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第4章 激動の冬編

第82話 時は止まることなく、その時は近づく

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【ルエール部隊先遣隊(ミリアム=ティンカーズ)】

 龍牙騎士団の女性騎士ミリアム=ティンカーズはミュリヌス地方へ続く街道を、馬に乗り疾駆していた。

 日は西へ傾き、オレンジ色の光が差し始めている。完全な夜になるまでに、どこか仮眠を取れる場所を確保しなければ。

(あと1週間もかからないくらい、か)

 あの村で手厚い歓迎を受けたミリアムは、心身共にリフレッシュすることが出来、その後の道程では、途中で仮眠取る程度で、その他はとにかく先を急いでいた。

「無理させてごめんね。着いたら、ゆっくり休めるから」

 走らせる馬の首を優しくなでながら、ミリアムは話しかけた。

 馬の疲労はともかく、これほどの強行軍にも関わらず、ミリアムはほとんど疲労を感じていなかった。

「ルエール団長。私はあなたのために……必ずリリライト殿下とシンパ様をお助けいたします」

 女性である自分を、周囲の反発の中、平等に実力を評価してくれて取り立ててくれたルエール。その後も何かと目をかけて育ててくれて、今の自分があるのはルエールあってのことだとミリアムは思っている。

 それはミリアムに限ったことではなく、龍牙騎士団の騎士であれば、団長のルエールにそういった尊敬を抱く騎士がほとんどだろう。

 その強い使命感が、今のミリアムを動かしていた。

「うん。今夜はあそこかな」

 街道から少し外れたところに、穏やかな流れの川が見えた。あれなら自分も馬も飲めそうだ。いくら疲労感が無いとはいえ、食事と水を欠かしてはいけない。

 走らせていた馬の脚をゆるませて、常歩にしながら川に近づいていく。

 川に近づいたところでミリアムは下馬をして馬装を解いてやると、馬はブルブルと全身を震わせてから川の水に口をつける。

 ミリアムも重い甲冑を脱いで、川の水で顔を洗うのだった。

「最後の大森林帯を抜ければ、いよいよミュリヌス地方か」

 そこで何が待っているかは分からない。

 正直、不安や恐怖の感情も少なくはない。しかしそれ以上に龍牙騎士団の騎士として、尊敬する団長に重要な役回りを任せられたという感情が、ミリアムを強くしていた。

 ミリアムがミュリヌス学園に到着するまで、あと少し。

 運命の時まで、時は速くなることも遅くなることもなく、その時を告げようとしている。


【ルエール部隊本隊】

 龍牙騎士団長ルエール=ヴァルガンダルが率いるミュリヌス調査部隊。一行が乗る馬車は順調にミュリヌス地方への道程を進んでいた。

 ミュリヌス地方に入る前の最後の関所に馬車が乗り入れる。

 王都ユールディアからミュリヌス地方まで、全ての道程を各自が馬で疾駆するには、あまりに人の疲労が激しすぎるため、ここまでは馬車を使用した。

 しかしここまで来れば目的地まであと少し。コウメイの方針「迅速速攻」に沿って機動性を重視して、ここからは各自で馬に乗って進むことになる。

「よしよーし。よく頑張ったね」

 ルエール達が乗ってきた馬車を引く馬を労う少女。龍牙騎士団の下働きとして、馬の世話をしているのだろう。少女の労いに、馬は嬉しそうに顔を摺り寄せていた。

「それにしても、あんな名も無い村に飛竜使いがいるなんて、驚きでしたね」

 道中、部隊の人数が少ないこともあり、ルエールと話す機会が多かったリューイは、すっかり慣れた態度でルエールに話しかけた。

「そうだな。ここ最近は”運び屋”を使うこともなかったから、飛竜も久しぶりに見たな」

「自分はごくたまに飛んでいるのを地上から見たことがあったくらいで、地上では初めて見ました。思ったより小さいんですね」

「一応竜という名は付いているがな。建国史に出てくる伝説の”龍”とは別の生き物だ」

 さすがは大陸一の騎士団を率いている騎士団長となれば博識である。一般の高等教育などでは習わない、細かいことまでルエールはよく知っていた。

「ミリアムさんも、順調に進んでいるみたいで良かったですね」

 その村には、どうやら数日前にミリアムも立ち寄っていたようだ。村人達からそう聞いた。村長と思わしき老人の孫娘ーーフェアという少女が世話をしたらしい。

 リューイの言葉にルエールはうなずく。

「ミリアムの方は、急げばもう1週間もかからずにミュリヌス学園に着くだろう。我々が到着するのは、その5日後といったところだな」

 ルエール達は、今夜はこの関所で一泊し、明日の早朝に出立する。先を急ぐ任務ではあるが、場合によっては激しい戦闘もあり得る。急ぐことも必要だが、疲労困憊で実力を発揮出来ないのでは、元も子もない。

 十分な休息をとりつつ、迅速に先を行く。それを両立するために、ミリアムを先発させたのだ。

「大事になっていなければいいですね」

 何を今更ーーと思われるようなリューイの発言だが、実のところルエールもそう願っていた。

「なに、ミリアムなら大丈夫だ。戦闘の腕だけなら、龍牙騎士団では私の次だと思っている。ましてやグスタフの不意を突く形だしな」

 極秘任務ーーそれは、この調査部隊から声がかかってから再三言われ続けていたことだ。だから途中で立ち寄った村人達へも極秘任務中であること以上は話していないし、ミリアムも同様のようだった。

 コウメイが肝要としてうのは「迅速速攻」。そしてグスタフの不意を突く、ということだった。

 とにかくグスタフに、王都から人が差し向けられていることを悟られてはいけない。何も準備をする時間を与えない、ということだ。

 得体が知れない腹黒い男に準備をする時間を十分に与えてしまえば、何をしてくるかわからない。そこはリューイも全面的に同意していた。

 ここまでは、まさに万全の体制。全てこちらの思惑通り進んでいる。

 王都でも、コウメイがカリオスの説得に成功し、騎士団を動かすことが出来ていれば、グスタフがヘルベルト連合の軍勢を率いてきても問題なくなる。

 そこまで徹底する程なのか…という疑問の声が上がるくらいに、徹底している。これもひとえにグスタフの底知れぬ不気味さだろう。

 現実、この時点でもリューイは何故か胸の中に不安があったし、ルエールも時折そのような表情を見せることがある。

 しかし彼らの思いは別として、時は進み、徐々にその運命の時が近づきつつある。



【ミュリヌス攻略部隊】

 カリオスはグスタフ拘束のために差し向けた軍隊を”攻略”部隊と呼称した。

 これはグスタフに対して”疑惑”ではなく、もはや反逆の意志有と断定していることの表れであった。

 ネルグリア帝国現地で思い知った、自身の甘さや中途半端さを痛感させられたカリオスに、もはや容赦はないと見える。

「リリライトは大丈夫だろうか」

 部隊の中央に位置する総大将のカリオスはぼそりとつぶやく。その側には、龍牙騎士団長代理のコウメイ。

 団長ルエールはカリオスの腹心であるから、その代理であるコウメイはカリオスの側にいることが仕事である。まあ、カリオスに危険が迫ったところで、コウメイに出来ることはカリオスに守ってもらうことくらいだが。

 ぼそりとつぶやいたその言葉は、如実に今のカリオスの心境を表しているといっていいだろう。あれほど溺愛しているリリライトが、国家に反逆している人間の近くにいるのだ。更に、その毒牙にかかったアンナの様子もコウメイから伝え聞いている。

 第1王子の立場から公の場では、過度にリリライトを気に掛ける言葉を控えているように見えるカリオス。本当なら、グスタフを今すぐに八つ裂きにしたい怒りに身を焦がしているだろうに、よく堪えることが出来ているなとコウメイは感じていた。

「ここで俺達が心配しても、何も変わらないですからね。だったら考えて不安になるだけ損ですよ。とにかく、今はやることに集中しましょう」

 慣れない馬上で馬の操作に必死になりながら、コウメイはそう返す。

 安易な言葉は決してかけない。それは何ら意味がないし、下手なことをいって総大将のカリオスの精神状態を刺激するのも良くない。部隊全体に悪影響が出る可能性がある。

 聞くだけでいいのだ。ほかに不安を吐露する相手がいないから、コウメイを選んで吐き出しているだけ。おそらくルエールがいれば、彼がその役目なのだろうが。

「お前は、正論ばっかりで本当にムカつくな」

「いや、そんな無茶な」

 ぶすっとした表情で子供のようなことを言ってくるカリオスに苦笑いを浮かべるコウメイ。

 カリオスは、はあと大きくため息をつく。

「冗談だよ、冗談。だがな……俺は正直覚悟なんてできない。もしもリリライトがあの豚野郎に身体を汚されると思ったら、それだけで俺は……」

 ぎりぎりと歯ぎしりをする音が、コウメイにまで届きそうだった。すさまじい、目に見ええない怒りの圧力感が周りをピリピリと緊張させる。会話が聞こえていないはずの周囲の騎士達すら、緊張で硬くなっているように見える。

(あかん。全然堪えられていないぞ、この王子)

 胸中で自分の考えを修正するコウメイ。

 それでも感情は怒りに支配されていながら、周囲の騎士に対する態度や振る舞いは王子然としているのはさすがだ。逆にすごいのかもしれない。

「あー……まあ、大丈夫だと思いますよ」

 今しがた安易な言葉はかけないと決めた自分の意志を簡単に覆すコウメイ。少しでも心の負担を取り払った方がいいかもしれない。だけど、嘘はダメだ。

「俺がリリライト殿下に謁見した時は、アンナちゃんのような状態ではなかったのは間違いないです。確かにその日からある程度日数は経ってしまっていますが……ルエール団長のことです。リリライト殿下に奴の手が伸びる前に、ランディさんあたりを本隊に先駆けて向かわせるかもしれない。だから、大丈夫ですよ」

 最後の大丈夫という言葉には、コウメイ的には全く根拠は無かった。しかし不機嫌そうにその言葉を聞いていたカリオスは多少納得することが出来たのか、その怒りの空気を鎮める。

「そうか、先遣隊か。必要かもな」

 そしてコウメイの言葉から、ふと思いついたことを口にすると、コウメイは首をかしげる。

「いや俺達の部隊も、足が速いのを編成して先に向かわせてもいいかもな、と思ったんだ。俺達が着くのは、どうやったってルエール達よりも大分遅れるだろう? グスタフの動きが速ければ後手に回るかもしれないが、先遣隊を出しておけば、ルエール達も対応しやすいだろう」

 ルエールが、そしてカリオスが軍隊を率いて向かっていることは、今もグスタフは知らないはずなのだ。

 まさか先遣隊が必要なほどにグスタフが有能に対応出来るはずがない--コウメイは、そう断じることが出来なかった。

 愚鈍であるはずなのに、王都に知られないところで陰謀を画策しているグスタフ。やはりコウメイを不安たらしめているのは、その得体の知れなさだ。

「いいかも、しれませんね」

「よっしゃ。そうと決まれば早速準備だ。おーい」

 言うが速いか、カリオスは即行動に移す。近くを進む幹部に声を掛けて今のアイデアを伝えているようだった。

 この決断力と行動力が、カリオスの有能さを支える根幹である、とコウメイは感じる。そして同時に思うのは、やはりカリオスは頼もしいということだ。

 参謀に任じたコウメイに頼り切ることなく、自分でも常に事態を把握し最善の対応が出来るように気を配っている。ルエール部隊から誰かを先発させるという考えはあっても、この攻略部隊から先遣隊を向かわせる考えはコウメイには思いつかなかった。

(大丈夫、だ)

 てきぱきと幹部と話し込んでいるカリオスを見ながら、コウメイは不思議と安堵感に包まれる。

 そう、何も全てをコウメイが解決する必要などない。カリオスは見た通り、自分よりも遥かに有能な王子だ。現状の危機感も正しく把握しているし、その対応も適切で迅速。こんな優秀な王子に対して、ただ欲望の限りを尽くすだけのグスタフが上を行けるはずがない。

 当事者となったからか、変に気を負い過ぎていたのかもしれない。今は騎士団長代理などやらされているが、本来は騎士団長付というだけの、ただの一介の騎士なのだ。贅沢出来る程の給料は不要だから、平凡な毎日を平和に生きていきたいと思う、いたって普通の人間だ。この事件に片がつけば、またそういった日々に戻るだろう。

 そう考えるとコウメイは肩が楽になり、グスタフに対する実体がつかめない不吉な感情も薄れていくのだった。

 ミリアム、ルエール部隊に続いてミュリヌス地方へ向かうミュリヌス攻略部隊。

 全てが揃う運命の時は、順調に近づいている。


【ミュリヌス地方】

 日が落ちた後はすっかり性の饗宴の場となっているリリライト邸のリリライトの寝室。しかし今夜は珍しく、そこで性的な行為は行われていなかった。

「だ、旦那様……」

 ベッドの上で裸の上から布団のシーツをかぶっているリリライトは怯えたような声で、グスタフのことを呼ぶ。

 しかし呼ばれた当人はリリライトの呼びかけになど反応せずにイラ着いた様子で寝室内をうろついていた。

「ええい、面白くない! 面白くないぞぅ! こんなんでは、セックスどころではない!」

「……」

 激昂するグスタフは地団駄を踏むように床を何度も踏みつける。まるで癇癪を起こした子供のようだった。

 いつものリリライトなら、グスタフがこのように激情に駆られている時は、グスタフに媚びながら誘惑し、性行為へ誘うことでその怒りを鎮めるのだが、今夜はただ布団の中で怯えて震えているだけだった。

「ええい! チンポを食うことしか考えておらんエロ豚のくせに、どうして堕ちんのだ! なんなのだ、あの女は! くぅくぅくぅ! あーイラつくのぅ!」

 言うまでもなくリアラのことである。

 あれから更に三日三晩と凌辱の限りをし尽くした。発情を促進する薬物の他、発狂することも厭わずアンナに使用した洗脳装置まで使用した。

 それにも関わらず、リアラの心は決してグスタフに堕ちない。身体はすっかり男性との行為に馴染み、リアラ自身も認めているにも関わらず、心が屈しない。

 さすがに度重なる激しい行為に、グスタフはともかくリアラは力尽きてしまい、今は邸宅内の客室で休憩させている。とりあえず今夜についてはぐっすり休ませることにしたのだ。

 どんな手を尽くしても、一向に変わらないリアラの様子に、さすがのグスタフも怒りと焦りを禁じえなかった。

「あー、くそ。まずいのぅ……早くなんとかせねば、時間がないではないか。あぁ、今夜はお前と子作りしている暇なぞないから、勝手にオナっておれ」

 そこでようやくリリライトの存在に気付いたかのように、つっけんどんに言うグスタフ。あれだけ夢中になっていたリリライトに、ほとんど関心がないよう。今はリアラのことで頭がいっぱいだった。

 リリライトは表情を曇らせながら、そのまま布団の中で身を縮こませる。グスタフに言われるがまま自慰を始めると思ったが、そのままグスタフから隠れるようにして布団をかぶる。

 言いつけに従わないリリライトだったが、それにも構う余裕が今のグスタフにはない。

 やはり、あの娘は普通の娘とは違う。ただ腕が立つというだけではない。同じように優秀だったアンナがいともたやすくグスタフの手に堕ちたというのに、リアラには同じ方法が通用しないのだ。

 やはり、あのステラが目を付けただけのことはある。リアラには何かがあるのだ。ステラがリアラを手籠めにし、グスタフに不干渉を求めてきた、それなりの理由が。

「一体、何じゃと言うんじゃ」

 それが自分の「異能」が通用しない原因となっているのだろうか。

 いや、自分の「異能」はその程度のものではない。この力は、神から授かった唯一無二、強力無比の最強の力なのだ。どんな理由があろうとも、効かない相手がいるはずがない。

「チートじゃ……チートのはずなんじゃあ、ワシの能力は。効かんはずがない……何かないか……何か……」

 傍から見れば、それはもはや過信以外の何物でもない。しかし当の本人はそれに気づかず、ぶつぶつと真剣に考えこむ。

 しかしそれはいくら考えたところで、何も出ない。ステラの思惑など、今までグスタフが歯牙にもかけなったかものが、今になって急に分かるはずもない。

 まるで出口が無い迷宮に迷い込んだいらだちに、グスタフに怒りの矛先はあまりに自分勝手で理不尽な方向へ向かう。

「どうして堕ちないんじゃあ。セックスなんて最高じゃろうがい。ワシのチンポで犯されるなど、雌として最高の幸せなのに、どうして抵抗するんじゃ。あの娘だって、あんなにヨガっておるじゃないか」

 グスタフがここまでリアラに執心しているのは、あの行為の最中にリアラの感覚が自分に流れ込んでくる不思議な快楽を得られることだった。雄のはずの自分に、リアラの雌の快楽が流れ込んでくるような不思議な感覚ーーそれは他の娘との行為では得ることのできない、圧倒的で甘美な感覚に、グスタフはいつも理性を失う程に夢中になる。

 だからこそ、リアラを自分のものにしたい。なんとしても堕としたい。その時の興奮は、リリライトを堕とした時とは比較出来ないものだろう。

「んぐぐぐっ! こんなに興奮して気持ち良いことが、何故分からんのじゃ。これを分からせることが出来れば、すぐに溺れるじゃろうて……うぅむ……」

 今の自分の立場ーー王都ユールディアより、ルエールとカリオスがそれぞれ精鋭部隊と大部隊を率いて向かってきているという未曽有の危機的状況にも関わらず、グスタフはリアラとの性的なことで、思考が一杯だった。

「ぐひ……ぐひひ……そうじゃ、その手があったではないか」

 と、不意にグスタフがいつもの調子の不気味な笑みを浮かべる。

「そうじゃ、そうじゃ。ワシのチート能力なら可能なはずじゃ。そういうプレイも面白いじゃろうて……ぐふぐふ。早速明日にでも、朝から……ぐひひひい」

 何やら良いアイデアでも思いついたのか、すっかり普通の不快な笑い声を漏らすグスタフ。そのグスタフの変容に、グスタフから身を隠すようにしていたリリライトが、布団の中から顔を出す。

「ぐひひひ! 悪いが、今夜は子作りは無しじゃあ。明日に備えて体力を蓄えんとならんからのぅ。お前にも協力してもらうんじゃから、しっかりオナって準備しとくんじゃぞ。ぐひひひひぃ!」

 いつにない上機嫌な様子で、珍しくグスタフはリリライトの身体に触れることなく、寝室を後にした。

「私は……」

 1人取り残されたリリライト。

 いつもはグスタフの行為前には体を清め、終わった後にはむせ返るような性の匂いが染みつくのだが、今日は綺麗な体のままだった。

 相変わらず美しいその金髪を揺らしながら、リリライトの表情は困惑に満ちていた。グスタフに言われた自慰の指示に従うことなく、ベッドの上で動くことが無かった。

 毎夜のように繰り返されていたグスタフとの行為に空白期間が出来たリリライトにも変化が起き始めているように見える。

 そしてグスタフは自らの危機的状況にも関わらず、頭の中は新しい獲物のことしか考えていない様子。

 それでも時は進み、事態は動き続けている。

 ミリアムがグスタフの元へ辿りつくまで、あと5日程。ルエール部隊が着くのは、そこから1週間。そしてカリオスが率いる攻略部隊はそこから更に10日間。

 来るべき時が、訪れようとしていた。
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