上 下
38 / 67
第三章 ジュリエッタ逃亡編

計画続行

しおりを挟む
「さて、まだまだ行きますわよ~。」

完全に楽しんでいらっしゃいますわね、スカーレット様。

「窮地は脱したと考えても大丈夫と思います。
後はあまり人通りのない道を選んで、力の限り突っ走りますので、
少しゆっくりできますわ。」

力の限り突っ走るから少しゆっくりできるって、
何と無く矛盾を感じるんですが…。
するとスカーレット様は、座席の下から大きなバスケットを取り出した。

「大した物は有りませんが、食事を用意しました。
お腹が空かれたでしょう?」

そう言って差し出された中には、
蒸し鶏のサンドイッチに、生ハムの野菜巻き。
チーズのココット、エトセトラ。
デザートにはメロンやイチゴの、果物の盛り合わせまで有る。
こんなに誰が食べるのかしら。

「ところでジュリエッタ様、車酔いは大丈夫ですか?」

「まあ、普通に大丈夫ですが……。」

「良かった。
実はこれは、レース用の馬車を改造し、競技用の馬をお借りしていますの。
借りると言っても、主人の持ち馬ですから、
足が付く事は有りませんよ。」

「レース……。」

「でも長距離用の馬ですし、スタミナは有りますから大丈夫ですわ。
ただ私は故郷と家を、何度も行き来してますので慣れておりますが、
少々揺れが激いので、ジュリエッタ様は大丈夫か心配しておりましたの。」

そう言いながら、スカーレット様は二つ目のサンドイッチに
手を伸ばしていらっしゃる。

「あら、どうぞジュリエッタ様も召し上がって下さいませ。
逃亡には体力も大切、
しっかり食べなければ、後々まで持ちません事よ。」

「い、いただきます。」

そう言って、赤いイチゴに手を伸ばした。
どうして私の周りには、こうも胆の座った方が多いのでしょう。
何故か自分は運命にコロコロと遊ばれているような気がした。


やはり食事は控えめにしておいて大正解でした。
やがて馬車は町を通り過ぎ、村を抜ける頃には道は荒る一方。
スピードは落ちたものの、馬車はガタガタとかなり揺れが激しくなっていた。
それでも馬は何事も無さそうに駆けて行く。
こうも揺られ続けて馬車は壊れないにか心配です。

途中で軽い休憩を取りながら進む馬車の中で、
スカーレットは何でもないように、話したり食べたり。
私は合槌をしながら、何とかこの揺れと戦っていました。

「そう言えば、マリーベル様からのご指示が有りましたね。」

「はひっ?な、何でしたっけぇ。」

揺れと必死に戦っていた私は、いきなりの言葉に戸惑った。

「ほら、私とあなたの続柄を決めておくようにと会ったでしょう?」

そう言えばそんな話が有ったっけ。

「あ、あの、よ、宜しければ、スカーレット様に、お、お任せしても……。」

「え、私が決めてもいいのですか?
任せて!
とても面白い設定を考えますわ。」

スカーレット様はワクワクとした表情で意気込んでいる。

「えっと、実はあなたと私は生き別れた姉妹で~、
それから……、最近引き取られた先の人が亡くなって
残された手紙で身元が分かって……、
それを頼りに街に出て来たあなたが王子様と偶然知り合って、
あなたと王子様は恋に落ちて、
王子様の助けで、親の元に辿り着くことが出来て~~。」

「スカーレット様、それは何という小説ですか…。」

「えー、何で分かったの?
”バラ色の運命”って言うの。とってもロマンチックでステキなお話なのよ~。
それからね、王子様と一緒に我が家に来たあなたは、」

「もういいです。私も一緒に考えます。」

という訳で、私はスカーレット様の義理のお兄さんのお嫁さんの妹、
まあ、赤の他人みたいなものだけど、取り合えず繋がりが有る程度でとどめました。

スカーレット様は、つまらないですわとブーたれていましたが、
そんな事にかまってはいられません。


それから何時間か走り続け、一つの村を通り過ぎ、
森にさしかかる頃、前方にちょっとした建物が見えてきました。

「お疲れになったでしょうジュリエッタ様。」

あぁ、ようやくあそこが目的地……、ではないですよね、多分。
日も傾き、星が瞬き始めています。

「無理は禁物、今日はあそこで休みましょう。」

いえ……十分無理をしたと思います。
あえて、口には出しませんが。
私は座っていただけとはいえ、もうヘロヘロです。

「でもジュリエッタ様が、追っ手の事が心配で早く前へ進みたいのであれば、
馬を変え進む事も出来ますよ。」

「いえ…、ご心配ありがとうございます。
でもこれから先は森が深いような気がします。
此処で無理をして、  森の中で獣にでも襲われでもしたらそれこそです。
残念ですが、今日はお言葉に甘えて此処で休ませていただきます。」

「そうですわね。それが宜しいかと。」

それから馬車は、その家の敷地に入り、
馬車から飛び降りた御者は高い門をしっかり閉める。
すると家の扉が開き、中からエプロンを掛けた、ふくよかな女性が出てきました。

「まあまあスカーレット様、とお友達の方ですわね。
お待ちしておりましたよ。
さあさ、中に入ってお寛ぎ下さい。
美味しいものも、沢山用意しておきましたよ。」

「ありがとう、クララ。」

そう言って、スカーレット様はその女性を軽く抱き締め、頬にキスをしていた。

「スカーレット様、お知り合いの方ですか?」

それならば、しっかり挨拶をしておかなければ。

「彼女は私の乳母だった人です。
今は引退して、此処で暮らしていますが、
私がグレゴリーと家を行き来する時は、必ずここに寄らせてもらっているのです。」

まあ、だからあれほどまでに親しげだったのですね。
この方なら、きっと信用できる。
そう思った私は、ようやく肩の力を抜くことが出来ました。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。

せいめ
恋愛
 メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。  頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。   ご都合主義です。誤字脱字お許しください。

貴方といると、お茶が不味い

わらびもち
恋愛
貴方の婚約者は私。 なのに貴方は私との逢瀬に別の女性を同伴する。 王太子殿下の婚約者である令嬢を―――。

婚約破棄されたら魔法が解けました

かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」 それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。 「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」 あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。 「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」 死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー! ※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です

【完結】いてもいなくてもいい妻のようですので 妻の座を返上いたします!

ユユ
恋愛
夫とは卒業と同時に婚姻、 1年以内に妊娠そして出産。 跡継ぎを産んで女主人以上の 役割を果たしていたし、 円満だと思っていた。 夫の本音を聞くまでは。 そして息子が他人に思えた。 いてもいなくてもいい存在?萎んだ花? 分かりました。どうぞ若い妻をお迎えください。 * 作り話です * 完結保証付き * 暇つぶしにどうぞ

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。

五月ふう
恋愛
 リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。 「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」  今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。 「そう……。」  マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。    明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。  リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。 「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」  ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。 「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」 「ちっ……」  ポールは顔をしかめて舌打ちをした。   「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」  ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。 だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。 二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。 「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

大切なあのひとを失ったこと絶対許しません

にいるず
恋愛
公爵令嬢キャスリン・ダイモックは、王太子の思い人の命を脅かした罪状で、毒杯を飲んで死んだ。 はずだった。 目を開けると、いつものベッド。ここは天国?違う? あれっ、私生きかえったの?しかも若返ってる? でもどうしてこの世界にあの人はいないの?どうしてみんなあの人の事を覚えていないの? 私だけは、自分を犠牲にして助けてくれたあの人の事を忘れない。絶対に許すものか。こんな原因を作った人たちを。

別れてくれない夫は、私を愛していない

abang
恋愛
「私と別れて下さい」 「嫌だ、君と別れる気はない」 誕生パーティー、結婚記念日、大切な約束の日まで…… 彼の大切な幼馴染の「セレン」はいつも彼を連れ去ってしまう。 「ごめん、セレンが怪我をしたらしい」 「セレンが熱が出たと……」 そんなに大切ならば、彼女を妻にすれば良かったのでは? ふと過ぎったその考えに私の妻としての限界に気付いた。 その日から始まる、私を愛さない夫と愛してるからこそ限界な妻の離婚攻防戦。 「あなた、お願いだから別れて頂戴」 「絶対に、別れない」

【完結】ええと?あなたはどなたでしたか?

ここ
恋愛
アリサの婚約者ミゲルは、婚約のときから、平凡なアリサが気に入らなかった。 アリサはそれに気づいていたが、政略結婚に逆らえない。 15歳と16歳になった2人。ミゲルには恋人ができていた。マーシャという綺麗な令嬢だ。邪魔なアリサにこわい思いをさせて、婚約解消をねらうが、事態は思わぬ方向に。

処理中です...