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13、軽蔑しないで

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 いくらでも、エデルのことを好きに出来るはずなのに。エデルだって拒む気はなかった。何せ性奴隷であり、そういった奉仕が求められる存在だ。
 生娘ではないのだから、配慮なんて必要ない。
 それなのに、ユリウスはなかなか手出しをしないのだ。あの晩、暗闇の中で触れ合った時すら、最低限のことしかしなかった。

「抱いてほしいんだよ、ユリウス。私を楽にしてくれないか?」

 エデルはユリウスにしがみついて、ゆるく反応し始めている下半身を彼の体に押しつけた。今日は抑制剤を飲んでいない。
 ユリウスはそっとエデルの背中に手を回して、静かに尋ねる。

「……無理をしていませんか?」

 どこまで私に気をつかうのだろう、と切なくなってくる。
 相手の気持ちを察するようにつとめているのだ。ユリウスはきっとこう考えているのだろう。

 ――ああ、やっぱりエデル様にはバレていたんだな。
 ――もしかしたら、助けてもらった礼をしなければと焦っているのかもしれない。
 ――自分は奴隷なのだから、と。

「無理なんてしていない」

 エデルはユリウスへ、強引に口づけをした。ユリウスは拒まずに受け入れる。
 今まで味わってきた魔人の唾液というものは妙に甘ったるくて倦怠感を覚えるような味だったが、ユリウスのものは違った。嫌な感じが少しもない。

 戸惑っている雰囲気のユリウスだったが、口づけが始まるとすぐに貪るように応じてきた。舌を絡ませ、すり合わせているだけで気持ちが良くなってエデルは鼻にかかった声をもらした。
 糸を引きながら唇を離すと、興奮して瞳を鋭くさせたユリウスがどうにか理性を保った顔で声をかけてくる。

「俺のことを軽蔑しないで……エデル様。俺、あなたに嫌われたくない。あなたに嫌われたら、死んでしまう」

 劣情を抱いていた、と気に病んでいるのだろうか。
 嫌う? 私がユリウスを?
 私が最も大事にして、息災であることを望み、地獄から救ってくれたこの子を嫌う理由がどこにある?
 私の体を求めていたからなんだというのだ。こちらが許さなければこの先も手出しをしないに決まっている。ユリウスは魔族の世界で最も紳士な男の一人ではないか。

「私はお前のことが好きだよ、ユリウス」

 そう言えば、ユリウスが体を震わせる。

「お前が嫌でないなら、これをどうにかしてくれ」

 手をつかんで、いよいよ勃ち上がりつつあるものに布の上から触らせる。

「エデル様……!」

 こんなはしたないことをして、こちらこそ愛想を尽かされないか不安になった。
 けれどそんな心配はなく、ユリウスはエデルを軽々と寝台へ運んでいく。
 服を脱ぎながら、「今日は暗くしなくていい」とエデルは言った。

「お前には、私の全てを見てほしいんだ」

 それは複雑な本音であった。
 こうなってしまう前の過去を知っている相手には、隠したい部分がたくさんあった。昔の私と今の私は随分と変わってしまった。ユリウスは知らないだろう。恥部を知られたくない。
 しかし、だからこそ見てもらう必要性があると感じた。

 現実はこうだ、と。かつてのエデル・フォルハインはもういないのだとユリウスにわかってもらわなければならない。
 それによってユリウスが落胆するなら仕方ない。私が卑しい存在であることを、なるべく早く理解してもらう方がいいのだ。
 彼の目の前にいるのは、国を守っていたエデル・フォルハイン辺境伯ではなく、魔人の慰み者である性奴隷のエデルなのだ。

(ユリウスが私と交わることを気に入れば、私のための仕返しになんて意識が向かわなくなるかもしれないしな……)

 体が改造されているのと淫紋の効果があるので、前戯で段階を踏む必要もない。始まればいつだってすぐに迎え入れることができる。
 うつぶせになり突き出した尻に、高ぶったユリウスの先端が触れた。

「いいんですね? エデル」
「ああ」

 期待と不安で喉を鳴らす。向かい合わせですることにならなくてよかったと思った。最初は、顔を見られたくない。
 この期に及んでまだエデルはこう思っている。
 ユリウスに、少しも蔑まれたくない、と。

 矜持の欠片が残っているのが忌々しかった。これほど落ちぶれて、なおかつての従者によく見られたいだなんて、浅ましいにもほどがある。
 こんな格好をしてねだる様子を見れば、ユリウスの中の自分の幻想は砕かれてしまうかもしれない。当然だ。
 けれど。

 ――どうかユリウス。私を、嫌わないでくれ。

 強く目をつぶった時、ユリウスの声が降ってきた。

「嬉しい。大好きです、エデル様……」

 喜色の滲んだ告白にエデルが目を見開いた瞬間、熱く巨大なものが挿入された。
 内臓が押し上げられるような圧迫感と、凄まじい快感が電流のように走ってエデルは声なき悲鳴をあげた。
 さぐるようにぐうっとゆっくり入ってきたユリウスの陰茎は一度引かれて、もう一度奥まで押し込まれる。

「あ……あ、あっ……!!」

 進んでは戻りする運動によって生じる摩擦が、痺れるような快楽となって全身に広がっていく。

「エデル様」

 うっとりとした声でエデルの名を呼んだユリウスは、優しくエデルの腰をつかんだまま、動きを次第に激しくしていく。

「ユリウ……ス、射精の許可を……っ」

 エデルがうめく。
 まだそういった調整がなされてないので、エデルは自分の体を自由にできないのだ。

「そうでした」

 ユリウスは手を淫紋に当てて力をそそぐ。そこへ一気に熱が集まる感覚があり、強く弾けた。

「――ッ、んあ、ああッ――――!!」

 脈打つように、大量の精液が噴出する。男根にまで刻まれている淫紋が青く光っていた。
 強ばっていた体からは一気に力が抜けていく。荒い呼吸をしていると、ユリウスが自身のものを押さえながら引き抜く感覚がした。見て確認できなかったが、彼は外で吐精しているらしい。
 突っ伏して敷布に顔を押しつけていたエデルを、ユリウスが仰向けにする。

「これでもう、大丈夫じゃないですかね」

 何の話だかわからなくて、首をひねりそうになった。
 そういえば、どうにかしてくれと頼んだのだった。確かにこうして処理すれば、もう十分だ。抑制剤を常用しているのもあり、一度吐き出せば体は落ち着くようになっている。
 だからここでしまいにしよう、と言いたいらしい。

「まだ……足りないみたいだ。もう少ししないか?」

 エデルが誘うように足を開くと、さらされた秘部を目にしたユリウスが、物欲しそうな顔をして唇を噛んだ。
 もっと押すべきか、とエデルは足を抱えるようにして上げ、ひくつくそこを見せつける。

「ユリウス、ほしいんだ」

 そんな下品なことを口にしていると、興奮してきて顔が熱くなる。羞恥と背徳感と己に対する軽蔑。それが合わさって欲をかきたて、体が反応する。
 ユリウスは何かを振り切るようにエデルに覆い被さってきた。先ほどよりも乱暴に抽挿する。

 どこもかしこも立派になって、と品のないことを考えながら、怒張したユリウスの陰茎の大きさを体内で感じていた。
 口づけを繰り返しながら、ユリウスから与えられる愉悦に浸る。
 素直に気持ちが良いと思ったのは初めてだ。荒い呼吸の間に名前を呼ばれると胸の中がくすぐったくなる。

 罵倒せず、嘲笑せず、愛おしそうに交わって自分に触れる手を、初めて知った。
 達しそうになったのか、ユリウスは根本をつかんで腰を引こうとする。それを見逃さずに、エデルは足を絡ませて引き留めた。

「……エデル様っ……」
「いいから、中に」
「でも」
「いいんだ。出しなさい、全部」

 抜きかけたのを戻して、言われた通りにユリウスはエデルの中で射精した。

「……っ」

 少し、困った顔をしながら小さく声をもらしている。遠慮をするような顔が愛らしくて、妙に色気もあった。
 どくどくと腹の中に精液が広がっていくのを感じられる。熱い飛沫が奥まで届く。
 ユリウスは深いため息をついた。

「……ごめん、なさい。たくさん出ちゃいました……」
「私が、そうしてくれと頼んだんだよ」

 エデルはユリウスをそっと抱き寄せた。頭を撫でられるユリウスが耳元で囁く。

「俺、あなたが思うような、いい子じゃないんですよ。でも、嫌わないで」

 同じ台詞をそのまま返すよ。
 エデルはしばらく、ユリウスと抱き合いながら彼の頭を撫で続けていた。指に触れる角は魔人の証で、しかし体には人の温もりがあった。
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