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第一章 神霊の森
第7話 アイリス
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一時間ほど座り込んでいただろうか。
こうしていても空腹が満たされることはないと気づき、私はようやく重い腰を上げることにした。
「キース、どっちに行けばいいかわかる?」
『食料という意味ではどこに向かっても大して変わらないはずだが、当時の記録では東に川が流れていたみたいだな』
なるほど。川があれば水が飲めるかもしれないし、もしかすれば人里に出られる可能性もゼロじゃない。
「……で、ひがしってどっち?」
『まったく、これだから都会育ちのおぼっちゃんは』
なんとなくイラっとしたので足元の石を掴んで投げつける。
命中率などよくないので、避けるまでもなく当たらなかったが。
『ふっ。東はこっちだ』
馬鹿にした口調で東と思われる方向に発光部位を向けるキース。
「わかった」
『私がいなければさっそく野垂れ死んでいるところだな』
「まったくもってそのとおりで」
歩き出した私の後ろをキースがついてくる。キースがいなかったらこの森にすらたどり着いていたか怪しいほどだ。というか古代遺跡が生きていなかったら、私自身もあそこで力尽きていただろう。
キースの態度や言葉にイラっとすることもあるにはあるが、何も考えずに文句を返せるこの関係を嬉しくも感じている。王宮の人間に何を聞かれてどう受け取られるか心配する必要がないのはストレスがなくていい。
「歩きにくそうだなぁ」
岩山の外縁部から出て本格的に森の中へと足を踏み入れる。雑草やツタが絡み合っていてなかなかに進みづらそうだ。
背負っていた鞄をいったん下ろして中身を漁ると、大ぶりなナイフを取り出す。もちろん大ぶりなのは今の私のちんまい体に対してであって、きっと大人が持てば小ぶりなナイフだろう。邪魔な植物を払いながらであれば多少は進みやすくなるだろうか。
引き抜いた鞘を鞄のサイドポケットに仕舞うと、刃を確認する。刃渡りは15センチほどだろうか。とてもよく切れそうだ。
かつては短剣術も訓練はしたが、まったく技術が向上する気配もなかった。とはいえ今の体にもなじませる必要があるだろう。
握りを確認して軽く素振りをしてみる。今の私にもそれほど重くは感じられない。思ったよりしっくりくるナイフではある。振り下ろし、横薙ぎ、突き上げ、いくつか動作を確認していると――
<短剣術スキルを取得しました>
「……え?」
思わず響いてきた神の声に動きが止まる。
短剣術スキル? え? なんで今更? あれだけ訓練してきてさっぱり取得できなかったのに。
――そういえば
ふと思い出して後ろのキースを振り返る。
スキルの因子とやらを注入されたんだっけか。それでスキルを獲得できるようになったってこと? こんなにあっさりと?
『チッ』
何とも言えない理不尽さを感じていたところで、キースの舌打ちが聞こえてきた。
『余計な声を聞かせおってからに。アイリスがスキルを会得できたのは因子を持つようになったからだ』
その言葉を聞いてさらに意味が分からなくなる。キースには私が聞こえる神の声が聞こえるのだろうか。というかやっぱり私の名前はアイリスになったのだろうか。古代遺跡の発掘品なんてそもそもが正体不明ではあるが、それでもキースっていったい何なのだろうか。
「あ、そうだ」
ふと我に返って自分のステータスを確認してみることを思いつく。
=====
ステータス:
名前:アイリス
種族:人族
レベル:2
年齢:3
性別:男
状態:栄養失調
HP:18/24
SP:55/55
MP:65/65
物理スキル:
剣術(2) 短剣術(1)
=====
「えっ?」
が、そのステータスを見て思わず絶句する。
「な、なんで、名前がアイリスになってるんだよ」
私の名前はサイラスだったはずだ。それにステータス上の名前が変わったなんて話は今まで聞いたことがない。
『アイリスという名前でインプットしたと言っただろう』
「……え? なんて?」
目の前の球体から聞こえてきた声が理解できない。
『だから、お前の名前だ。私がアイリスでインプットしたからそうなっている。もう一度言うが変更は受け付けないぞ』
「えええぇぇぇぇ!?」
再度告げられた言葉が頭に浸透してきたころ、盛大な叫び声が口から飛び出ていた。
「ステータスのなまえをいんぷっとって、どういうこと!? え? 名前ってへんこうできたの? ステータスって自分のじょうたいが見れるものじゃなかったの!?」
『アイリスの言う通りステータスというものはその個体の状態を見るもので間違いはない』
「だったら!」
『そうだな。レベルはその個体の階位を表し、年齢や性別、状態も言わずもがなだろう。HPは生命力。ゼロになればおおよそその個体が死ぬとされるものだ。MPは魔力であり、魔術を使用する際に消費される。SPは気力。武技を使用する際に消費される』
改めてキースに説明されるまでもない。そんなことは私だってよく知っている。
『では名前は? 本来は他者に名付けられるものだろう?』
……言われてみればそうだ。状態を表すステータスであろうと、名前は生まれた時から自動的についているものではない。親に名付けられて初めて名前が設定されるのだ。
「って、え、それってどういう……。キースは他人のステータスにかんしょうできるの!?」
衝撃の事実に震えが走る。
そういえば変更は受け付けないって言ってたな。え、もしかして私はこれからずっとアイリスで過ごさないといけないってことなのか? 男なのに、女っぽい名前で過ごせと?
「あ、あたちのなまえの付け直しをようきゅうする!」
文句を言いたかったが噛んだ。
こうしていても空腹が満たされることはないと気づき、私はようやく重い腰を上げることにした。
「キース、どっちに行けばいいかわかる?」
『食料という意味ではどこに向かっても大して変わらないはずだが、当時の記録では東に川が流れていたみたいだな』
なるほど。川があれば水が飲めるかもしれないし、もしかすれば人里に出られる可能性もゼロじゃない。
「……で、ひがしってどっち?」
『まったく、これだから都会育ちのおぼっちゃんは』
なんとなくイラっとしたので足元の石を掴んで投げつける。
命中率などよくないので、避けるまでもなく当たらなかったが。
『ふっ。東はこっちだ』
馬鹿にした口調で東と思われる方向に発光部位を向けるキース。
「わかった」
『私がいなければさっそく野垂れ死んでいるところだな』
「まったくもってそのとおりで」
歩き出した私の後ろをキースがついてくる。キースがいなかったらこの森にすらたどり着いていたか怪しいほどだ。というか古代遺跡が生きていなかったら、私自身もあそこで力尽きていただろう。
キースの態度や言葉にイラっとすることもあるにはあるが、何も考えずに文句を返せるこの関係を嬉しくも感じている。王宮の人間に何を聞かれてどう受け取られるか心配する必要がないのはストレスがなくていい。
「歩きにくそうだなぁ」
岩山の外縁部から出て本格的に森の中へと足を踏み入れる。雑草やツタが絡み合っていてなかなかに進みづらそうだ。
背負っていた鞄をいったん下ろして中身を漁ると、大ぶりなナイフを取り出す。もちろん大ぶりなのは今の私のちんまい体に対してであって、きっと大人が持てば小ぶりなナイフだろう。邪魔な植物を払いながらであれば多少は進みやすくなるだろうか。
引き抜いた鞘を鞄のサイドポケットに仕舞うと、刃を確認する。刃渡りは15センチほどだろうか。とてもよく切れそうだ。
かつては短剣術も訓練はしたが、まったく技術が向上する気配もなかった。とはいえ今の体にもなじませる必要があるだろう。
握りを確認して軽く素振りをしてみる。今の私にもそれほど重くは感じられない。思ったよりしっくりくるナイフではある。振り下ろし、横薙ぎ、突き上げ、いくつか動作を確認していると――
<短剣術スキルを取得しました>
「……え?」
思わず響いてきた神の声に動きが止まる。
短剣術スキル? え? なんで今更? あれだけ訓練してきてさっぱり取得できなかったのに。
――そういえば
ふと思い出して後ろのキースを振り返る。
スキルの因子とやらを注入されたんだっけか。それでスキルを獲得できるようになったってこと? こんなにあっさりと?
『チッ』
何とも言えない理不尽さを感じていたところで、キースの舌打ちが聞こえてきた。
『余計な声を聞かせおってからに。アイリスがスキルを会得できたのは因子を持つようになったからだ』
その言葉を聞いてさらに意味が分からなくなる。キースには私が聞こえる神の声が聞こえるのだろうか。というかやっぱり私の名前はアイリスになったのだろうか。古代遺跡の発掘品なんてそもそもが正体不明ではあるが、それでもキースっていったい何なのだろうか。
「あ、そうだ」
ふと我に返って自分のステータスを確認してみることを思いつく。
=====
ステータス:
名前:アイリス
種族:人族
レベル:2
年齢:3
性別:男
状態:栄養失調
HP:18/24
SP:55/55
MP:65/65
物理スキル:
剣術(2) 短剣術(1)
=====
「えっ?」
が、そのステータスを見て思わず絶句する。
「な、なんで、名前がアイリスになってるんだよ」
私の名前はサイラスだったはずだ。それにステータス上の名前が変わったなんて話は今まで聞いたことがない。
『アイリスという名前でインプットしたと言っただろう』
「……え? なんて?」
目の前の球体から聞こえてきた声が理解できない。
『だから、お前の名前だ。私がアイリスでインプットしたからそうなっている。もう一度言うが変更は受け付けないぞ』
「えええぇぇぇぇ!?」
再度告げられた言葉が頭に浸透してきたころ、盛大な叫び声が口から飛び出ていた。
「ステータスのなまえをいんぷっとって、どういうこと!? え? 名前ってへんこうできたの? ステータスって自分のじょうたいが見れるものじゃなかったの!?」
『アイリスの言う通りステータスというものはその個体の状態を見るもので間違いはない』
「だったら!」
『そうだな。レベルはその個体の階位を表し、年齢や性別、状態も言わずもがなだろう。HPは生命力。ゼロになればおおよそその個体が死ぬとされるものだ。MPは魔力であり、魔術を使用する際に消費される。SPは気力。武技を使用する際に消費される』
改めてキースに説明されるまでもない。そんなことは私だってよく知っている。
『では名前は? 本来は他者に名付けられるものだろう?』
……言われてみればそうだ。状態を表すステータスであろうと、名前は生まれた時から自動的についているものではない。親に名付けられて初めて名前が設定されるのだ。
「って、え、それってどういう……。キースは他人のステータスにかんしょうできるの!?」
衝撃の事実に震えが走る。
そういえば変更は受け付けないって言ってたな。え、もしかして私はこれからずっとアイリスで過ごさないといけないってことなのか? 男なのに、女っぽい名前で過ごせと?
「あ、あたちのなまえの付け直しをようきゅうする!」
文句を言いたかったが噛んだ。
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