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第二部 君に乞う

72、彼の過去

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 * * *

 ノアは人を使い、王都での過去のレーヴェルト・エデルルークの動向について調べさせた。
 どうもエデルルークが工作しているらしく、事実を拾うのは少々骨が折れた。
 だがアンリーシャはリトスロード侯爵家の片腕であり、情報収集能力も長けている。エデルルークごときが隠しきれるものではなかった。

 レーヴェがノアに語った話に偽りはなかった。
 散々周囲と揉め、レーヴェはミルドという男に預けられて剣の修行の日々を送る。騎士養成校時代に、王都で謎の騒ぎがあったが、レーヴェが絡んでいたようだった。

 ミルドはレーヴェをかばって負傷しその後死亡。レーヴェと関係があったと思われる娼婦も殺されている。身ごもっていたという件も確認が取れた。
 レーヴェの評判はまちまちであった。
 概ねが、ろくでもないだとか危険だとか、そういったところで芳しくはない。だが一方で、気の良い奴だ、悪人ではない、との証言もある。

 突如暴れて、敵を作り続けてきたのは確かではあるが。

 ――もっと上手く、立ち回れなかったのだろうか。

 ノアは報告書を机に置いた。
 娼婦から生まれたことで、冷遇されたのは想像にかたくないのだが、それにしても、レーヴェは常に反発し、ありとあらゆるものを破壊して生きてきたようだった。

 先日の告白について、何か言うべきだっただろうか。
 しかし彼は同情も励ましも求めていないだろう。多くの人間が他人に対して共感を望むが、レーヴェはそうではないのだ。

 ノアは報告書に目を落とした。
 私用で、調べ物に人を使ってしまった。いや、レーヴェについて知ることは仕事の一環である。エデルルークはリトスロード侯爵家と無関係ではない。内情は知識として得ておくべきだ。

 ――言い訳じみているか。

 ノアは思考を中断した。気持ちを切り替えて、仕事に取り組まなくてはならない。
 リトスロード侯爵領に出る魔物を魔道具で感知する仕組みはアンリーシャが考案したもので、日夜改良を重ねている。それによって得られた情報をまとめ、出現パターンを予期し、駆除の割り当ても考えなければならない。

 今はまだ山にこもっているノアだったが、ここで祖父の仕事を手伝っているのである。
 まだ、レーヴェという存在に心を乱されることはあるが、そういうことにも慣れてきていた。
 いつしか彼は、ノアの中で異物ではなくなっていたのだ。
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