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第一章 神霊の森
第21話 探索者
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今日はシュネーが狩りに出かけている。スノウも一緒に出掛けることもあるけど、今日は一緒に拠点で留守番をしていた。
だけど思ったよりも時間を掛けずにシュネーが帰ってきた。
「おかえり。早かったね。……あれ? 今日は狩りしっぱいなの?」
しかも手ぶらだった。何かあったのかと思ったけど、特にシュネー自身に怪我などはなさそうだ。
「ぐるぐる」
珍しくシュネーが一声吠えると、私と目線を合わせて何かを訴えかけている。顔をひと舐めすると、踵を返してゆっくりと歩き出した。
何かを察したスノウが後をついて行くので私も一緒について行くことにした。
「なにかあったのかな?」
『付いて行けばわかるだろう』
「まぁそうなんだけど」
ここ最近では、スノウの歩く速度には私も付いていけるようになっている。私の体力もそれなりについてきているのではなかろうか。きちんと食べて休めれば健康になれるという証拠だろうか。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
微妙にスピードをあげたシュネーに必死になって一時間ほどついていった頃、前を歩いていたシュネーがピタリと足を止める。
「やっと……、ついた、のかな」
『どうやらそのようだな』
くそぅ、ただ単に浮きながら付いてくるキースは余裕だな。何をエネルギー源として動いてるか知らないけど、一度エネルギー切れになればいいのに。
シュネーと並ぶスノウの隣に一緒になって並ぶと、そこにあったのは――
「え? ……死体?」
ほとんど原型を残していない人と思われる死体だった。肉はほぼ食いちぎられて残っておらず、顔も誰なのか判別がつかない状態だ。
周囲を見回してみても他の人影は見当たらない。争った跡も近くにはなさそうだった。
「近くのまちにいる探索者なのかな……」
死体を見つけたにもかかわらず、不謹慎ではあるけどちょっと希望が灯る。もしかしたら人里に出られるかもしれない。
『探索者?』
珍しくキースから疑問の声が上がる。
「探索者は探索者だよ。古代文明時代にはいなかったの?」
『何かを探索する者だというのはわかるが、職業としての探索者というのは存在していなかったな』
「そうなんだ」
死体へと近づきながら、キースに探索者について説明してあげることにする。
「主にじんせき未踏の地を探索するのが探索者のしごとかな。古代文明のいせきもそこかしこにあるし、そこの探索も仕事に含まれるんだ」
『ふむ……。我々の時代にも人が踏み入ったことのない土地はあったが、開拓者がそれにあたるのかもしれんな』
「ふーん。似たような人はいたんだ」
首元に落ちていた探索者ギルドのタグを拾い上げる。よく見ればランク6の人だった。
「うわっ、すごい……」
スキルと同じようにランクは1から始まり10まである。ランク6ともなれば一流の探索者だ。
王宮で過ごしていた頃には、こんなところを抜け出して一人の探索者になることを夢見ていた時期もあった。上位ランクの探索者たちに憧れたものだ。
そんなすごい人がこの神霊の森まで探索に来て……、そして命を落としているのか。
興奮と共に絶望にも襲われる。
「ランク6なら、いちりゅうの探索者なんだけど……」
タグに記載してある名前はダレス・ネイワード。聞いたことないけど、最近ランク6になった人なのかな。と言っても他国の探索者には詳しくないんだけど。
『ここは我々の時代でも、魔物が多すぎて調査がまったく進まなかった土地だ。そこは今でも変わりないようだな』
「魔物が多いって……、それほど魔物とそうぐうしたことないんだけど……」
そろそろ森に来て一か月くらいだろうか。最近日付の感覚がないのでわからなくなってきてるけど、私自身が魔物に遭遇した回数なんて数えるほどしかない。
『それはそうだろう』
ちらりと後ろを振り返る仕草をすると、キースが話を続ける。
『あのホワイトキングタイガー親子に保護されているも同然だろう?』
「えっ?」
思わず私も後ろの親子を振り返る。スノウがシュネーにじゃれついて遊んでいるように見えるけど、私のことをずっと気にかけてくれていたらしい。
いつまで一緒にいてくれるんだろうと不安にはなっていたけど、怖くて聞くことができずに今までずるずるときてしまっていた。私は自分のことを、体力も力もない幼児だと自覚している。あの親子がいなくなればきっと、あっという間に魔物の餌にされてしまうだろう。
そして今日にいたっては獲物を狩りに行ったはずなのに、私が人里へと帰れるヒントとなりそうな場所へと連れてきてくれた。
こんな私のためにすごく良くしてくれて、すごく嬉しい。人のいるところに戻りたいという思いはあるけど、シュネーたちと離れたくないとも思い始めていた。
あとでお礼をいっぱい言っておこう。
そう心にとどめつつ、死んだ探索者の遺品を探していく。短剣が三本に小盾がひとつ。近くに革袋が落ちていたが、お金が入っていた。小金貨までしかなかったのでそれなりの額みたいだけど、知ってるデザインと異なっているのでラルターク皇国の人ではなさそうだ。
「ぐるるぅ」
スノウも探してくれていたようで、何かを見つけたのか声を上げている。近づくともう一つ鞄が落ちていた。中を見てみようと思ったけど開かない。
『それも時空の鞄だな。ロックが掛けられているようだ』
「そんなことできるんだ。でも遺品だし、持って行こう」
時空の鞄に時空の鞄は入らないが、私の持っている鞄には時空属性が付与されていないポケットも存在する。そこに拾った鞄を収納すると、周囲に人や危険なものがないことを確認して、拠点へと引き返した。
だけど思ったよりも時間を掛けずにシュネーが帰ってきた。
「おかえり。早かったね。……あれ? 今日は狩りしっぱいなの?」
しかも手ぶらだった。何かあったのかと思ったけど、特にシュネー自身に怪我などはなさそうだ。
「ぐるぐる」
珍しくシュネーが一声吠えると、私と目線を合わせて何かを訴えかけている。顔をひと舐めすると、踵を返してゆっくりと歩き出した。
何かを察したスノウが後をついて行くので私も一緒について行くことにした。
「なにかあったのかな?」
『付いて行けばわかるだろう』
「まぁそうなんだけど」
ここ最近では、スノウの歩く速度には私も付いていけるようになっている。私の体力もそれなりについてきているのではなかろうか。きちんと食べて休めれば健康になれるという証拠だろうか。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
微妙にスピードをあげたシュネーに必死になって一時間ほどついていった頃、前を歩いていたシュネーがピタリと足を止める。
「やっと……、ついた、のかな」
『どうやらそのようだな』
くそぅ、ただ単に浮きながら付いてくるキースは余裕だな。何をエネルギー源として動いてるか知らないけど、一度エネルギー切れになればいいのに。
シュネーと並ぶスノウの隣に一緒になって並ぶと、そこにあったのは――
「え? ……死体?」
ほとんど原型を残していない人と思われる死体だった。肉はほぼ食いちぎられて残っておらず、顔も誰なのか判別がつかない状態だ。
周囲を見回してみても他の人影は見当たらない。争った跡も近くにはなさそうだった。
「近くのまちにいる探索者なのかな……」
死体を見つけたにもかかわらず、不謹慎ではあるけどちょっと希望が灯る。もしかしたら人里に出られるかもしれない。
『探索者?』
珍しくキースから疑問の声が上がる。
「探索者は探索者だよ。古代文明時代にはいなかったの?」
『何かを探索する者だというのはわかるが、職業としての探索者というのは存在していなかったな』
「そうなんだ」
死体へと近づきながら、キースに探索者について説明してあげることにする。
「主にじんせき未踏の地を探索するのが探索者のしごとかな。古代文明のいせきもそこかしこにあるし、そこの探索も仕事に含まれるんだ」
『ふむ……。我々の時代にも人が踏み入ったことのない土地はあったが、開拓者がそれにあたるのかもしれんな』
「ふーん。似たような人はいたんだ」
首元に落ちていた探索者ギルドのタグを拾い上げる。よく見ればランク6の人だった。
「うわっ、すごい……」
スキルと同じようにランクは1から始まり10まである。ランク6ともなれば一流の探索者だ。
王宮で過ごしていた頃には、こんなところを抜け出して一人の探索者になることを夢見ていた時期もあった。上位ランクの探索者たちに憧れたものだ。
そんなすごい人がこの神霊の森まで探索に来て……、そして命を落としているのか。
興奮と共に絶望にも襲われる。
「ランク6なら、いちりゅうの探索者なんだけど……」
タグに記載してある名前はダレス・ネイワード。聞いたことないけど、最近ランク6になった人なのかな。と言っても他国の探索者には詳しくないんだけど。
『ここは我々の時代でも、魔物が多すぎて調査がまったく進まなかった土地だ。そこは今でも変わりないようだな』
「魔物が多いって……、それほど魔物とそうぐうしたことないんだけど……」
そろそろ森に来て一か月くらいだろうか。最近日付の感覚がないのでわからなくなってきてるけど、私自身が魔物に遭遇した回数なんて数えるほどしかない。
『それはそうだろう』
ちらりと後ろを振り返る仕草をすると、キースが話を続ける。
『あのホワイトキングタイガー親子に保護されているも同然だろう?』
「えっ?」
思わず私も後ろの親子を振り返る。スノウがシュネーにじゃれついて遊んでいるように見えるけど、私のことをずっと気にかけてくれていたらしい。
いつまで一緒にいてくれるんだろうと不安にはなっていたけど、怖くて聞くことができずに今までずるずるときてしまっていた。私は自分のことを、体力も力もない幼児だと自覚している。あの親子がいなくなればきっと、あっという間に魔物の餌にされてしまうだろう。
そして今日にいたっては獲物を狩りに行ったはずなのに、私が人里へと帰れるヒントとなりそうな場所へと連れてきてくれた。
こんな私のためにすごく良くしてくれて、すごく嬉しい。人のいるところに戻りたいという思いはあるけど、シュネーたちと離れたくないとも思い始めていた。
あとでお礼をいっぱい言っておこう。
そう心にとどめつつ、死んだ探索者の遺品を探していく。短剣が三本に小盾がひとつ。近くに革袋が落ちていたが、お金が入っていた。小金貨までしかなかったのでそれなりの額みたいだけど、知ってるデザインと異なっているのでラルターク皇国の人ではなさそうだ。
「ぐるるぅ」
スノウも探してくれていたようで、何かを見つけたのか声を上げている。近づくともう一つ鞄が落ちていた。中を見てみようと思ったけど開かない。
『それも時空の鞄だな。ロックが掛けられているようだ』
「そんなことできるんだ。でも遺品だし、持って行こう」
時空の鞄に時空の鞄は入らないが、私の持っている鞄には時空属性が付与されていないポケットも存在する。そこに拾った鞄を収納すると、周囲に人や危険なものがないことを確認して、拠点へと引き返した。
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