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亡霊と夢に沈む白百合
5、夢
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記憶というものは、なくなることがないのだろうか。
十年、五十年、百年。堆積していく記憶の下層は、もう届かない場所にあるとばかり思っていた。
けれど手を差し入れれば、容易に当時のものをすくうことが出来るのだ。或いは、意識とは無関係に、急浮上して顔を出す。
リーリヤは忘れていたつもりだった。思い出しても益のある内容ではなかったし、「もう終わったこと」なのだ。
長く生き、歳を重ねて、様々な思い出が過去を覆い隠していたのだが。
暗い部屋だった。灯りはないこともあったし、あったとしてもごく僅かだ。リーリヤが一人でいる時は。
――リーリヤ。アンリーシャの白百合。
彼が手燭を持って近づいてくる。赤銅色の髪。高貴な身分の者がまとう服。病んだ瞳。
指を鳴らすと壁に紫の火が次々に灯り、燃え上がって、白い色に落ち着いた。
――君は、私のもとから去ったりしないだろうね。
――わかっているだろう、君の価値を知っているのは、この私だけだよ。
――リーリヤ、君は。君はなんて美しいんだろう。
――君を永遠に。
――君の血は特別なんだね。もしかしたら、君は長く生きるんじゃないだろうか。そんな気がするよ。リーリヤ。
――君は私の、
リーリヤは目を覚ました。
夢など久しぶりに見た。昔の記憶だ。
寝台に横たわったまま、深呼吸をする。
まだ夜が明けたばかりで、真新しい光が木々をぬって室内に届いていた。鳥が甲高くさえずる。
どことなく体が重かった。起き上がろうとして身じろぎをすると、足の傷に痛みが走る。我慢をすれば歩けないほどの重傷ではないが、難儀な体であった。
敷布のしわをぼんやりと眺めた。
昨晩ダイが帰ってから、何度も何度も彼の話を頭の中で思い出した。己の記憶と結びつけながら。だからあんな夢を見たのだろう。
――あり得ない。
何かの偶然であれと祈るしかなかった。半年前に山を下りて自分のしでかしたことを思い出すと、楽観主義のリーリヤもさすがに気が重くなった。
いつもは柔らかな弧を描く唇に力が入ってやや歪む。
彼は、もういない。
――赤銅の貴公子は、あの時死んだのだ。
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