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第3章 欲望と謀略の秋 編
第52話 愛のカタチ
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ミュリヌス学園で御前試合が終わり、コウメイとグスタフが初めての邂逅を果たしていたその頃、レイドモンド領に赴いていた龍牙騎士団レイドモンド駐留部隊は、その任を無事終えていた。
12月を間近に控えた11月末頃である。
あれだけ猛暑を奮っていたのが嘘のように、今は真昼間でも肌寒いくらいの気候。山間部であるレイドモンド領には、もう間もなく雪が積もるである。
その時期に入る前に、ここを離れられるのは僥倖だった――ここレイドモンドで実績を重ねて「未来のホープ」とまで言われるようになたリューイ=イルスガンド。
――その先輩騎士が、自らの仕事の結果でもある、修繕が施された街の外壁を、腕を組んで誇らしげに見上げていた。
「うーん、俺達頑張ったよなぁ。これならネルグリア帝国の奴らがいきなり攻めてきても、全然大丈夫だろう」
うんうんと、一人うなずく彼。
先日、正式にレイドモンド駐留部隊はここでの任務を終えて、王都ユールディアへ帰還することが決まった。今、龍牙騎士団の面々は引き上げの準備にかかっている。
しかし、この地の任務で常に彼と行動を共にしていたリューイの姿が見当たらなかった。
「ちくしょう……何で、あいつばっかり」
愚痴をこぼす相手もおらず、先輩騎士は一人っきりで寂しげにそう零した。
▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼
リューイ=イルスガンドは、龍牙騎士団の騎士となってから初めての窮地に陥っていた。
リューイ属するレイドモンド駐留部隊は順調過ぎる程に任務をこなし、当初はここレイドモンド領で年を越す見通したったものが、今日既に撤収準備に入っている。
普段は率先してリューイに肉体労働を押し付けてくるあの先輩騎士が、今日はやたら親切に「お前は宿泊棟周りの担当な」といって、自分は重労働である現場の資材の引き上げなどに向かっていたのだ。
だから、そもそもおかしいと感じていたのだ。
しかしおかしいと感じておきながらもそれ以上深く考えなかったのは、他の誰でもないリューイの軽挙である。
今彼は、龍牙騎士団がこの地に滞在している間寝泊まりをしていた兵舎の中の一室――そこの椅子に座らされて、拘束されていた。手は背もたれの後ろに回されてロープで結ばれており、両足も同じくロープで椅子の脚に固定されている。椅子自体も部屋の中にある柱にロープでつなぎ合わされている。かなり徹底的且つ本格的にリューイは、文字通り身動き一つ出来ない。
自分に課せられた通りここ宿泊棟の清掃をしていたら、突然背後から衝撃。意識を失って目覚めたら、こんな状態だった。
「にゃはは。ごめんなさいね、リューイさん。手荒なことしてしまって」
「リーファ……」
同じ部屋にいるのは、リューイがここに居る間に、特によく生活の世話をしてくれたダイグロフ家の使用人――リーファ。そんな彼女が、扇情的な紫色の下着に身を包んでリューイの目の前にいた。
「あ、あのなぁ。いい加減にこんなことは……」
「やだなぁ、リューイさん。この間は『愛してる』って言ってくれたくせに」
きゃっ、とわざとらしく照れながら言うリーファ。それを言われると、あの時にリーファに誘惑されたことが思い出されて、リューイは罪悪感に苛まれる。
「あ、あれは君が……」
「ひどいっ! 一晩限りの行為だったなんて。結局身体だけが目当てだったんですね。これだから騎士なんて名前ばかり偉そうな最低な人種です。ヨヨヨ…」
言い訳がましいリューイに、さらにわざとらしく泣き真似をするリーファ。
それは彼女にとっては悪ふざけに過ぎなかったのだが、リューイにとっては大問題。最後の一線は越えていないながらも、リーファの誘惑に乗って自分から快感を貪ったのだ。最愛の恋人がいるにも関わらず、好きでもない相手に――
根っからの真面目なリューイは、リアラにもリーファにも激しく悔恨する。
「あっ、えと……や、やだなぁ。冗談ですってば、冗談。騎士様ってば、みんなリューイさんみたいに、馬鹿がつくくらい真面目な人達って知ってますから」
本気で落ち込むリューイの様子に、慌ててフォローするように言うリーファ。それは彼女がこの数か月間、龍牙騎士団の面々と接してきた正直な感想でもあった。
「それで……これはどういうことなんだ?」
どんよりとした表情で、拘束されたままリーファの顔を見上げる。
出来れば――本当に自分勝手な思いとは自覚していたが、リーファのことは忘れてしまいたかった。無かったことにして、リアラへの罪悪感も失くしてしまいたかったのだが、そういうわけにはいかなそうだった。
そのリューイの問いに、リーファは妖艶な笑みを浮かべる。
「だって、もう2~3日でリューイさん達帰っちゃうでしょう? その前に、ちゃんとリューイさんに私の想いを伝えておきたいなぁって」
「だったら、何で下着姿? でもって俺を縛っているの? ていうか、この間も言った通り、俺には恋人が――こら、止めろっ!」
色々と言ってくるリューイに、リーファは甘い吐息を漏らしながら近づいていく。彼女の身体を包むのは下着だけ。リーファが椅子に座るリューイに身体を寄せてくると、彼女の柔らかい肢体の感覚が感じられる。
「そんなこと言わないで下さい……この間のシャワールーム、気持ち良かったでしょう? ふぅー」
「う、ううっ! こら、いい加減にっ……今は俺仕事中だぞ」
「大丈夫、大丈夫。先輩さんが上手いことしてくれるって言ってましたから」
――そういうことか、とようやく先輩騎士のあからさまな違和感の真相にたどり着くリューイ。
「い、いいから止めろって。本当に俺はリアラが……今の恋人が大事なんだよ。あいつを裏切りたくないんだよ」
その真に迫る言葉――その言葉に嘘偽りない誠実さが感じられるからこそ、リーファの表情が悲しみに染まる。
これだけ異性に迫られて反応しないはずがないのに、その本能よりも人への真摯な思いの方が強いのだ。
好き。大好き。最初のきっかけは外見からだったのは認めるけど、リューイのことを知れば知る程好きになっていった。こうやって恋人に対して誠実な彼も、自分が拒絶されているというのに好きという感情がどんどん強くなっていく。
恋人だというリンデブルグ家のお嬢様が羨ましい。そして妬ましい。ただでさえ裕福な貴族の家に生まれただけでなく、こんな素敵な人の想いまで一人占めできるなんて。
幼いころから奴隷として、見ず知らずの何人もの中年やら老人に身体を汚された自分とは大違いだ。ずるい。そんなのずる過ぎる。私だって、少しくらい幸せになったっていいはずだ。
私が、名門リンデブルグ家の令嬢に勝てるものがあるとすれば。
「っああああ!」
リーファの舌がリューイのうなじをなぞると、拘束された身体をビクリとさせるリューイ。固定されている椅子がガタガタと揺れる。
「ふふ、リューイさん可愛い。この間もちょっと思ったんですけど、実はマゾでしょう?」
「な、何言ってるんだよ。止めろって……」
「恥ずかしがらないで、もっとリューイさんの声聞かせて下さい。あむ……んちゅ」
「あああああっ…!」
リーファはリューイの首筋を吸い立てるようにしながら、舌を這わせて、キスをしていく。
奴隷時代――悪徳貴族の性玩具としてひたすら責められて犯される一方だったリーファ。リーファから雄を悦ばせる行為も強制的な奉仕だった。
このような形で思いを寄せる男性に対して甘く責めるというのは、リューイが初めてだったが、何とも言えない興奮と多幸感がリーファの背筋にせりあがってくる。
「私が恋人のことなんて忘れさせてあげますから……私はこんなことしかできないけど、だけど、私を愛して欲しいんです」
「リ、リーファ……!」
いつものおちゃらけた様子が無い、真剣味を帯びた熱っぽい声。だからこそリューイも無下に否定することが出来ない。
リーファはリューイのシャツの裾を掴むと、それをまくり上げる。そして彼の乳首に顔を近づけていくと、唇で吸い立て始める。
「ちゅ……ちゅば……」
「ああっ……り、リーファ……んあっ!」
「れろれろ……ちゅっ……ふふ、リューイさん女の子みたい。もっと可愛く喘いでもいいんですよ」
舌を伸ばして乳首を転がすリーファ。リューイの太ももをなぞる右手は徐々に上がっていくと、股間部分に触れる。そこはすっかりテントを張っており、ズボンの上からでも十分い分かりすぎる程に、熱くたぎっていた。
リーファは慣れた手つきでベルトを緩めると、中から勃起している肉棒を引きずり出す。
「や、止め……っ!」
「うふふ、本当にリューイさん、これからレイプされる女の子みたいですよ。それじゃあ、私もそれっぽく」
目を細めるリーファ。手を伸ばして、近くに放り出すようにしていた持ち込んだ鞄の中をごそごそと漁ると、そこから小瓶を取り出す。そしてその小瓶の蓋を開けて、手の上でさかさまにする。中にあった液体は粘度が高く、リーファの右手にふんだんにまとわりつくように広がっていく。
「すぐに、リューイさんの方からおねだりするようになりますよ」
耳元で、頬を上気させながら囁くリーファ。
そうして粘度が高い液体まみれになった右手で、ゆっくりとリューイの肉棒を扱き始める。
「っあ? ああああ?」
クチュクチュ、と卑猥な音を立てながら、リューイの肉棒が擦られていく。
「ふふ、これ何だか分かります? 発情成分たっぷりのフルネイドの蜜を混ぜたローションですよ。本当は飲むものなんですけど……これ、粘膜に直接塗り込んだら、どうなっちゃうんでしょう?」
「り、リーファ……君は……」
「にゃはは――狂っちゃえ」
残酷にすら感じる口調でリーファが言うと、リューイの乳首を甘噛みしながら、徐々に肉棒を擦る手の動きを早めていく。
手にまぶしたローションを亀頭に丹念に塗り込むように、じっくりと亀頭を擦り上げながら、竿全体に刺激をくわえていく。
幼いながらも性奴隷時代を経た経験豊富な手管。それはリーファが望んだものではなく、悪徳貴族に強制的に刷り込まれたもの。それは、経験豊富とはいえないリューイの官能を容易く揺さぶっていく。
「っああん! り、リーファ……っくああ! 声が、止められないっ……あんっ!」
「はぁ、はぁ……リューイさんの喘ぎ声、本当に女の子みたい。私、興奮してきちゃいます」
唾液を零しながら快感に喘ぐリューイ。自分の奉仕で雄が快感を得ていることが嬉しく、興奮してしまうリーファも息を荒げる。
「あーっ! んあああっ! あっ……リーファ、リーファ……っ!」
固定されている椅子をがたがたと揺らしながら、自分の名前を呼んでくれているリューイのことが、とても愛おしく思えてくる。嬉しい……今、彼には自分しか映っていない。私だけのものだ。
「は、外して……っ!」
ふと見ると、後ろ手に拘束されている手をもどかしそうに動かしているリューイ。肉棒がびくびくと反り返りながら、彼の声は完全に淫欲に支配されているようだった。
「うふふ、リューイさん……」
予想以上のフルネイドの蜜の効果だった。やはり性器に直接塗り込むと、その効果の速さも強さもけた違いだ。実は自分も奴隷時代に同じことをやられた経験があったのだ。あんな情欲に、まともでいられるはずがない。
リーファは手を伸ばし、リューイの両手を拘束している縄に触れる。
おそらく、これを解けばリューイは雄の本能に従って、自分を押し倒すだろう。
そうしたら、いよいよ愛する彼と一つになれる。繋がれる。
おそらく正気に戻った後――真面目なリューイのことだ、こんな形であれ必ず責任を感じるはずだ。その結果、それでも恋人を取るかリーファを選ぶか、それは賭けだ。
最愛の相手に罪悪感を与えて苦しませることは本意ではなかったが、そんな歪んだ形でもいいから、とにかく自分を愛して欲しい。それ程リューイのことを愛しているのだ。
そして、それ以上に――彼と繋がりたい。
「これで、ようやくリューイさんとセックス出来ます……っ!」
それはリーファが待ち望んだ至福の瞬間。
例え最終的に自分へ想いが向かなくても、とにかく1度でも身体の関係を結びたい。
――最も、その1度の行為だけで彼を篭絡する自身もリーファにはあった。経験の少ない貴族令嬢よりも、自分の身体に溺れさせる確かな自信があるのだ。
「リューイさん……」
リューイの両手の拘束を解き、まずは恋人同士の証と言わんばかりに、瞳を閉じて唇を差し出すリーファ。
これで、ようやく……愛する人と繋がれる。
「……むぐぐ?」
期待していた柔らかい唇の感触とは違う感触。何かで口を塞がれているようだ……リーファが目を開けると、リューイが手でリーファの顔を抑えるようにしていた。
「う、嘘……? どうして?」
「たはは……やっぱ、俺はリアラが好きだからさ」
と、苦しそうな表情で笑いながら言うリューイ。
「そんな、信じられない……」
今もリーファが右手で握っている肉棒は、今にも爆発しそうなくらいにビクビクしている。激しくどくどくと脈打っていて、興奮しているのは間違いないなずなのに。こうして刺激を止められて、もどかしくて仕方ない。そのはずなのに――
リューイは笑いながらリーファの顔をのぞき込んでいた。但し明らかにヤセ我慢。少しでも油断すれば、フルネイドの蜜で高められた情欲に身を焦がしそうのだろう――どこか苦しそうな色が見え隠れする。
「この間のことは、いくらリーファが誘ってきたとはいえ……本当に済まないことした。申し訳ないと思う」
苦しい部分は見せずに――と、スマートにいかないのがまたリューイらしい。何かに耐えるように顔をしかめて、汗を垂らしながら続ける。
「でも、これ以上は本当にダメだ。俺はリアラを裏切れない。本当に、この世で1番のあいつのことが好きなんだ。こういうことは、あいつ以外とはしたくないんだ」
苦しげではあるが、はっきりと意志がこもった力強い言葉。リーファを見る視線にも確かな意思の強さが込められていた。
リーファは、それを見て呆気に取られながら涙をこぼす。
「どう、して……?」
「リーファ……?」
溢れた涙は止まらない。次々に流れる水の様にリーファの頬を伝う涙。
すっかり妖艶な雰囲気などかき消えて、リーファは手の甲で涙をぬぐいながら嗚咽を漏らす。
「どうして、そんなに彼女さんが好きなんですか? どうして、私を好きになってくれないんですかあ。うわあああん!」
「リ、リーファ……」
いつも明るくおどけた様子のリーファが号泣するのを初めて見たリューイは、思わず言葉を失ってしまう。
「今だって、私を押し倒したくて仕方ないでしょう? セックスしたくて頭がおかしくなっているはずなのに……それなのに、どうしてそんなことが言えるんですかあ!」
それはリーファが身をもって経験していることで、間違いない。肌に触れられるだけで吐き気を催す程の相手にすら発情してしまう程の強烈な衝動のはずなのに。
「リアラが好きだから」
しかしリューイは即答する。
リーファの言う通り、彼の肉棒は女肉を求めていて滾っている。こうしてリーファと肌を触れ合わせているだけでも理性のタガが外れて暴走しそうだ――しかし、それでもリューイは踏みとどまれる。
「こういうことは、愛している相手と……リアラとしかしたくない。大事にしたいんだ。誰でもいいからっていう欲望に負けたくない……そうしたら、リアラとしたいっていう気持ちが嘘になりそうだから、さ」
「う、あうう……」
あまりに真っ直ぐ過ぎる言葉。
そんな簡単に言う程にフルネイドの蜜の効果は優しくないはず。驚くべき強靭な精神力で耐えているに違いない。それが出来るのは、ひとえに恋人への愛情故なのか。
どうして、それ程までに純粋で強い思いを自分に向けてくれないのか。
「ひぐ、うう……うええ……」
「ごめんな、リーファ」
そのまま泣き崩れるリーファの身体を抱き寄せようとして――止める。
少しでも彼女に勘違いをさせるようなことをすれば、それ程残酷なことはないだろう。ここは、むしろ突き放すのが優しさだ。
――と、リューイは割り切って冷酷に接することが出来る性格ではない。
「リーファが……その、俺を好きっていうのが本気だっていうのはよく伝わった。正直、凄く嬉しい。だけど、ごめん。俺にはリアラがいるんだ。だから君の想いは受け取れない。本当に、ごめん。リーファのことは好きなんだけど、男女のそれとは、ちょっと違うんだ」
どこまでも中途半端。
相手を傷つけたくないという中途半端な優しさが、余計に相手を傷つけるのだ。これほど思いを寄せてくれている相手に、意味は違えど「好き」という言葉を吐きかければ、勘違いするに決まっているじゃないか。ありがとうなんて、そんな優しい言葉を掛けられたら、ますます好きになってしまうのに――!
「――ふ……ふふ……くすくす」
「リーファ?」
気づけば、リーファは凄い勢いで涙を流しながら、鼻水を垂らしながら、笑っていた。
そうだ。そうだった。自分が好きになったリューイ=イルスガンドというのはこういう男だった。
使用人に過ぎない自分をいつも気遣ってくれる、不器用で優しいリューイ。
こんな真似をした自分に、謝りすらするリューイ。
これだけ誘惑されても、それでも純粋で真っ直ぐな自分の愛のカタチを貫くリューイ。
――私は、そんな素敵な男性を好きになったのだ。これは誇っていい。
「本当に、もう。リューイさんはダメですねぇ」
「あれ? ここまでの流れで、どうしてダメ出しされてんの?」
全く、どこまでいっても無自覚な人だ。そんな純粋さがまた愛おしいのだが。
「ごめんなさい。私、こんなに男性を好きになったことが初めてで……こんなやり方しかできなくて……」
ひとしきり泣き笑いをした後、リーファは素直に頭を下げてくる。
「男性を……ってことは、もしかして女の子は……」
「……バカ」
ついつい、どうでもいい部分に突っ込んでしまうリューイ。その突っ込みに、意外にもリーファは顔を赤らめて起こったような表情をする。
――奴隷時代に何かあったのだろうか。触れないでおこう。
「本当に嬉しかったよ。でも、ごめん。何度も言うけど俺はリアラを裏切れない。だから、リーファとはそういう関係になれない。諦めて欲しい」
そんな真摯な言葉に、リーファはきっぱりと首を振る。
「私、リューイさんのこと惚れ直しちゃいました。だから……これからは、正攻法で大好きって伝えます。こんな彼女さんに隠れてズルい方法を使うんじゃなくて、リューイさんに振り向いてもらえるように、思い切り可愛くなりますからっ!」
「う」
リューイの純粋で誠実な愛のカタチを見せられ、健全な自分なりの愛のカタチを見つけることが出来たリーファは、涙と鼻水で顔をくしゃくしゃにしながら、それでも可愛くて魅力的な笑顔でそう答えた。
熱っぽい瞳を向けられながら、笑顔の美少女にそう言われたリューイは思わず下半身を反応させてしまう。これは相手がどうこう…ということとは関係ない。これに反応しなければ、もはやそれが異常だろう、と思っておく。
リーファは、そんな反応した肉棒が自分の太ももに触れて、「あらら」とつぶやく。
「本当にごめんなさい。私が調子にのってこんな状態にしちゃって……口――はさすがに抵抗ありますよね。それじゃあ、手ですっきりさせてあげますから」
「い、いやいやっ! いいよ。後で自分で処理するから」
「これは彼女さんにどうこうではなくて、私が責任を取るって意味でしないといけないって思うんです。リューイさんは何も気にしなくていいと思うんですけど」
さすがにここまで徹底的に拒絶されると、好き嫌いという以前に、女としての魅力に欠けているような気がして落ち込んでしまう。
「いやいや、大丈夫だよ。大丈夫」
「むー……」
頬を膨らませて不満をこぼすリーファだったが、それでもリューイは決して首をうなずかせることはなかった。
「本当に徹底していますね。ふーんだ、もういいです。頼まれたってしてあげないんですから」
そう言ってリーファはリューイの身体から離れる。
言葉ではそう言いつつ、内心では感嘆していた。この流れなら、1度くらい射精を望む男性が大半なのに。やっぱり異常なのかな?などと、胸中で舌を出すリーファ。
「あ、あの。解いてくれませんかね、リーファさん」
そのままメイド服を着始めるリーファを見て、手の拘束は解かれたものの、足を縛っているロープはそのままのリューイは不安そうに訴えた。未だ勃起している肉棒がさらけ出されたままのその恰好は、はっきり言って情けない。
「あら、ごめんなさい」
素なのか意趣返しなのか、笑いながらリーファはリューイの椅子に近づくと、彼の拘束を解いていく。
「そうそう、先輩さんのことは許してあげて下さいね。私が無理に頼み込んだだけなのに」
そういえば、そもそもこんな状況になったきっかけを作ったのはあの人だったな…と、拘束を解かれる中で思い出すリューイ。
「うん、大丈夫。ちゃんと一言言っておくから」
相変わらず優しい口調だったが、なんだかあんまり大丈夫じゃなさそうな感じの返事だった。余計な事言ったかなぁ、とリーファは若干後悔する。
そうして漸く拘束を解かれるリューイ。いそいそとズボンを上げて、情けない感じで晒していた肉棒をしまうが、恐るべきフルネイドの蜜――全く萎えることなく、股間はテントを張っている。
これはさっさと1人になって落ち着かせなければならない。
「そういえばリューイさん」
そろそろ理性も限界なので、さっさとこの場を離れたかったリューイだが、リーファに呼び止められて彼女へ振り返る。
「本当に、リューイさんは彼女さんを信用しているんですね。でもちゃんと彼女さんも同じようにリューイさん一筋なんですか?」
あまりにもこてんぱんにやられたため、せめて最後に一矢報いようと、意地悪な質問を投げかけるリーファ。まあ、とはいってもリューイの返事など分かり切っている。彼は自信満々に、誇らしげに、嬉しそうに答えるだろう。
「リアラが俺以外の奴と寝るなんて、有り得ないよ」
12月を間近に控えた11月末頃である。
あれだけ猛暑を奮っていたのが嘘のように、今は真昼間でも肌寒いくらいの気候。山間部であるレイドモンド領には、もう間もなく雪が積もるである。
その時期に入る前に、ここを離れられるのは僥倖だった――ここレイドモンドで実績を重ねて「未来のホープ」とまで言われるようになたリューイ=イルスガンド。
――その先輩騎士が、自らの仕事の結果でもある、修繕が施された街の外壁を、腕を組んで誇らしげに見上げていた。
「うーん、俺達頑張ったよなぁ。これならネルグリア帝国の奴らがいきなり攻めてきても、全然大丈夫だろう」
うんうんと、一人うなずく彼。
先日、正式にレイドモンド駐留部隊はここでの任務を終えて、王都ユールディアへ帰還することが決まった。今、龍牙騎士団の面々は引き上げの準備にかかっている。
しかし、この地の任務で常に彼と行動を共にしていたリューイの姿が見当たらなかった。
「ちくしょう……何で、あいつばっかり」
愚痴をこぼす相手もおらず、先輩騎士は一人っきりで寂しげにそう零した。
▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼
リューイ=イルスガンドは、龍牙騎士団の騎士となってから初めての窮地に陥っていた。
リューイ属するレイドモンド駐留部隊は順調過ぎる程に任務をこなし、当初はここレイドモンド領で年を越す見通したったものが、今日既に撤収準備に入っている。
普段は率先してリューイに肉体労働を押し付けてくるあの先輩騎士が、今日はやたら親切に「お前は宿泊棟周りの担当な」といって、自分は重労働である現場の資材の引き上げなどに向かっていたのだ。
だから、そもそもおかしいと感じていたのだ。
しかしおかしいと感じておきながらもそれ以上深く考えなかったのは、他の誰でもないリューイの軽挙である。
今彼は、龍牙騎士団がこの地に滞在している間寝泊まりをしていた兵舎の中の一室――そこの椅子に座らされて、拘束されていた。手は背もたれの後ろに回されてロープで結ばれており、両足も同じくロープで椅子の脚に固定されている。椅子自体も部屋の中にある柱にロープでつなぎ合わされている。かなり徹底的且つ本格的にリューイは、文字通り身動き一つ出来ない。
自分に課せられた通りここ宿泊棟の清掃をしていたら、突然背後から衝撃。意識を失って目覚めたら、こんな状態だった。
「にゃはは。ごめんなさいね、リューイさん。手荒なことしてしまって」
「リーファ……」
同じ部屋にいるのは、リューイがここに居る間に、特によく生活の世話をしてくれたダイグロフ家の使用人――リーファ。そんな彼女が、扇情的な紫色の下着に身を包んでリューイの目の前にいた。
「あ、あのなぁ。いい加減にこんなことは……」
「やだなぁ、リューイさん。この間は『愛してる』って言ってくれたくせに」
きゃっ、とわざとらしく照れながら言うリーファ。それを言われると、あの時にリーファに誘惑されたことが思い出されて、リューイは罪悪感に苛まれる。
「あ、あれは君が……」
「ひどいっ! 一晩限りの行為だったなんて。結局身体だけが目当てだったんですね。これだから騎士なんて名前ばかり偉そうな最低な人種です。ヨヨヨ…」
言い訳がましいリューイに、さらにわざとらしく泣き真似をするリーファ。
それは彼女にとっては悪ふざけに過ぎなかったのだが、リューイにとっては大問題。最後の一線は越えていないながらも、リーファの誘惑に乗って自分から快感を貪ったのだ。最愛の恋人がいるにも関わらず、好きでもない相手に――
根っからの真面目なリューイは、リアラにもリーファにも激しく悔恨する。
「あっ、えと……や、やだなぁ。冗談ですってば、冗談。騎士様ってば、みんなリューイさんみたいに、馬鹿がつくくらい真面目な人達って知ってますから」
本気で落ち込むリューイの様子に、慌ててフォローするように言うリーファ。それは彼女がこの数か月間、龍牙騎士団の面々と接してきた正直な感想でもあった。
「それで……これはどういうことなんだ?」
どんよりとした表情で、拘束されたままリーファの顔を見上げる。
出来れば――本当に自分勝手な思いとは自覚していたが、リーファのことは忘れてしまいたかった。無かったことにして、リアラへの罪悪感も失くしてしまいたかったのだが、そういうわけにはいかなそうだった。
そのリューイの問いに、リーファは妖艶な笑みを浮かべる。
「だって、もう2~3日でリューイさん達帰っちゃうでしょう? その前に、ちゃんとリューイさんに私の想いを伝えておきたいなぁって」
「だったら、何で下着姿? でもって俺を縛っているの? ていうか、この間も言った通り、俺には恋人が――こら、止めろっ!」
色々と言ってくるリューイに、リーファは甘い吐息を漏らしながら近づいていく。彼女の身体を包むのは下着だけ。リーファが椅子に座るリューイに身体を寄せてくると、彼女の柔らかい肢体の感覚が感じられる。
「そんなこと言わないで下さい……この間のシャワールーム、気持ち良かったでしょう? ふぅー」
「う、ううっ! こら、いい加減にっ……今は俺仕事中だぞ」
「大丈夫、大丈夫。先輩さんが上手いことしてくれるって言ってましたから」
――そういうことか、とようやく先輩騎士のあからさまな違和感の真相にたどり着くリューイ。
「い、いいから止めろって。本当に俺はリアラが……今の恋人が大事なんだよ。あいつを裏切りたくないんだよ」
その真に迫る言葉――その言葉に嘘偽りない誠実さが感じられるからこそ、リーファの表情が悲しみに染まる。
これだけ異性に迫られて反応しないはずがないのに、その本能よりも人への真摯な思いの方が強いのだ。
好き。大好き。最初のきっかけは外見からだったのは認めるけど、リューイのことを知れば知る程好きになっていった。こうやって恋人に対して誠実な彼も、自分が拒絶されているというのに好きという感情がどんどん強くなっていく。
恋人だというリンデブルグ家のお嬢様が羨ましい。そして妬ましい。ただでさえ裕福な貴族の家に生まれただけでなく、こんな素敵な人の想いまで一人占めできるなんて。
幼いころから奴隷として、見ず知らずの何人もの中年やら老人に身体を汚された自分とは大違いだ。ずるい。そんなのずる過ぎる。私だって、少しくらい幸せになったっていいはずだ。
私が、名門リンデブルグ家の令嬢に勝てるものがあるとすれば。
「っああああ!」
リーファの舌がリューイのうなじをなぞると、拘束された身体をビクリとさせるリューイ。固定されている椅子がガタガタと揺れる。
「ふふ、リューイさん可愛い。この間もちょっと思ったんですけど、実はマゾでしょう?」
「な、何言ってるんだよ。止めろって……」
「恥ずかしがらないで、もっとリューイさんの声聞かせて下さい。あむ……んちゅ」
「あああああっ…!」
リーファはリューイの首筋を吸い立てるようにしながら、舌を這わせて、キスをしていく。
奴隷時代――悪徳貴族の性玩具としてひたすら責められて犯される一方だったリーファ。リーファから雄を悦ばせる行為も強制的な奉仕だった。
このような形で思いを寄せる男性に対して甘く責めるというのは、リューイが初めてだったが、何とも言えない興奮と多幸感がリーファの背筋にせりあがってくる。
「私が恋人のことなんて忘れさせてあげますから……私はこんなことしかできないけど、だけど、私を愛して欲しいんです」
「リ、リーファ……!」
いつものおちゃらけた様子が無い、真剣味を帯びた熱っぽい声。だからこそリューイも無下に否定することが出来ない。
リーファはリューイのシャツの裾を掴むと、それをまくり上げる。そして彼の乳首に顔を近づけていくと、唇で吸い立て始める。
「ちゅ……ちゅば……」
「ああっ……り、リーファ……んあっ!」
「れろれろ……ちゅっ……ふふ、リューイさん女の子みたい。もっと可愛く喘いでもいいんですよ」
舌を伸ばして乳首を転がすリーファ。リューイの太ももをなぞる右手は徐々に上がっていくと、股間部分に触れる。そこはすっかりテントを張っており、ズボンの上からでも十分い分かりすぎる程に、熱くたぎっていた。
リーファは慣れた手つきでベルトを緩めると、中から勃起している肉棒を引きずり出す。
「や、止め……っ!」
「うふふ、本当にリューイさん、これからレイプされる女の子みたいですよ。それじゃあ、私もそれっぽく」
目を細めるリーファ。手を伸ばして、近くに放り出すようにしていた持ち込んだ鞄の中をごそごそと漁ると、そこから小瓶を取り出す。そしてその小瓶の蓋を開けて、手の上でさかさまにする。中にあった液体は粘度が高く、リーファの右手にふんだんにまとわりつくように広がっていく。
「すぐに、リューイさんの方からおねだりするようになりますよ」
耳元で、頬を上気させながら囁くリーファ。
そうして粘度が高い液体まみれになった右手で、ゆっくりとリューイの肉棒を扱き始める。
「っあ? ああああ?」
クチュクチュ、と卑猥な音を立てながら、リューイの肉棒が擦られていく。
「ふふ、これ何だか分かります? 発情成分たっぷりのフルネイドの蜜を混ぜたローションですよ。本当は飲むものなんですけど……これ、粘膜に直接塗り込んだら、どうなっちゃうんでしょう?」
「り、リーファ……君は……」
「にゃはは――狂っちゃえ」
残酷にすら感じる口調でリーファが言うと、リューイの乳首を甘噛みしながら、徐々に肉棒を擦る手の動きを早めていく。
手にまぶしたローションを亀頭に丹念に塗り込むように、じっくりと亀頭を擦り上げながら、竿全体に刺激をくわえていく。
幼いながらも性奴隷時代を経た経験豊富な手管。それはリーファが望んだものではなく、悪徳貴族に強制的に刷り込まれたもの。それは、経験豊富とはいえないリューイの官能を容易く揺さぶっていく。
「っああん! り、リーファ……っくああ! 声が、止められないっ……あんっ!」
「はぁ、はぁ……リューイさんの喘ぎ声、本当に女の子みたい。私、興奮してきちゃいます」
唾液を零しながら快感に喘ぐリューイ。自分の奉仕で雄が快感を得ていることが嬉しく、興奮してしまうリーファも息を荒げる。
「あーっ! んあああっ! あっ……リーファ、リーファ……っ!」
固定されている椅子をがたがたと揺らしながら、自分の名前を呼んでくれているリューイのことが、とても愛おしく思えてくる。嬉しい……今、彼には自分しか映っていない。私だけのものだ。
「は、外して……っ!」
ふと見ると、後ろ手に拘束されている手をもどかしそうに動かしているリューイ。肉棒がびくびくと反り返りながら、彼の声は完全に淫欲に支配されているようだった。
「うふふ、リューイさん……」
予想以上のフルネイドの蜜の効果だった。やはり性器に直接塗り込むと、その効果の速さも強さもけた違いだ。実は自分も奴隷時代に同じことをやられた経験があったのだ。あんな情欲に、まともでいられるはずがない。
リーファは手を伸ばし、リューイの両手を拘束している縄に触れる。
おそらく、これを解けばリューイは雄の本能に従って、自分を押し倒すだろう。
そうしたら、いよいよ愛する彼と一つになれる。繋がれる。
おそらく正気に戻った後――真面目なリューイのことだ、こんな形であれ必ず責任を感じるはずだ。その結果、それでも恋人を取るかリーファを選ぶか、それは賭けだ。
最愛の相手に罪悪感を与えて苦しませることは本意ではなかったが、そんな歪んだ形でもいいから、とにかく自分を愛して欲しい。それ程リューイのことを愛しているのだ。
そして、それ以上に――彼と繋がりたい。
「これで、ようやくリューイさんとセックス出来ます……っ!」
それはリーファが待ち望んだ至福の瞬間。
例え最終的に自分へ想いが向かなくても、とにかく1度でも身体の関係を結びたい。
――最も、その1度の行為だけで彼を篭絡する自身もリーファにはあった。経験の少ない貴族令嬢よりも、自分の身体に溺れさせる確かな自信があるのだ。
「リューイさん……」
リューイの両手の拘束を解き、まずは恋人同士の証と言わんばかりに、瞳を閉じて唇を差し出すリーファ。
これで、ようやく……愛する人と繋がれる。
「……むぐぐ?」
期待していた柔らかい唇の感触とは違う感触。何かで口を塞がれているようだ……リーファが目を開けると、リューイが手でリーファの顔を抑えるようにしていた。
「う、嘘……? どうして?」
「たはは……やっぱ、俺はリアラが好きだからさ」
と、苦しそうな表情で笑いながら言うリューイ。
「そんな、信じられない……」
今もリーファが右手で握っている肉棒は、今にも爆発しそうなくらいにビクビクしている。激しくどくどくと脈打っていて、興奮しているのは間違いないなずなのに。こうして刺激を止められて、もどかしくて仕方ない。そのはずなのに――
リューイは笑いながらリーファの顔をのぞき込んでいた。但し明らかにヤセ我慢。少しでも油断すれば、フルネイドの蜜で高められた情欲に身を焦がしそうのだろう――どこか苦しそうな色が見え隠れする。
「この間のことは、いくらリーファが誘ってきたとはいえ……本当に済まないことした。申し訳ないと思う」
苦しい部分は見せずに――と、スマートにいかないのがまたリューイらしい。何かに耐えるように顔をしかめて、汗を垂らしながら続ける。
「でも、これ以上は本当にダメだ。俺はリアラを裏切れない。本当に、この世で1番のあいつのことが好きなんだ。こういうことは、あいつ以外とはしたくないんだ」
苦しげではあるが、はっきりと意志がこもった力強い言葉。リーファを見る視線にも確かな意思の強さが込められていた。
リーファは、それを見て呆気に取られながら涙をこぼす。
「どう、して……?」
「リーファ……?」
溢れた涙は止まらない。次々に流れる水の様にリーファの頬を伝う涙。
すっかり妖艶な雰囲気などかき消えて、リーファは手の甲で涙をぬぐいながら嗚咽を漏らす。
「どうして、そんなに彼女さんが好きなんですか? どうして、私を好きになってくれないんですかあ。うわあああん!」
「リ、リーファ……」
いつも明るくおどけた様子のリーファが号泣するのを初めて見たリューイは、思わず言葉を失ってしまう。
「今だって、私を押し倒したくて仕方ないでしょう? セックスしたくて頭がおかしくなっているはずなのに……それなのに、どうしてそんなことが言えるんですかあ!」
それはリーファが身をもって経験していることで、間違いない。肌に触れられるだけで吐き気を催す程の相手にすら発情してしまう程の強烈な衝動のはずなのに。
「リアラが好きだから」
しかしリューイは即答する。
リーファの言う通り、彼の肉棒は女肉を求めていて滾っている。こうしてリーファと肌を触れ合わせているだけでも理性のタガが外れて暴走しそうだ――しかし、それでもリューイは踏みとどまれる。
「こういうことは、愛している相手と……リアラとしかしたくない。大事にしたいんだ。誰でもいいからっていう欲望に負けたくない……そうしたら、リアラとしたいっていう気持ちが嘘になりそうだから、さ」
「う、あうう……」
あまりに真っ直ぐ過ぎる言葉。
そんな簡単に言う程にフルネイドの蜜の効果は優しくないはず。驚くべき強靭な精神力で耐えているに違いない。それが出来るのは、ひとえに恋人への愛情故なのか。
どうして、それ程までに純粋で強い思いを自分に向けてくれないのか。
「ひぐ、うう……うええ……」
「ごめんな、リーファ」
そのまま泣き崩れるリーファの身体を抱き寄せようとして――止める。
少しでも彼女に勘違いをさせるようなことをすれば、それ程残酷なことはないだろう。ここは、むしろ突き放すのが優しさだ。
――と、リューイは割り切って冷酷に接することが出来る性格ではない。
「リーファが……その、俺を好きっていうのが本気だっていうのはよく伝わった。正直、凄く嬉しい。だけど、ごめん。俺にはリアラがいるんだ。だから君の想いは受け取れない。本当に、ごめん。リーファのことは好きなんだけど、男女のそれとは、ちょっと違うんだ」
どこまでも中途半端。
相手を傷つけたくないという中途半端な優しさが、余計に相手を傷つけるのだ。これほど思いを寄せてくれている相手に、意味は違えど「好き」という言葉を吐きかければ、勘違いするに決まっているじゃないか。ありがとうなんて、そんな優しい言葉を掛けられたら、ますます好きになってしまうのに――!
「――ふ……ふふ……くすくす」
「リーファ?」
気づけば、リーファは凄い勢いで涙を流しながら、鼻水を垂らしながら、笑っていた。
そうだ。そうだった。自分が好きになったリューイ=イルスガンドというのはこういう男だった。
使用人に過ぎない自分をいつも気遣ってくれる、不器用で優しいリューイ。
こんな真似をした自分に、謝りすらするリューイ。
これだけ誘惑されても、それでも純粋で真っ直ぐな自分の愛のカタチを貫くリューイ。
――私は、そんな素敵な男性を好きになったのだ。これは誇っていい。
「本当に、もう。リューイさんはダメですねぇ」
「あれ? ここまでの流れで、どうしてダメ出しされてんの?」
全く、どこまでいっても無自覚な人だ。そんな純粋さがまた愛おしいのだが。
「ごめんなさい。私、こんなに男性を好きになったことが初めてで……こんなやり方しかできなくて……」
ひとしきり泣き笑いをした後、リーファは素直に頭を下げてくる。
「男性を……ってことは、もしかして女の子は……」
「……バカ」
ついつい、どうでもいい部分に突っ込んでしまうリューイ。その突っ込みに、意外にもリーファは顔を赤らめて起こったような表情をする。
――奴隷時代に何かあったのだろうか。触れないでおこう。
「本当に嬉しかったよ。でも、ごめん。何度も言うけど俺はリアラを裏切れない。だから、リーファとはそういう関係になれない。諦めて欲しい」
そんな真摯な言葉に、リーファはきっぱりと首を振る。
「私、リューイさんのこと惚れ直しちゃいました。だから……これからは、正攻法で大好きって伝えます。こんな彼女さんに隠れてズルい方法を使うんじゃなくて、リューイさんに振り向いてもらえるように、思い切り可愛くなりますからっ!」
「う」
リューイの純粋で誠実な愛のカタチを見せられ、健全な自分なりの愛のカタチを見つけることが出来たリーファは、涙と鼻水で顔をくしゃくしゃにしながら、それでも可愛くて魅力的な笑顔でそう答えた。
熱っぽい瞳を向けられながら、笑顔の美少女にそう言われたリューイは思わず下半身を反応させてしまう。これは相手がどうこう…ということとは関係ない。これに反応しなければ、もはやそれが異常だろう、と思っておく。
リーファは、そんな反応した肉棒が自分の太ももに触れて、「あらら」とつぶやく。
「本当にごめんなさい。私が調子にのってこんな状態にしちゃって……口――はさすがに抵抗ありますよね。それじゃあ、手ですっきりさせてあげますから」
「い、いやいやっ! いいよ。後で自分で処理するから」
「これは彼女さんにどうこうではなくて、私が責任を取るって意味でしないといけないって思うんです。リューイさんは何も気にしなくていいと思うんですけど」
さすがにここまで徹底的に拒絶されると、好き嫌いという以前に、女としての魅力に欠けているような気がして落ち込んでしまう。
「いやいや、大丈夫だよ。大丈夫」
「むー……」
頬を膨らませて不満をこぼすリーファだったが、それでもリューイは決して首をうなずかせることはなかった。
「本当に徹底していますね。ふーんだ、もういいです。頼まれたってしてあげないんですから」
そう言ってリーファはリューイの身体から離れる。
言葉ではそう言いつつ、内心では感嘆していた。この流れなら、1度くらい射精を望む男性が大半なのに。やっぱり異常なのかな?などと、胸中で舌を出すリーファ。
「あ、あの。解いてくれませんかね、リーファさん」
そのままメイド服を着始めるリーファを見て、手の拘束は解かれたものの、足を縛っているロープはそのままのリューイは不安そうに訴えた。未だ勃起している肉棒がさらけ出されたままのその恰好は、はっきり言って情けない。
「あら、ごめんなさい」
素なのか意趣返しなのか、笑いながらリーファはリューイの椅子に近づくと、彼の拘束を解いていく。
「そうそう、先輩さんのことは許してあげて下さいね。私が無理に頼み込んだだけなのに」
そういえば、そもそもこんな状況になったきっかけを作ったのはあの人だったな…と、拘束を解かれる中で思い出すリューイ。
「うん、大丈夫。ちゃんと一言言っておくから」
相変わらず優しい口調だったが、なんだかあんまり大丈夫じゃなさそうな感じの返事だった。余計な事言ったかなぁ、とリーファは若干後悔する。
そうして漸く拘束を解かれるリューイ。いそいそとズボンを上げて、情けない感じで晒していた肉棒をしまうが、恐るべきフルネイドの蜜――全く萎えることなく、股間はテントを張っている。
これはさっさと1人になって落ち着かせなければならない。
「そういえばリューイさん」
そろそろ理性も限界なので、さっさとこの場を離れたかったリューイだが、リーファに呼び止められて彼女へ振り返る。
「本当に、リューイさんは彼女さんを信用しているんですね。でもちゃんと彼女さんも同じようにリューイさん一筋なんですか?」
あまりにもこてんぱんにやられたため、せめて最後に一矢報いようと、意地悪な質問を投げかけるリーファ。まあ、とはいってもリューイの返事など分かり切っている。彼は自信満々に、誇らしげに、嬉しそうに答えるだろう。
「リアラが俺以外の奴と寝るなんて、有り得ないよ」
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