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第三章 ジュリエッタ逃亡編
問い
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「初めまして、私はクララと申します。
ジュリエッタ様でいらっしゃいますね。
大体の話は伺っていますよ、色々と大変でしたね。
大したお持て成しも出来ませんが、今晩はここでゆっくりお休み下さい。」
そう言って暖かく迎えてくれたクララさんは、私達を家の中に案内してくれた。
部屋の隅のソファには、私を興味深そうに見つめる小さな子供とニコニコと笑う初老の男性が座っている。
「主人のニコルと、孫のロビンです。
息子夫婦が出稼ぎで家を留守にしておりますので、
今はこの3人暮らしです、ご安心下さい。」
「あっ……、お気遣い感謝します。」
そう言って私は軽く頭を下げた。
通された部屋の食卓の上には、美味しそうに湯気を立てた料理が並べられていた。
川魚のムニエル、チーズと新鮮野菜のカナッペ、香草を使ったポークソティ、
オレンジを搾ったジュース、
焼き立てのバターロールと生クリームを載せたスポンジ。
「田舎で、こんな物しか用意できませんが、どうぞ召し上がって下さい。
さあさ、あなた達も席に着いて。」
するとロビンがトコトコと駆けてきて、小さな椅子によじ登る様に座った。
か、可愛い……、ロビンがニコニコと笑う姿は、
まるで穢れを知らない天使のようだ。
「おばあちゃん凄いね!沢山あって、全部美味しそう。」
「そうでしょう、ロビンも沢山食べなさい。
さあ、お嬢様方もお座り下さいね。
今、温かいスープをお持ちしますよ。」
やがてクララが運んできたのは、カボチャのクリームスープ。
「畑や近くの川などから調達して来た物ばかりで、
質素な物でお恥ずかしいのですが、召し上がって下さい。」
「そんな事無いわよ。
どれもこれも新鮮で、我が家では手に入らないような物ばかりだわ。
それにね、クララはとても料理上手なの、私は大好き。
きっとジュリエッタ様も気に入りますわ。
おまけに今日はケーキまで作ってくれたのね。嬉しい!」
きっとスカーレット様の言う通りなんだろう。
見慣れた料理に見えるけれど、マスの身は厚くてふっくらとしている。
カナッペの野菜は、シャキシャキとしていて、新鮮そのものだ。
たとえ品数が少なくとも、一つ一つがとても美味しい。
毎日のようにこのような物を食べれるのであれば、文句など出ようが無い。
「凄く美味しいです。野菜はパリパリで、ほんのり甘くて、
マスはふっくらと太っていて、もしかしてこの野菜はご自分で?」
「ええ、片手間ですが、小さな畑を作っていて、
自分達の食べる分ぐらいは十分賄えます。
魚は今日、ニコルが川に行って釣って来た物なんですよ。
ボウズでなくて良かったわ。」
「私の腕を信じていないのかい?」
そう、笑いながらニコルさんが言う。
「そう言う訳じゃあ有りませんよ、
ただ夕食のメニューを魚のつもりで予定していたのに、
急遽野菜の煮物にした事も有りましたからね。」
そう言いながら、笑いあっている夫婦を見て、私は凄く憧れた。
お互いの失敗を喧嘩をする訳でもなく、冗談で笑い飛ばす。
本来の夫婦とは、こうあるべきなのだ。
美味しい食事を堪能し、その後の片付けの手伝いも新鮮だった。
やがて、よくここに訪れるスカーレット様と共に、部屋に引き上げた。
「ここは、息子さん夫婦の部屋だけど、
忙しいらしく今はめったに帰って来れないそうなの。
だからいつもこの部屋を使わせてもらっているわ。
でも、上の屋根裏部屋もなかなかの物よ。」
「そうなんですか……。
私はスカーレット様が羨ましい。」
「そうでしょ?」
そう言いながら笑っている。
本当に、私にも心をさらけ出せるような人がいたら良かったのに。
「さて、ジュリエッタ様。
此処からが正念場ですわ。」
そう言いながらスカーレット様が、ベッドの中で真直ぐ私を見つめて問う。
「ジュリエッタ様、これからの話です。
私はジュリエッタ様の本当の気持ちが知りたいです。」
「本当の気持ち…ですか?」
「はい、本当の気持ちです。
ここまでは単なる時間稼ぎ。
この先の行動次第では、ジュリエッタ様の一生にも関わって来るでしょう。
私はあなたの力になろうと決めました。
自分が一度決めたら裏切る事はしません。
まあ、それに関しては信じる信じないはあなた次第ですけど。
でも、お願いですからあなたも心を決めてほしいのです。
ジュリエッタ様、自分の気持ちに正直になり、考えてみて下さい。」
「本当の気持ち…。」
「ジュリエッタ様、あなたは本当はスティール様の事をどうお思いですか?
もし、王太子妃になると考えて、その自信がお有りですか。
この逃走劇の最終目的は何ですか?
ただ逃げたいと思うだけで逃亡するのではなく、
ちゃんと自分の気持ちに整理を付けて下さいませ。
まだ引き返す余地は有るのですから。」
「スカーレット様、
それは私に考え直すように言っているみたいに聞こえますが……。」
「ええ、あなたの考え次第ではそうかもしれません。
一国の王妃候補と言う立場を振るのですから。
あなたにもしっかりとその意味を考えていただきたいのです。
あなたのその心の中に有るモヤモヤを一掃する、
そのお手伝いも出来るのではないかと、私はここにいるのです。」
「そう…ですわね……。」
私の気持ち…後悔しない決断。
……………。
ジュリエッタ様でいらっしゃいますね。
大体の話は伺っていますよ、色々と大変でしたね。
大したお持て成しも出来ませんが、今晩はここでゆっくりお休み下さい。」
そう言って暖かく迎えてくれたクララさんは、私達を家の中に案内してくれた。
部屋の隅のソファには、私を興味深そうに見つめる小さな子供とニコニコと笑う初老の男性が座っている。
「主人のニコルと、孫のロビンです。
息子夫婦が出稼ぎで家を留守にしておりますので、
今はこの3人暮らしです、ご安心下さい。」
「あっ……、お気遣い感謝します。」
そう言って私は軽く頭を下げた。
通された部屋の食卓の上には、美味しそうに湯気を立てた料理が並べられていた。
川魚のムニエル、チーズと新鮮野菜のカナッペ、香草を使ったポークソティ、
オレンジを搾ったジュース、
焼き立てのバターロールと生クリームを載せたスポンジ。
「田舎で、こんな物しか用意できませんが、どうぞ召し上がって下さい。
さあさ、あなた達も席に着いて。」
するとロビンがトコトコと駆けてきて、小さな椅子によじ登る様に座った。
か、可愛い……、ロビンがニコニコと笑う姿は、
まるで穢れを知らない天使のようだ。
「おばあちゃん凄いね!沢山あって、全部美味しそう。」
「そうでしょう、ロビンも沢山食べなさい。
さあ、お嬢様方もお座り下さいね。
今、温かいスープをお持ちしますよ。」
やがてクララが運んできたのは、カボチャのクリームスープ。
「畑や近くの川などから調達して来た物ばかりで、
質素な物でお恥ずかしいのですが、召し上がって下さい。」
「そんな事無いわよ。
どれもこれも新鮮で、我が家では手に入らないような物ばかりだわ。
それにね、クララはとても料理上手なの、私は大好き。
きっとジュリエッタ様も気に入りますわ。
おまけに今日はケーキまで作ってくれたのね。嬉しい!」
きっとスカーレット様の言う通りなんだろう。
見慣れた料理に見えるけれど、マスの身は厚くてふっくらとしている。
カナッペの野菜は、シャキシャキとしていて、新鮮そのものだ。
たとえ品数が少なくとも、一つ一つがとても美味しい。
毎日のようにこのような物を食べれるのであれば、文句など出ようが無い。
「凄く美味しいです。野菜はパリパリで、ほんのり甘くて、
マスはふっくらと太っていて、もしかしてこの野菜はご自分で?」
「ええ、片手間ですが、小さな畑を作っていて、
自分達の食べる分ぐらいは十分賄えます。
魚は今日、ニコルが川に行って釣って来た物なんですよ。
ボウズでなくて良かったわ。」
「私の腕を信じていないのかい?」
そう、笑いながらニコルさんが言う。
「そう言う訳じゃあ有りませんよ、
ただ夕食のメニューを魚のつもりで予定していたのに、
急遽野菜の煮物にした事も有りましたからね。」
そう言いながら、笑いあっている夫婦を見て、私は凄く憧れた。
お互いの失敗を喧嘩をする訳でもなく、冗談で笑い飛ばす。
本来の夫婦とは、こうあるべきなのだ。
美味しい食事を堪能し、その後の片付けの手伝いも新鮮だった。
やがて、よくここに訪れるスカーレット様と共に、部屋に引き上げた。
「ここは、息子さん夫婦の部屋だけど、
忙しいらしく今はめったに帰って来れないそうなの。
だからいつもこの部屋を使わせてもらっているわ。
でも、上の屋根裏部屋もなかなかの物よ。」
「そうなんですか……。
私はスカーレット様が羨ましい。」
「そうでしょ?」
そう言いながら笑っている。
本当に、私にも心をさらけ出せるような人がいたら良かったのに。
「さて、ジュリエッタ様。
此処からが正念場ですわ。」
そう言いながらスカーレット様が、ベッドの中で真直ぐ私を見つめて問う。
「ジュリエッタ様、これからの話です。
私はジュリエッタ様の本当の気持ちが知りたいです。」
「本当の気持ち…ですか?」
「はい、本当の気持ちです。
ここまでは単なる時間稼ぎ。
この先の行動次第では、ジュリエッタ様の一生にも関わって来るでしょう。
私はあなたの力になろうと決めました。
自分が一度決めたら裏切る事はしません。
まあ、それに関しては信じる信じないはあなた次第ですけど。
でも、お願いですからあなたも心を決めてほしいのです。
ジュリエッタ様、自分の気持ちに正直になり、考えてみて下さい。」
「本当の気持ち…。」
「ジュリエッタ様、あなたは本当はスティール様の事をどうお思いですか?
もし、王太子妃になると考えて、その自信がお有りですか。
この逃走劇の最終目的は何ですか?
ただ逃げたいと思うだけで逃亡するのではなく、
ちゃんと自分の気持ちに整理を付けて下さいませ。
まだ引き返す余地は有るのですから。」
「スカーレット様、
それは私に考え直すように言っているみたいに聞こえますが……。」
「ええ、あなたの考え次第ではそうかもしれません。
一国の王妃候補と言う立場を振るのですから。
あなたにもしっかりとその意味を考えていただきたいのです。
あなたのその心の中に有るモヤモヤを一掃する、
そのお手伝いも出来るのではないかと、私はここにいるのです。」
「そう…ですわね……。」
私の気持ち…後悔しない決断。
……………。
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