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2、王女様の護衛でレムリアに出発です。

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毎日の訓練は結構大変で、僕は付いて行くだけで精一杯です。
剣だって、僕の相手をしてくれる人は、手加減してくれているってちゃんと分かっています。
体術だって、他の人に比べて貧弱な僕は、絶対にかなうはずがありません。
だから隊長は、体格などに関係ない戦い方を教えてくれます。
でも、僕はこの戦い方を、何故か知っていました。
相手の勢いを利用して、一本背負い?というやつを無意識にやった時、
隊長は驚いていたようだけど、一杯褒めてくれました。
その時はすごく嬉しかったです。

「エル、あなたには本当に驚かされます。
いったいどこでその戦い方を習ったのですか?
教えた者に嫉妬しそうです。」

「えっ?
えーと、教えてもらった事は無いと思います。
ただ何となく、体が動いてしまっただけです。」

「またエルの何となくですか。
あなたには素晴らしい、秘めたる才能が有るのですね。」

そういって、微笑みながら僕の髪をやさしくなでてくれました。
でもそれは秘めたる才能ではなく、
多分僕の中の記憶のせいだと思います。


ある日僕たちは第二王女様のクリスティーナ様の護衛で、
隣の国レムリアへ行く事になりました。
クリスティーナ様は1週間ほどレムリアに留まり外交を深めるそうです。
でもそれは表向きだと隊長は教えて下さいました。
本当はレムリアの第一王子様とのお見合いだそうです。
そうなんですか。上手く行けばいいですね。

僕は味噌っかすですが、栄えあるの第1部隊の一員です。
当然王女様を守り皆さんとレムリアに行きます。
でも隊長は、僕をレムリアには連れて行きたく無いようです。
途中危険が伴うからというのです。
でも、自分の目の届かない所には置いて行きたくは無い、とも言います。
何か隊長がジレンマ?に陥っていると、先輩たちが言っていました。
いつも僕が心配ばかりかけているから、隊長はそんな気持ちになっているんですね。
でも僕だって隊の一員です。
でも、気を引き締めて、失敗しないように頑張るので、どうぞ一緒に連れて行って下さい。
しかし、どうやら隊の他の皆さんも、同じような考えだったらしいです。
………、皆さん、あまり過保護にされると、何時までも僕は今のままです。
微力ながらも、僕だってこの国を守りたいです。
だからあまり甘やかさないでください。
そして、僕も一緒にレムリアに連れて行ってください。

「そうだな!エルも一緒に行こう。
大丈夫だ、俺たちが全力でエルを守るから。」

‥‥それ違います。その僕の名前のところには、王女様のお名前が入るはずです。

さて、僕の馬はサリアと言う名の雌馬です。
隊長が吟味して、選んでくれたそうです。
色は真っ白でとても綺麗なんです。
おとなしいけど足はとても速いのですが、僕を振り落すように乱暴には走りません。
まるでサリアまで、僕の事を気にかけてくれているみたいです。
そう、サリアは隊長のように、優しくて頼りがいのある馬です。
小柄な僕には大人用の普通の鞍では大きすぎて、
それなら小さい鞍を探さなきゃと思ったのですが、なぜか特注で鞍を作っていただいたみたいです。
ところが、出来上がった鞍は飴色のとてもきれいな皮でできていて、
あおりの部分には、花の模様の細工が入っていました。
これ、ずいぶん高かったんじゃないですか?
僕の為に、そんなお金のかかる事をしないでほしかったのに。
そう隊長に言うと、隊の予算を何かしらに使わなければならなかったので、ちょうど良かったのですよと、にっこり笑いながら言われました。
それならばいいのですが……。

いよいよレムリアに発つ当日、
僕はしっかりと鞍を括り付け、サリアに跨ります。
僕の位置は前から3列目です。
それはまあいいかもしれませんが、僕の隣は隊長で、反対側には副隊長がいます。僕は何故、二人に挟まれて、ここにいるのでしょう?
僕は一番の下っ端のはずです。こんな位置にいていいはず有りません。
僕一番後へ移動しますと言ったんですが、
部隊の皆さんに反対されてしまいました。
そうですよね、一番頼りない僕が、最後尾など守れるわけありません。
では後ろから二番目で……。
すると、後ろから二番目を守っている、ルクソール先輩とジム先輩は喜んで、
おいでおいでと手を振ってくれました。
でも、それ以外の人にやはり反対され、隊長には珍しく怒られてしまいました。
え?違うんですか?
怒られたのは僕ではなく、ルクソール先輩とジム先輩なのですか?
あ、隊長ぶっちゃダメです。
すいません、やはりこの位置でいいです。

隊長の馬はカリオンと言う黒色の雄馬です。
毛並みはとても艶やかで惚れ惚れします。
隊長は僕の黒髪に似ていると何度も何度も撫でています。
隊長は黒色が好きなんでしょうか?
そうだったらうれしいな。
さて、前には3列ずつ12騎の馬が並び、その後に第二王女の乗った馬車です。
馬車の横には左右2騎づつ、
その後ろは残りの馬に乗った隊員の人が並びます。
馬車はあまり振動を与えないように、歩くより少し早い位のスピードで進みます。
普通でしたら5日ほどで着くはずですが、この旅は少々長旅になりそうです。

休憩を取りながら進み、今日の宿泊地グラール侯爵のお屋敷に到着しました。

「疲れたでしょエル、すぐ部屋に案内してもらって休みなさい。」

「でも隊長、まず王女様に休んでいただかなければなりません。
それに僕、サリアの世話をしなくちゃなりませんから。」

「王女様はお付の者に任せてあります。
サリアの世話は私がやっておきましょう。」

「隊長は、カリオンのお世話をしてあげて下さい。」

「しかし、長い間馬に揺られ疲れたでしょう?」

「平気ですよ。」

僕だって騎士の一人です。
そりゃぁ、少しは疲れはしましたが、
普段の訓練に比べたら楽な物です。

「では、二人でカリオンとサリアの世話をしましょうか。」

「はい!サリアも長旅で、疲れている筈です。ちゃんとお世話をしてあげなければ。」

隊長はうれしそうに目を細め、
また僕の髪をなでてくれました。

蹄鉄のチェックや餌やり、ブラッシングなど一通り済んだ後、
僕たちは寝室にと、用意された部屋へ向かいました。
部屋は4人部屋となっており、隊長はどうぞこの部屋へ、と通された一人部屋を断り、
僕達と同じ部屋へやってきました。

「エルッ、お前のベッド此処な!」

と言って、ギール先輩が自分の隣のベッドをポンポンと叩いて僕を呼びます。

「はいっ。」

と僕がそこへ向かおうとすると、

「だめです。」

と言って隊長が僕をポーンッと一番壁際のベッドに放り投げました。

「あなたはそこで休んで下さい。」

そして、隊長は僕の隣のベッドに腰を下ろし、窮屈なブーツを脱ぎ捨て
ごろんと横になりました。

「私たちの食事まで、もう少し時間があるそうです。
少し休みましょう。」

にっこり笑いながらそう言いました。
ギール先輩ともう一人、トッド先輩は小さくため息を吐きながら、

「同じ部屋になれただけでも良しとするか。」

と呟いていました。
皆、偉い隊長と同じ部屋になるのがうれしいんだ。
やっぱり隊長の人気はすごいですね。
でも、隊長、
ドアのところで、アラン先輩が泣きそうな顔でこちらを見てますよ。
今、僕のベッドに隊長がいるって…って聞こえたんですが、
もしかしてこのベッドはアラン先輩のだったんですか?
放っておきなさいって、隊長、先輩がかわいそうです。
先輩は肩を落とし、どこか空いてるベッドにもぐりこむから大丈夫だよと、出て行かれました。
ごめんなさい先輩、でも、アラン先輩のベッドが無くなったのは、隊長がこの部屋に来たせいでしょう?
いくら一人で寂しいからって、無理やりベッドを取ってしまったのだから、隊長も謝まった方がいいと思います。
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