上 下
21 / 81
第一章 神霊の森

第21話 探索者

しおりを挟む
 今日はシュネーが狩りに出かけている。スノウも一緒に出掛けることもあるけど、今日は一緒に拠点で留守番をしていた。
 だけど思ったよりも時間を掛けずにシュネーが帰ってきた。

「おかえり。早かったね。……あれ? 今日は狩りしっぱいなの?」

 しかも手ぶらだった。何かあったのかと思ったけど、特にシュネー自身に怪我などはなさそうだ。

「ぐるぐる」

 珍しくシュネーが一声吠えると、私と目線を合わせて何かを訴えかけている。顔をひと舐めすると、踵を返してゆっくりと歩き出した。
 何かを察したスノウが後をついて行くので私も一緒について行くことにした。

「なにかあったのかな?」

『付いて行けばわかるだろう』

「まぁそうなんだけど」

 ここ最近では、スノウの歩く速度には私も付いていけるようになっている。私の体力もそれなりについてきているのではなかろうか。きちんと食べて休めれば健康になれるという証拠だろうか。

「はぁ、はぁ、はぁ……」

 微妙にスピードをあげたシュネーに必死になって一時間ほどついていった頃、前を歩いていたシュネーがピタリと足を止める。

「やっと……、ついた、のかな」

『どうやらそのようだな』

 くそぅ、ただ単に浮きながら付いてくるキースは余裕だな。何をエネルギー源として動いてるか知らないけど、一度エネルギー切れになればいいのに。
 シュネーと並ぶスノウの隣に一緒になって並ぶと、そこにあったのは――

「え? ……死体?」

 ほとんど原型を残していない人と思われる死体だった。肉はほぼ食いちぎられて残っておらず、顔も誰なのか判別がつかない状態だ。
 周囲を見回してみても他の人影は見当たらない。争った跡も近くにはなさそうだった。

「近くのまちにいる探索者なのかな……」

 死体を見つけたにもかかわらず、不謹慎ではあるけどちょっと希望が灯る。もしかしたら人里に出られるかもしれない。

『探索者?』

 珍しくキースから疑問の声が上がる。

「探索者は探索者だよ。古代文明時代にはいなかったの?」

『何かを探索する者だというのはわかるが、職業としての探索者というのは存在していなかったな』

「そうなんだ」

 死体へと近づきながら、キースに探索者について説明してあげることにする。

「主にじんせき未踏の地を探索するのが探索者のしごとかな。古代文明のいせきもそこかしこにあるし、そこの探索も仕事に含まれるんだ」

『ふむ……。我々の時代にも人が踏み入ったことのない土地はあったが、開拓者がそれにあたるのかもしれんな』

「ふーん。似たような人はいたんだ」

 首元に落ちていた探索者ギルドのタグを拾い上げる。よく見ればランク6の人だった。

「うわっ、すごい……」

 スキルと同じようにランクは1から始まり10まである。ランク6ともなれば一流の探索者だ。
 王宮で過ごしていた頃には、こんなところを抜け出して一人の探索者になることを夢見ていた時期もあった。上位ランクの探索者たちに憧れたものだ。
 そんなすごい人がこの神霊の森まで探索に来て……、そして命を落としているのか。
 興奮と共に絶望にも襲われる。

「ランク6なら、いちりゅうの探索者なんだけど……」

 タグに記載してある名前はダレス・ネイワード。聞いたことないけど、最近ランク6になった人なのかな。と言っても他国の探索者には詳しくないんだけど。

『ここは我々の時代でも、魔物が多すぎて調査がまったく進まなかった土地だ。そこは今でも変わりないようだな』

「魔物が多いって……、それほど魔物とそうぐうしたことないんだけど……」

 そろそろ森に来て一か月くらいだろうか。最近日付の感覚がないのでわからなくなってきてるけど、私自身が魔物に遭遇した回数なんて数えるほどしかない。

『それはそうだろう』

 ちらりと後ろを振り返る仕草をすると、キースが話を続ける。

『あのホワイトキングタイガー親子に保護されているも同然だろう?』

「えっ?」

 思わず私も後ろの親子を振り返る。スノウがシュネーにじゃれついて遊んでいるように見えるけど、私のことをずっと気にかけてくれていたらしい。
 いつまで一緒にいてくれるんだろうと不安にはなっていたけど、怖くて聞くことができずに今までずるずるときてしまっていた。私は自分のことを、体力も力もない幼児だと自覚している。あの親子がいなくなればきっと、あっという間に魔物の餌にされてしまうだろう。

 そして今日にいたっては獲物を狩りに行ったはずなのに、私が人里へと帰れるヒントとなりそうな場所へと連れてきてくれた。
 こんな私のためにすごく良くしてくれて、すごく嬉しい。人のいるところに戻りたいという思いはあるけど、シュネーたちと離れたくないとも思い始めていた。

 あとでお礼をいっぱい言っておこう。
 そう心にとどめつつ、死んだ探索者の遺品を探していく。短剣が三本に小盾がひとつ。近くに革袋が落ちていたが、お金が入っていた。小金貨までしかなかったのでそれなりの額みたいだけど、知ってるデザインと異なっているのでラルターク皇国の人ではなさそうだ。

「ぐるるぅ」

 スノウも探してくれていたようで、何かを見つけたのか声を上げている。近づくともう一つ鞄が落ちていた。中を見てみようと思ったけど開かない。

『それも時空の鞄だな。ロックが掛けられているようだ』

「そんなことできるんだ。でも遺品だし、持って行こう」

 時空の鞄に時空の鞄は入らないが、私の持っている鞄には時空属性が付与されていないポケットも存在する。そこに拾った鞄を収納すると、周囲に人や危険なものがないことを確認して、拠点へと引き返した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

女子に虐められる僕

大衆娯楽
主人公が女子校生にいじめられて堕ちていく話です。恥辱、強制女装、女性からのいじめなど好きな方どうぞ

秋津皇国興亡記

三笠 陣
ファンタジー
 東洋の端に浮かぶ島国「秋津皇国」。  戦国時代の末期から海洋進出を進めてきたこの国はその後の約二〇〇年間で、北は大陸の凍土から、南は泰平洋の島々を植民地とする広大な領土を持つに至っていた。  だが、国内では産業革命が進み近代化を成し遂げる一方、その支配体制は六大将家「六家」を中心とする諸侯が領国を支配する封建体制が敷かれ続けているという歪な形のままであった。  一方、国外では西洋列強による東洋進出が進み、皇国を取り巻く国際環境は徐々に緊張感を孕むものとなっていく。  六家の一つ、結城家の十七歳となる嫡男・景紀は、父である当主・景忠が病に倒れたため、国論が攘夷と経済振興に割れる中、結城家の政務全般を引き継ぐこととなった。  そして、彼に付き従うシキガミの少女・冬花と彼へと嫁いだ少女・宵姫。  やがて彼らは激動の時代へと呑み込まれていくこととなる。 ※表紙画像・キャラクターデザインはイラストレーターのSioN先生にお願いいたしました。 イラストの著作権はSioN先生に、独占的ライセンス権は筆者にありますので無断での転載・利用はご遠慮下さい。 (本作は、「小説家になろう」様にて連載中の作品を転載したものです。)

入社した会社でぼくがあたしになる話

青春
父の残した借金返済のためがむしゃらに就活をした結果入社した会社で主人公[山名ユウ]が徐々に変わっていく物語

男子中学生から女子校生になった僕

大衆娯楽
僕はある日突然、母と姉に強制的に女の子として育てられる事になった。 普通に男の子として過ごしていた主人公がJKで過ごした高校3年間のお話し。 強制女装、女性と性行為、男性と性行為、羞恥、屈辱などが好きな方は是非読んでみてください!

動物に好かれまくる体質の少年、ダンジョンを探索する 配信中にレッドドラゴンを手懐けたら大バズりしました!

海夏世もみじ
ファンタジー
 旧題:動物に好かれまくる体質の少年、ダンジョン配信中にレッドドラゴン手懐けたら大バズりしました  動物に好かれまくる体質を持つ主人公、藍堂咲太《あいどう・さくた》は、友人にダンジョンカメラというものをもらった。  そのカメラで暇つぶしにダンジョン配信をしようということでダンジョンに向かったのだが、イレギュラーのレッドドラゴンが現れてしまう。  しかし主人公に攻撃は一切せず、喉を鳴らして好意的な様子。その様子が全て配信されており、拡散され、大バズりしてしまった!  戦闘力ミジンコ主人公が魔物や幻獣を手懐けながらダンジョンを進む配信のスタート!

お持ち帰り召喚士磯貝〜なんでも持ち運び出来る【転移】スキルで異世界つまみ食い生活〜

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
ひょんなことから男子高校生、磯貝章(いそがいあきら)は授業中、クラス毎異世界クラセリアへと飛ばされた。 勇者としての役割、与えられた力。 クラスメイトに協力的なお姫様。 しかし能力を開示する魔道具が発動しなかったことを皮切りに、お姫様も想像だにしない出来事が起こった。 突如鳴り出すメール音。SNSのメロディ。 そして学校前を包囲する警察官からの呼びかけにクラスが騒然とする。 なんと、いつの間にか元の世界に帰ってきてしまっていたのだ! ──王城ごと。 王様達は警察官に武力行為を示すべく魔法の詠唱を行うが、それらが発動することはなく、現行犯逮捕された! そのあとクラスメイトも事情聴取を受け、翌日から普通の学校生活が再開する。 何故元の世界に帰ってきてしまったのか? そして何故か使えない魔法。 どうも日本では魔法そのものが扱えない様で、異世界の貴族達は魔法を取り上げられた平民として最低限の暮らしを強いられた。 それを他所に内心あわてている生徒が一人。 それこそが磯貝章だった。 「やっべー、もしかしてこれ、俺のせい?」 目の前に浮かび上がったステータスボードには異世界の場所と、再転移するまでのクールタイムが浮かび上がっていた。 幸い、章はクラスの中ではあまり目立たない男子生徒という立ち位置。 もしあのまま帰って来なかったらどうなっていただろうというクラスメイトの話題には参加させず、この能力をどうするべきか悩んでいた。 そして一部のクラスメイトの独断によって明かされたスキル達。 当然章の能力も開示され、家族ごとマスコミからバッシングを受けていた。 日々注目されることに辟易した章は、能力を使う内にこう思う様になった。 「もしかして、この能力を金に変えて食っていけるかも?」 ──これは転移を手に入れてしまった少年と、それに巻き込まれる現地住民の異世界ドタバタコメディである。 序章まで一挙公開。 翌日から7:00、12:00、17:00、22:00更新。 序章 異世界転移【9/2〜】 一章 異世界クラセリア【9/3〜】 二章 ダンジョンアタック!【9/5〜】 三章 発足! 異世界旅行業【9/8〜】 四章 新生活は異世界で【9/10〜】 五章 巻き込まれて異世界【9/12〜】 六章 体験! エルフの暮らし【9/17〜】 七章 探索! 並行世界【9/19〜】 95部で第一部完とさせて貰ってます。 ※9/24日まで毎日投稿されます。 ※カクヨムさんでも改稿前の作品が読めます。 おおよそ、起こりうるであろう転移系の内容を網羅してます。 勇者召喚、ハーレム勇者、巻き込まれ召喚、俺TUEEEE等々。 ダンジョン活動、ダンジョンマスターまでなんでもあります。

マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。 攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる! そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。

僕は絶倫女子大生

五十音 順(いそおと じゅん)
恋愛
僕のコンプレックスは、男らしくないこと…見た目は勿論、声や名前まで男らしくありませんでした…。 大学生になり一人暮らしを始めた僕は、周りから勝手に女だと思われていました。 異性としてのバリアを失った僕に対して、女性たちは下着姿や裸を平気で見せてきました。 そんな僕は何故か女性にモテ始め、ハーレムのような生活をすることに…。

処理中です...