上 下
67 / 109

美しき軍神

しおりを挟む
本日二度目の投稿です。
ストーリーが繋がらないとお思いの方、前話に戻ってお入りください。

==========


美しい、清い、可憐、可愛らしい、素晴らしい、優しい、その才能。
相変わらず、エレオノーラ様に対する賛辞を力説する殿下。
そんな事もう既に知ってるしー、と反論したいが、あえてぐっと我慢です。
でも、もういいです、もうたくさんです、あなたがエルちゃんに向ける愛情が耳からあふれ出しそうです。

「あ、あの殿下!」
「何だ」

話を遮られ不服そうですが、申し訳ありませんが次に移らせて下さい。

「実は、婚約者様のお母様はあのエクステット侯爵のお嬢様とお聞きしたのですが」
「それをどこで………いや、あなたはシャインブルク殿の婚約者だったな」

あの男なら、どこからか聞きつけてきても不思議はない……と言ってますが、まあその話はそっち経由ではなく、本人から聞きました。
でもあえて私は口を噤む。

「そう、確かに彼女の母親の生家はエクステッド侯爵家だった。君も聞いた事が有るだろう。深淵の貴妃の話を」
「ええ、確か本にもなっていたような気がします」
「それほどの人を母親に持ち、彼女自身もかなりの能力者……そのように素晴らしい女性を私は……。その上私は彼女からも嫌われた、私はバカで、愚かな人間だ。笑えるだろう?それなのに今だって彼女の事が忘れられず、その面影を求めて君の弟にまで会いに来る始末だ………」

はっ……はは…はははははは…………!
突然笑い出した殿下に困惑する。
やばくないか?こいつ今にも壊れちまいそうだぞ。

「殿下、落ち着いて下さい。誰か医者を!」
「そんなもの必要ない!!もし呼ぶなら彼女の下に!!壊れてしまった彼女の体を、誰か直してくれ!!!……………」

そして殿下はテーブルに突っ伏し、わあわあと泣き喚く。
素面のはずなのにこの醜態。
まずい、非常にまずいぞこれは。
一体どうすれば良いんだ。

「そんな事ありません!!」

そう叫ぶエルちゃんが、椅子をけるような勢いで立ち上がり、泣く殿下に食って掛かる。
ちょっと待てエルちゃん。
その流れで行くと、取り返しのつかない進展に成り兼ねないぞ。
私は何も、二人をくっ付けようとした訳ではなく、あんた自身がどれほどの存在かを知ってもらいたいだけなんだ。

「私に医者なんて必要有りません!」

ああぁぁぁぁぁ…………。

「アレクシス様、どうしてそんなにご自分を傷つけるのですか?あなたはとても素晴らしい人なのです。お優しくて、頭も良くとてもお強い。あなたは私にはもったいない方なのです。何よりこの国をまとめ、守っていかなければならない存在なのですよ。そんな方が私の為に動揺するなど有ってはなりません。そんな事でどうするのですか!」
「エ……レオ…ノーラなの…か?」
「あっ!」

驚き顔の殿下、しくじり顔のエレちゃん、私は一体どうすれば良いの?
どうにもならない三つ巴。
その時窓に大きな影が横切った。
見ればリンデン様ではありませんか。
助かった~このまま彼の存在でどさくさに紛れ、話を流してしまおう。

コツコツコツ。
リンデン様が爪先を窓に打ち付け、エレちゃんを呼びます。
トトトト。

「リンデンさん、どうかしたんですか?」

エルちゃんは大きく窓を開け、リンデン様に問いかけます。
よし、これで状況も変わるだろう。

『いや、主となったお主がちっともわしを呼ばんからな。退屈で遊びに来たわ』
「あれ、ごめんなさい。リンデンさんは忙しいとばかり思っていたから、我慢していたの」
『そうか、我慢をしておったのか、可愛い奴じゃの』
「や~ん、可愛いなんて言うの、リンデンさんだけですよ」

こらこらエルちゃん、今までの話を聞いてましたか?
しかしこれを事を見ていた殿下は、ただ茫然としているだけ。
無理もない。
もう会えないと思っていたエレオノーラが目の前にいて、聞いた話と違い元気そうで、その上見た事も無い神獣、ドラゴンとコミュニケーションしている。
もし私でも、どうして良いのか分からんわ。

『おぉそうじゃ、ちと面白い事が有ってな、お前を誘いに来たんだ』
「面白い事って何ですか?」
『この間のスタンピードより大規模な物が起きそうでな。なに、わしが消し去っても良いのじゃが、何やらお主が肉などを大事にせねばいけないと言っていただろう?だから一応知らせに来たんだ』
「スタンピード!」

えっ、エルちゃん今何て言ったの?

「隊長!お肉です!」
「スタンピードよね?」
「はい!」

スタンピードなど、めったに起きないはずなのに、なぜこうも連続して起きるんだ?
まあ仕方が無い、起きるなら阻止せねば。

そこに慌しく足音がし、イカルス殿が飛び込んできた。

「ここかエレオノーラ!今中庭にリンデン殿が降り立ったようだが、何か有ったのか!………あ…アレクシス様?…………」

はい四つ巴、完成です。
でもエレちゃんはリンデン様とお話し中ですから、三つ巴ですかね。

「あっ、兄様、またお肉…スタンピードだそうです。それも前よりでっかいそうですよ。やりましたね!」

エレちゃんとても嬉しそうです。

「前?以前もスタンピードが有ったのか?」

あぁ、アレクシス様、忘れてましたよ。
そう言えばあれ報告しませんでしたものね。
報告すると、エレちゃんの事も言わなくちゃならないから。

「でも、母様は今頃忙しい時間だから、迎えに行けないし、どうしよう……」

もしかしてリン姉様の指示が無いと戦えないと?
そんな事無いですよね。

「何も、前回もお前一人で倒したのだから大丈夫だろう?」
「そうですかね。まあ母様忙しいのに、それを邪魔すると怒られちゃうから」

そう言う軽い問題だろうか……。
でもエレちゃんは、お肉を逃してなるものかとやる気満々。
前回通りリンデン様と行くようで、窓の淵に掛けられたリンデンさんの指を伝い、ウンコラショと、その背中によじ登ろうとしています。

「隊長はどうします?後から隊員さん達と来ますか?」

リンデンさんの背に跨ったエレちゃんがそう言ってくれました。
その姿はとても美しくて凛々しい、まるで戦いの女神の様でした。
しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

三度目の嘘つき

豆狸
恋愛
「……本当に良かったのかい、エカテリナ。こんな嘘をついて……」 「……いいのよ。私に新しい相手が出来れば、周囲も殿下と男爵令嬢の仲を認めずにはいられなくなるわ」 なろう様でも公開中ですが、少し構成が違います。内容は同じです。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません

abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。 後宮はいつでも女の戦いが絶えない。 安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。 「どうして、この人を愛していたのかしら?」 ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。 それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!? 「あの人に興味はありません。勝手になさい!」

元侯爵令嬢は冷遇を満喫する

cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。 しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は 「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」 夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。 自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。 お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。 本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。 ※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈@12/27電子書籍配信
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

大嫌いな幼馴染の皇太子殿下と婚姻させられたので、白い結婚をお願いいたしました

柴野
恋愛
「これは白い結婚ということにいたしましょう」  結婚初夜、そうお願いしたジェシカに、夫となる人は眉を顰めて答えた。 「……ああ、お前の好きにしろ」  婚約者だった隣国の王弟に別れを切り出され嫁ぎ先を失った公爵令嬢ジェシカ・スタンナードは、幼馴染でありながら、たいへん仲の悪かった皇太子ヒューパートと王命で婚姻させられた。  ヒューパート皇太子には陰ながら想っていた令嬢がいたのに、彼女は第二王子の婚約者になってしまったので長年婚約者を作っていなかったという噂がある。それだというのに王命で大嫌いなジェシカを娶ることになったのだ。  いくら政略結婚とはいえ、ヒューパートに抱かれるのは嫌だ。子供ができないという理由があれば離縁できると考えたジェシカは白い結婚を望み、ヒューパートもそれを受け入れた。  そのはず、だったのだが……?  離縁を望みながらも徐々に絆されていく公爵令嬢と、実は彼女のことが大好きで仕方ないツンデレ皇太子によるじれじれラブストーリー。 ※こちらの作品は小説家になろうにも重複投稿しています。

処理中です...