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第二部 君に乞う
74、囚われの身
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「ちっとも顔色が変わらないというのはつまらんもんだ」
ノアは咳こみながら、上から降ってくる男の声を聞いていた。
あれから二日ほど経った。
気絶させられて連れてこられたので、ここがどこだかわからない。屋内で、床は土がむき出して、倉庫のようなところらしいが何も置かれておらず、がらんとしている。土の匂いが濃く、普段は作物の貯蔵庫として使われているのかもしれない。
始めから手が出たわけではなかった。だがノアが質問に答えようとしないので、尋問はきついものになり、次第に暴力が加わった。
それも感情的なものではなくて、少しずつ度合いを強めていって反応を確かめているらしい。
今日は数発顔を殴られ、鳩尾に強く蹴りを入れられた。
髭の男は初日以降顔を見せていない。下っ端に任せていると見える。
「お前は、アンリーシャだろう? リトスロード侯爵家の秘密を何か知ってるはずだ。それを聞かせてくれよ。ちょっぴりでいい」
「……私は何も知らない」
初めは無言を貫いていたが、何も言わなければ殴られる。会話をすればその間はぶたれる回数も減るので、多少は口を開くようになっていた。
「何もってことはないだろうが。荒野に建つ侯爵の館には、何か秘密があるって噂だ。何がある?」
「知らない。知らないものは答えられない」
「家令になるって男が、その家について何も知らないなんてことがあるか?」
「私はまだ家令ではない」
胸倉をつかんで体を起こされ、したたかに頬を張られた。そして地面に投げ出される。
質問の内容からして、おそらくこの男達は侯爵家と敵対する勢力の末端の人間だろう。侯爵家の子息達も度々狙われているという。だがまさか自分まで対象になっているとは思わなかった。
リーリヤには言われていたのだ。外に出るときはくれぐれも注意するようにと。しかし自分は特に高貴な身分でもないし、まだ侯爵家の関係者とも言えない。拉致される可能性があるとは考えていなかったのである。
「簡単なことからでいい。何か話してみな? そうしたら、殴るのはよしてやろう」
血の混じる唾液を吐き出す気力がなくて、飲みこんだ。
拘束はされていないが、魔道具のせいで体が重くてろくに身動きが取れない。
別の見張りの男が、「骨でも折ってみればいい」と提案する。
「いや、エレンド様の許可を得てからじゃないとな。こんな細い小僧っ子だ。簡単に骨折って、気絶されたり口もきけなくなったら困るだろ。寝こまれてもなぁ」
いたぶり方が巧妙だった。力加減にも慣れている。うんざりするようなやり口で、少しずつ恐怖心を煽ろうとしていた。
ノアは自分の手首に目をやった。
――もう少しだ。
この魔道具は完全に魔力の流れを封じることができていない。微かにだが魔法は使える。ノアは解除を試みた。術式は解いて、後少しで解放される。
相手もすぐに殺すつもりはないようだし、時間を稼げれば勝機はあった。この枷さえ外れれば、先日のようなへまはしない。
「泣いて騒げば、いじめ甲斐もあったんだが。せめて痛がれよ。涼しい顔して、可愛くねぇな」
ため息をついて、男は歩き回る。
「ちょっと切り傷つけて脅しても、挑発しても効果なし、だ。殴っても蹴ってもこたえてなさそうだし。プライドの高いガキは嫌だねぇ。骨を折ってもいいとか指を切り落としてもいいとか、許可が出るまでやることがない……」
と、立ち止まって指を鳴らした。そして人差し指をノアに向ける。
「女じゃないから思いつかなかった。辱められるってのはどうだ?」
ノアの目がわずかにだが見開いたのに、男は気づいたらしく笑みを深める。
「ああ、考えてみればお前みたいな奴は潔癖そうだし、そういうのが一番こたえるかもな。顔はそこらの女よりも断然綺麗だ。こっちも犯すのに抵抗はない」
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