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第一部 聖剣とろくでなし
47、忠誠は誓えない
しおりを挟む出て行く前に、縄を解くよう命じられたのでレーヴェは縛られた手を解放された。
膝を床についたまま、顔も上げずに床の一点を見つめている。こんな不敬な態度をとり続けているのを見れば、またトリヴィスに顔を蹴り上げられそうだった。
「傷は痛むか、レーヴェルトよ」
「……大した怪我ではありません」
そうか、と国王は頷く。
「して、聖剣の使い心地はどうだ? 手に馴染むか」
「はい」
「よく斬れるのか」
「はい」
「なるほど。お前以外の者が持つと、何も斬れぬただ重いだけの剣でしかないそうだからな。やはりお前は使い手だ。使い手が現れたというのは、我が国にとって喜ばしいことだ。しかもお前は相当使いこなしていると聞く」
声音に変化がなく、何を考えているのかがわからない。レーヴェはそろりと視線をあげた。国王は話を続ける。
「お前の素行については聞いている。かなり無茶をやってきたらしいな。実を言うと、お前の処遇については各方面から様々な訴えがあがっているのだ。厳罰を求める声もある。近頃は特に」
それも当然だろう。極端な話、処刑されてもおかしくはない。先日も王宮内の貴重な魔道具をわざと叩き壊している。修理はできないそうだ。
「私はお前の罪については不問に処すつもりでいる。お前は聖剣の使い手、王の騎士として働いてもらおう」
想像しなかった答えに、レーヴェは眉をひそめた。助けてやるからその代わりに、言うことを聞けと言っているのだろうか。
「お言葉ですが、私は叔父上殿の言うように、騎士には向いておりません」
国王はわずかに目を見開いた。レーヴェがまともに喋ったのを面白がっているかのようだ。
「性格の話か? 姿勢の話か。そんなものはどうでもよい。お前の剣士としての才能については報告を受けている。強くて、聖剣を使えるのなら問題ない」
「私は王家に忠誠を誓うことなどできません」
ぶっきらぼうにレーヴェは訴えた。
まずこの恐ろしい宣言だけで、斬り捨てられるか良くて上階の窓から外に突き落とされるだろう。
国王は「ほう」と穏やかに言っただけだった。
「何故だ?」
「何故って……、わからないからです。自分にはわかりません。忠誠というやつがわからない。わからないものは誓えない」
「なるほどな」
国王は頷いている。そこに少しの不快感も怒りも滲んでいない。
レーヴェはだんだんと居心地が悪くなってきた。国王の反応は気味が悪い。
「では、誓わずともよい。繰り返すが私はお前を放逐するつもりはないのだ、レーヴェルトよ。とにかくお前には仕えてもらう」
何と答えればいいものか、レーヴェは考えあぐねた。お断りしますだの嫌ですだのと言ったところで、この調子では「ならん、私のもとで働け」と返され続けるだろう。
王のもとへ引きずられていった時点で、処刑されるか腕か足でも切り落とされるか、よくて国外追放を言い渡されると思っていた。
これほど悪行を重ねてどうしようもないと怒りを買い続け、さらには忠誠心などないと言い放つ男を騎士として仕えさせようとするのだから理解不能である。
「期待されたところで、自分はそれに応えられる人間ではありません」
「わかっておらぬな、レーヴェルト。お前は私の道具の一つである。手放すわけがなかろう」
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