上 下
28 / 81
第一章 神霊の森

第28話 くろすけ

しおりを挟む
「5しか減ってないんだけど」

『なんだと?』

 まさか一気に実が収穫できるまで成長するとは思っていなかった。しかも1.5倍くらい大きく育っていて、自然になっていた実よりも大きくて甘くておいしい。

「うふふ、やっぱりアイリスちゃんの魔力は幸せになれるのねん」

 かえでは頬に手を当てながら、嬉しそうにくるくる回っている。キースはまたもや考え込んでいるみたいだけど、私もちょっと考えてみようか。
 そういえばいつからか魔力を動かしやすくなってたんだよね。くろすけに手伝ってもらってからだったっけ? じゃあくろすけに手伝ってもらわずに精霊魔術を使ったらどうなるのかな。

 もう一つ木の実を種を取り出すと、同じように地面に埋めて土を掛ける。

「も一回いくよ」

「わかったなのねん」

 同じように種が芽を出して成長する過程を想像しながら、同じくらいの魔力をかえでへと渡す。
 芽が出て双葉を付けるとぐんぐんと伸びていく。そして私の身長の半分くらいのところまで成長すると、それ以上伸びなくなった。

「さっきよりももらった魔力少なかったのねん」

「え? そうなの?」

 ステータスを確認するとやっぱり5しか減っていない。

「同じだけ渡したつもりなんだけど」

『確かにさっきと同じ、5しか減っていないな』

 まさかそんな効果があるなんてと思いながら、くろすけを両手で掬うようにして手に取ってみる。不定形に姿かたちをくねくねと変えているけど、なんとなく嬉しそうに見える。

「やっぱりこの子のおかげ?」

『どういうことだ?』

「魔力の循環とか、放出とか、この子に手伝ってもらったの」

『……手伝ってもらう?』

 説明してもキースはいまいちわかっていない様子。そもそも他人の魔力に干渉するなんて普通はできないのだ。自分で言っていて私は何を言ってるんだという気持ちになってきた。ただ起こったことを話しただけだけど、誰かに説明することでようやくその異常さに気が付いた。

「あら、珍しいのねん。魔の精霊なのねん」

 かえでは知っていたようでさりげなく教えてくれるけど、聞いたことのない精霊が出てきたな。精霊自体が最近知ったものだけど、通常の魔術の属性に関するものは無以外については精霊も存在した。だけどそれ以外にもたくさんの種類の精霊が存在するみたいなのだ。
 地魔術であれば地属性でひとまとめにされるけど、精霊になると石の精霊、土の精霊、砂の精霊といった具合に細かく分けられたりする。

「魔の精霊って?」

「どこにでもある魔素がもとになった精霊なのねん。魔素の性質も持っているから、近くで使われた魔術発動で消費されたり、生き物に吸収されて消えちゃうこともあるのねん。とってもレアな精霊なのねん」

「そうなんだ……。なんだか不憫だね……」

 なんとなく憐憫の情が湧いてしまい、よしよしと指先でくろすけを撫でてやる。嬉しそうに指にまとわりついてくるくろすけが、なんだか可愛く見えてきた。

「契約すれば事故で消費されることもなくなるのねん」

「ホントに?」

『それなら是非とも契約しておくべきだな。これほど多様な精霊が存在するとは、実に興味深い』

 それなら確かに契約しておいたほうがいい気がする。くろすけは可愛いしね。
 改めて手の中にいるくろすけと向き直ると話しかけてみる。

「これからきみと契約しようと思うんだけど、いいかな?」

 理解しているのかどうかよくわからないけど、特に拒絶反応とかはなさそうだ。契約したくないのであれば、名前を付けても了承されないだけだ。

「じゃあきみは今日から『くろすけ』だ」

 今まで心の中だけで呼んでいた名前を初めて声に出すと。
 一呼吸置いた後にくろすけが一瞬だけ光ったかと思うと、一回りほどサイズが大きくなった。

「うわっ、大きくなった……?」

『……見えるようになった』

「あ、見えてなかったんだ」

 キースの自白で初めて、キースが精霊を認識できていなかったことに気が付く。かえでとは会話している節があったから、見えていたのはかえでだけなのかもしれない。

「うふふ、くろすけちゃん、よろしくなのねん」

「よろしくね、くろすけ」

 かえでが契約仲間になったからか、私の手の中にいるくろすけのところまでふわふわと飛んでいくとぎゅっと抱きしめる。

『よし、契約できたならさっそく試してみよう。同じ精霊魔術を使ったら消費魔力はどうなるかだ』

 契約できた精霊が増えたとしてもキースはぶれないようだ。自分の興味を満たすべく催促してくる。

「そんなに慌てなくてもいいのに」

『何を悠長なことを言っている。契約した直後というのは今しかないのだぞ』

 といっても自分でも気になって入るので、試してみるのはやぶさかではない。
 肩をすくめつつも同じように種を取り出すと地面に埋めて、水を掛ける。

「じゃあいくよ」

「どういう魔力がもらえるのねん」

 かえでも実は気になっていそうだ。契約したくろすけに手伝ってもらった魔力はどんなものになるのか。
 さっきの半分くらいの魔力を意識して、植物成長の精霊魔術を行使する。

「はあああぁぁぁん! なのねん!」

 前よりも恍惚とした表情を浮かべてかえでがくるくると踊りだし、種から芽を出した植物はぐんぐんと成長していく。そして二メートル弱の高さになって、四センチくらいの実を付けたところで成長は止まった。
 ちなみに減ったMPは2だった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

小さなわたしたちが1000倍サイズの超巨大エルフ少女たちから世界を取り返すまでのお話

穂鈴 えい
ファンタジー
この世界に住んでいる大多数の一般人たちは、身長1400メートルを超える山のように巨大な、少数のエルフたちのために働かされている。吐息だけでわたしたち一般市民をまとめて倒せてしまえるエルフたちに抵抗する術もなく、ただひたすらに彼女たちのために労働を続ける生活を強いられているのだ。 一般市民であるわたしは日中は重たい穀物を運び、エルフたちの食料を調達しなければならない。そして、日が暮れてからはわたしたちのことを管理している身長30メートルを越える巨大メイドの身の回りの世話をしなければならない。 そんな過酷な日々を続ける中で、マイペースな銀髪美少女のパメラに出会う。彼女は花園の手入れを担当していたのだが、そこの管理者のエフィという巨大な少女が怖くて命懸けでわたしのいる区域に逃げてきたらしい。毎日のように30倍サイズの巨大少女のエフィから踏みつけられたり、舐められたりしてすっかり弱り切っていたのだった。 再びエフィに連れ去られたパメラを助けるために成り行きでエルフたちを倒すため旅に出ることになった。当然1000倍サイズのエルフを倒すどころか、30倍サイズの管理者メイドのことすらまともに倒せず、今の労働場所から逃げ出すのも困難だった。挙句、抜け出そうとしたことがバレて、管理者メイドにあっさり吊るされてしまったのだった。 しかし、そんなわたしを助けてくれたのが、この世界で2番目に優秀な魔女のクラリッサだった。クラリッサは、この世界で一番優秀な魔女で、わたしの姉であるステラを探していて、ついでにわたしのことを助けてくれたのだった。一緒に旅をしていく仲間としてとんでもなく心強い仲間を得られたと思ったのだけれど、そんな彼女でも1000倍サイズのエルフと相対すると、圧倒的な力を感じさせられてしまうことに。 それでもわたしたちは、勝ち目のない戦いをするためにエルフたちの住む屋敷へと向かわなければならないのだった。そうして旅をしていく中で、エルフ達がこの世界を統治するようになった理由や、わたしやパメラの本当の力が明らかになっていき……。

男子中学生から女子校生になった僕

大衆娯楽
僕はある日突然、母と姉に強制的に女の子として育てられる事になった。 普通に男の子として過ごしていた主人公がJKで過ごした高校3年間のお話し。 強制女装、女性と性行為、男性と性行為、羞恥、屈辱などが好きな方は是非読んでみてください!

入社した会社でぼくがあたしになる話

青春
父の残した借金返済のためがむしゃらに就活をした結果入社した会社で主人公[山名ユウ]が徐々に変わっていく物語

マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。 攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる! そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。

女子に虐められる僕

大衆娯楽
主人公が女子校生にいじめられて堕ちていく話です。恥辱、強制女装、女性からのいじめなど好きな方どうぞ

転職してOLになった僕。

大衆娯楽
転職した会社で無理矢理女装させられてる男の子の話しです。 強制女装、恥辱、女性からの責めが好きな方にオススメです!

断罪済み悪役令嬢に憑依したけど、ネトゲの自キャラ能力が使えたので逃げ出しました

八華
ファンタジー
断罪済みの牢の中で悪役令嬢と意識が融合してしまった主人公。 乙女ゲームストーリー上、待っているのは破滅のみ。 でも、なぜか地球でやっていたオンラインゲームキャラの能力が使えるみたいで……。 ゲームキャラチートを利用して、あっさり脱獄成功。 王都の街で色んな人と出会いながら、現実世界への帰還を目指します!

僕は絶倫女子大生

五十音 順(いそおと じゅん)
恋愛
僕のコンプレックスは、男らしくないこと…見た目は勿論、声や名前まで男らしくありませんでした…。 大学生になり一人暮らしを始めた僕は、周りから勝手に女だと思われていました。 異性としてのバリアを失った僕に対して、女性たちは下着姿や裸を平気で見せてきました。 そんな僕は何故か女性にモテ始め、ハーレムのような生活をすることに…。

処理中です...