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第二部 君に乞う

61、たまに休ませないと

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 時折レーヴェはノアと連れ立って荒野に出かけた。と言っても魔物が出るような場所ではないから安全だ。
 ノアには鍛錬に付き合ってもらうことがある。広いところを求めると、山の中には見つからなかった。
 ノアが魔法で仮想の敵を出現させる。それは黒いもやでできていて、人間の影のようでもあった。次々にレーヴェは斬っていく。

 ノアが術を仕かけてくることもあり、レーヴェもそれに対して魔法で応戦した。以前よりはレベルが上がってきただろう。

「捕縛の鎖も教えましょう」
「いいよ、攻撃魔法だけで……」

 捕縛の鎖は上位魔法で、習得するのが難しい。対象の相手の動きを封じるだけの術など地味だ。

「覚えておいて損はありませんから」

 そうノアは言って、気が乗らないまま教わることとなったが、意外にもすぐにものにできた。「俺って天才なのかもな」とうそぶくも、ノアはやっぱり無視をする。


 ノアは見たままの通りガリ勉である。
 暇さえあれば勉強しているし、息抜きというものを知らない。四六時中何らかの活動をしていた。それは深夜にまで及び、一週間のうち五日は四時間程度しか睡眠をとらないのである。不健康だ。レーヴェなど予定がなければ十時間は眠っている。

「たまに休ませないと、体に毒だと思うけど」

 レーヴェは茶葉にするハーブを乾燥させるため、いくつかの束にする作業をしていた。これを天日に当たらないように吊して、なるべく短時間で乾かすのだそうだ。
 暇そうにしているとリーリヤにこういうことを手伝わされる。レーヴェも自分で薬を作る機会が多いので、慣れてはいた。

 リーリヤは客人をこき使うくらいには神経が太い男であった。

「あれは私の方針ではないのですよ、レーヴェルト様。無理はするべきではないと教えてきたつもりなのですが。頑固なのですね。実際倒れたことがあるので、どうにかしていただきたいのですが。ノア様が一番苦手なのは自己管理でしょう」
「勉強しすぎでぶっ倒れたのか? くだらんな」

 のびのび育てたというが、のびのびしているのはリーリヤであって、ノアは融通がきかない人間である。神経質だ。
 服の皺をのばす鏝というのがあるが、ノアはあれで着るものをいつもきっちり綺麗にする。着ていればどうせ皺なんてつくのだから無意味だとレーヴェは散々言ってやったが聞く耳を持たなかった。

 何でも完璧にやろうとする奴だが、常に完璧にこなすのは無理な話である。あいつも世間に出ればわかる。そのうち挫折も味わうだろう。

(今から、俺という邪魔が入って、綿密な予定をぶち壊されるという失敗を経験した方がいいんじゃないかな)

 そうだ。それがいい。

「お前はこういうところにいて、溜まらないのか?」
「それが、長寿という病を患っているためか、生来勃起不全でして」
「それは悪いことを聞いたな」

 だが二百五十年も生きていて仮に絶倫だったとしたら、子孫の数がとんでもないことになるだろう。その方がいいのかもしれない。

 リーリヤもノアと同様、容貌はかなり整っている。こんな浮き世離れしたところにいるから美しくて当然だと思ってしまうが、そこらの町を歩いていれば、全身白という変わった見た目でなかったとしても上玉で、さぞ目立つだろう。
 リーリヤはレーヴェが出会った人間の中でも容姿の良さは五本の指に入る。

「お陰様で、性欲もないので穏やかに生きていられますよ。欲にはトラブルが付き物でしょう」
「そうだな」

 誰も抱かない人生など、飯を食わない人生と同じで、レーヴェにはちょっと想像がつかないが。しかし腹が空かず、飯も食わないで生きていけるなら苦労も不安も少しばかり減るのかもしれない。

 だが欲を捨てたいという願望はない。食事もセックスも、それなりに楽しいところがある。
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