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第2章 それぞれの夏 編

第15話 リアラ=リンデブルグの場合(前編)

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 リンデブルグ家はその邸宅を聖アルマイト王国南東部のパリアント領に構えていた。



 リンデブルグ家の爵位は伯爵位。貴族階級としては上から3番目の爵位だが、パリアント公爵が治める領地内でも特に有力な貴族である。



 伯爵位としてはトップレベル、しかし公爵位や侯爵位に叶う程ではない。リンデブルグ家が「貴族の中では上の下」と評される所以である。



「ただいまっ、母様っ!」



 ミュリヌス学園から馬車を2度乗り継いで、自分の屋敷へ帰宅したリアラ。日は既に暮れかかっており、ほぼ1日を移動に費やした彼女は、疲れも忘れて入口の門で自分を待ってくれていた母親に抱き着く。



「まあまあ。騎士候補生になっても甘えん坊さんなのね」



 そういう母親――イシス=リンデブルグこそが、嬉しそうに表情を緩ませてリアラの髪を優しく撫でていた。



「移動が長くても疲れたでしょう? 今日はね、貴女が帰ってくるから、とっておきのホワイトシチューを準備してあるのよ」



「母様のミートパイ? やったあっ!」



 貴族らしく、普段は使用人達が食事を準備するのだが、今日はイシス自らが腕を奮ったようだ。彼女自身、リンデブルグ家に嫁ぐ前から料理を得意としており、リアラが学生寮に入る前も度々その腕を披露していた。その中でも、リアラの最もお気に入りだったのが、特製ミートパイだったのだ。



 子供の様に歓声をあげるリアラ。そんな感情豊かに反応するリアラを微笑ましく見ながら、イシスはパンパンと手を叩く。するとすぐに使用人が寄ってきて、リアラの旅行鞄を受け取り、代わりに運ぶ。



 門から邸宅への道を、リアラとイシスは並んで歩きながら、久々の親娘の会話を楽しむ。そして、付き従う使用人が邸宅の扉を押し開いた。



 あまりにも広いリンデブルグ家の玄関ホール。そこには初老に差し掛かりそうな、髭を蓄えた壮年の紳士が背を向けて立っており、扉が開くのに気づいて、入り口へ振り返る。



「む、リアラか。そういえば、今日から戻ってくるという話だったな」



 今思い出したかのようにそういう彼はシュルツ=リンデブルグ。リンデブルグ家の現当主であり、リアラの父である。



「ただいま、父様」



 笑顔で帰宅を告げる娘の顔を見るシュルツ。眉をピクリと動かすが、それだけだった。憮然と、無表情で帰ってきた娘を見据えていた。



「全く、この数か月せっかく静かだったのに。またしばらくゆっくり出来んな」



 ふう、と大きなため息とつきながらシュルツは不機嫌そうにそうこぼす。



「――くすくす」



 そんな夫を黙って見ていたイシスが、堪え切れないように笑いを漏らす。



「む。なんだ、いきなり」



「だって、おかしくて。ふふ……うふふ……あははは」



 イシスは口元に手を当てながら、遂には大口を開けて笑い出す。



「父様ったら、今日は朝からずっと「リアラはまだか? いつ帰るのか?」って何度も何度も聞くのよ。朝一番の馬車に乗っても、夕方を過ぎるに決まっているのに」



「こ、こら――」



「それに、今晩の夕食もね。『そんな粗末な肉でリアラが喜ぶか。俺が最高級の鹿肉を取ってきてくれる』って、何年振りかの狩りに出かけて行ったのよ。本人は腰を痛めて帰ってきただけだったけど」



 可笑しそうに笑うイシスに、憮然としていたシュルツが顔を真っ赤にして狼狽えている。リアラを見た時に無表情だったのは、かなり頑張ってそう装っていたのだろう。



 変わらず仲の良い両親の様子を見て、リアラも笑う。



 良かった。何も変わっていない。ここは、私の家だ。



「そうそう。それで情けない父様の代わりにね、格好よく上物の鹿を仕留めてきたヒーローがいるのよ。誰だと思う?」



 いたずらっぽく、片目をつむりながらながらリアラに問いかけるイシス。



 聞かれてリアラは首を傾げる。



 誰だろう――すぐに名前が出てきたのは、使用人頭のクラダールだった。



 彼はシュルツと同年代の執事で、リアラが知る限り使用人の中でも最も長くリンデブルグ家に仕えてくれている。狩りの腕にも秀でており、シュルツが若い頃などはよく帯同されて狩猟に出向いており、よく大物を仕留めて帰ってきたのを覚えている。だが、そうだとしても、何故イシスがこんなに嬉しそうなのかが分からない。



 不思議そうなリアラを、面白がるようにイシスが見ている。本気で分からないのだと察すると



「ふふふ。答えはね――」



 そうイシスが口が開いたのと同時、答えが明らかになる。



 リアラ達がいる1F玄関ホール、そこから見える正面上方の2Fの一部屋から、扉を開いて、ひょっこり姿を現した若者が一人。



「リューイっ!」



 その姿を認めると、リアラはたまらず走り出し、リューイの下へ向かって階段を駆け上がっていく。そしてそのまま勢いにまかせて、飛びつくように彼の胸に飛び込むと、リューイは慌てて彼女の身体を受け止めた。



「あらあらあら。妬けてしまいますね、あなた」



「ふ、ふんっ! 別に寂しくもなんともないわ」



「くすくす。男性のツンデレなど、需要ありませんよ」



 にこやかに、なかなか辛辣なことを言うイシスはそのまま続ける。



「仕方ありませんわ。子供はいつか親の元を離れていくものですもの。私達も早く子離れ出来るようにならないといけませんね。あんなに良い方がリアラのことを見初めてくれたのだから」



「わ、分かっとるわっ!」



 1Fから父と母は、恋人との再会に喜んでいる娘を微笑ましく見守る。



 そして2Fではリアラとリューイがお互いの顔を見つめながら



「リューイ、会いたかったよ」



「俺もだよ、リアラ。お帰り!」



    ▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼



 リアラの夏休みに合わせて休暇を取ったリューイは、リンデブルグ家に滞在することにしていた。リアラが帰省したその夜、両親であるシュルツとイシス公認の仲ということもあり、二人は同じ部屋で過ごすこととなっていた。



「っあん! あぁぁんっ! リューイ……リューイっ!」



 ダブルベッド――夏休みにリューイが滞在することが決まり、イシスがわざわざ娘とその恋人のために準備したものだ――の上で、リアラは四つん這いになって艶っぽい喘ぎ声を出していた。



「うっ……く……リアラ……気持ちいい……」



 後ろから、パンパンと肉がぶつかり合う音を響かせながら腰を打ちつけているリューイ。リアラの中に挿入している肉棒が膣に締められる快感に、荒い吐息を漏らす。



 そのままリアラの身体にもたれかかるように身体を乗せると、乳房へと手を伸ばし、その柔らかい双丘を揉みほすぎながら、なおも腰を打ちつけ続ける。



「あぁんっ! リューイ……すごいよっ、私も気持ちいいっ!」



 欲望のままに腰を打ち付けられるリアラは、自らもリューイの動きに合わせて腰をくねらせるように動かす。そしてそのまま振り向いて、リューイと見つめ合うと、二人は唇を重ね合わせる。



「はむ……んちゅ……ちゅ……」



 舌を絡ませあい、お互いの愛情を確認する二人。



 荒々しい中にも、リアラを思いやる優しさを感じられる愛撫。快感と共に、甘ったるい幸福感に包まれていく。



「うっ……ぐ……り、リアラ……もうっ…!」



 唇を離すと、リューイが限界を告げてくる。その言葉にハッとするリアラは、慌てて言う。



「ま、待って……最後は、顔みながら……したいよ」



 恥ずかしさで、顔を爆発させそうなくらい赤く染めるリアラ。そんなリアラの様子を心底愛おしく感じるリューイは、欲望を制御して腰の動きを止める。



すっかりリアラの愛液まみれになった肉棒を一度引き抜くと、リアラは仰向けへと寝転がる。そして手を広げて、笑顔でリューイを見つめながら



「来て……一緒に、イキたいよ」



「あ、ああ……」



 その淫蕩な表情に、リューイはごくりと生唾を飲み込み、既にはりきれんばかりになっている肉棒が更に硬度を増していく。



 リューイはその肉棒を手で支えながら、再度リアラの中へ沈めていく。



「っんん……んっ!」



 愛液で蕩け切っているそこは、言う間でもなくリューイの肉棒を難なく受け入れる。リューイが腰を押し進めて、最奥まで肉棒を挿入すると、リアラと見つめ合い、両手を握り合わせる。



「リアラ……か、可愛い……」



「や、やだ。何言ってるのよっ……」



 見つめ合いながら、改めてそんなことを言われると恥ずかしい。リアラは顔を背けようとするが、リューイの顔が近づけてくると、唇を緩めて舌を差し出した。差し出してきた舌に、リューイも舌を絡ませてくる。



「はむ、んっ……」



 口づけを交わしながら、リューイの腰のピストンが開始される。最初は穏やかにゆっくりと、リアラの反応を伺うように。



「くふっ……っんん! いい……気持ちいいよ、リューイ」



 握った手を握り返してくるリアラの表情が快感に染まってくると、リューイの腰の動きが早く激しくなっていく。すると、リアラが足をリューイの腰に絡めていき、二人の身体を密着させる。



「っああ! リューイ……私、今すごく幸せ……あぁんっ! もっと……!」



「っく……リアラ……はぁっ、はぁっ……」



 荒い息を吐きながら、腰を振るリューイは、やがてこらえきれない射精感が込みあがってくる。



「も、もう……俺……」



「い、いいよ。このまま中に出して……」



 きちんと避妊具は付けている。問題ない。それよりも、リューイの愛をしっかりと中で受け止めたい。彼を愛していること、彼に愛されていることの繋がりを感じたいと思うリアラは、リューイの首に腕を回し、腰に絡みつけている足にギュッと力をいれる。



「うっ……ああ……い、イク……っ!」



「わ、私も……イク! リューイと一緒に、イッちゃうよぉ!」



 射精のその瞬間、リューイは今までで一番奥に届くように、深く腰を突き入れる。そのままリアラの中で精を吐き出すと、ブルブルと痙攣して、そのままリアラの身体に崩れ落ちるように脱力した。



「はぁ、はぁ……」



「ああ……リューイ……愛してるよ」



 自分の身体にもたれかかってくるリューイを愛おしそうに抱きしめ、リアラは優しく彼の頬に口づけをした。



    ▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼



「それにしても、めちゃくちゃエロくなったよなー」



 行為が終わった後、余韻にひたりながらベッドの中で、リューイが唐突にそんなことを言うと、リアラは顔を真っ赤にする。



「な、何言ってるのよ、馬鹿っ!」



「い、いててっ!」



 リアラに太ももをつねられると、リューイは痛みに顔をしかめる。



「だってさ、寮に入る前にした時と比べると、積極的だったしさ。何かあった?」



「う~……」



 リューイにそう言われると、リアラは恥ずかしさでシーツの中に顔をうずめてしまう。



「リューイは、いやらしい娘って嫌い?」



「いやいや! そんなことはないけどさ」



 ふてくされたようにそう言うリアラに、慌てて否定する。しかし、そのままリアラは顔を出さずに、拗ねてしまったのかそのまま黙り込んでしまう。



 リューイは苦笑しながら、リアラの頭を優しく撫でた。



「興奮したし、気持ちよかったよ。ていうか、リアラも感じてくれてるって思ったら、俺もすごい幸せだった」



 ぎゅっとリアラの身体を抱き寄せるリューイ。リアラの体温を感じると、また幸福感を感じてくる。



「私も、リューイが興奮してくれているって思ったら、すごく幸せになって……えへへ」



 リューイに抱きしめられて、肌で彼の体温を感じると、リアラも暖かいものが胸の奥からこみあげてくる。そして彼の方へ向き直り、お互いの顔を見つめ合わせる。



「リューイ、愛しているよ」



「俺もだ、リアラ」



 行為の最中にも何度も口にしたこの言葉を、二人は改めて確認し合う。そうしてしばらく黙って見つめ合っていた後、二人は同時にくすくす笑う。



「あ」



 リューイがハッとしたような声を出すとリアラが首を傾げる。何事かと思ったが、太ももに当たる硬い感触に、すぐに察する。



「うふふ、もう1回しよっか」



 笑いながらリアラ。



 互いに健康的な若い男女のため、単純な性欲もあるが、やはり自分と一緒にいることでリューイが興奮したり、幸福感を抱いてくれることに、リアラも嬉しくなる。もっと、リューイが喜ぶことをしてあげたいと思う。



「休みが終わったら、また離れ離れだから……一緒にいる内に、たくさんしようね」



「――リアラっ!」



 そんな献身的なリアラに、リューイはたまらず口づけをする。



 二人は貪るようなキスをしながら、再び行為に耽っていった。
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