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第一章 神霊の森
第18話 食だけが豊かになっていく
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今日はスノウと一緒に食材探しに出かけることにする。
体力もないので、出かけるときの私の席はスノウの背中だ。
私一人で行こうとすると、ありがたいことにいつもスノウが付いてきてくれるのだ。
「それじゃあ行こうか」
私を乗せたスノウが立ち上がると、ゆっくりと歩き出す。
「今日は出かけるのねん?」
しばらくもしないうちに、かえでが姿を現して不思議そうに尋ねてきた。
「うん。食べ物をさがしに行くんだ」
人は食べていかないと生きていけない。動物ももちろんそうだけど、そういえば精霊って何を食べてるんだろうか。やっぱり魔力かな?
「そういうことならボクに任せておくのねん」
益体もないことを考えていると、かえでが自信ありげに胸を叩く。そして私の肩の上に座ると、嬉しそうに足をパタパタと振っている。全然重さを感じないのが不思議だけど、精霊だからなのだろうか。
『木の精霊なら森のことは何でも知っているということか』
「もちろんなのねん」
「なるほど」
そういうことか。これはもしかしたら心強い味方ができたんではなかろうか。ますます食生活が豊かになるというものである。不本意ではあるが悪いことではない。
「あっちなのねん」
しばらく進むとかえでが指を差して方向を指示する。
いつも無作為に歩き回っているだけなので、急な方向転換でも問題ない。いや、問題ないのはスノウなのであって、私はもうすでに今どこを歩いているのかわからないが。
「この実は食べられるはずなのねん」
直径二センチくらいの丸くて赤い実が連なって生っていた。高さ一メートルもない細い木なので、私でも十分に収穫ができそうだ。
『確かに問題ない。そのままでも食べられそうだ』
相変わらずキースが光を照射して確認している。毒がないか調べられるって便利だな。
スノウの背中から降りると、木の実を一つ取って口に入れる。
実は思ったよりも柔らかく、甘酸っぱい味が口の中一杯に広がっていく。
「おいしい」
何個か口に含むと、赤くなっている実だけを収穫していく。
「次はこっちなのねん」
またもやかえでの指し示す方向へと進んで行く。しばらくすれば目的の場所へと到着したが、これといって木の実は見当たらない。
「この蔓の根元を掘っていくのねん」
『なるほど、地面の下か。今まで地面を掘って食材を探したことはなかったな』
蔓は草が生い茂る地面から生えているようで、かき分けると土の地面が見えた。
「ここを掘ればいいの?」
「そうなのねん」
くるくると蔓の周囲を回りながらかえでが教えてくれる。
そういえば倉庫から拝借した道具の中にスコップがあった気がする。鞄から目的のスコップを取り出すと、両手で握りしめて地面を掘りだした。片手用のスコップだけど、幼児となった私の手には大きい。
踏み固められた地面じゃないのでサクサクと掘れる。十センチも掘ると、握りこぶし大くらいの芋がいっぱい採れた。
「ねぇかえで。せいれい魔術って、魔力をあげるといろいろとやってくれるんだよね」
「そうなのよん」
「魔力はあげてないと思うんだけど、こうやっていろいろ教えてくれるのはいいの?」
「うふふ。魔力は欲しいけれど、知っていることを教えるのと、力を行使するのはまた別なのねん」
「そうなんだ」
ちょっと気になってたけど別にいいらしい。なら気にする必要はないのかな。
『まさか、精霊にこんな使い方があるとは思わなかったな』
「えぇ……、使い方って、もうちょっと言い方があるんじゃないの」
キースの驚き方に思わずツッコむが、この球体にはモラルというものがないんだろうか。
『むしろこちらのほうが精霊の本領発揮という気もする。知識というのは立派な力だ。火や水などの特性を精霊から得られれば、我々の科学力も飛躍的に上昇したんではなかろうか』
もはや何を言っているのかわからない。キースから聞かされる言葉を聞いていると、非人道的な行いが増えるだけのようにも聞こえてしまう。
「それはどうかしらねん。無機物から生まれる精霊は、あんまり喋れないものが多いのねん」
『ふむ。意思疎通ができなければ無駄ということか……。どちらにせよ今の私にはどうすることもできないことだな』
「それを聞いて安心したよ……」
もうこれ以上精霊さんを虐げるのはやめたげて。私の心の安寧のためにも。
「そういえばさ。かえではこの森のことならなんでも知ってるんだよね?」
「ええ、なんでも聞いてちょうだいなのねん」
胸を張って答えるかえでに、私の胸にちょっとだけ希望が灯る。
「この森のなかに、人がすむ集落とかってある?」
「ないわねん。でも、魔物が住む集落ならあるのねん」
「えっ……」
かえでの答えに、灯った希望が一瞬のうちに消えてしまう。人のいるところに行けたらいいなと思ってたけど、それよりも自分の命の心配をしたほうがよさそうだ。
「だけど近くにはないから安心するのねん」
「そうなんだ……」
ホッとするも、人がいないという事実は変わらない。
「じゃあ森をぬけて人里に行きたいんだけど、いちばん近い場所でどれくらいのきょりがあるかわかる?」
「森の外のことはわからないのねん。だけど一番近い森の端っこでも、ずーっと先なのねん」
「そっか」
具体的な距離まではわからなかったけど、なんとなく遠そうだということはわかった。いつになったらこの森から出られるんだろうか。前途は多難そうである。
体力もないので、出かけるときの私の席はスノウの背中だ。
私一人で行こうとすると、ありがたいことにいつもスノウが付いてきてくれるのだ。
「それじゃあ行こうか」
私を乗せたスノウが立ち上がると、ゆっくりと歩き出す。
「今日は出かけるのねん?」
しばらくもしないうちに、かえでが姿を現して不思議そうに尋ねてきた。
「うん。食べ物をさがしに行くんだ」
人は食べていかないと生きていけない。動物ももちろんそうだけど、そういえば精霊って何を食べてるんだろうか。やっぱり魔力かな?
「そういうことならボクに任せておくのねん」
益体もないことを考えていると、かえでが自信ありげに胸を叩く。そして私の肩の上に座ると、嬉しそうに足をパタパタと振っている。全然重さを感じないのが不思議だけど、精霊だからなのだろうか。
『木の精霊なら森のことは何でも知っているということか』
「もちろんなのねん」
「なるほど」
そういうことか。これはもしかしたら心強い味方ができたんではなかろうか。ますます食生活が豊かになるというものである。不本意ではあるが悪いことではない。
「あっちなのねん」
しばらく進むとかえでが指を差して方向を指示する。
いつも無作為に歩き回っているだけなので、急な方向転換でも問題ない。いや、問題ないのはスノウなのであって、私はもうすでに今どこを歩いているのかわからないが。
「この実は食べられるはずなのねん」
直径二センチくらいの丸くて赤い実が連なって生っていた。高さ一メートルもない細い木なので、私でも十分に収穫ができそうだ。
『確かに問題ない。そのままでも食べられそうだ』
相変わらずキースが光を照射して確認している。毒がないか調べられるって便利だな。
スノウの背中から降りると、木の実を一つ取って口に入れる。
実は思ったよりも柔らかく、甘酸っぱい味が口の中一杯に広がっていく。
「おいしい」
何個か口に含むと、赤くなっている実だけを収穫していく。
「次はこっちなのねん」
またもやかえでの指し示す方向へと進んで行く。しばらくすれば目的の場所へと到着したが、これといって木の実は見当たらない。
「この蔓の根元を掘っていくのねん」
『なるほど、地面の下か。今まで地面を掘って食材を探したことはなかったな』
蔓は草が生い茂る地面から生えているようで、かき分けると土の地面が見えた。
「ここを掘ればいいの?」
「そうなのねん」
くるくると蔓の周囲を回りながらかえでが教えてくれる。
そういえば倉庫から拝借した道具の中にスコップがあった気がする。鞄から目的のスコップを取り出すと、両手で握りしめて地面を掘りだした。片手用のスコップだけど、幼児となった私の手には大きい。
踏み固められた地面じゃないのでサクサクと掘れる。十センチも掘ると、握りこぶし大くらいの芋がいっぱい採れた。
「ねぇかえで。せいれい魔術って、魔力をあげるといろいろとやってくれるんだよね」
「そうなのよん」
「魔力はあげてないと思うんだけど、こうやっていろいろ教えてくれるのはいいの?」
「うふふ。魔力は欲しいけれど、知っていることを教えるのと、力を行使するのはまた別なのねん」
「そうなんだ」
ちょっと気になってたけど別にいいらしい。なら気にする必要はないのかな。
『まさか、精霊にこんな使い方があるとは思わなかったな』
「えぇ……、使い方って、もうちょっと言い方があるんじゃないの」
キースの驚き方に思わずツッコむが、この球体にはモラルというものがないんだろうか。
『むしろこちらのほうが精霊の本領発揮という気もする。知識というのは立派な力だ。火や水などの特性を精霊から得られれば、我々の科学力も飛躍的に上昇したんではなかろうか』
もはや何を言っているのかわからない。キースから聞かされる言葉を聞いていると、非人道的な行いが増えるだけのようにも聞こえてしまう。
「それはどうかしらねん。無機物から生まれる精霊は、あんまり喋れないものが多いのねん」
『ふむ。意思疎通ができなければ無駄ということか……。どちらにせよ今の私にはどうすることもできないことだな』
「それを聞いて安心したよ……」
もうこれ以上精霊さんを虐げるのはやめたげて。私の心の安寧のためにも。
「そういえばさ。かえではこの森のことならなんでも知ってるんだよね?」
「ええ、なんでも聞いてちょうだいなのねん」
胸を張って答えるかえでに、私の胸にちょっとだけ希望が灯る。
「この森のなかに、人がすむ集落とかってある?」
「ないわねん。でも、魔物が住む集落ならあるのねん」
「えっ……」
かえでの答えに、灯った希望が一瞬のうちに消えてしまう。人のいるところに行けたらいいなと思ってたけど、それよりも自分の命の心配をしたほうがよさそうだ。
「だけど近くにはないから安心するのねん」
「そうなんだ……」
ホッとするも、人がいないという事実は変わらない。
「じゃあ森をぬけて人里に行きたいんだけど、いちばん近い場所でどれくらいのきょりがあるかわかる?」
「森の外のことはわからないのねん。だけど一番近い森の端っこでも、ずーっと先なのねん」
「そっか」
具体的な距離まではわからなかったけど、なんとなく遠そうだということはわかった。いつになったらこの森から出られるんだろうか。前途は多難そうである。
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