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23、伯爵からの手紙
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「エヴァン様。失礼いたします」
ノアが扉を叩き、エヴァンの部屋に足を踏み入れる。ノアが手にしていたのは、一通の封筒だった。封印の蝋は破られている。この家に送られてくる手紙のほとんどは、まず家令のノアが目を通し、家の者に伝えるかどうか判別するのだ。
「オーダントン伯爵より、リトスロード侯爵閣下へのお手紙を受け取りました」
エヴァンは眉をしかめてノアの手にある手紙に視線を投げた。
ついに動いたらしい。
「内容は?」
「エヴァン様とティリシア様のご婚約に関して、説明を求めたいとのことです。先方は、閣下との面会を望んでいます」
エヴァンはノアから手紙を受け取って、軽く目を通した。
我が屋敷にて説明を求む。来られたし。
エヴァンは口角を上げた。
「あのような伯爵が、侯爵である我が父にわざわざ出向くよう指示するとは。舐められたものだな。あちらは怖いもの知らずと見える」
「そのようで」
完全に喧嘩を売ってきているではないか。文面も威圧的で、下手に出てへりくだる気は一切ないとの意志が透けて見える。
リトスロード侯爵が領地を離れて伏せっているという噂は国中に広がっているはずで、貴族であれば知らない者はいないだろう。その侯爵に来いと言う。
「父上が出るまでもない。私が行こう」
これはエヴァンの問題なのだ。
伯爵の屋敷に行くということは敵地に足を踏み入れるようなものだが、望むところだった。
「私はそいつの面を拝んだことがない。見てやろうじゃないか」
「エヴァン様。レーヴェの言葉遣いを真似しないようお願い申しあげます」
ノアはこの手紙に関して、侯爵であるジュードには報告していないという。何故かと聞けば、問題の過中にいるのはエヴァンであり、エヴァンは一人前の成年貴族であるからまずはエヴァンの意見を聞くべきだと判断したらしい。いつまでも子供扱いされていると拗ねていたが、多少はこの家令にも認められているようだった。
「相手は曲者の魔術師です。力量から見るととるに足りない相手ではありますが、手の内がわかりません。私もお供しましょう」
「ああ、頼んだ」
エヴァンはティリシアを正式な婚約者だと伯爵に伝えるため、求めに応じて彼の屋敷に出向くことを決めた。ティリシアは大いに心配していたが平気だと言い含め、フィアリスの方は信頼しているのか「気をつけてね」とだけ言って送り出してくれた。
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