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20、恋
しおりを挟むもっと大きくなると、レーヴェやフィアリスと共に魔物の駆除へと出かける機会も増えた。
魔物の体液が飛び散り、土煙が立ち昇る中に立つフィアリスは、その凄惨な光景には不似合いのようにも思えたが、彼はいつだってそつなく仕事をこなし、自分の仕事ぶりにも満足いっているようだった。
どれだけ努力しても、なかなか追いつけない。でも、いつか追いつきたいと頑張った。
今はまだ、フィアリスに守られるばかりだった。危ない目に遭いそうになれば必ず彼はエヴァンをかばった。
フィアリスがこの仕事を嫌がっておらず、やりがいを感じているならやめてくれとは言えない。
でもそのうち、自分が力を手にしたら、必ず彼の隣に立とう。そして少しでも、彼の負担を減らしてあげよう。
それだけを考え、エヴァンは弱音も吐かずに鍛錬に励んだ。
「エヴァン、服に植物の種がくっついてる。森の中を通ったからだね。とってあげるから動かないで」
フィアリスがエヴァンに近づいて、せっせと種をとり始める。
綺麗な手、綺麗な顔、綺麗な髪。何もかもが綺麗だ。
こうして近くにいて、この人の存在を感じていると、胸の中がどうにも熱くなる。これは一体、なんなんだろう?
――触り、たい。
エヴァンはフィアリスの手首をつかんだ。
「何?」
フィアリスが顔を上げる。
金色の長い睫毛に縁取られた、黄金の瞳。染み一つない、白い頬。清らかで、背筋にぞくりとしたものが走るほど美しい。
そんなフィアリスの顔が、こんなにも近くにある。
自分は幼い頃、よくも平気で彼の頬に口付けをしたものだ。今では緊張して、そんなことができるとは思えない。
この人はいつも無防備だ。自分がどれほど美しいか、自覚があるのだろうか?
口を開けば案外ひょうきんで、子供っぽいところもあるから神秘さは薄らぐけれど。黙っていると危険なほどの美貌に、震えそうになる。
「自分で取りますから」
このまま指を絡めて、手を繋いでしまいたかった。どうしてそんな気持ちになるのかわからなくて、困惑する。
薄くて血色のよい紅唇に目が吸い寄せられる。それは触れるとどんな感触がするんだろう。きっと柔らかいに違いない。
「もうちょっとだから、取ってしまうよ」
笑って、握られた手を抜くと、また種を取るのにフィアリスは夢中になった。
そんな彼は戦闘時と違ってやはり隙だらけで、唇を奪うなんて容易にできそうだった。
相手は誰なのかは告げず、妙な気持ちになったことをレーヴェに相談してみた。するとレーヴェは「ははん、お前もムラムラする歳になったか」とにやりとした。
健康な証拠だなと背中を叩かれたが、エヴァンとしては複雑だった。
フィアリスはリトスロード家で雇っている人間であり、自分の師であり、男だ。
そんな相手に欲情するのは問題ではないだろうか。
気のせいかもしれない、と意識しないよう生活していたが、自分の本心はいくら苦労して押さえこんでも顔を出す。
フィアリスに触ると幸せだった。フィアリスに触られても幸せだ。
自分にだけ微笑みかけた時のあの笑顔。どこかに保存しておけないかと悩むほどに愛しい。自分のものにできないことが切なくて苦しくなる。
これが恋かと自覚した。
問題はその気持ちをどうするかということだ。
エヴァンが恥ずかしさのあまり素っ気なくしようが、耐えきれなくてべたべた触ろうが、フィアリスは一向に気にしない。エヴァンの恋心に気づいていない。
エヴァンは、気持ちを告げるべきか否か、悶々と悩んだ。
――だって、フィアリスは絶対に困ってしまうから。
だが悩み抜いた末に、成人したら話すことに決めた。自分はフィアリスに正直でいたいし、隠し事はしたくない。
子供の戯言だと軽くとらえられるのは嫌だから、一人前と認められる年齢まで待つことにしたのだ。
だが成人の日が目前に迫ったある日、フィアリスは突然王都に出かけ、いくら待っても帰っては来なかった。
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