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第二部 君に乞う

66、好きじゃない

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 レーヴェはろくな男ではない。

 誰だってそう評するだろう。態度は不真面目だし、言動は下品である。並外れた強さは認めるが、助けた相手をいきなり強姦するところからして、最低の人間である。

 ――好きじゃない。

 ノアが人生で初めて好悪の対象となったのがレーヴェだった。
 一番嫌なのが、度々部屋を訪れては体を求めてくるところだった。やるべきことが多くて忙しいというのに、レーヴェがやって来ると予定が狂う。

 正確に言うなら、レーヴェというより、応じてしまう自分が嫌なのだった。やめてください、と何度も口では言っている。
 けれど、一度だって本気で抵抗したことはない。結局受け入れてしまうのだ。

 堕落した。快楽の虜になってしまった。
 それに気づいた時にまた、強い怒りを覚えたのだった。欲望というものの恐ろしさを知った。
 レーヴェが深い口づけをする。いつもわけがわからないままにそれを許して、それだけで頭の芯が痺れていく。

 口づけは、まだ足りない、というところでレーヴェがやめてしまうのだ。湿りを帯びた結合。混じり合う体液。口づけというのは交接を連想させる。
 いつかの快楽が呼び起こされる。

 きっと物欲しそうな顔をしているに違いない。レーヴェはノアの顔を見て、性悪な笑みを浮かべる。
 ぐちゅ、ぐちゅ、と淫猥な音が部屋に響いて、ノアは思わず両手で耳を塞ぐ。

(聞きたくない……!)

 自分が漏らすいやらしい声も、行為から生まれる音も。そうするとレーヴェがにやつきながらその手を耳から引きはがして拘束してしまう。

「離し……っ、いやだ!」
「そう言わずに聞けよ。な? この音聞くと、もっと感じないか?」

 ――性悪、性悪、性悪!

 人が嫌がっていることを喜んでするのだ。
 下肢から快感がこみ上げてくる。それが全身に広がって頭の中まで支配する。
 羞恥や理性が萎んで、欲望ばかりが肥大していく。認められるだろうか。その、心地良さを自分が欲しているだなんて。

 いいところを触られたい。もっとよくしてほしい。気持ち良くなりたい。
 いいや、嘘だ。そんなことは思っていない!

 だが最後の抵抗もレーヴェの技によって引き倒されて無様に屈服させられる。
 一切を捨てて快感に乱れている瞬間は、あらゆるものと切り離されて、この世にただ自分とこの男だけがいるような錯覚を覚える。

 胸の突起をいじられて生じる痺れがもどかしい。内腿を撫でる手が勿体ぶっている。もっと強い刺激を期待していた。
 体を割るように図々しく内部に押し入ったレーヴェのものが質量を増し、焦らすようにゆったりと動く。

「は、あ、……ふ、……っ、……っぅ、レーヴェ……、んっ! そこ、は!」
「ここが良いって?」
「違……、ああっ、違う!」

 肉壁をこすられ続け、ふしだらな音がノアを苛んだ。思いとは裏腹に、体は快楽を求め続けてレーヴェのものを懸命に締め上げる。
 もはや前を刺激されなくても、達するように慣らされてしまったのだ。

「レーヴェ……!」

 一気に絶頂へと押し上げられて、快感が破裂する。そして気怠いものが頭の中に降ってきて、ノアを虚脱させるのだった。
 情けなくて、敷き布に顔を埋めるとうっすら浮かんでいた涙がそこに吸われていく。
 飢えは平気だというのに、こればかりは自制するのが難しい。なんて悪いものを覚えてしまったことか。

「ノア、疲れたか?」

 疲れるに決まっている。どんなことより、「これ」が一番消耗する。肉体的にも、精神的にも。
 レーヴェは気遣っているような言葉は口にするものの、すぐにまた膝に手をかけて足を開かせてくるのである。
 とにかく性欲が処理できればレーヴェはそれでいいのだ。こちらの気持ちなど考えたこともないのだろう。

 自慰の仕方も教わった。寂しい時はこうやって遊ぶのだと。必要ないと拒絶しているのに、手をとられて一緒に自身のものをしごかれる。
 ノアの白く細い指と、剣を握るために皮の厚くなった男らしいレーヴェの指が重なる。

「やめ……んんッ」

 口を割られて舌が入ってくる。上顎を舐められ、歯列をなぞられて。ついうっとりとして、こちらからもむさぼるように口を動かしてしまうことすらあった。

 黙ってろよ、好きなんだろ、これが。
 彼はそう言うかのようにせせら笑う。

 ――どうして。どうして受け入れてしまうのか。この男を。

 そんな生活が長いこと続いた。
 静かな日々は一変して、レーヴェがみんな、作り変えていく。
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