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第一部 聖剣とろくでなし

27、言い寄られてる

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 また怪我をして足を痛めたカロンは、部屋で休んでいた。
 塞ぎこみ、筋肉が張っている方の足を力なくさすっている。
 レーヴェは寝台に転がっているカロンの姿を改めて眺めた。

 見慣れていて忘れがちだが、やはりかなりの美青年ではある。レーヴェの好みではないので特に気もひかれないものの、少年と青年のあわいといった顔立ちは、好きな者は好きだろう。
 茶色の巻き毛はふわふわとしていて、目は大きく、ぷっくりとした唇やら柔らかそうな頬などが余計に童顔に見せていた。

 視線を注がれていても気にすることもなく、カロンは気抜けした様子でいたが、やがて寝返りを打って背中を向けた。無防備な後ろ姿だった。
 レーヴェは近づいていって脚に触れる。その瞬間、カロンはびくりと体を震わせた。

「マッサージしてやろうか?」

 普段こうやってレーヴェが触ってくることなどない。カロンは驚いたように目を見開いたが、払いのけはしなかった。ただ戸惑ったように眉をひそめる。
 ふくらはぎの筋をほぐす。負傷したのは反対の足首の捻挫だが、こちらの筋もおかしくしたようだった。

「気が散ってる限り、怪我は減らないぜ。そのうち取り返しのつかないへまをするだろうな」
「……わかっている」

 カロンは浮かない顔をして、マッサージをするレーヴェの大きな手を見つめていた。カロンの手は小さい。細い指にはたこができていた。その手をぎゅっと握りしめる。
 レーヴェの手が徐々に脚の付け根の方へと上がってくるのに気がついたカロンが、はっとして身を強ばらせた。
 内腿を手が滑る。

「レ、レーヴェルト……っ」

 起こしかけた上体を寝台に無理に倒して、脚をさする。その手が股間の上を通った瞬間、カロンの顔が恐怖にひきつった。
 そのまま手がシャツの中にもぐりこんでくるので、カロンもさすがに制止しようとする。

「何をするんだ……!」

 レーヴェは口の片側の端をつり上げる。

「マッサージって言っただろ? 遠慮するな」
「もう、いい。もう結構だ」
「そう言うなよ」

 本気で抵抗しようと身をよじるのをレーヴェが力ずくで押さえつける。足が痛むせいで力が入りにくいのか、動きは弱々しかった。
 シャツをめくられそうになり、カロンがレーヴェの手をつかむ。

「レーヴェルト、やめろ!」
「俺がここでやめたって、いずれお前は誰かにこうされる」

 カロンが目を見開いた。

「……どういう……意味だ」
「お前は弱くて顔がいい。ここは男ばかりだ。遅かれ早かれ、誰かに強姦されるだろうよ」

 どこにでもある話だ。男だらけの集団の中に見目良い男がいれば、当然性欲処理の対象として狙われるだろう。
 一見品行方正なお坊ちゃん達が集まっているように見えても、雄は雄だ。
 早めに教えておいてやった方がいい。

 レーヴェは男を抱くのも経験済みだった。どちらかと言えば手触りのいい女を抱く方が好きだったが、男娼を相手してみて、さほど悪くないなと思ったものだ。
 服を脱がされそうになるのをカロンは阻止しようとするが、どこか力が入らない。こんな程度の嫌がり方では、到底逃げ出すことなんてできないだろう。

「や、め……」

 あらわになった白い肌に舌を這わせると、カロンはのけぞった。あちこちに赤い痕をつけていき、胸の突起を吸いあげると、カロンがたまらず甘い声をもらす。

「結構感じやすいんじゃん」

 笑うレーヴェに、わずかに息を乱すカロンは体を震わせている。怯えきったその姿は、捕食されそうになっている小動物によく似ていた。

「もう、やめてくれ……」
「嫌だね」

 意外だったのは、拒否をしながらも抵抗がさほどでもなかったことだ。暴れるようなら殴って押さえつけてやろうかと思っていたが、案外受け入れている。
 足が痛むと言っても動けないほどではないし、ひ弱な女と違って鍛えているのでそれなりに反撃には出られるはずなのだが。

「お前さぁ、あいつに言い寄られてるんだろ?」
「あいつ……?」
「ウィリエンス」

 その名を出した瞬間、カロンは目をむいた。驚愕に表情が凍りつく。

「あいつがあちこちでつまみ食いしてるってのは有名な話だ。誰もおおっぴらには口に出さないけどな」

 公爵子息であるウィリエンスに逆らえるものなど誰もいない。見習い同士の問題ではなく、家と家との問題に発展するからだ。
 気に入った青年に目をつけては、ウィリエンスは暇つぶしに抱いているという。もはや公然の秘密だが、誰も咎められない。一見模範生のようだが、裏では傍若無人な王子様のように振る舞っているのである。
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