27 / 115
第一部 聖剣とろくでなし
27、言い寄られてる
しおりを挟むまた怪我をして足を痛めたカロンは、部屋で休んでいた。
塞ぎこみ、筋肉が張っている方の足を力なくさすっている。
レーヴェは寝台に転がっているカロンの姿を改めて眺めた。
見慣れていて忘れがちだが、やはりかなりの美青年ではある。レーヴェの好みではないので特に気もひかれないものの、少年と青年のあわいといった顔立ちは、好きな者は好きだろう。
茶色の巻き毛はふわふわとしていて、目は大きく、ぷっくりとした唇やら柔らかそうな頬などが余計に童顔に見せていた。
視線を注がれていても気にすることもなく、カロンは気抜けした様子でいたが、やがて寝返りを打って背中を向けた。無防備な後ろ姿だった。
レーヴェは近づいていって脚に触れる。その瞬間、カロンはびくりと体を震わせた。
「マッサージしてやろうか?」
普段こうやってレーヴェが触ってくることなどない。カロンは驚いたように目を見開いたが、払いのけはしなかった。ただ戸惑ったように眉をひそめる。
ふくらはぎの筋をほぐす。負傷したのは反対の足首の捻挫だが、こちらの筋もおかしくしたようだった。
「気が散ってる限り、怪我は減らないぜ。そのうち取り返しのつかないへまをするだろうな」
「……わかっている」
カロンは浮かない顔をして、マッサージをするレーヴェの大きな手を見つめていた。カロンの手は小さい。細い指にはたこができていた。その手をぎゅっと握りしめる。
レーヴェの手が徐々に脚の付け根の方へと上がってくるのに気がついたカロンが、はっとして身を強ばらせた。
内腿を手が滑る。
「レ、レーヴェルト……っ」
起こしかけた上体を寝台に無理に倒して、脚をさする。その手が股間の上を通った瞬間、カロンの顔が恐怖にひきつった。
そのまま手がシャツの中にもぐりこんでくるので、カロンもさすがに制止しようとする。
「何をするんだ……!」
レーヴェは口の片側の端をつり上げる。
「マッサージって言っただろ? 遠慮するな」
「もう、いい。もう結構だ」
「そう言うなよ」
本気で抵抗しようと身をよじるのをレーヴェが力ずくで押さえつける。足が痛むせいで力が入りにくいのか、動きは弱々しかった。
シャツをめくられそうになり、カロンがレーヴェの手をつかむ。
「レーヴェルト、やめろ!」
「俺がここでやめたって、いずれお前は誰かにこうされる」
カロンが目を見開いた。
「……どういう……意味だ」
「お前は弱くて顔がいい。ここは男ばかりだ。遅かれ早かれ、誰かに強姦されるだろうよ」
どこにでもある話だ。男だらけの集団の中に見目良い男がいれば、当然性欲処理の対象として狙われるだろう。
一見品行方正なお坊ちゃん達が集まっているように見えても、雄は雄だ。
早めに教えておいてやった方がいい。
レーヴェは男を抱くのも経験済みだった。どちらかと言えば手触りのいい女を抱く方が好きだったが、男娼を相手してみて、さほど悪くないなと思ったものだ。
服を脱がされそうになるのをカロンは阻止しようとするが、どこか力が入らない。こんな程度の嫌がり方では、到底逃げ出すことなんてできないだろう。
「や、め……」
あらわになった白い肌に舌を這わせると、カロンはのけぞった。あちこちに赤い痕をつけていき、胸の突起を吸いあげると、カロンがたまらず甘い声をもらす。
「結構感じやすいんじゃん」
笑うレーヴェに、わずかに息を乱すカロンは体を震わせている。怯えきったその姿は、捕食されそうになっている小動物によく似ていた。
「もう、やめてくれ……」
「嫌だね」
意外だったのは、拒否をしながらも抵抗がさほどでもなかったことだ。暴れるようなら殴って押さえつけてやろうかと思っていたが、案外受け入れている。
足が痛むと言っても動けないほどではないし、ひ弱な女と違って鍛えているのでそれなりに反撃には出られるはずなのだが。
「お前さぁ、あいつに言い寄られてるんだろ?」
「あいつ……?」
「ウィリエンス」
その名を出した瞬間、カロンは目をむいた。驚愕に表情が凍りつく。
「あいつがあちこちでつまみ食いしてるってのは有名な話だ。誰もおおっぴらには口に出さないけどな」
公爵子息であるウィリエンスに逆らえるものなど誰もいない。見習い同士の問題ではなく、家と家との問題に発展するからだ。
気に入った青年に目をつけては、ウィリエンスは暇つぶしに抱いているという。もはや公然の秘密だが、誰も咎められない。一見模範生のようだが、裏では傍若無人な王子様のように振る舞っているのである。
1
お気に入りに追加
51
あなたにおすすめの小説
イケメンチート王子に転生した俺に待ち受けていたのは予想もしない試練でした
和泉臨音
BL
文武両道、容姿端麗な大国の第二皇子に転生したヴェルダードには黒髪黒目の婚約者エルレがいる。黒髪黒目は魔王になりやすいためこの世界では要注意人物として国家で保護する存在だが、元日本人のヴェルダードからすれば黒色など気にならない。努力家で真面目なエルレを幼い頃から純粋に愛しているのだが、最近ではなぜか二人の関係に壁を感じるようになった。
そんなある日、エルレの弟レイリーからエルレの不貞を告げられる。不安を感じたヴェルダードがエルレの屋敷に赴くと、屋敷から火の手があがっており……。
* 金髪青目イケメンチート転生者皇子 × 黒髪黒目平凡の魔力チート伯爵
* 一部流血シーンがあるので苦手な方はご注意ください
魔性の大公の甘く淫らな執愛の檻に囚われて
アマイ
恋愛
優れた癒しの力を持つ家系に生まれながら、伯爵家当主であるクロエにはその力が発現しなかった。しかし血筋を絶やしたくない皇帝の意向により、クロエは早急に後継を作らねばならなくなった。相手を求め渋々参加した夜会で、クロエは謎めいた美貌の男・ルアと出会う。
二人は契約を交わし、割り切った体の関係を結ぶのだが――
モフモフになった魔術師はエリート騎士の愛に困惑中
risashy
BL
魔術師団の落ちこぼれ魔術師、ローランド。
任務中にひょんなことからモフモフに変幻し、人間に戻れなくなってしまう。そんなところを騎士団の有望株アルヴィンに拾われ、命拾いしていた。
快適なペット生活を満喫する中、実はアルヴィンが自分を好きだと知る。
アルヴィンから語られる自分への愛に、ローランドは戸惑うものの——?
24000字程度の短編です。
※BL(ボーイズラブ)作品です。
この作品は小説家になろうさんでも公開します。
転生悪役令息、雌落ち回避で溺愛地獄!?義兄がラスボスです!
めがねあざらし
BL
人気BLゲーム『ノエル』の悪役令息リアムに転生した俺。
ゲームの中では「雌落ちエンド」しか用意されていない絶望的な未来が待っている。
兄の過剰な溺愛をかわしながらフラグを回避しようと奮闘する俺だが、いつしか兄の目に奇妙な影が──。
義兄の溺愛が執着へと変わり、ついには「ラスボス化」!?
このままじゃゲームオーバー確定!?俺は義兄を救い、ハッピーエンドを迎えられるのか……。
※タイトル変更(2024/11/27)
大好きな旦那様が愛人を連れて帰還したので離縁を願い出ました
昼から山猫
恋愛
戦地に赴いていた侯爵令息の夫・ロウエルが、討伐成功の凱旋と共に“恩人の娘”を実質的な愛人として連れて帰ってきた。彼女の手当てが大事だからと、わたしの存在など空気同然。だが、見て見ぬふりをするのももう終わり。愛していたからこそ尽くしたけれど、報われないのなら仕方ない。では早速、離縁手続きをお願いしましょうか。
君のことなんてもう知らない
ぽぽ
BL
早乙女琥珀は幼馴染の佐伯慶也に毎日のように告白しては振られてしまう。
告白をOKする素振りも見せず、軽く琥珀をあしらう慶也に憤りを覚えていた。
だがある日、琥珀は記憶喪失になってしまい、慶也の記憶を失ってしまう。
今まで自分のことをあしらってきた慶也のことを忘れて、新たな恋を始めようとするが…
「お前なんて知らないから」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる