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プロローグ
第5話 古代遺跡の倉庫
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「とにかく、ここを出よう」
気を取り直してまずはやるべきことをやることにする。発音練習はここじゃなくてもできるはずだ。
キョロキョロと周囲を見回すが、部屋の入り口は一つだけだ。とりあえずそちらに向かうことにする。左右に廊下が伸びているがどっちに行けばいいんだろうか。左側へと続く床の黒い染みを見て刺されたことを思い出し、思わず腹部へと手を当てる。
「裸のままっていうのもなんとかしたいけど……」
『ふむ。確かにそのまま何も持たず外に出るのは危険だな。倉庫にあるものなら持ち出し自由だ。まずはそこに向かおう』
今は寒くないが、やっぱり全裸というのは落ち着かない。
空中を漂う球体が、表面をほのかに光らせて廊下を右側へと進んで行く。金属製のひんやりする廊下をぺたぺたと歩いてついていく。いくつか分岐を経てたどり着いたのは一つの扉だった。
『このスイッチを押すと扉が開く』
球体の光が強くなったかと思うと、スイッチと思われる場所を照らしている。
「開けてくれないの?」
『私は観察者だからな。行動の指針は示しても自ら動くことは原則できない』
高い位置にあるスイッチらしき場所を見上げて尋ねるが、期待する答えは返って来なかった。仕方なしにスイッチの足元まで近づくと、背伸びをしてなんとかスイッチを押し込む。
届いてよかったと安堵していると、音もなく扉が横にスライドして開いた。
「自動で開くんだ……」
今はこんななりだが、これでも一国家の王子であった私である。王宮ですら自動で開く扉というものは見たことはない。さすが古代文明といったところか。
『ここが倉庫だ』
後ろから聞こえる声に促されて部屋の中を注視するが、廊下からの明かりが照らす場所以外は真っ暗だった。
「暗いんだけど……」
『中に入れば明かりはつく』
「そこも自動なんだ」
感心しつつも足を踏み入れると、確かに明かりが灯った。一定の光量を維持する機械的な明かりである。
倉庫の広さは20メートル四方くらいだろうか。天井の高さはよくわからない。
棚が所狭しと並んでおり、各種道具が置かれている。ただし、今の自分の身長だと三段目と四段目は見えない高さにあった。
「二千年も前にほろんだって聞いたけど……」
『この倉庫は時空間魔術が掛けられている。扉が閉まっている間は時間が経過しないのだ。それに中の道具も不滅と保存の魔術がかけられているものも多い』
「へぇ」
ぼそっと呟いただけで説明してくれるのは便利だな。でもそんな魔術があるなんて、古代文明人すごい。
「あたしが着られそうな服とかはないかな」
『そこまでは把握していない』
と思ったけどそううまくはいかないようである。
八列ある棚を端から順番に見ていく。
用途のよくわからないものがずらりと並んでいるが、パッと見て服らしきものは見当たらない。大きさの異なる板状の物体や、四角い箱状のものなど。各種操作ボタンがついているものもあれば、のっぺりして何もないものもある。
「こうやってみれば、ここは大当たりの古代遺跡だったんだろうなぁ……」
三列目の棚に差し掛かった時、布や革製品が目に入ってきた。
手に取って広げてみると、これは背負うタイプの鞄だろうか。金具を外してカバーを開くが、まだ鞄の中は見れなかった。布地の切れ目に金属のギザギザがついている。端には取っ手のような小さい金具がついていて、ここを引っ張ると開くんだろうか?
「へぇ、すごい」
予想通りに開いた鞄に感嘆の言葉が漏れる。
『ただのファスナーなんだが』
呆れた声が後ろから聞こえるが無視だ。今まで紐で口を縛る鞄しか見たことがないのだ。しょうがないだろう。
『時空魔術がかかっていて、見た目より物が入り時間がほぼ経過しないようになっている』
「えっ!?」
今度は無視できない言葉がかけられたので振り向く。そこには相変わらずいろんな色に光る球体が浮いているだけだ。
「それって、時空の鞄じゃ……」
市場でも超高額で取引される魔道具だ。遺跡から発掘されるものしか存在せず、現代に生きる人間が作れるという話は聞いたことがない。
『私たちの時代ではありふれたものだったが』
「そうなんだ……」
恐るべし古代文明。にしてもこの観察者って、しゃべるときは光が明滅するみたいだ。
「でもちょっと大きいかな」
ふたを閉めて試しに背負ってみるが、鞄の底が地面についていて肩にかけた紐は浮いている状態だ。
『肩ひもを短くして調節すればいいだろう』
「なんだって」
言われたとおりに確認してみれば、確かに調節できるようだ。
『ふっ……、これだから田舎者は……』
「うるさいな」
馬鹿にした声にイラっとしながらも、紐を調節しなおして背負ってみる。鞄の底はちょうど膝くらいになった。
裸に背負い鞄というなんとも情けない姿の完成だ。
「これってどれくらい入るの?」
『ふむ……』
振り返って尋ねると、球体から光が伸びて鞄に照射される。そうやって道具を調べることができるんだろうか。
『体積で言うと千立方メートルだな。当時で言えば中容量の鞄だろう』
「せん……、りっぽう、メートル?」
よくわからずに首を傾げると、またもや球体から嘲笑を浴びせかけられる。
『これだから学のない者は……』
「うるさいな! 古代文明じだいの知識なんて、あたしが知るわけないだろ!」
思わず怒鳴り返してしまい、全身で息を整える羽目になってしまう。
そういえば幼児化して体力がないんだった。
気を取り直してまずはやるべきことをやることにする。発音練習はここじゃなくてもできるはずだ。
キョロキョロと周囲を見回すが、部屋の入り口は一つだけだ。とりあえずそちらに向かうことにする。左右に廊下が伸びているがどっちに行けばいいんだろうか。左側へと続く床の黒い染みを見て刺されたことを思い出し、思わず腹部へと手を当てる。
「裸のままっていうのもなんとかしたいけど……」
『ふむ。確かにそのまま何も持たず外に出るのは危険だな。倉庫にあるものなら持ち出し自由だ。まずはそこに向かおう』
今は寒くないが、やっぱり全裸というのは落ち着かない。
空中を漂う球体が、表面をほのかに光らせて廊下を右側へと進んで行く。金属製のひんやりする廊下をぺたぺたと歩いてついていく。いくつか分岐を経てたどり着いたのは一つの扉だった。
『このスイッチを押すと扉が開く』
球体の光が強くなったかと思うと、スイッチと思われる場所を照らしている。
「開けてくれないの?」
『私は観察者だからな。行動の指針は示しても自ら動くことは原則できない』
高い位置にあるスイッチらしき場所を見上げて尋ねるが、期待する答えは返って来なかった。仕方なしにスイッチの足元まで近づくと、背伸びをしてなんとかスイッチを押し込む。
届いてよかったと安堵していると、音もなく扉が横にスライドして開いた。
「自動で開くんだ……」
今はこんななりだが、これでも一国家の王子であった私である。王宮ですら自動で開く扉というものは見たことはない。さすが古代文明といったところか。
『ここが倉庫だ』
後ろから聞こえる声に促されて部屋の中を注視するが、廊下からの明かりが照らす場所以外は真っ暗だった。
「暗いんだけど……」
『中に入れば明かりはつく』
「そこも自動なんだ」
感心しつつも足を踏み入れると、確かに明かりが灯った。一定の光量を維持する機械的な明かりである。
倉庫の広さは20メートル四方くらいだろうか。天井の高さはよくわからない。
棚が所狭しと並んでおり、各種道具が置かれている。ただし、今の自分の身長だと三段目と四段目は見えない高さにあった。
「二千年も前にほろんだって聞いたけど……」
『この倉庫は時空間魔術が掛けられている。扉が閉まっている間は時間が経過しないのだ。それに中の道具も不滅と保存の魔術がかけられているものも多い』
「へぇ」
ぼそっと呟いただけで説明してくれるのは便利だな。でもそんな魔術があるなんて、古代文明人すごい。
「あたしが着られそうな服とかはないかな」
『そこまでは把握していない』
と思ったけどそううまくはいかないようである。
八列ある棚を端から順番に見ていく。
用途のよくわからないものがずらりと並んでいるが、パッと見て服らしきものは見当たらない。大きさの異なる板状の物体や、四角い箱状のものなど。各種操作ボタンがついているものもあれば、のっぺりして何もないものもある。
「こうやってみれば、ここは大当たりの古代遺跡だったんだろうなぁ……」
三列目の棚に差し掛かった時、布や革製品が目に入ってきた。
手に取って広げてみると、これは背負うタイプの鞄だろうか。金具を外してカバーを開くが、まだ鞄の中は見れなかった。布地の切れ目に金属のギザギザがついている。端には取っ手のような小さい金具がついていて、ここを引っ張ると開くんだろうか?
「へぇ、すごい」
予想通りに開いた鞄に感嘆の言葉が漏れる。
『ただのファスナーなんだが』
呆れた声が後ろから聞こえるが無視だ。今まで紐で口を縛る鞄しか見たことがないのだ。しょうがないだろう。
『時空魔術がかかっていて、見た目より物が入り時間がほぼ経過しないようになっている』
「えっ!?」
今度は無視できない言葉がかけられたので振り向く。そこには相変わらずいろんな色に光る球体が浮いているだけだ。
「それって、時空の鞄じゃ……」
市場でも超高額で取引される魔道具だ。遺跡から発掘されるものしか存在せず、現代に生きる人間が作れるという話は聞いたことがない。
『私たちの時代ではありふれたものだったが』
「そうなんだ……」
恐るべし古代文明。にしてもこの観察者って、しゃべるときは光が明滅するみたいだ。
「でもちょっと大きいかな」
ふたを閉めて試しに背負ってみるが、鞄の底が地面についていて肩にかけた紐は浮いている状態だ。
『肩ひもを短くして調節すればいいだろう』
「なんだって」
言われたとおりに確認してみれば、確かに調節できるようだ。
『ふっ……、これだから田舎者は……』
「うるさいな」
馬鹿にした声にイラっとしながらも、紐を調節しなおして背負ってみる。鞄の底はちょうど膝くらいになった。
裸に背負い鞄というなんとも情けない姿の完成だ。
「これってどれくらい入るの?」
『ふむ……』
振り返って尋ねると、球体から光が伸びて鞄に照射される。そうやって道具を調べることができるんだろうか。
『体積で言うと千立方メートルだな。当時で言えば中容量の鞄だろう』
「せん……、りっぽう、メートル?」
よくわからずに首を傾げると、またもや球体から嘲笑を浴びせかけられる。
『これだから学のない者は……』
「うるさいな! 古代文明じだいの知識なんて、あたしが知るわけないだろ!」
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