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第4章 激動の冬編

第107話 フォルテア森林帯の激闘Ⅰ――“戦士”の家系アルマイト

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 龍の爪の伝令係が持っていた地図を辿りながら領内を駆ける、カリオス率いる斥候部隊の10騎。

 彼らは、ミュリヌス領中央にあるリリライト邸へ続く街道を走っていた。

 領境の関所付近には攻略部隊の本隊を待機させているが、今いるのは本隊が待機している場所とリリライト邸のほぼ中間地点ーーフォルテア森林帯だった。

「ルエール部隊が、龍の爪の動向を避けながら動いているとすると、ここら辺にいる可能性が高いと思うんですけど」

 ミュリヌス領からガルス領へ抜けるルートはいくつかあるが、そのいずれもが見通しの良い平原を通り抜けるルートだ。

 少数の特務部隊であれば、こういった潜みながら進める森林地帯の方が進みやすい上に、龍の爪の行軍ルートを見るに、この辺りは手薄だった。

「上手く鉢会えるといいけどな。すれ違うってことはないか?」

「可能性はゼロじゃないですけど、本隊でのんびり待っているわけにもいかないでしょう。何しろリリライト殿下をお連れしているんだから、一刻も早く合流してお助けしないと」

 最初は恐れすらしていたカリオスに、すっかり自然な様子で話すようになったコウメイ。

 本隊へは、先ほど斥候部隊の内1人が馬を走らせ現状を知らせに向かわせている。もしすれ違いがあってルエール達が本隊にたどり着いた場合は、その場の判断でミュリヌス領に攻め入るよう伝えてある。とにかく、リリライトの安全さえ確保してしまえばこちらのものなのだ。

「静かにっ!」

 不意に先を行くディードが、後に続くカリオス達を手で制すると、一行は馬を止める。

「……龍の爪、か」

 ディードが目を細めて槍を構える。それを皮切りに、カリオスを含めたコウメイ以外の騎士達が戦闘態勢に入る。

「馬鹿な……? ここら辺に部隊は展開されていないはずじゃ……」

 予想外の事態に、コウメイは戸惑う。先ほど奪った地図を取り出して、慌てて確認するが、やはり間違いない。これを見る限りは、ここで龍の爪と鉢合わせをする可能性は無いはずなのに。

「言ってもしかたねぇ。切り抜けるぞ」

 カリオスは豪華な装飾がされた王族用の剣を鞘から抜き取り、一同に指示する。

「心配するな、コウメイ。フェスティアの指示の外で動いているのなら、大した規模ではないはずだ。充分切り抜けられる」

 意表を突かれて戸惑うコウメイに、油断なく前方を警戒しながら声を掛けるディード。

 ――そして、開戦の合図と言わんばかりに、一本の矢が先頭に立つディードへ向けて放たれる。

「むんっ!」

 最大警戒をしている王国最強の騎士に、正面からの矢など突き刺さるはずがない。豪快に槍を振り回し、飛んできた矢を打ち払うディード。

「コウメイを中心に固まれ! 周囲を警戒だ!」

 カリオスの命令に従い、騎士達は非戦闘員のコウメイを中心に囲み、盾と剣を構える。

 それに遅れること数舜、前方から地響きのような音が聞こえてくる。姿を現わしたのは、言うまでもなくヘルベルト連合の戦闘部隊“龍の爪”の歩兵達。

「抜けさせるか!」

 ところどころ肌が露出した質の悪い安っぽい鎧を身に纏っている。そうやって、龍の爪の先頭を担うのは奴隷兵士だ。各々が剣や槍などを構えながら、真っ直ぐとディードへ向けて突撃してくる。

 あっという間に距離を詰めてくる奴隷兵士達に、ディードは両手で構えた大槍を2、3度振るう。それだけで間合いに入った奴隷兵士達数人の身体が宙を舞う。身体を突き刺される。頭を割られる。

 それでもディードの側をすり抜けた残りの奴隷兵士達が、その後ろに控えるカリオス達に襲い掛かってくる。

「1人も抜かすなよ!」

 カリオスが後方に控える騎士達に命じると、剣を手にしている右手を掲げる。

「突撃――!」

 手綱を操り、カリオスを含めた8人の騎士が、襲い掛かってくる奴隷兵士達を迎え撃つ。

 金属音が鳴り、悲鳴があがり、血飛沫が舞う。

 その一瞬後に、そこにあるのは奴隷兵士達の亡骸だった。

「――囲まれましたね」

 たった1人で、カリオス達よりも多くの奴隷兵士の亡骸を周囲に作り出したディードが零すと、自分達がただならぬ気配に囲まれているのが、コウメイにも分かる。

 ざわざわと風で揺れる木々の中に、動く人影が見える。

「こりゃちょっとした規模なんかじゃないな……相当な数だぞ」

 カリオスも目を細めながら辺りに目を配ると、もはや肉眼で人影がじりじりと近寄って来るのが見える程だ。

「誘い込まれた……?」

 その場にいる誰もが、この起こった状況に対応するのに精いっぱいの中――コウメイだけが、ただ一人冷静にこの状況を分析していた。もっとも、それが彼に与えられた役割なのだが。

 そしてその事実を察すると、そこから次々と芋づる式に、フェスティアが張り巡らせて策略に気づいていく。

「そんな、馬鹿な。あの伝令もフェイクってことか。だとしたら、ヘルベルト連合は一体どこまで……っていうか、団長達は……」

「反省会は後だっ!」

 飛んでくる矢をカリオスは剣で弾く。

 もう前方も後方も無い。全方向から龍の爪の兵士達が姿を現す。

 カリオス達は非戦闘員のコウメイを含めても全員で10人。それに対し、現れた龍の爪は、ざっと見ただけも100はくだらなさそうだ。

「コウメイを囲みながら、この場を切り抜けるぞ。いいな、ディード」

「血路を開きます」

 カリオスの指示通りに陣形を組みながら、ディードは端的な言葉で即答する。

「コウメイ、お前はここを切り抜けた後どうすりゃいいのかを考えていろ」

「マジですか……」

 この圧倒的な戦力差の中――カリオスが意気揚々と言う。ここで命を落とすなどと微塵にも思っていない、むしろこの不利な戦況に薄ら笑いさえ浮かべているようにさえ見る。これが“戦士”の家系アルマイトの血統に生まれた性なのか。

 コウメイの戸惑い、驚愕――そして完全に手玉に取られたという敗北感を置き去りにして、いよいよ激闘が始まる。

 押し寄せてくる龍の爪。奴隷兵士を盾にするようにしながら、ヘルベルト連合国の正規兵も突っ込んでくる。

「っおおおお!」

 物静かなディードが雄たけびを上げながら、その大槍を奮う。

 先ほどと全く同じ光景が、今度は2度・3度と繰り返される。槍を振り回す度に血風のような血しぶきを上げながら、襲い掛かる敵の命を刈り取っていくディード。

 一方カリオスもディードの劣らぬ奮迅ぶりを見せつける。彼のように派手さは無いもの、突き出されれる敵の刃を巧みに剣で防ぎながら、近くの兵士を1人、また1人と斬り捨てていく。

「っぐああ!」

 さすがに残りの騎士達までも、王国最強騎士のディードやカリオス程の活躍は出来ない。大波のように襲い来る龍の爪――その戦力差に防戦一方の中、遂に1人の騎士が倒れる。

「っち!」

 コウメイを守る防衛網が崩れる。まるで破れた袋の一部分から水が浸入するように、相手が中央のコウメイに斬りかかってくる。

「う、うあああああ!」

 斬りかかってきたのは1人の奴隷兵士。カリオスやディードの無双ぶりに恐れていたようなその兵士は、コウメイが狼狽えるのを見て、口元を歪めていた。非戦闘員であることを悟られたのだろう。

 そうして凶刃を向けられて身の危険が迫った時、コウメイはようやく腰の騎士剣を抜く。

 キィィィンという、金属同士がぶつかり合う甲高い音が響き渡る。

「おらぁぁぁっ!」

 コウメイと剣と打ち合い硬直したその奴隷兵士の身体を、カリオスは背中から斬り捨てる。奴隷兵士は、成す術もなくそのまま地面に伏して、動かなくなる。

「ははっ、剣もなかなか使えるじゃねえか」

 小馬鹿にしたような笑いは、コウメイを刺激させるためのものか。そう思わざるを得ない程、コウメイは戦意を喪失していた。

 それは命の危険に晒された恐怖に支配されているわけではない。今のコウメイがとらわれているのは、どんな言い訳の言葉も出てこない程に完璧に相手の策にはまってしまった敗北感に、だ。

「殿下、俺は……」

 頭脳と言われながらも、敵の策略を見抜けず部隊を危機に晒し、犠牲者を出してしまった。何も出来なかった自分の無力を呪いながら、既に死体となった味方の騎士へ沈痛な視線を投げかけるコウメイ。

「馬鹿野郎、気にするんじゃねえよ。お前は自分が何でも出来る神様だと思ってんのか」

 いつもの軽薄な口調が消え失せたコウメイの代わりというわけではないだろう。カリオスは剣を肩に乗せながら、ニヤリと笑う。

「そいつのことは気にするな。龍牙騎士になるのは、そうなることも覚悟して選んだ奴だけだ。そいつも、誰もお前を責めたりなんかしねぇよ」

 カリオスもコウメイと同様に、敵の凶刃に倒れた騎士へ視線を滑らす。

 その言葉に僅かながらでも救われる思いがするコウメイだったが……ふと、思う。今こんな悠長な会話をしている場合などではなかった。

 そうしてようやく自責の念に囚われて周りが見えなかったコウメイが周りを見渡すと、いつの間にが残す敵兵は僅かとなっていた。その僅かの敵兵も前方のディードに蹴散らされている


 死屍累々と地面に転がる遺体は、龍の爪の奴隷兵士と正規兵が入り混じったものばかり。味方の犠牲は先ほどの騎士1人のみだった。

「な、なんだこれ……」

 その光景を見ながらコウメイは、今度は呆れる。

 これでは戦略も戦術もない。

 何も考えないで、カリオスとディードの2人だけでもういいんじゃないかな。

「何のためのにわざわざディードと俺が出てきたと思ってんだよ。こういう時のためだろうが」

 白い歯を見せてにやりと笑うカリオス。

 その頃には、ディードが残りの敵兵もほぼ掃討していた。目に見える敵兵は、もう10人にも満たない程だ。本当に10倍の戦力差を跳ね返してしまったのだ。

「は、はは……」

 思わず乾いた笑みを浮かべるコウメイ。これにはフェスティアもたまったものではないだろう。コウメイにとっては、嬉しい意味でとんでもない誤算。これならば、フェスティアに負けたわけではない。まだここから――

 そこまで考えたコウメイの気力が戻りつつあるとき、再び森林帯に大量の人の気配が立ち込める。

「――ち。まだいやがるのかよ」

 余裕の笑みを浮かべていたカリオスが、再び真剣な表情に戻る。そして前方で奮戦しているディードも、無言で敵の第2波に備えていた。

 しかし、次の圧力は第一波とはまるで違う。数も実力も違うのか、圧倒的な空気感をびりびりと感じる。

 それは、大陸屈指の戦士であるカリオスとディードも同様のようだった。

「殿下、これでは……」

 やはりディードは無表情で言葉を発するのだが、わずかに焦りが感じられるような口調だった。

「まとめて一気にじゃなくて、波状攻撃を仕掛けてきているのか」

 どうも敵は数回に分けて攻撃を仕掛けきているようだ。見通しの悪い森林帯故にそれをやられると、敵の戦力は把握しきれない。いつ終わるともしれない攻撃を受け続ければ、こちらは精神的に削られていくのは避けられない。

「たかだか10人程度相手にこれ程の数を連れてきて、それでも単純な力づくじゃないのか」

 カリオスやディードといった一騎当千の猛者がいることもあるのだろうが、相手の指揮官――おそらくは『女傑』フェスティアであろう--に、コウメイは徹底した用心深さを感じる。

「ちっ、面倒くせぇな。こんなところで足止めを食らってる場合じゃねえんだよ」

 すぐに襲い掛かってくる敵の第二波。それに備えるカリオス達。

 唐突に、カリオスは持っていた剣を、襲い掛かってくる先頭にいる奴隷兵士へ投げると、それは見事にその兵士の胸に突き刺さる。真っ直ぐ綺麗なまでに胸を貫かれて、奴隷兵士はそのまま仰向けに倒れる。

「おおおっ! すげぇ剣だ! 俺のもんだっ!」

 奴隷兵士達を盾にして後ろに控える正規兵達が、こぞってカリオスの投げつけた豪奢な剣を遺体から引き抜こうとしている。

 カリオスは、そんな欲望まみれの醜い争いなど全く意に介さない。

 剣を手放して丸腰状態になったカリオス。彼が右の拳を開くと、そこから白い光が放たれていく。その光は、徐々に輝きを放ちながら形を成していく。

 やがて、その光の輝きが収まっていくと、光が集まっていたカリオスの右手には武器が握られていた。

 それはカリオスの体躯をも超える、巨大な大槌。

「“戦士”の家系アルマイト。その本髄を見せてやるよ!」

 カリオスが叫びながら、手にした大槌を両手で持ち、奮う。

 すると、轟音を響かせながら、地を這うような雷撃が問答無用に龍の爪部隊に襲い掛かる。

 その雷撃が通った道の上には、生きた人間も木々も、何も残っていなかった。

□■□■

 カリオス達を取り囲んだ箇所から少し離れた場所。

 擬音にすると「ドカァン!」「バリバリバリ!」とか、馬鹿らしいとすら思える程の轟音を鳴り響かせながら、龍の爪部隊が蹂躙されていくのを遠めに見ているのは、部隊を指揮するフェスティアだった。

「まさか、本当にカリオス王子が斥候をやるなんてね。さすがにこれは読めなかったわね」

 本気で呆れたようにフェスティアはため息を吐く。その横で、アストリアはわなわなと震えながら、驚愕のあまり空いた口が塞がらない状態になっている。

「あ、ああああ……あれなんですか? おかしいですよね? ね、代表?」

 蹂躙されていく自軍の部隊。問答無用、無茶苦茶なまでの圧倒的な力で、第2波の部隊は壊滅させられたらしい。少しして、轟音が落ち着く。

「続いて仕掛けなさい。密集せずに、なるべく分散して」

 その圧倒的なカリオスの破壊力を前にしても、平然と冷徹に言い放つフェスティア。指示された将官は、その命令を実行に移すべく森林帯に展開している各部隊へ指示を出していく。

「代表っ!」

「落ち着いて、アストリア」

 アストリアがここまで焦るのも無理はない。何せあそこまで無茶苦茶な力を見せつけられたら、もう戦術も何もあったものではない。あれはもう戦略すら覆す人間兵器だ。

 しかしそんな焦燥に駆られたアストリアとは対照的に、フェスティアは落ち着いてほほ笑む。

「さすがは“戦士”の家系アルマイト直系の王族――やはり『神器』を扱えるのね」

「『神器』? それって、あのお伽話の?」

 珍しくアストリアが、フェスティアに対して疑わし気な目線を送る。しかしフェスティアは気分を害することはなく、唇に指をあてて、いたずらっぽく微笑んだ。

「その話をすると歴史の授業になるから、後にしましょう。今は彼を何とかしないと……」

 馬上で腕を組むフェスティア。

 さすがにこれだけ猛威を振るわれれば士気に影響する。正規兵が逃げ出すようなことがあれば、奴隷兵も連れて逃げるようになるだろう。そうなればもはや戦闘の体を成さなくなる。

「まさかディード=エレハンダーまでいるとは、ね。相当妹姫様がお大事なようだけど。さて……」

 目を細めて遠くから戦況を見守るフェスティアだったが、そう長く自分の時間を持つことが出来なかった。バチバチと光る閃光が、フェスティア達のいる場所の程近くまで迫ってくる。

 そしてやがて、カリオス達からフェスティアの身を覆い隠していた木が雷撃で吹き飛ばされる。

 そうして、遂にフェスティアの姿がカリオス達の前に晒された。

「そこにいやがったか、フェスティアぁっ!」

「総員防御っ! 死んでも代表をお守りしろ!」

 剣を振り、喉がはちきれんばかりに叫んだのはアストリア。このフェスティアを守る部隊に配置しているのは、部隊の中でも最高の練度を持った兵士達だ。アストリアの号令に、素早く移動し、フェスティアとカリオスの間に厚い壁となって、カリオス達に対峙する。

「ご無沙汰しております、カリオス王子――全く、無茶苦茶ですね。せっかくここまで手間と時間をかけて準備したのが、台無しですね」

「はっ、ほざいてろ女狐が」

 姿を捕えられてしまえば、圧倒的不利であるはずのフェスティアだったが、何故か優雅な笑みは全く崩れない。逆にカリオスは強気に割りながらも、額に脂汗が滲んでおり、息も荒い。

 そんなカリオスの疲弊した様子を見て、フェスティアは確信する。

「やはり、『神器』の使用は疲弊が相当に激しいようですね。何もデメリットが無いのならば、最初から使用しているはずでものね」

「本当に憎たらしい女――だなっ!」

 そんな疲弊しきった表情のカリオスだったが、手に持った槌を振り上げて、そのまま振り下ろす。

 相変わらずの轟音を響かせながら、前面に展開している部隊ごとフェスティアを吹き飛ばすべく放たれた雷撃。

 しかしそれは、最前線に配置していた奴隷兵士、その後に控えていた正規兵を吹き飛ばしたが、更にその後ろに控える盾を構えている防御部隊に止められて、フェスティアまで届かない。

 最初に使い始めた時と、明らかに雷撃の勢いは弱くなっていた。

 そして雷撃を防御した後――フェスティアは鋭い視線でカリオスを射抜きながら腰に下げていた剣を抜き取ると、優雅で淀みのない所作でその剣を振りぬく。

 すると、可視化された風の刃――風刃がフェスティアの剣から放たれる。その刃は、空気を切り裂きながら、カリオスの首を掻っ切るべく、正面から襲い掛かってくる。

「っちい!」

 舌打ちをしながら、カリオスが持っていた槌を投げ捨てる。するとその槌は淡い光を放ちながら、空気の中に溶けるように消えていく。

 再び丸腰のカリオスは、今度は自分の身を守るような動作で左手を構える。すると先ほどの大槌を出した時と同じように光が集まると、何もなかった左手に大盾が現れる。

 それに数秒遅れて、フェスティアの風刃がカリオスまでたどり着き、その大盾に接触する。。

 重く鋭い一撃を受け止めるカリオスの盾。金属を削るような激しい切削音が森林帯の中に鳴り響くが、やがて風刃は霧散する。盾もカリオスも無傷ではあるが――

「はぁ、はぁ……この、野郎っ」

「ミョルニルにアイギスの盾――なるほど、“戦士”の特性は、いくつもの神器も扱えることらしいですが、これは確かに驚異的ですね。でも残念でした。どうも息切れのようで」

 必殺のつもりで放った一撃が簡単に弾かれたフェスティアだったが、やはり優位の笑みは崩れない。防御したといえど、カリオスの疲弊は明らかに増しているのだ。

「このための波状攻撃、かよっ!」

 部隊を分散させることで、神器の力を解放させながらカリオスが疲労するのを待つ――これもフェスティアが張り巡らせた策略の1つ。相手の中にカリオスがいると気づいた瞬間から、この方針を取ったのだった。

「まさか、聖アルマイト国の王子がこんな辺境の森林で命を落とすなど、誰が想像したでしょうね」

 柔和な雰囲気はそのままに、しかし瞳には残忍な色を浮かべながら、フェスティアは勝ち誇ったような笑みを向ける。

「おめでたい女だな。確かにミョルニルのような大規模攻撃はもう尽きたが、それだけで勝ったと思うなよ」

「へえ……?」

 そのカリオスの言葉は、苦し紛れの捨て台詞とは思えない。

 フェスティアの余裕の笑みは相変わらずだが、疲弊を見せるカリオスも何かしら確信めいた笑みを浮かべる。。

 すると、龍の爪部隊の最前線が、とある1人の聖アルマイトの騎士によって蹂躙されていく。

 その大柄な巨躯を赤い鎧に包みながら、巨大な大槍を振り回し、血風を巻き起こすその人物は――

「ディード=エレハンダー!」

 フェスティアの隣にいるアストリアがその名を叫ぶ。

 彼は、この大陸で軍事に関わる者であれば知らぬものはいないであろう、間違いなく大陸最強の騎士。

 神器はおろか魔法すらに頼らずに猛攻を仕掛けてくるディードは、ある意味ではカリオスよりも厄介な存在だった。

 大陸でも最も好戦的だという評判の紅血騎士団はネルグリア帝国にいるという話だったが、その団長を務める彼が、どうしてカリオスに帯同しているのかは分からない。

 彼もまた、カリオスと同じレベルで、フェスティアの予想外の存在であった。

 しかしそれでも、フェスティアは笑う。その優位な笑みは、決してその顔から剥がれない。

「――ジャギボーン、行きなさい」

 フェスティアが静かに命じる。すると『黒い風』が、数多くの兵士が展開する部隊の間を縫って、前線へと吹き抜けていく。

 すると王国最強騎士の巻き起こしていた血風が、不意に止まる。

「う、ぬう……」

「久々の大物だぁっ……げひひ、げひひひひっ!」

 狂気の笑い声を上げながら、ディードに襲い掛かる痩躯の男。

 全身を身体にフィットした黒衣に包んでおり、顔の下半分まで布で覆われている。青白い顔にボサボサの髪はフェスティアと同じ黒色。全身のほとんどが黒に染まっている、不気味極まりない男だ。

 その男が両手に持っているのは鎖で繋がれた鎌。全てを破壊しながら進むディードにそれを投げつけて、その破壊の進行を止めたのだった。

 視界の外から飛び込んできたその鎌を槍の柄で受け止めたディードは、その黒い男――ジャギボーンに向き変えて、槍を構えなおす。

 龍の爪の誰にも止められなかったディードの猛攻が制止された。

「こと、殺し合いにおいてはオーエンとは格が違うわよ。さて、闇に生きる熟練の暗殺者相手に勝てるかしらね、王国最強騎士さん?」

 フォルテア森林帯の激闘は、新たな展開に移ろうとしていた。
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