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迎え
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それから数か月経った。
この箱庭は、かなり住み心地が良い。
必要な物、必要な事は魔法で済ませばいい。
見える範囲は自然に溢れている。
でも、散歩をすれば果てはすぐそこだ。
そこから先は、見慣れたコルベラ山の姿が有った。
決して閉じ込められている訳では無かった。
私が出たいと思えば、簡単に出る事が出来る。
だけど私はここから出て行く気にはならなかった。
ガルダは毎日のように出掛ける。
コルベラの主としての仕事をしているのだろう。
「仕事、仕事かぁ。」
今までいろいろな事が有ったから、すっかり忘れていたけど、
あちらでの私の扱いはどうなっているのかな。
多分行方不明で処理されているだろう。
バイト先には迷惑かけちゃったな。
いい人ばかりだったから、多分親類よりは心配してくれているだろう。
「そう言えば、宝物も置いたままだったな。」
初めてお給料で買った、記念の指輪。
ただの銀メッキだったけれど、いつも磨いて大切にしていたんだ。
「今の私なら界を渡る事が出来る筈。
かなり魔力を消費するだろうけど。
暇だし、あの指輪だけでも取りに行こうかな。」
「指輪?宝物が欲しいの?」
いつの間にかガルダが帰っていた。
「宝物なら、いくらでもあげるよ。」
「違うよガルダ。
欲しいのは宝じゃない。
思い出の品だよ。」
「そうか。
マイリはそれを取りに、また遠くに行くの?」
心配しているのだろう。
「行かない。」
私は首をゆっくりと振った。
今はガルダの方が大事だ。
「それなら、代わりに今の思い出をあげる。」
ガルダは右の手の平を開き、緑の石の指輪を出現させた。
「マイリは自然が好きだから。
葉のような色の指輪をあげる。」
「嬉しい、ありがとうガルダ。」
私は早々にそれを指にはめた。
箱庭に差し込む日にキラキラと反射して、とても綺麗だ。
そんな私が嬉しかったのか、ガルダは毎日違った指輪をくれた。
海の色の指輪。
空気の色の指輪。
カラの花を模った指輪。
「ガルダ、こんなに要らない。
これを全部つけると、指の自由が利かなくなる。」
それなら一つずつ、毎日変えればいいだろう。
ガルダはそう言う。
「ガルダ、大切な物は少しの方がいいんだよ。
沢山になると、人は欲に支配されるから。」
「そうか。なるほどな。」
どうやら思い当たる事が有るらしい。
「ふもとの村で、争いが絶えなくなった。
もしかすると俺のせいかもしれない。」
「ガルダのせい?」
「あぁ、俺はこの付近の主だからな。
民の面倒を見るのも俺の務めだ。
だから民を豊かにしやろうと思った。
だが、それが争いの種になったかもしれない。」
そうかもしれないね。
欲に取りつかれたものは、もっともっとと際限なく欲しがるから。
「ちょっと行ってくる。
その欲を全部燃やしてくるよ。」
「全部?」
「全部。」
「それは止めた方がいいよ。
貧困は辛いもの。」
それならどうすればいいのだろう。
ガルダが困っている。
私はガルダを引き寄せ、膝枕をしてやる。
「ガルダはそれを魔法で出したの?
それともどこかで掘り出したの?」
「両方。魔法の方が多かったかな?」
「それなら、その魔法の方を土くれに返しな。
残った物は、きっと欲ではなく宝物になる。
その人の貯えになると思うよ。」
「そうか。」
ガルダは宙に指を走らせ、何かを呟いた後ニッコリと笑った。
あぁ、子供のガルダの顔だ。
私は背を丸め、ガルダの頬にキスを落とす。
あの頃の様に。
それはある日の午後、突然に起こった。
大きな爆発音と、大量の粉塵が舞い上がる。
あぁ、とうとうミンミが業を煮やしたか。
ガルダはいつもの様にお仕事に行っている。
さてミンミは姿の変わった私の事が分かるかな。
分かるだろうな。
今の私の風体は、佐藤美穂だ。
マイリの欠片もない。
だが、ガルダにはすぐに私が私だと分かった。
まぁ、分かってもらえなかったら、きっと私は切れていただろう。
母親が分からないとは何事かと。
何とも理不尽な話だな。
だけどミンミに切れるつもりは無い。
怖いから。
ヒスを起こしたミンミはアラル以上に怖い。
隠れるつもりも無いから、音がした方にのんびりと歩く。
でも良くここが分かったな。
ガルダの結界がうまく私を隠していたのに。
「分からいでか!
魔力を張り巡らして長い事結界を維持した、
こんな異様な物がここに有るんだよ。
警戒するに決まってるでしょ。」
ミンミがいつも通りに怒鳴り散らす。
これはそんなにすごい物なんだ。
「早く出て来なさいよ。
アラルにはうまく言ってあげるから。」
「その前に、再会の感動って無いの?」
「感動?
どの口が言う。
勝手にいなくなって、
ようやく帰って来たのに雲隠れ。
私がどんだけ苦労して、あんたをここまで引き戻したと思ってるの!」
「いなくなったのでは無くて死んだんですけど。」
「同じ事よ!」
人は輪廻の輪から抜ける事は出来ない。
例え過去の記憶が失われようとも。
ただ私の場合、遠くで迷子になっていたけれど。
だけど考えてみれば、今の私は外見は完璧に日本人。
以前のバーリア人の特徴は皆無と言っていいだろう。
こんな私を見たら、アラルはどう思うだろう。
想像するのも怖い。
「やっぱり帰るのよすわ。」
この箱庭は、かなり住み心地が良い。
必要な物、必要な事は魔法で済ませばいい。
見える範囲は自然に溢れている。
でも、散歩をすれば果てはすぐそこだ。
そこから先は、見慣れたコルベラ山の姿が有った。
決して閉じ込められている訳では無かった。
私が出たいと思えば、簡単に出る事が出来る。
だけど私はここから出て行く気にはならなかった。
ガルダは毎日のように出掛ける。
コルベラの主としての仕事をしているのだろう。
「仕事、仕事かぁ。」
今までいろいろな事が有ったから、すっかり忘れていたけど、
あちらでの私の扱いはどうなっているのかな。
多分行方不明で処理されているだろう。
バイト先には迷惑かけちゃったな。
いい人ばかりだったから、多分親類よりは心配してくれているだろう。
「そう言えば、宝物も置いたままだったな。」
初めてお給料で買った、記念の指輪。
ただの銀メッキだったけれど、いつも磨いて大切にしていたんだ。
「今の私なら界を渡る事が出来る筈。
かなり魔力を消費するだろうけど。
暇だし、あの指輪だけでも取りに行こうかな。」
「指輪?宝物が欲しいの?」
いつの間にかガルダが帰っていた。
「宝物なら、いくらでもあげるよ。」
「違うよガルダ。
欲しいのは宝じゃない。
思い出の品だよ。」
「そうか。
マイリはそれを取りに、また遠くに行くの?」
心配しているのだろう。
「行かない。」
私は首をゆっくりと振った。
今はガルダの方が大事だ。
「それなら、代わりに今の思い出をあげる。」
ガルダは右の手の平を開き、緑の石の指輪を出現させた。
「マイリは自然が好きだから。
葉のような色の指輪をあげる。」
「嬉しい、ありがとうガルダ。」
私は早々にそれを指にはめた。
箱庭に差し込む日にキラキラと反射して、とても綺麗だ。
そんな私が嬉しかったのか、ガルダは毎日違った指輪をくれた。
海の色の指輪。
空気の色の指輪。
カラの花を模った指輪。
「ガルダ、こんなに要らない。
これを全部つけると、指の自由が利かなくなる。」
それなら一つずつ、毎日変えればいいだろう。
ガルダはそう言う。
「ガルダ、大切な物は少しの方がいいんだよ。
沢山になると、人は欲に支配されるから。」
「そうか。なるほどな。」
どうやら思い当たる事が有るらしい。
「ふもとの村で、争いが絶えなくなった。
もしかすると俺のせいかもしれない。」
「ガルダのせい?」
「あぁ、俺はこの付近の主だからな。
民の面倒を見るのも俺の務めだ。
だから民を豊かにしやろうと思った。
だが、それが争いの種になったかもしれない。」
そうかもしれないね。
欲に取りつかれたものは、もっともっとと際限なく欲しがるから。
「ちょっと行ってくる。
その欲を全部燃やしてくるよ。」
「全部?」
「全部。」
「それは止めた方がいいよ。
貧困は辛いもの。」
それならどうすればいいのだろう。
ガルダが困っている。
私はガルダを引き寄せ、膝枕をしてやる。
「ガルダはそれを魔法で出したの?
それともどこかで掘り出したの?」
「両方。魔法の方が多かったかな?」
「それなら、その魔法の方を土くれに返しな。
残った物は、きっと欲ではなく宝物になる。
その人の貯えになると思うよ。」
「そうか。」
ガルダは宙に指を走らせ、何かを呟いた後ニッコリと笑った。
あぁ、子供のガルダの顔だ。
私は背を丸め、ガルダの頬にキスを落とす。
あの頃の様に。
それはある日の午後、突然に起こった。
大きな爆発音と、大量の粉塵が舞い上がる。
あぁ、とうとうミンミが業を煮やしたか。
ガルダはいつもの様にお仕事に行っている。
さてミンミは姿の変わった私の事が分かるかな。
分かるだろうな。
今の私の風体は、佐藤美穂だ。
マイリの欠片もない。
だが、ガルダにはすぐに私が私だと分かった。
まぁ、分かってもらえなかったら、きっと私は切れていただろう。
母親が分からないとは何事かと。
何とも理不尽な話だな。
だけどミンミに切れるつもりは無い。
怖いから。
ヒスを起こしたミンミはアラル以上に怖い。
隠れるつもりも無いから、音がした方にのんびりと歩く。
でも良くここが分かったな。
ガルダの結界がうまく私を隠していたのに。
「分からいでか!
魔力を張り巡らして長い事結界を維持した、
こんな異様な物がここに有るんだよ。
警戒するに決まってるでしょ。」
ミンミがいつも通りに怒鳴り散らす。
これはそんなにすごい物なんだ。
「早く出て来なさいよ。
アラルにはうまく言ってあげるから。」
「その前に、再会の感動って無いの?」
「感動?
どの口が言う。
勝手にいなくなって、
ようやく帰って来たのに雲隠れ。
私がどんだけ苦労して、あんたをここまで引き戻したと思ってるの!」
「いなくなったのでは無くて死んだんですけど。」
「同じ事よ!」
人は輪廻の輪から抜ける事は出来ない。
例え過去の記憶が失われようとも。
ただ私の場合、遠くで迷子になっていたけれど。
だけど考えてみれば、今の私は外見は完璧に日本人。
以前のバーリア人の特徴は皆無と言っていいだろう。
こんな私を見たら、アラルはどう思うだろう。
想像するのも怖い。
「やっぱり帰るのよすわ。」
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