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第2章 それぞれの夏 編

第22話 ステラ=ストールの場合

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 さて、ヴァルガンダル家と並ぶ騎士の名家であるストール家の令嬢ステラ=ストールについて。

 彼女は2年生の夏、ミュリヌス学園に滞在していたが、彼女に関する特筆するよう出来事は何も無かった。

 2年首席という立場――学生代表として教職員達と一緒に最高評議会の準備や段取り、幹部達のもてなしに終始していた。実家のストール家にも戻らずに。

 あえて取り上げるのであれば、会議期間中の余興に出たことくらい。

 出席者達の前で、実戦形式の模擬戦を披露した。相手は、現役の白薔薇騎士団団長であるシンパ=レイオール。

 結果は当然の如くシンパの勝利となった。しかし現役騎士団長を相手に善戦したステラは、関係各位を大いに驚かせた。

 ステラはその場で、大臣であり学園長でもあるグスタフから白薔薇騎士団への入団が内定を告げられた。卒業前に入団内定することは、異例のことである。

「くすくす。シンパ様もお年を召されたものですね」

 あの程度なら、あの場で倒せたかもしれない――部屋に1人だったが、ステラはあえてその言葉は飲み込んだ。代わりに、手に持ったグラスのワインを口に滑り込ませる。

 最高評議会3日目が終了した日の夜――ステラは学園寮の自室の窓際に座って、アルコールで上気した顔で、夜空に煌々と輝く満月を見上げていた。全5日の日程である最高評議会も、残すところあと2日である。

「座して口を動かすばかり――さてあと2日間も、一体何をそんなに話すことがありますのでしょうか」

 騎士団内定が出たからか、いつもより上機嫌な口調で、ステラは皮肉めいた笑みを浮かべていた。

「それにしても、グスタフ卿も面白いことを考えますわ。本能だけで生きている獣だと思っていたら、とんでもない曲者ですわ」

 グラスの底に残ったワインを、天を仰ぐようにして飲み干すステラは。ほう…と、熱い吐息を漏らしながら、独り言を続ける。

「さて、最後に笑うのは陛下か、カリオス殿下か、ラミア殿下か、グスタフ卿か……面白くなってきましたわ。勿論、私はリリライト殿下贔屓ですが」

 今夜は少し飲み過ぎたかもしれない。珍しく頭がフラフラとして、思考に霞がかかる。また明日もつまらない会議のために、せいぜい気を張らないといけない。このままベッドにもぐりこんで、眠りについてしまおうか。

 アルコールに強いはずのステラがフラフラとした足取りでベッドに向かうと、そのまま身を投げ出すように、ベッドへ身を任せる。

――いけない。どうやら今夜は本当に飲み過ぎたようだ。ついつい、1人だとこうして度を越してしまうことが、たびたびある。

 当然、リアラがリンデブルグ家に帰省しているこの期間、ステラは1人でこの部屋で過ごしている。今横になっているダブルベッドも1人で使っている。

 リアラが帰省する直前まで、毎夜のようにお互いを求めあっていた。最初は同性同士の行為に忌避感を示していたリアラが、徐々に自分から快感を求め始め、日ごとに淫乱になっていく様は、ステラに得もしれぬ興奮を与えた。

「下劣で人として最低な男ですが……あれは、人間の本性そのものですわ。人間の本質は欲望。戦い、食事、性――本能を満たすことが、人生を最も充実させる。外聞などを気にすることなく本能のままに生きるあの男は、きっと生きていて楽しくて仕方ないに違いありませんわ」

 ステラは、リアラとの交わりを思い出しながら、パジャマのズボンの中に手を忍ばせる。そして確認するように、ショーツの中心部を触ってみると、そこはジワリと濡れていた。

「その点だけは、見習いたいと思いますわ。時と場合は見定めるにしろ、私も本能のままに ――」

 リアラがいない間、ステラは発情した身体を慰めることは無かった。目先の衝動に駆られて、無駄に性欲を発散などしない。

 溜めに溜めて、リアラが戻ってきたその時に解放するのだ。あの明朗快活で真面目な優等生を、それこそグスタフと同じレベルでの本能を引きずり出す。

 学園の卒業よりも、白薔薇騎士団への入団よりも、何よりも。今はそれがステラの人生を最も充実させる目標となっていた。

「早く戻っていらっしゃいリアラ。冬に入る頃には、常に私のことしか考えられない、淫乱で変態なレズビアンに躾けてあげますわ。私の可愛いリアラ」

 その歪んだ欲望にステラは身体を火照らせながらも、衝動に駆られることはなく、そのままアルコールが回るのを待ち、眠りに落ちていった。
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