66 / 115
第二部 君に乞う
66、好きじゃない
しおりを挟むレーヴェはろくな男ではない。
誰だってそう評するだろう。態度は不真面目だし、言動は下品である。並外れた強さは認めるが、助けた相手をいきなり強姦するところからして、最低の人間である。
――好きじゃない。
ノアが人生で初めて好悪の対象となったのがレーヴェだった。
一番嫌なのが、度々部屋を訪れては体を求めてくるところだった。やるべきことが多くて忙しいというのに、レーヴェがやって来ると予定が狂う。
正確に言うなら、レーヴェというより、応じてしまう自分が嫌なのだった。やめてください、と何度も口では言っている。
けれど、一度だって本気で抵抗したことはない。結局受け入れてしまうのだ。
堕落した。快楽の虜になってしまった。
それに気づいた時にまた、強い怒りを覚えたのだった。欲望というものの恐ろしさを知った。
レーヴェが深い口づけをする。いつもわけがわからないままにそれを許して、それだけで頭の芯が痺れていく。
口づけは、まだ足りない、というところでレーヴェがやめてしまうのだ。湿りを帯びた結合。混じり合う体液。口づけというのは交接を連想させる。
いつかの快楽が呼び起こされる。
きっと物欲しそうな顔をしているに違いない。レーヴェはノアの顔を見て、性悪な笑みを浮かべる。
ぐちゅ、ぐちゅ、と淫猥な音が部屋に響いて、ノアは思わず両手で耳を塞ぐ。
(聞きたくない……!)
自分が漏らすいやらしい声も、行為から生まれる音も。そうするとレーヴェがにやつきながらその手を耳から引きはがして拘束してしまう。
「離し……っ、いやだ!」
「そう言わずに聞けよ。な? この音聞くと、もっと感じないか?」
――性悪、性悪、性悪!
人が嫌がっていることを喜んでするのだ。
下肢から快感がこみ上げてくる。それが全身に広がって頭の中まで支配する。
羞恥や理性が萎んで、欲望ばかりが肥大していく。認められるだろうか。その、心地良さを自分が欲しているだなんて。
いいところを触られたい。もっとよくしてほしい。気持ち良くなりたい。
いいや、嘘だ。そんなことは思っていない!
だが最後の抵抗もレーヴェの技によって引き倒されて無様に屈服させられる。
一切を捨てて快感に乱れている瞬間は、あらゆるものと切り離されて、この世にただ自分とこの男だけがいるような錯覚を覚える。
胸の突起をいじられて生じる痺れがもどかしい。内腿を撫でる手が勿体ぶっている。もっと強い刺激を期待していた。
体を割るように図々しく内部に押し入ったレーヴェのものが質量を増し、焦らすようにゆったりと動く。
「は、あ、……ふ、……っ、……っぅ、レーヴェ……、んっ! そこ、は!」
「ここが良いって?」
「違……、ああっ、違う!」
肉壁をこすられ続け、ふしだらな音がノアを苛んだ。思いとは裏腹に、体は快楽を求め続けてレーヴェのものを懸命に締め上げる。
もはや前を刺激されなくても、達するように慣らされてしまったのだ。
「レーヴェ……!」
一気に絶頂へと押し上げられて、快感が破裂する。そして気怠いものが頭の中に降ってきて、ノアを虚脱させるのだった。
情けなくて、敷き布に顔を埋めるとうっすら浮かんでいた涙がそこに吸われていく。
飢えは平気だというのに、こればかりは自制するのが難しい。なんて悪いものを覚えてしまったことか。
「ノア、疲れたか?」
疲れるに決まっている。どんなことより、「これ」が一番消耗する。肉体的にも、精神的にも。
レーヴェは気遣っているような言葉は口にするものの、すぐにまた膝に手をかけて足を開かせてくるのである。
とにかく性欲が処理できればレーヴェはそれでいいのだ。こちらの気持ちなど考えたこともないのだろう。
自慰の仕方も教わった。寂しい時はこうやって遊ぶのだと。必要ないと拒絶しているのに、手をとられて一緒に自身のものをしごかれる。
ノアの白く細い指と、剣を握るために皮の厚くなった男らしいレーヴェの指が重なる。
「やめ……んんッ」
口を割られて舌が入ってくる。上顎を舐められ、歯列をなぞられて。ついうっとりとして、こちらからもむさぼるように口を動かしてしまうことすらあった。
黙ってろよ、好きなんだろ、これが。
彼はそう言うかのようにせせら笑う。
――どうして。どうして受け入れてしまうのか。この男を。
そんな生活が長いこと続いた。
静かな日々は一変して、レーヴェがみんな、作り変えていく。
11
お気に入りに追加
51
あなたにおすすめの小説
イケメンチート王子に転生した俺に待ち受けていたのは予想もしない試練でした
和泉臨音
BL
文武両道、容姿端麗な大国の第二皇子に転生したヴェルダードには黒髪黒目の婚約者エルレがいる。黒髪黒目は魔王になりやすいためこの世界では要注意人物として国家で保護する存在だが、元日本人のヴェルダードからすれば黒色など気にならない。努力家で真面目なエルレを幼い頃から純粋に愛しているのだが、最近ではなぜか二人の関係に壁を感じるようになった。
そんなある日、エルレの弟レイリーからエルレの不貞を告げられる。不安を感じたヴェルダードがエルレの屋敷に赴くと、屋敷から火の手があがっており……。
* 金髪青目イケメンチート転生者皇子 × 黒髪黒目平凡の魔力チート伯爵
* 一部流血シーンがあるので苦手な方はご注意ください
魔性の大公の甘く淫らな執愛の檻に囚われて
アマイ
恋愛
優れた癒しの力を持つ家系に生まれながら、伯爵家当主であるクロエにはその力が発現しなかった。しかし血筋を絶やしたくない皇帝の意向により、クロエは早急に後継を作らねばならなくなった。相手を求め渋々参加した夜会で、クロエは謎めいた美貌の男・ルアと出会う。
二人は契約を交わし、割り切った体の関係を結ぶのだが――
モフモフになった魔術師はエリート騎士の愛に困惑中
risashy
BL
魔術師団の落ちこぼれ魔術師、ローランド。
任務中にひょんなことからモフモフに変幻し、人間に戻れなくなってしまう。そんなところを騎士団の有望株アルヴィンに拾われ、命拾いしていた。
快適なペット生活を満喫する中、実はアルヴィンが自分を好きだと知る。
アルヴィンから語られる自分への愛に、ローランドは戸惑うものの——?
24000字程度の短編です。
※BL(ボーイズラブ)作品です。
この作品は小説家になろうさんでも公開します。
転生悪役令息、雌落ち回避で溺愛地獄!?義兄がラスボスです!
めがねあざらし
BL
人気BLゲーム『ノエル』の悪役令息リアムに転生した俺。
ゲームの中では「雌落ちエンド」しか用意されていない絶望的な未来が待っている。
兄の過剰な溺愛をかわしながらフラグを回避しようと奮闘する俺だが、いつしか兄の目に奇妙な影が──。
義兄の溺愛が執着へと変わり、ついには「ラスボス化」!?
このままじゃゲームオーバー確定!?俺は義兄を救い、ハッピーエンドを迎えられるのか……。
※タイトル変更(2024/11/27)
大好きな旦那様が愛人を連れて帰還したので離縁を願い出ました
昼から山猫
恋愛
戦地に赴いていた侯爵令息の夫・ロウエルが、討伐成功の凱旋と共に“恩人の娘”を実質的な愛人として連れて帰ってきた。彼女の手当てが大事だからと、わたしの存在など空気同然。だが、見て見ぬふりをするのももう終わり。愛していたからこそ尽くしたけれど、報われないのなら仕方ない。では早速、離縁手続きをお願いしましょうか。
君のことなんてもう知らない
ぽぽ
BL
早乙女琥珀は幼馴染の佐伯慶也に毎日のように告白しては振られてしまう。
告白をOKする素振りも見せず、軽く琥珀をあしらう慶也に憤りを覚えていた。
だがある日、琥珀は記憶喪失になってしまい、慶也の記憶を失ってしまう。
今まで自分のことをあしらってきた慶也のことを忘れて、新たな恋を始めようとするが…
「お前なんて知らないから」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる