上 下
18 / 81
第一章 神霊の森

第18話 食だけが豊かになっていく

しおりを挟む
 今日はスノウと一緒に食材探しに出かけることにする。
 体力もないので、出かけるときの私の席はスノウの背中だ。
 私一人で行こうとすると、ありがたいことにいつもスノウが付いてきてくれるのだ。

「それじゃあ行こうか」

 私を乗せたスノウが立ち上がると、ゆっくりと歩き出す。

「今日は出かけるのねん?」

 しばらくもしないうちに、かえでが姿を現して不思議そうに尋ねてきた。

「うん。食べ物をさがしに行くんだ」

 人は食べていかないと生きていけない。動物ももちろんそうだけど、そういえば精霊って何を食べてるんだろうか。やっぱり魔力かな?

「そういうことならボクに任せておくのねん」

 益体もないことを考えていると、かえでが自信ありげに胸を叩く。そして私の肩の上に座ると、嬉しそうに足をパタパタと振っている。全然重さを感じないのが不思議だけど、精霊だからなのだろうか。

『木の精霊なら森のことは何でも知っているということか』

「もちろんなのねん」

「なるほど」

 そういうことか。これはもしかしたら心強い味方ができたんではなかろうか。ますます食生活が豊かになるというものである。不本意ではあるが悪いことではない。

「あっちなのねん」

 しばらく進むとかえでが指を差して方向を指示する。
 いつも無作為に歩き回っているだけなので、急な方向転換でも問題ない。いや、問題ないのはスノウなのであって、私はもうすでに今どこを歩いているのかわからないが。

「この実は食べられるはずなのねん」

 直径二センチくらいの丸くて赤い実が連なってっていた。高さ一メートルもない細い木なので、私でも十分に収穫ができそうだ。

『確かに問題ない。そのままでも食べられそうだ』

 相変わらずキースが光を照射して確認している。毒がないか調べられるって便利だな。
 スノウの背中から降りると、木の実を一つ取って口に入れる。
 実は思ったよりも柔らかく、甘酸っぱい味が口の中一杯に広がっていく。

「おいしい」

 何個か口に含むと、赤くなっている実だけを収穫していく。

「次はこっちなのねん」

 またもやかえでの指し示す方向へと進んで行く。しばらくすれば目的の場所へと到着したが、これといって木の実は見当たらない。

「この蔓の根元を掘っていくのねん」

『なるほど、地面の下か。今まで地面を掘って食材を探したことはなかったな』

 蔓は草が生い茂る地面から生えているようで、かき分けると土の地面が見えた。

「ここを掘ればいいの?」

「そうなのねん」

 くるくると蔓の周囲を回りながらかえでが教えてくれる。
 そういえば倉庫から拝借した道具の中にスコップがあった気がする。鞄から目的のスコップを取り出すと、両手で握りしめて地面を掘りだした。片手用のスコップだけど、幼児となった私の手には大きい。
 踏み固められた地面じゃないのでサクサクと掘れる。十センチも掘ると、握りこぶし大くらいの芋がいっぱい採れた。

「ねぇかえで。せいれい魔術って、魔力をあげるといろいろとやってくれるんだよね」

「そうなのよん」

「魔力はあげてないと思うんだけど、こうやっていろいろ教えてくれるのはいいの?」

「うふふ。魔力は欲しいけれど、知っていることを教えるのと、力を行使するのはまた別なのねん」

「そうなんだ」

 ちょっと気になってたけど別にいいらしい。なら気にする必要はないのかな。

『まさか、精霊にこんな使い方があるとは思わなかったな』

「えぇ……、使い方って、もうちょっと言い方があるんじゃないの」

 キースの驚き方に思わずツッコむが、この球体にはモラルというものがないんだろうか。

『むしろこちらのほうが精霊の本領発揮という気もする。知識というのは立派な力だ。火や水などの特性を精霊から得られれば、我々の科学力も飛躍的に上昇したんではなかろうか』

 もはや何を言っているのかわからない。キースから聞かされる言葉を聞いていると、非人道的な行いが増えるだけのようにも聞こえてしまう。

「それはどうかしらねん。無機物から生まれる精霊は、あんまり喋れないものが多いのねん」

『ふむ。意思疎通ができなければ無駄ということか……。どちらにせよ今の私にはどうすることもできないことだな』

「それを聞いて安心したよ……」

 もうこれ以上精霊さんを虐げるのはやめたげて。私の心の安寧のためにも。

「そういえばさ。かえではこの森のことならなんでも知ってるんだよね?」

「ええ、なんでも聞いてちょうだいなのねん」

 胸を張って答えるかえでに、私の胸にちょっとだけ希望が灯る。

「この森のなかに、人がすむ集落とかってある?」

「ないわねん。でも、魔物が住む集落ならあるのねん」

「えっ……」

 かえでの答えに、灯った希望が一瞬のうちに消えてしまう。人のいるところに行けたらいいなと思ってたけど、それよりも自分の命の心配をしたほうがよさそうだ。

「だけど近くにはないから安心するのねん」

「そうなんだ……」

 ホッとするも、人がいないという事実は変わらない。

「じゃあ森をぬけて人里に行きたいんだけど、いちばん近い場所でどれくらいのきょりがあるかわかる?」

「森の外のことはわからないのねん。だけど一番近い森の端っこでも、ずーっと先なのねん」

「そっか」

 具体的な距離まではわからなかったけど、なんとなく遠そうだということはわかった。いつになったらこの森から出られるんだろうか。前途は多難そうである。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

入社した会社でぼくがあたしになる話

青春
父の残した借金返済のためがむしゃらに就活をした結果入社した会社で主人公[山名ユウ]が徐々に変わっていく物語

男子中学生から女子校生になった僕

大衆娯楽
僕はある日突然、母と姉に強制的に女の子として育てられる事になった。 普通に男の子として過ごしていた主人公がJKで過ごした高校3年間のお話し。 強制女装、女性と性行為、男性と性行為、羞恥、屈辱などが好きな方は是非読んでみてください!

女子に虐められる僕

大衆娯楽
主人公が女子校生にいじめられて堕ちていく話です。恥辱、強制女装、女性からのいじめなど好きな方どうぞ

転職してOLになった僕。

大衆娯楽
転職した会社で無理矢理女装させられてる男の子の話しです。 強制女装、恥辱、女性からの責めが好きな方にオススメです!

マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。 攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる! そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。

断罪済み悪役令嬢に憑依したけど、ネトゲの自キャラ能力が使えたので逃げ出しました

八華
ファンタジー
断罪済みの牢の中で悪役令嬢と意識が融合してしまった主人公。 乙女ゲームストーリー上、待っているのは破滅のみ。 でも、なぜか地球でやっていたオンラインゲームキャラの能力が使えるみたいで……。 ゲームキャラチートを利用して、あっさり脱獄成功。 王都の街で色んな人と出会いながら、現実世界への帰還を目指します!

ユニコーンに懐かれたのでダンジョン配信します……女装しないと言うこと聞いてくれないので、女装して。

あずももも
ファンタジー
【護られる系柚希姫なユズちゃん】【姫が男? 寝ぼけてんの?】【あの可愛さで声と話し方は中性的なのが、ぐっとくるよな】【天然でちょうちょすぎる】【ちょうちょ(物理】(視聴者の声より) ◆病気な母のために高校を休学し、バイトを掛け持ちする生活の星野柚希。髪が伸び切るほど忙しいある日、モンスターに襲われている小さな何かを助ける。懐かれたため飼うことにしたが、彼は知らない。それがSクラスモンスター、世界でも数体の目撃例な「ユニコーン」――「清らかな乙女にしか懐かない種族」の幼体だと。 ◆「テイマー」スキルを持っていたと知った彼は、貧乏生活脱出のために一攫千金を目指してダンジョンに潜る。しかし女装した格好のままパーティーを組み、ついでに無自覚で配信していたため後戻りできず、さらにはユニコーンが「男子らしい格好」だと言うことを聞かないと知り、女装したまま配信をすることに。 ◆「ユニコーンに約束された柚希姫」として一躍有名になったり、庭に出現したダンジョンでの生計も企んでみたらとんでもないことになったり、他のレアモンスターに懐かれたり、とんでもないことになったり、女の子たちからも「女子」として「男の娘」として懐かれたりなほのぼの系日常ときどき冒険譚です。 ◆男の娘×ダンジョン配信&掲示板×もふもふです。主人公は元から中性的ですが、ユニコーンのスキルでより男の娘に。あと総受けです。 ◆「ヘッドショットTSハルちゃん」https://kakuyomu.jp/works/16817330662854492372と同時連載・世界観はほぼ同じです。掲示板やコメントのノリも、なにもかも。男の娘とTSっ子なダンジョン配信ものをお楽しみくださいませ。 ◆別サイト様でも連載しています。 ◆ユズちゃんのサンプル画像→https://www.pixiv.net/artworks/116855601

貧乏冒険者で底辺配信者の生きる希望もないおっさんバズる~庭のFランク(実際はSSSランク)ダンジョンで活動すること15年、最強になりました~

喰寝丸太
ファンタジー
おっさんは経済的に、そして冒険者としても底辺だった。 庭にダンジョンができたが最初のザコがスライムということでFランクダンジョン認定された。 そして18年。 おっさんの実力が白日の下に。 FランクダンジョンはSSSランクだった。 最初のザコ敵はアイアンスライム。 特徴は大量の経験値を持っていて硬い、そして逃げる。 追い詰められると不壊と言われるダンジョンの壁すら溶かす酸を出す。 そんなダンジョンでの15年の月日はおっさんを最強にさせた。 世間から隠されていた最強の化け物がいま世に出る。

処理中です...