 気が付けば川岸全体にもうっすらと水が広がっていた。もしかするともう時間はないのかもしれない。

「急ごう」

 シュネーとスノウにも声を掛けると、下流に向かって駆け出した。

 ただひたすら下流に向かうが、しばらくすると膝まで水位が上がってきて走ることもできなくなる。水はすでに濁っていて、葉っぱや細い木の枝まで流されてきているようだ。

「がうがう」

 スノウに拾い上げられると背中に乗せられる。

「ありがとう」

 まだなんとかスノウは走れるようだけど、それも時間の問題だろう。
 しずくに頼んで魔力を渡しているけど、やっぱり自然の災害クラスには下位精霊では太刀打ちできないらしい。さっきから魔力を無駄に消費するだけで、足元の水位は一向に下がる気配を見せない。

 いしまるにしても同じだ。ある程度の大きさの石は生成できるけど、消えないように生成するには魔力を食うのだ。川の水をせき止めるくらいに石を生成するなんて不可能なのだ。

 歯がゆい思いをしながらスノウの背中で揺られていると、遠くから大きな音が聞こえてきた。思わす振り返ったが特に変化は見られない。といってもこの谷はまっすぐに伸びているわけではないので、崖で遮られてそこまで遠く見えないんだけど。

『きたぞ! 耐えろ!』

 と思った瞬間にキースから警告が飛んできた。もう一度振り返ると谷を埋め尽くすように大量の水が目前まで迫っていた。

「うわあぁぁ!」

 あっという間に大量に流れる水が私たちを襲う。シュネーはまだ足だけなので耐えられそうだったけど、小さいスノウは胴体にも流れる水が直撃してとうとう流されてしまう。

「スノウ!」

『アイリス!』

 スノウの背中に乗っていた私もその衝撃で投げ出され、川へと落ちてしまった。
 濁流に流されながら視界がぐるぐると渦を巻き、呼吸もままならなくなる。五感全てが何も感じられなくなったところで私は意識を失った。
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