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第4章 激動の冬編

第68話 ヘルベルト連合国

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 新しい年が明けて間もなくの頃。

 冬も本格化し、1年の内で最も寒さが厳しくなる時期。

大陸南西部の温暖地域に位置するヘルベルト連合は、平野部ということもあり、他の地方に比べると随分と温かく過ごしやすい。諸外国からも、冬の間だけはこの地方で過ごそうと訪れる者も少なくない。

 連合の現代表はフェスティア=マリーン。連合国成立以降初の女性代表となった彼女は、大陸では珍しい真っ直ぐな黒髪を背中まで伸ばした、清廉な印象を与える美人。年齢も、一国家代表としては随分と若く30歳前であり、丁寧な物腰ながらも、活気に溢れたアイデアや政策を打ち出すことで評判の女傑だった。

「それでは、反対意見がある方はいらっしゃいますか?」

 連合に参加している主要8ヶ国のトップ或いはそれに準ずる幹部が参加する連合会議――聖アルマイト王国で言えば最高評議会に位置する、ヘルベルト連合の最高意思決定会議の場である。

 参加者の中で最も若く、唯一の女性であるフェスティアだったが、いつものように物怖じするようなことなく、堂々と話す。事務仕事や会議の場限定でかけている眼鏡の奥からは、にこやかな表情をのぞかせていた。

「いやはや、無茶苦茶ですな」

 そんなフェスティアに、重苦しく苦々しい口調で答えたのは1人の老紳士。連合国の中では、フェスティアが属する国家の次に影響力を持つ国の国王ラオ=ジールだった。

「いつから我ら連合は聖アルマイトの属国になったのですかな? あくまでも同盟は対等の立場での条約だったはず」

 口調こそ静かだったが、語気にはふんだんに怒りが込められているのが明らかだった。

 会議の場の空気が変わるのを出席者全員が感じるが、その場を仕切るフェスティアの表情は微塵にも変わらない。にこやかで柔らかい微笑を浮かべながら、あっけらかんと答える。

「ええ、その通りですよ。我々ヘルベルト連合と聖アルマイト王国は、あくまで1国家同士として対等の関係ですよ」

「ならばこれはなんだっ!」

 フェスティアの柔らかな口調が逆にラオの怒りを逆なでしたのか、配られた資料を机の上に叩きつけるようにして怒鳴る。

「これは、ほとんど無償に近い形で聖アルマイト王国へ奴隷を売り渡す内容ではないか。それ以外にも、大量の食糧や人材の提供など……我々を馬鹿にしているのかっ!」

「無償とはまた心外なことです。きちんと鉄や金属などの工業製品をいただいております」

「今の連合にそんなものは必要なかろう! お主は戦争でも起こそうと言うのか」

 普段は温厚な態度で知れているジオが珍しく唾を吐きかけながらフェスティアに食って掛かる。そのジオの激昂ぶりに参加者たちは息を飲みこむのだが、フェスティアはそれを見てようやく首を傾げる程度にしか表情を変えない。

 そして、言葉を返そうとした彼女の代わりに答えたのが――

「ぐひ、ぐひひひっ! そのように怒ってばかりおっては、脳の血管も切れるじゃて。もう少し冷静にのぉ、ラオ陛下」

 聖アルマイト王国大臣にしてヘルベルト連合国担当外交官であるグスタフである。

 聞いているだけで人を不快にさせるような気持ち悪い笑い声が割り込んでくると、ラオは怒りの矛先をグスタフへ向ける。

「グスタフ卿――貴殿は、確かに約束通り同盟締結の裏で我が連合との奴隷取引を続けて下さっている。しかし、あまりにも買い叩きすぎであろう。我々は貴殿に奴隷を提供するために、密約を交わしたのではない。あくまでも経済上の取引として連合に益があると判断したからこその密約だ」

「ぐひひっ、言わずとも分かっておる。だがのぅ、本国にばれないように大きな金を動かすのは骨が折れるんじゃよ。理解してくれんかのぅ」

 フェスティアにもグスタフにも自分の怒りはイマイチ届いていないようだった。フェスティアが微笑で受け流すのと同じように、グスタフも笑いながらラオの言い分を受け流してくると、思わずラオは天を仰ぐようにして嘆息する。

「だからといって、この取引は全く釣り合っていない。連合が一方的に損をしている。それなのに、何故この場で私以外が全く異を唱えないのだ?」

 天を仰いだラオが立ち上がり、出席者の面々を見回す。

 彼とフェスティア、そしてグスタフ以外の出席者は、みなどこか重苦しい表情をしながら、ラオと視線を合わせようとはしなかった。
 
その異様な光景にラオは愕然としながら、机の両手を置く。

「私にはグスタフ卿の意図が全く理解出来ません。その上こちらが一方的な損害を被っており、これが連合の意志とするならば……フェスティア女史よ、我が国は連合からの脱退を考えさせていただく」

「まあ」

 連合国下ではナンバー2である国を治めるラオの発言は、さすがにフェスティアを驚かせたのか、口を抑えて驚愕するフェスティア。

「ほほおう。ということは、ヴィジオール陛下……いやいや、カリオス殿下に密約のことを漏らそうとでも?」

「状況によってはそれもやむなし、だ。カリオス第1王子に知れれば制裁は免れないだろうが、自ら明かせば情状の可能性はある。それよりも、このまま貴殿に搾取されるがままの方が我が国の衰退に繋がる。一国を預かる王として、この件については慎重に判断させていただく」

 微塵にも引かないラオに、グスタフはその醜悪な瞳を真っ直ぐ向ける。

「ま、まあまあ。ラオ王、少し落ち着かれてはどうでしょうか。貴方の国が脱退するとなると、連合自体が崩壊しかねませんよ」

 そのラオの口調から、かなり本気であることを察するとフェスティアが慌てたように諫めてくる。

 しかし、そのラオの発言をきっかけに、別の参加者が立ち上がる。

「わ、私の国も同じ意見です。今はグスタフ殿個人に連合そのものが搾取されているような状況です。何のための連合なのか……そんな連合国ならば、無くなってしまえばいい!」

 発言したのは、国王の代わりに出席している宰相だった。普段の会議では気弱に振舞っている人物だったが、随分と過激な発言だった。

 そして、それ以上追随してくる参加者はいないようだった。その発言を最後に、再び場は重苦しい空気に包まれて、沈黙が支配するようになった。

「ふう、残念ですね。私はあくまで連合のことを考えてのことで、皆さんも賛成してくれると思ったのですが……いかがでしょうか、グスタフ卿」

 フェスティアは眼鏡を取りながら、傍らにどっかりと座る肥満中年を見やる。

 グスタフ自身にとっても望ましくない方向へ話が進んでいるはずだが、彼は不敵に笑いながらしゃべる。

「どうも会議が長時間に渡ったせいか、疲労もあって頭に血が昇りやすくなっておるんじゃろう。今日はもう終いにして、ゆっくり休んで、頭を冷静に戻してから明日続きを話し合う、というのは」

「それはいいアイデアね」

 グスタフの言葉に、すぐに手を合わせて賛同の意を表すフェリシア。

 しかしそれ以外の出席者――ラオも、彼に賛同した宰相も――は、もうそれ以上グスタフに反論することなく、重苦しい口を開くことが出来ないまま、その日の会議を終えることとなった。

    ▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼

 ヘルベルト連合国代表フェスティアが統治する国の名はクリアストロという。もっとも、クリアストロ自体は小国であり、それよりもヘルベルト連合国代表国という性格の強さから、連合国外ではその名はあまり知れ渡っていない。

 クリアストロ国内にある豪奢なホテルの一室。

 そのベッドの上で、一糸まとわぬ姿でフェスティアは、その美しい黒髪を振り乱しながら四つん這いとなり、後ろからグスタフに犯されていた。

「あんっ、あぁぁんっ! 気持ちいいです、グスタフ様ぁっ!」

 パンパンと肉とぶつける音が響く中、フェスティアは快楽に蕩けた表情を見せる。それは昼間の連合会議の、柔らかな中にも凛とした態度からは、全く似つかわしくないものだった。

「ぐほほっ! 久しぶりに抱くと、また良い感じじゃて。ほれ、ほれ! どうじゃ、ここがええんじゃろう」

 たるんだ腹を揺らしながら、汗だくになってグスタフは腰を打ち付ける。高く突き上げられたフェスティアの腰を両手で固定するようにしながら、一突き一突きを最奥へ届くように深くグラインドさせていく。

「んくぅっ! うあああ、お……奥にぃっ! グスタフ様のおちんちんが、一番深いところに、気持ちいいところに当たってるっ!」

「ひょほっ、ほほほっ! 出してやるぞい、フェスティア。どこに出してほしい? 言うてみい。ええ?」

 そのグスタフの言葉に、フェスティアは身体を振り向かせて、媚びた目でグスタフを見上げる。

「な、中に……中出しして下さいっ! グスタフ様の子を、孕ませて下さいっ!」

「ぐふふうっ! 可愛いやつめ……」

「んむっ! ちゅば……ふはぁっ……ぐ、グスタフ様っ! れろれろぉっ!」

 グスタフはフェスティアに顔を近づけていくと、舌を絡ませ合う。そしてラストスパートと言わんばかりに、激しく腰を打ち付けていく。

「はむ……んちゅ……くちゅ……き、気持ちひいいっ! あっ、いく! いくう! すごく幸せな気持ちで……いっくううううう!」

 最奥でグスタフの肉棒がブルブルと震えると、その中で膨らんで爆発するかのように熱い欲望の塊を吐き出す。

 フェスティアの女の部分は、肉棒が白濁を吐き出してなお、最後の一滴まで吸い出そうと締め続けて、搾り取る。

「はぁ、はぁ……き、気持ちいい……最高です。ふあああっ……」

 手もつけないくらいに脱力したフェスティアは、そのまま唾液を垂らしながら呆けた表情で身体をベッドに沈ませる。グスタフが肉棒を引き抜くと、敏感になった身体はビクンと反応する。

 そして、脱力してだるい身体を引き起こすようにして、フェスティアはグスタフに向き変えると、白濁と自らの愛液にまみれたグスタフの肉棒に舌を這わせていく。

「んれぇぇ……あむ……ちゅる……ちゅうう……グスタフ様ぁ」

「ぐふふ……ぐふふふふうっ!」

 後始末をするように、丁寧に丹念にグスタフの肉棒をほおばるフェスティアの姿に、グスタフはくぐもった笑い声を漏らし続けるのだった。

 ■□■□

 その後も幾度となく性交を繰り返して、ようやくグスタフの性欲は落ち着いたようだった。

 そこかしこに投げ捨てられるように床に捨てられた紙屑の量が、グスタフの絶倫ぶりを示していた。

 寒い中、2人はベッドの中でお互いの身を寄せ合うように、恋人同士のように身体を密着させていた。

「しかし、あの爺はいささか目障りじゃのう」

 嬉しそうに身体を寄せてくるフェスティアの黒髪を撫でながら、グスタフはつぶやいた。

「ええ。そう言われるかと思いまして、漆黒の爪を差し向けていますわ」

 フェスティアが治めるクリアストロは軍事力を有さない、ということに表向きではなっている。その裏では、フェスティアは『漆黒の爪』と呼ばれる暗殺者集団を子飼いにしている。それを知るのは、クリアストロ国の中でもごくごく一部の者だけだ。

 交渉だけでは倒せない政敵を、時には強引な手で葬る――それを実現させるためのフェスティアが有する力だ。彼女が清濁併せのむ女傑と言われる一端でもあった。

「そうかそうか。ワシはドスケベな女は好きじゃが、賢くて気遣いが出来る女も好きじゃぞ」

 グスタフが満足そうな笑みを浮かべると、フェスティアの尻を撫でまわすように、太い腕を動かす。

「きゃんっ! ふふ、もうグスタフ様ったら。あんっ……やらしいんですから」

 嬉しそうに媚びながら、フェスティアはグスタフの背中に腕を回して、自らの乳房をグスタフの胸板に押し付けるようにする。

「ひょほほっ! ほほおう! 男が悦ぶ媚び方をよう知っとるな。全く、恐ろしいまでに魔性の女じゃ」

「うふふ。でも今は、もうすっかりグスタフ様の虜ですわよ」

 そうやってグスタフと見つめ合うフェスティアの瞳には、ハートマークが浮かび上がっている。グスタフは満足そうににたりと笑いながら

「ぐふふふ。やはりお主は身体以外も使えるのぅ。正気を残しておいて正解だったわい。これからも頼りにしているからのぅ」

「あら、その言い方気になりますね。まるで別にセックスに狂わせた女が出来たみたい……もしかして、前々から言っていた聖アルマイトの第2王女ですか?」

 フェスティアの瞳は細まると、そのまま妖しく微笑む。それは雄に媚びるような目つきではなく、1人の為政者或いは謀略家としての顔だった。

「ぐほほほっ! アレはもう、セックスモンスターじゃ。まあ表は第2王女として振舞うてもわらんと困るからそう躾けたが、ワシのチンポ無しでは生きてゆけん身体にしてやった。もう2週間も空けとるからのう。オナるのも禁止にしてやったから、今頃禁断症状で狂いそうになっておるんじゃなかろうか」

 下品な言葉と笑い声で嬉々として語るグスタフ。それはやはりいつも通り獣そのものの本能丸出しの表情だった。しかしフェスティアは対照的に、ハートマークが浮かびながらも冷静な目つきで冷たい微笑を浮かべていた。

「それでは、もう間もなくというわけですね」

「そうじゃのう。準備はほぼほぼ万端で、後は機を伺うだけじゃのう……と、ふおお?」

 そう語るグスタフの上に覆いかぶさるようにするフェスティア。その冷徹な笑みでグスタフを見下ろしながら

「さて、あの老害もそろそろこの世に別れを告げている頃合いです。報告がくるまで、もう1度――」

 そう言いながら、顔をグスタフへ近づけていくフェスティア。


 翌日、連合国内反フェスティア派と呼ばれる派閥の筆頭ラオ=ジールが死体で発見されることとなる。

 これをきっかけに、ヘルベルト連合国内は現代表フェスティア派一色に染め上げられていくのであった。
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