2 / 7
脱出と再会
しおりを挟む
ギュっとつぶった目を開く。
ケガを覚悟していたけれど、どうやら無傷の様だ。
「なぜこんな所に穴が有ったのかな。」
中国や日本でも、道に突然穴が開いたニュースをやっていた。
ここでもそれが起きたんだろう。
だいたいの理由は手抜き工事。
地下鉄や下水道の工事の置き土産。
もしくは少しずつ流れた地下水が、
いつの間にか地下を侵食していった可能性もあるな。
「モグラが大群で通過していった。」
有り得ない事を想像し、一人でこっそり笑う。
とは言え、ここを出る方法を考えなくちゃ。
裏通りの人気のないアパート。
6部屋あるアパートに、住人は3人。
もっとも私以外のカップルは、色々な所に泊まり歩いているらしく、
余り姿を見たことが無い。
取り合えず叫んでみる事も考えたが、
近くで工事をしていて、かなりの騒音だ。
私の声が届く筈が無い。
「この土が柔らかくて、崩す事が出来ればいいのに。」
そうすれば坂なり階段のように切り崩して、出る事も可能じゃない?
またお得意の都合のいい想像をした。
でも本気で困ったな。
このままじゃぁ仕事に遅刻しちゃう。
せっかく雇ってもらったコンビニ。
シフトも決まっているし、他の人に迷惑をかけてしまう。
挙句首になったらどうしよう。
もちろんコンビニだけでは生活できないから、バイトは掛け持ちしている。
今日は16時から掃除のバイトだ。
それから私は試しにそっと土を触ってみる。
「嘘、柔らかい。」
でも、柔らかいだけでは足場も何も出来はしない。
それでもやってみる価値はあるよね。
私は近くに落ちていた木の棒を使い、壁面を掘った。
掘って掘って、何故かちょっぴり楽しくなって、
夢中になって掘った。
「これは子供の頃の泥んこ遊びと一緒か。」
砂でお城を作っているような感覚。
他愛も無い事かもしれないけれど、
遣り甲斐が有り、達成感もある。
しかし、物事には終わりがある。
なぜか今、私は地上に出ていた。
「やってみるもんだね。
うわっ、泥だらけだ。
着替えに戻らなくちゃ。」
そう思い、振り返る。
言葉も出ないとはこういう時の事を言うのだろう。
自分は今、全然知らない場所に立っていた。
物凄く高い山か?
下界にはジャングルが生い茂っているように見える。
そして傍らには、一人の男がいかにも機嫌悪そうに、
眉をしかめながら、立っている。
ここに居たなら助けてくれてもいいのに。
そう思ったけれど、助けを求めなかった自分にも責任がある。
「遅い。」
「あっ、ごめんなさい。」
取り合えず謝っておく。
社会に出てから身に付けた処世術だ。
「俺が勝手に思っていただけだ。
謝るな。」
なら、私はどうすれば良かったんだ。理不尽だな。
「ようやく会えた。
長かった。
でも、待った甲斐があった。」
えーと、大変お待たせしました~。
コンビニの定句、は言わないほうがいいだろう。
「俺がお前を殺した。悪かった……。」
「い、いえ。」
意味が分からないから、どうとも取れる返事をしておく。
「許してくれるのか?」
あなたが私を殺した事実がない以上、
私はその謝罪に何て答えればいいのかな。
取り合えず許しておけば全て丸く収まるのだろうか。
「はい。」
「ありがとう。
では出発しよう。」
……軽い。
死は、そんなに単純じゃないだろうに。
ところで出発って、どこへ行くのかな。
見たところ、ここはまるで中央にぽっかりと穴の開いた
狭いテーブルマウンテンのような所だ。
直径30メートルほどの山頂で、周りは高い断崖絶壁。
これを下りるしか生きる道が無いと言われれば、何とか頑張ってみますけど…。
すると、彼の体の輪郭がぼやけ、違う形を成していく。
その動きが止まった時、彼は大きな龍になっていた。
「何で!」
驚いた。
確かに驚きはしたが、それは自分が思っていたほどの驚きでは無かった。
多分いきなりゴキブリが、
自分に向かって飛んで来た時の方が、パニックになっただろう。
「早くしろ、もう日が沈む。
ここの夜の寒さは、お前の体に悪い。」
今はそんなに寒くないけど、夜はかなり冷え込むのか。
「早くしろと言われても、私はどうしたらいいのか分からないよ。」
「おかしな事を言う。
地上に下りるんだろ、以前のように俺に乗るだけだ。」
「以前のようにって、私は龍に乗ったことなんてないデス。
会った事すらないんだから。」
「有るんだ、マイリ。」
どうも話が噛合わない。
噛合わないけど、何となく理解できそうなのは何故なのか。
まるで夢の記憶の様だ。
「それは私の事を言っているのだと思いますが、
私の名前はマイリでは有りません。」
そう私の名は名前は………、
私の名はマイリだ。
何故だろう。
私には佐藤美穂と言う名前が有った。
だが、この場に存在している私の名前はマイリだ。
その存在はマイリ・タカロ、魔術師。
そして先ほど拾った木の杖は、私の分身。
魔力のはけ口。
全て理解できた。
ケガを覚悟していたけれど、どうやら無傷の様だ。
「なぜこんな所に穴が有ったのかな。」
中国や日本でも、道に突然穴が開いたニュースをやっていた。
ここでもそれが起きたんだろう。
だいたいの理由は手抜き工事。
地下鉄や下水道の工事の置き土産。
もしくは少しずつ流れた地下水が、
いつの間にか地下を侵食していった可能性もあるな。
「モグラが大群で通過していった。」
有り得ない事を想像し、一人でこっそり笑う。
とは言え、ここを出る方法を考えなくちゃ。
裏通りの人気のないアパート。
6部屋あるアパートに、住人は3人。
もっとも私以外のカップルは、色々な所に泊まり歩いているらしく、
余り姿を見たことが無い。
取り合えず叫んでみる事も考えたが、
近くで工事をしていて、かなりの騒音だ。
私の声が届く筈が無い。
「この土が柔らかくて、崩す事が出来ればいいのに。」
そうすれば坂なり階段のように切り崩して、出る事も可能じゃない?
またお得意の都合のいい想像をした。
でも本気で困ったな。
このままじゃぁ仕事に遅刻しちゃう。
せっかく雇ってもらったコンビニ。
シフトも決まっているし、他の人に迷惑をかけてしまう。
挙句首になったらどうしよう。
もちろんコンビニだけでは生活できないから、バイトは掛け持ちしている。
今日は16時から掃除のバイトだ。
それから私は試しにそっと土を触ってみる。
「嘘、柔らかい。」
でも、柔らかいだけでは足場も何も出来はしない。
それでもやってみる価値はあるよね。
私は近くに落ちていた木の棒を使い、壁面を掘った。
掘って掘って、何故かちょっぴり楽しくなって、
夢中になって掘った。
「これは子供の頃の泥んこ遊びと一緒か。」
砂でお城を作っているような感覚。
他愛も無い事かもしれないけれど、
遣り甲斐が有り、達成感もある。
しかし、物事には終わりがある。
なぜか今、私は地上に出ていた。
「やってみるもんだね。
うわっ、泥だらけだ。
着替えに戻らなくちゃ。」
そう思い、振り返る。
言葉も出ないとはこういう時の事を言うのだろう。
自分は今、全然知らない場所に立っていた。
物凄く高い山か?
下界にはジャングルが生い茂っているように見える。
そして傍らには、一人の男がいかにも機嫌悪そうに、
眉をしかめながら、立っている。
ここに居たなら助けてくれてもいいのに。
そう思ったけれど、助けを求めなかった自分にも責任がある。
「遅い。」
「あっ、ごめんなさい。」
取り合えず謝っておく。
社会に出てから身に付けた処世術だ。
「俺が勝手に思っていただけだ。
謝るな。」
なら、私はどうすれば良かったんだ。理不尽だな。
「ようやく会えた。
長かった。
でも、待った甲斐があった。」
えーと、大変お待たせしました~。
コンビニの定句、は言わないほうがいいだろう。
「俺がお前を殺した。悪かった……。」
「い、いえ。」
意味が分からないから、どうとも取れる返事をしておく。
「許してくれるのか?」
あなたが私を殺した事実がない以上、
私はその謝罪に何て答えればいいのかな。
取り合えず許しておけば全て丸く収まるのだろうか。
「はい。」
「ありがとう。
では出発しよう。」
……軽い。
死は、そんなに単純じゃないだろうに。
ところで出発って、どこへ行くのかな。
見たところ、ここはまるで中央にぽっかりと穴の開いた
狭いテーブルマウンテンのような所だ。
直径30メートルほどの山頂で、周りは高い断崖絶壁。
これを下りるしか生きる道が無いと言われれば、何とか頑張ってみますけど…。
すると、彼の体の輪郭がぼやけ、違う形を成していく。
その動きが止まった時、彼は大きな龍になっていた。
「何で!」
驚いた。
確かに驚きはしたが、それは自分が思っていたほどの驚きでは無かった。
多分いきなりゴキブリが、
自分に向かって飛んで来た時の方が、パニックになっただろう。
「早くしろ、もう日が沈む。
ここの夜の寒さは、お前の体に悪い。」
今はそんなに寒くないけど、夜はかなり冷え込むのか。
「早くしろと言われても、私はどうしたらいいのか分からないよ。」
「おかしな事を言う。
地上に下りるんだろ、以前のように俺に乗るだけだ。」
「以前のようにって、私は龍に乗ったことなんてないデス。
会った事すらないんだから。」
「有るんだ、マイリ。」
どうも話が噛合わない。
噛合わないけど、何となく理解できそうなのは何故なのか。
まるで夢の記憶の様だ。
「それは私の事を言っているのだと思いますが、
私の名前はマイリでは有りません。」
そう私の名は名前は………、
私の名はマイリだ。
何故だろう。
私には佐藤美穂と言う名前が有った。
だが、この場に存在している私の名前はマイリだ。
その存在はマイリ・タカロ、魔術師。
そして先ほど拾った木の杖は、私の分身。
魔力のはけ口。
全て理解できた。
0
お気に入りに追加
27
あなたにおすすめの小説
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!
暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい!
政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。
ねえ、今どんな気持ち?
かぜかおる
ファンタジー
アンナという1人の少女によって、私は第三王子の婚約者という地位も聖女の称号も奪われた
彼女はこの世界がゲームの世界と知っていて、裏ルートの攻略のために第三王子とその側近達を落としたみたい。
でも、あなたは真実を知らないみたいね
ふんわり設定、口調迷子は許してください・・・
攻略対象の王子様は放置されました
白生荼汰
恋愛
……前回と違う。
お茶会で公爵令嬢の不在に、前回と前世を思い出した王子様。
今回の公爵令嬢は、どうも婚約を避けたい様子だ。
小説家になろうにも投稿してます。
いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持
空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。
その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。
※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。
※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。
悪妃になんて、ならなきゃよかった
よつば猫
恋愛
表紙のめちゃくちゃ素敵なイラストは、二ノ前ト月先生からいただきました✨🙏✨
恋人と引き裂かれたため、悪妃になって離婚を狙っていたヴィオラだったが、王太子の溺愛で徐々に……
最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である
megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる