上 下
23 / 81

従姉妹で妹

しおりを挟む
「お邪魔しまーす」

 なんとかヘンタイを振り切った後、四人でまたもやスイーツを堪能してから自宅最寄り駅へと帰ってきた。
 そしてそのまま俺は、佳織の家へとお邪魔している。
 静と千亜季は降りる駅が違うので、ここにいるのは俺と佳織の二人だけだ。
 たまに学校帰りに、『女の子らしい振る舞いを教えてあげる』と半ば強制的に佳織の家に連れられることがあるが、今日はむしろありがたかった。

 ヘンタイさんこと柴山しばやま虎鉄こてつは、中学時代からの親友だ。
 つまり、俺の家にも遊びに来たことがあるわけで、俺が一人暮らしをしていることも知っているのだ。
 両親が亡くなったときに迷惑をかけた人間の一人でもあるが、それはソレ、これはコレだ。なにせヤツはヘンタイだから。
 相手が俺だからだろうか、他の女子生徒にはやらない要求を平気で突きつけて来るからたちが悪い。親友というのも考え物だな……。

 それに、さすがにないとは思うが、家の前で待ち伏せでもされていたらマジで恐ろしい。
 家の中にまで押しかけてはこないと思うが、まさかヤツの目が俺に向くとは思っていなかったぜ……。

「はい、いらっしゃい」

「ただいま」

「あら、佳織、おかえり。……もしかしてお友達かしら?」

 ちょうどリビングから廊下へと出てきたところに出くわしたおばさんに声を掛けられた。
 俺がこの姿になってから何度か顔は見かけていたが、面と向かって相対するのは今回が初めてだ。

「あ、うん」

「こんにちは。初めて見る顔だね」

 おばさんは佳織に友達が増えたことが嬉しいのか、ニコニコと笑顔で俺に尋ねてくる。
 とは言え俺としては幼馴染の佳織のおばさんだ。小さい頃から何度も世話になっている。
 もちろん、俺の両親が亡くなった時もだ。
 そんなおばさんに、自分のことを認識してもらえないことになんとなく寂しさを感じるがしょうがない。
 体格どころか性別まで変わっちまったんだから。
 でもそういうことなら、もう一度始めから認識してもらうまでだ。

「こんにちは。五十嵐圭――もごもご」

 改めて自己紹介を、と思って名乗った瞬間、佳織に口をふさがれた。
 いきなりなにすんだよ佳織!?

「ちょっとアンタ! 何自然と本名で自己紹介しようとしてんのよ!」

 おばさんに聞こえないように耳元で囁くように文句を言ってくる佳織。

「え? ダメなの?」

 学校じゃ五十嵐圭一で通していて、なぜか問題になっていないのでスルーしていたがダメなのか。いやまぁ、面倒なことになるのはわかるけど。
 よくよく考えれば不思議なことだが、学校じゃなんとかなってるんだよなぁ。きっと川渕先生がなんとかしてくれたんだろうけど。……たぶん。

「あれ……? 五十嵐さんって……、もしかして圭一君の親戚かい?」

 『五十嵐圭』までしか口には出さなかったが、しっかりと聞こえていたのは間違いないようだ。
 何かを思い出すように斜め上を見つめるおばさんに、佳織が俺の口を塞いだまま額に汗を浮かべて焦っている。
 というか口を塞がれたままだと返事もできないんだが、佳織がなんとかしてくれんのかな。

「あーっと……、えーっと、そ、そうなのよ! 圭一の……従姉妹いとこの圭ちゃん! 今年から親元を離れて一人暮らしで、同じ高校に通うことになったのよ!」

 かといって誤魔化したところでいつまでもつかわからないなぁ……って考えてたところで、佳織が盛大に誤魔化しやがった!

「へぇ、そうなの。今年からってことは、一年生なのかな?」

「え? あ、――うん。そうなの! もう妹みたいに可愛くって!」

 焦った勢いからか、否定せずに余計な言葉まで付け加える佳織。
 というかさらに学年まで偽られてるんですけど? いやもうどうなっても知らんよ? つかいつまで俺の口を塞いでるんだよ? おばさんもそこツッコんでくれないの?

「一人暮らしって……、従姉妹なら圭一君と同じ家に住めばいいんじゃないの?」

 おばさんがもっともらしいことを口にするが、その言葉に佳織は俺の顔を見てなぜか額に血管を浮かべると。

「何言ってるのよ。従姉妹とは言え、圭一なんかと一緒に住んだら危ないに決まってるじゃない!」

 何が危ないのかわからないが、佳織はどうやらご立腹な様子だ。まったくもって理不尽に責められている気がしないでもないが、もう俺は口を塞がれたままなので反論を諦めている。
 何度か塞いでいる手をはがそうと奮闘していたのだが、どうにもはがせそうにないのだ。

「危ないって何よもう。圭一君のことになると素直じゃないんだから」

 そんな佳織に、呆れたおばさんの言葉が返ってくる。

「……もう! とにかく、部屋に行ってるから!」

 それだけ言うと、佳織は俺を引きずったまま家に入ると、二階の自分の部屋へと上がっていく。
 そしてようやく階段下で解放された俺は、おばさんに改めて「お邪魔します」と言うと、佳織の後をついて行った。
 何かもう、佳織の誤魔化しを訂正する気は俺には起こらなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

新訳 軽装歩兵アランR(Re:boot)

たくp
キャラ文芸
1918年、第一次世界大戦終戦前のフランス・ソンム地方の駐屯地で最新兵器『機械人形(マシンドール)』がUE(アンノウンエネミー)によって強奪されてしまう。 それから1年後の1919年、第一次大戦終結後のヴェルサイユ条約締結とは程遠い荒野を、軽装歩兵アラン・バイエルは駆け抜ける。 アラン・バイエル 元ジャン・クロード軽装歩兵小隊の一等兵、右肩の軽傷により戦後に除隊、表向きはマモー商会の商人を務めつつ、裏では軽装歩兵としてUEを追う。 武装は対戦車ライフル、手りゅう弾、ガトリングガン『ジョワユーズ』 デスカ 貴族院出身の情報将校で大佐、アランを雇い、対UE同盟を締結する。 貴族にしては軽いノリの人物で、誰にでも分け隔てなく接する珍しい人物。 エンフィールドリボルバーを携帯している。

ハバナイスデイズ~きっと完璧には勝てない~

415
ファンタジー
「ゆりかごから墓場まで。この世にあるものなんでもござれの『岩戸屋』店主、平坂ナギヨシです。冷やかしですか?それとも……ご依頼でしょうか?」 普遍と異変が交差する混沌都市『露希』 。 何でも屋『岩戸屋』を構える三十路の男、平坂ナギヨシは、武市ケンスケ、ニィナと今日も奔走する。 死にたがりの男が織り成すドタバタバトルコメディ。素敵な日々が今始まる……かもしれない。

[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件

森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。 学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。 そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

処理中です...