上 下
36 / 67
第三章 ジュリエッタ逃亡編

逃亡計画

しおりを挟む
「ジュリエッタ、貴方少し姿を消しなさいな。」

はい~?

「おばあ様、姿を消すってもしかして私に家出しろって事?」

おばあ様は、コクリと頷く。

「でも、スティール様に対してよね。
お父様達には断って行ってもいいのよね?」

今度はゆっくりと首を振る。

「何故!?」

「だって、あの人達はあなたの気持ちを確認もせず、
貴方とスティールとの婚約を決めてしまったんのよ?
デーヴィット達にも少しぐらいお灸をすえた方がいいのよ。」

そりゃぁ、親が私に黙って勝手に婚約を決めた時、私もかなり頭にきたけど、
そんなのどの家庭…いや、貴族の間ではかなり普通の事よね。
それを娘は黙って受け入れる事も普通……だよねぇ?

「普通な物ですか。
勝手に結婚相手を決められて、あなた腹が立たないの?
大体にして貴方が小さい頃、いくら私が出掛けていたからって、
何の相談もなくアンドレアとの婚約を決めてしまった時も、
も~腹が立って、腹が立って、腹が立って。」

もしかして、おばあ様は自分に相談が無かった事で腹を立てている?

「結婚には、愛が無ければいけないの!
みすみす、離婚や浮気や不倫の可能性が大きい結婚なんて、
不毛もいい所よ。
大体にして、自分達だって恋愛だったくせに、
いつの間にかそんな俗物になってしまって………ブツブツブツ。」

成程、大恋愛で、ラブラブだったおばあ様ならではの意見ね。
という事で、私の家出は確定なのだろうか……。

おばあ様は、私のお母様方の筋を頼ると
国際問題に発展し兼ねないと言い、
グレゴリー帝国の、自分個人の知り合いに連絡を取る事にしたようだ。

「さて、早速トニアに連絡を取ってみましょう。」

あちらのおばあ様の親戚筋、
ジゼル様の孫にあたるトニアさんは私も知っている人だ。
時々おばあ様を訪ね、遊びに来ていたから面識が有る。

「すぐに彼女に遊びに来てもらいましょう。
そして帰る時は二人で国に帰るの。」

「もしかして、そのもう一人って私の事ですか?
でもおばあ様、私が国を出る時はどうするつもりなの?」

出国する際には、身分証明が必要になる。
それを見られれば、グレゴリーに渡ったと記録を残すようなものだわ。

そう尋ねたが、
おばあ様はすでに、ペンを片手に便箋に向かっていた。

「そんな物どうにでもなりますよ。
私を誰だと思っているの?」

はい…、確かにその通りでした。

「この手紙は大鳩便で送りましょう。
そうすれば、明日中に先方に付くはず。
さ、ジュリエッタ。
あなたは屋敷に帰って用意が整うまで、
いつも通り何事も無かった様にしていなさい。
決行する時は身一つで、誰にも悟らせないように動くのですよ。」

「でもおばあ様。
私は着替えとかお金とか、用意しなくてもいいのですか?
それに、家族に心配をかけてしまうのはちょっと…。」

「ジュリエッタ、あなたスティールと結婚したいの?
あなたが結婚を望んでいるのであれば止めません、私はこの手紙を破り捨てます。
でも、この結婚を望んでいないのであれば、スティールの誕生日の前、
そう婚約していない今の方が、逃げ出すにはいいのではないかしら?
婚約後では、逃げる事も今より難しくなるだろうし、
色々と問題も出てくるのではなくて?」

はい…、確かにその通りです。
それに断ってから家出をするとしても、
例えばお母様に”結婚するのが嫌だから家出します”と断って。
ええ、分かりましたと送り出してくれる筈が無い。
此処はおばあ様の指示に従うしかないだろう。

「用意が整ったならば、連絡をするわ。
あなたはその指示に従うだけでいいの。
分った?」

そう言って小首を傾げるおばあ様。
例え皴が増えたとしても、いつまで経っても可愛いくてずるいわ。
きっと亡くなったおじい様もこんなおばあ様が物凄く可愛くて、
どっぷりと惚れ込んでしまったのでしょうね。


取り合えず、私はいつも通りおばあ様からのお土産のパンを受け取り、
屋敷に戻った。
それから数日、私はおばあ様の呼び出しを待ちながら、さりげなさを装い過ごす。

友人からの誘いが有ればお茶に伺い。
いきなり現れるスティール様にも、いつも通りにふるうるよう気を付けた。

「ねえジュリエッタ。
何か有った?」

目ざといスティール様だから、何か感じたのだろうか。
ひやひやしながら何とかごまかす。

「あと2週間で私の誕生日だよ。
楽しみだねジュリエッタ。」

スティール様のその言葉に、ひたひたと恐怖が迫ってくる。
逃亡を決意した私にとって、それは全然楽しみでは無いの。
今の私には、今回の逃亡劇が成功するか否か、迎えが早く来ないか、
頭の中はその事で一杯です。

「ジュリエッタ。やっぱり君、何かおかしいよ?」


「そう…かもしれませんね。
スティール様、やはり二人の婚約は少し延期した方がよろしいと思うのです。
あなたも国政に乗り出し、色々と覚えなければいけない事が多々あるはず。
それを婚約だ、結婚だと浮かれている時では有りません。
あなたが仕事に少しでも慣れ、落ち着いた時、
改めて婚約を発表した方が宜しいかと思うのですが。」

「ふーん、流石ジュリエッタだね。
国や私の事を考えてくれていたんだ。
でもね、私だってただ浮かれて婚約を決めた訳では無いよ。
ちゃんと同時進行でやれると思ったからこそ、この計画を進言したんだ。
大丈夫、私を信じて。」

そう言ってにっこり笑う。
やっぱりスティール様は考え直してくれないか。
確かに彼なら、仕事も手を抜かず、しっかりやり遂げるでしょう。
でも後二週間か、
おばあ様の事だから、間違い無く私を完璧に連れ出してくれる筈。
スティール様気が付いている?
あなたはこの話が何の落ち度も無く、
自分の考え通りに進んでいると思っているようだけど、
二週間後のあなたの誕生日、多分その時には、私はこの国にいない。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

貴方といると、お茶が不味い

わらびもち
恋愛
貴方の婚約者は私。 なのに貴方は私との逢瀬に別の女性を同伴する。 王太子殿下の婚約者である令嬢を―――。

転生者はチートな悪役令嬢になりました〜私を死なせた貴方を許しません〜

みおな
恋愛
 私が転生したのは、乙女ゲームの世界でした。何ですか?このライトノベル的な展開は。  しかも、転生先の悪役令嬢は公爵家の婚約者に冤罪をかけられて、処刑されてるじゃないですか。  冗談は顔だけにして下さい。元々、好きでもなかった婚約者に、何で殺されなきゃならないんですか!  わかりました。私が転生したのは、この悪役令嬢を「救う」ためなんですね?  それなら、ついでに公爵家との婚約も回避しましょう。おまけで貴方にも仕返しさせていただきますね?

私のことが大嫌いらしい婚約者に婚約破棄を告げてみた結果。

夢風 月
恋愛
 カルディア王国公爵家令嬢シャルロットには7歳の時から婚約者がいたが、何故かその相手である第二王子から酷く嫌われていた。  顔を合わせれば睨まれ、嫌味を言われ、周囲の貴族達からは哀れみの目を向けられる日々。  我慢の限界を迎えたシャルロットは、両親と国王を脅……説得して、自分たちの婚約を解消させた。  そしてパーティーにて、いつものように冷たい態度をとる婚約者にこう言い放つ。 「私と殿下の婚約は解消されました。今までありがとうございました!」  そうして笑顔でパーティー会場を後にしたシャルロットだったが……次の日から何故か婚約を解消したはずのキースが家に押しかけてくるようになった。 「なんで今更元婚約者の私に会いに来るんですか!?」 「……好きだからだ」 「……はい?」  いろんな意味でたくましい公爵令嬢と、不器用すぎる王子との恋物語──。 ※タグをよくご確認ください※

【完結】伝説の悪役令嬢らしいので本編には出ないことにしました~執着も溺愛も婚約破棄も全部お断りします!~

イトカワジンカイ
恋愛
「目には目をおおおお!歯には歯をおおおお!」   どごおおおぉっ!! 5歳の時、イリア・トリステンは虐められていた少年をかばい、いじめっ子をぶっ飛ばした結果、少年からとある書物を渡され(以下、悪役令嬢テンプレなので略) ということで、自分は伝説の悪役令嬢であり、攻略対象の王太子と婚約すると断罪→死刑となることを知ったイリアは、「なら本編にでなやきゃいいじゃん!」的思考で、王家と関わらないことを決意する。 …だが何故か突然王家から婚約の決定通知がきてしまい、イリアは侯爵家からとんずらして辺境の魔術師ディボに押しかけて弟子になることにした。 それから12年…チートの魔力を持つイリアはその魔法と、トリステン家に伝わる気功を駆使して診療所を開き、平穏に暮らしていた。そこに王家からの使いが来て「不治の病に倒れた王太子の病気を治せ」との命令が下る。 泣く泣く王都へ戻ることになったイリアと旅に出たのは、幼馴染で兄弟子のカインと、王の使いで来たアイザック、女騎士のミレーヌ、そして以前イリアを助けてくれた騎士のリオ… 旅の途中では色々なトラブルに見舞われるがイリアはそれを拳で解決していく。一方で何故かリオから熱烈な求愛を受けて困惑するイリアだったが、果たしてリオの思惑とは? 更には何故か第一王子から執着され、なぜか溺愛され、さらには婚約破棄まで!? ジェットコースター人生のイリアは持ち前のチート魔力と前世での知識を用いてこの苦境から立ち直り、自分を断罪した人間に逆襲できるのか? 困難を力でねじ伏せるパワフル悪役令嬢の物語! ※地学の知識を織り交ぜますが若干正確ではなかったりもしますが多めに見てください… ※ゆるゆる設定ですがファンタジーということでご了承ください… ※小説家になろう様でも掲載しております ※イラストは湶リク様に描いていただきました

私と離婚して、貴方が王太子のままでいれるとでも?

光子
恋愛
「お前なんかと結婚したことが俺様の人生の最大の汚点だ!」 ――それはこちらの台詞ですけど? グレゴリー国の第一王子であり、現王太子であるアシュレイ殿下。そんなお方が、私の夫。そして私は彼の妻で王太子妃。 アシュレイ殿下の母君……第一王妃様に頼み込まれ、この男と結婚して丁度一年目の結婚記念日。まさかこんな仕打ちを受けるとは思っていませんでした。 「クイナが俺様の子を妊娠したんだ。しかも、男の子だ!グレゴリー王家の跡継ぎを宿したんだ!これでお前は用なしだ!さっさとこの王城から出て行け!」 夫の隣には、見知らぬ若い女の姿。 舐めてんの?誰のおかげで王太子になれたか分かっていないのね。 追い出せるものなら追い出してみれば? 国の頭脳、国を支えている支柱である私を追い出せるものなら――どうぞお好きになさって下さい。 どんな手を使っても……貴方なんかを王太子のままにはいさせませんよ。 不定期更新。 この作品は私の考えた世界の話です。設定ゆるゆるです。よろしくお願いします。

最初から間違っていたんですよ

わらびもち
恋愛
二人の門出を祝う晴れの日に、彼は別の女性の手を取った。 花嫁を置き去りにして駆け落ちする花婿。 でも不思議、どうしてそれで幸せになれると思ったの……?

婚約破棄?喜んで!復縁?致しません!浮気相手とお幸せに〜バカ王子から解放された公爵令嬢、幼馴染みと偽装婚約中〜

浅大藍未
恋愛
「アンリース。君との婚約を破棄する」 あろうことか私の十六歳の誕生日パーティーで、私の婚約者は私ではない女性の肩を抱いてそう言った。 「かしこまりました殿下。謹んで、お受け致します」 政略結婚のため婚約していたにすぎない王子のことなんて、これっぽちも好きじゃない。 そちらから申し出てくれるなんて、有り難き幸せ。 かと、思っていたら 「アンリース。君と結婚してあげるよ」 婚約破棄をした翌日。元婚約者はそう言いながら大きな花束を渡してきた。

記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。

せいめ
恋愛
 メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。  頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。   ご都合主義です。誤字脱字お許しください。

処理中です...