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第二部 君に乞う
62、お仕置き
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深夜を過ぎてもノアは机に向かって書き物をしていた。やがて侯爵家の家令となるには、覚えることが山のようにあるらしい。分野が多岐に渡る。
それにしたって、何をどれほど学ぶならこうしてしょっちゅう勉強することになるのかレーヴェにはわからない。世界中の山脈の名前だとか、どの川にどんな魚が住んでいるとか、隣国の貴族の誰がナッツアレルギーだとかまで記憶しているのだろうか。
「部屋に無断で入らないでくださいと、再三注意をしているはずですが」
振り向くノアの顔は、机に置かれた明かりで照らされている。
「夜這いの予告をしろってこと?」
「レーヴェ。私は忙しいんです」
「全部やろうとしたってどうせできないんだからやめておけよ。お前は力の抜き方ってやつを知らないんだ」
たとえば、百年かかっても読み切れない量の本が積み上がっているとする。ノアはそれをどうにか読もうとするのである。読めないのはわかっていても、限界まで取り組む。
そういう人間は別に珍しくもないし立派ではあるが、ノアは限界の線引きが下手だった。いつも行きすぎるのである。そして自身の体を虐めてしまう結果となる。
できないことが許せない性質なのだ。
「リーリヤにもいい加減まともに睡眠をとれと言われたよな? そんで、お前は今日こそ寝ると約束したはずだ。約束を破ったな」
「……」
「悪い子にはお仕置きだ」
ノアが立ち上がろうとするのを押さえつけて、首の肌に唇をつける。
「あなたはいつもそうやって……邪魔ばかりする……!」
ノアは押し殺した声で抗議をした。
毎回、訪う時には軽い気持ちでレーヴェやって来る。しかしノアの肌を味わうと本気になってしまうのだ。
余裕がなくなって荒々しく手を出しそうになるのを調整するのが苦労する。
「やめてください……っ」
「俺には、やってくださいって聞こえるぜ」
これにはノアも屈辱を感じたのか、レーヴェの手から抜け出そうともがく。
「何で本気で抵抗しない? ええ? 命の恩人だからか?」
「っ……、」
脱がされながらノアは唇を噛んで視線をそらす。
律儀だから、それも原因なのかもしれない。義務感から抱かれている可能性もなくはないだろう。
そう思うと少し苛ついた。
「だったら中途半端に口答えするんじゃねぇよ。俺の言う通りにして恩を返せ」
ノアの瞳が揺れたが、それがどういう感情なのか解釈するのが面倒臭い。
気持ちはどうであるのか知らないが、愛撫をすれば体はしっかり反応する。何をすればどう喜ぶのかレーヴェは知っている。レーヴェの好みもノアは無言のうちに教えこまれていた。
男同士の交わりには、体位も感じやすいものとそうでないものがある。ノアはやはり変わった体質なのかどういう姿勢でも感じやすいし、中が湿潤で滑りがいい。
今夜は少々乱暴にしすぎた。
対面座位で密着して愛撫していると、ノアが弱々しくしがみついてくる。耳元で息を切らせているのを聞き、やりすぎたかなと反省した。
「今日はもう、寝るよな?」
「……、は、い……っ」
「いい子だ」
ノアの後頭部に手を回し、抱きしめる。態勢を変えるとペニスがより深いところまでまたねじこまれ、ノアは可愛い声をあげた。
「ぁん、やっ! 寝、る! ……もう、寝ますから、……離してっ……」
「あとちょっとだけ」
王都を出てから大人になったつもりでいて、随分自分をコントロールできるようなったと思っていた。だというのにどうも、ノアにはそれを乱される。本当の顔を見られそうになる。
(どうしちまったんだろうな、本当に)
ノアの体温を感じながら、レーヴェは少しだけ眉をしかめた。
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