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第二部 君に乞う

65、酷い男

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 自分は普通ではないのだと思っている。それはもう、どうしようもないのだ。

 そんなことを考える時、ノアは無意識に下腹部を押さえている。
 自分は心も体も普通とは違う。普通の男と違って、定期的に女の器官がここにできる。
 なるべく、その先のことを考えないようにして蓋をした。自分にとってアンリーシャのその体質は、面倒なものであるとノアは認識していた。


 静かな動きのないノアの世界をかき乱すものが、ある日突然、何の前触れもなしに現れた。

 ――レーヴェルト・エデルルーク。

 人生最大の失態でノアが窮地に陥ったのを救ってくれた男の名前。
 殺されるかもしれないと思った時も、恐怖は感じなかった。ただ自分のせいで祖父や周りに迷惑をかけるのは申し訳ないと、淡々と反省した。

 エデルルークの一人が聖剣に選ばれたという情報は伝わってきていた。身のこなしがただ者ではなさそうだったので、確証はないが本人かもしれないとも考えた。
 まさか、体を要求されるとは思っていなかったが。

「抱かせろ」

 そう言われて、戸惑ったのは確かだった。
 性交がどんなものであるかも知っている。興味は微塵もなかったが。一般的に、個人差はあるものの男は女よりも性欲が強く、その欲求を処理するために活発に動こうとするという。子孫を残そうという本能がそうさせるのだろう。

 だが目の前の人物は男で、自分も男である。男を抱く男もいるというのは本に書かれていたし、聞いたこともあった。まさかこの男がそうだとは。
 断れなかった。断ったところで強引に犯されるだろう。それに一応は恩人なので、命以外のものを要求されたのなら応じるべきかもしれない。

 幸い、今は女の月ではないから妊娠はしない。
 ノアは諦めた。一晩の、たった数時間のことで、何かが損なわれるはずもない。じっとしていればいいだけだ。

 だが、その考えは甘かった。
 舐められた瞬間に肌が粟立ち、全身に得体の知れない感覚が駆け抜ける。

 ――嫌だ。

 生まれて初めて、ノアはそう思った。
 おかしな感覚に自分がどうにかなってしまいそうな感じがして、怖くなった。

 恐怖。これが恐怖というものなのだ。いてもたってもいられなくて、心がざわついて、水面が波立つ。逃れなければと体に力が入る。しかしレーヴェルトがそれを許さない。
 誰にも触らせたことがないような場所を無遠慮に、いやらしく撫でて刺激する。

 ――嫌だ、嫌だ……!

 心の準備をする間もなく、あっさりと体を開かれて、貫かれた。熱い塊が動き、次第にそこから信じられないほどの愉悦の波が生まれて広がっていく。

「やっ……、だ! やぁ……」

 おかしくなる。自分が自分でなくなってしまう。まともな思考ができなくなるだなんて初めてだった。快楽が全てを溶かしていく。

「は、……、……っうう、んっ……! あぁっ」

 こんなはしたない声を、自分が出すはずがない。絶対に。

 ――怖い。嫌だ。もうやめて。

 切れ切れに懇願したが、相手は聞く耳を持たない。絶頂を期待する自分がいることに絶望した。乱暴なようでいてどこか丁寧な交わり。何も考えることができなくなって、身を委ねるしかなくなった。

 ノアは十七になるが、精通もまだだった。性的興奮など一度も覚えたことがない。
 執拗にレーヴェルトに突かれて、手でしごかれ、ついに射精した時には、頭の片隅で「ああ、これが」と力なく思ったものだ。徐々に慣らしていかなくても、これほど感じて、勢いよく出るものらしい。それも、変わった体質だからこうなのか。

 ――よくも、こんな目に。

 ノアはレーヴェルトを睨みつけた。身勝手な欲望で私に「要らないもの」を教えた。
 許せなかった。

 繋がりながら睨みつけると、この男は嬉しそうに笑う。酷い男である。
 そうして、ノアは一晩でいくつものことを覚えてしまったのだった。
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