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第一章 神霊の森

第22話 半年後

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 今日も今日とて人里へ出る目途もたたないまま、森での生活は続いていく。

「はぁ……」

 そろそろ私も気が滅入ってきていた。森に来てからどれくらい経つんだろう?

『どうした。今日は元気がないな』

「だって、結構長いこと頑張ってるけど進展がないから……」

 そう。いろいろとね。
 魔術のスキルもまだレベル1のままなのだ。何も進展がないとモチベーションも維持できない。

『森に来てから188日だ。そろそろレベルは上がってもいいが、まだ遅いというほどではないな』

「ええっ!? 188日って……まだ半年なの!? ってかよくそんなに正確に覚えてるな」

 三十日で割れば六か月とちょっとだ。勉強のほうは長いことしてないから、ちょっと出てくるのに時間がかかってしまった……。

『当たり前だろう。私の内蔵時計が狂うなどありえない』

「そうなんだ……」

 そういえばキースは古代文明時代に作られたんだっけ。そう思えばキースは秘宝具アーティファクトと言える存在だよね。
 それに道具と言えば、キースがいた遺跡の倉庫にまだいろいろ残ってた気がする。時間がなくて見れなかったけど、何か役に立つものがまだあるかもしれない。と言ってもこっちからはもう行けないんだっけか。

『とにかく今できることは魔力循環くらいだな』

「わかってるよ」

 キースの言う通りなのだ。今は精霊魔術をがんばらないとな。ようやく手足以外の場所に魔力を循環させることができるようになってきたところなのだ。半年でここまできたってことは、案外私には魔術の才能があるのではなかろうか。

『ああ、それと。どこまで循環できるようになったかはわからないが、188日でここまでできるとか天才じゃないかなどと自惚れないように。幼児期は魔力操作が向上しやすい時期ということが研究で判明しているのでな』

 モチベーションが上がってやる気が出てきたという時に、キースからばっさりと切り捨てられる。

「せっかくやる気出てきたのに、なんなんだよもう!」

『感情を表に出すのも善し悪しだがな。まぁがんばりたまえ』

 くそう、今に見てろよ! すぐにスキルレベル2にしてやるからな!



 キースから離れたところに座りなおすと、胡坐をかいてもう一度目を閉じて集中する。お腹から魔力を吸い上げて、心臓、首を通して頭へと魔力を導くのだ。
 しかしこうしていると、森の中の匂いがすごく感じられるし、葉擦れや動物の鳴き声も良く聞こえてくる。もしかして視力も上がったりするんだろうか。

「――ッ!?」

 ゆっくりと目を開けると、そこには異様な光景が広がっていた。
 20センチくらいまでのいろんな大きさの塊が、自分に群がっていたのだ。
 驚いた瞬間に集中が切れたのか、いつもの風景に戻る。

「……え? 何なの今の」

 呆然と呟いていると、木の精霊であるかえでが目の前に姿を現した。あれからたまに話はするけれど、会う頻度は下がっていたので珍しい。

「やったのねん! アイリスちゃんがとうとう精霊が見えるようになったのねん!」

「……へ?」

 何やら興奮した様子のかえでだったけど、精霊が見えるようになったって……?

『ふむ。まさかこのタイミングでできるようになるとは……』

 キースも何やら考え込んでいるが、そんなことよりもだ。

「今のが、精霊?」

「そうなのねん。みんな一瞬だけ視線を感じたって大興奮なのねん」

 えーっと、一瞬だったからアレだけど、うじゃうじゃと私に群がってたアレが大興奮してるってことなのかな。言葉では言い表せないけど、百体以上はいたような気がするんだけど。なんというかこう、全身に取り付かれてる様子を想像すると鳥肌が……。

「あんまり見たくないような、でも見えるようになったのは嬉しいし……」

『アイリス』

「ん? なに?」

『いきなり全部の精霊が見えたのか?』

「そうだけど……」

『そのとき、何かいつもと違うことをやらなかったか?』

 いつになく真面目な口調なキースに、私もふざけたりせずに自分の行動を振り返る。

「えーっと、魔力の循環をしてて、顔にも循環させると嗅覚と聴覚がなんかよくなった気がするからって目を開けたら……」

『なるほど、よくわかった。そういうことか』

「何が……って、そういうことか」

 もしかしたら目に魔力を循環させたら精霊が見えるようになるのかもしれない。……だけどそれだと魔力を全身に行き渡らせるって過程で、全員ができるようになりそうだ。他にも何かあるのかな。

『魔力の循環は一般的には体と手足だけで、顔にまで循環させる必要があるかは聞いたことがなかったが』

「えぇっ!? なにそれ! 先に言ってよ!」

『先に言えばこれほど早く精霊が見えることはなかったんだが、よかったのか?』

「うぐっ」

 魔力を渡せるようになるのを優先してたのは確かだけど、そう言われると何も言い返せない。

『どちらにしろよかったじゃないか。下位精霊による精霊魔術でも、威力はそこそこあるからな。……と言っても、当時と同じように精霊を捕らえて、強制的に精霊魔術を行使させる方法は取れないが』

「古代人の人でなし!」

 ポツリと聞こえてきたキースの言葉に、私は反射で非難していた。
 古代人にもまともな人がいたことを願うばかりである。
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