上 下
18 / 115
第一部 聖剣とろくでなし

18、聖剣の威力

しおりを挟む

 * * *

 あれだけ痛めつけたし、数も減っているのだから二度目の襲撃はないだろうとレーヴェは決めつけていた。
 だが最初の襲撃から三日後、二度目の騒ぎが起きた。
 前回に比べれば人数は少ない。全て後方からやって来て、総勢は十人程度だろう。すぐに妙だなとレーヴェは感じた。

 一度目の時より、遙かに腕の立つ者が揃っている。

(逃げた奴らが、強いのを引っ張ってきたのか?)

 だとしたら、何故最初から連れて来なかったのだろう。
 覆面で顔を隠しているからはっきりとは言えないが、あの時逃走した男達はいないように見えた。
 余計な動きはなく、粗野な盗賊とは明らかに質が違う。繰り出される攻撃は素早くて、喉を狙っており、レーヴェは避けるのに苦労した。

 二人がかりで狙われている。剣を弾いて後ずさると、背後に手がのびてきたので飛びすさった。

(向こうの方がガタイがいいし、押し合いすると負けるな)

 なんとか隙をつこうと動いたが、もう一人がまた後ろからつかみかかってきた。

「……っ!」

 ぐい、と背負っている剣をつかまれて、とっさに横によける。

(これは、まさか)

 攻撃はさらに激しくなり、蹴りを入れられて倒れこんだレーヴェはすぐさま立ち上がったが、背中の剣を奪われそうになった。素早く剣を振るって制す。

(……聖剣が狙いか)

 積み荷に意識は向かっていない。執拗に背後を取ろうとするのも、剣が目的だからなのだろう。二人を相手にしながら、レーヴェはミルドの方をうかがった。ミルドも二人ほど相手にしている。
 一人ならともかく、二人となるとさすがにレーヴェも苦戦し、防戦一方になる。しかも相手は連携がとれていて、剣を奪おうと必死だ。

 敵の刃先が頬や腕をかすめる。向こうより勝っているのはスピードなので、素早く動いて攪乱しようとするが限界があった。
 二、三度危うく急所をやられそうになり、焦りが生じる。

「ミ……」

 ミルドに応援を頼もうとして声が出そうになったが、唇を噛んだ。

(助けを求めるなんて、弱い奴がやることだ。みっともない。自分で解決しなけりゃ、勝ったって意味がねぇ)
(俺はこの先、)
(ずっと一人で生きていくんだから。誰かと争いながら)

 レーヴェは手にしていた剣を捨てた。代わりに背中へと手を回す。
 ミルド相手なら聖剣を使うのは卑怯だし、力をつけることに繋がらないから控えていた。だがこうして命の危機にさらされているなら別だろう。状況に応じて、使えるものは使わなければ。

 大体、聖剣が狙われているなら、使ってしまった方が守りやすい。
 くるんでいた布を乱暴にむいて、聖剣を鞘から勢いよく抜いた。男達が少々怯むのが空気で伝わってくる。
 そしてレーヴェはその反応に気を良くし、俄然やる気がわいてきた。
 男達はそれでもすぐに気合いを入れ直して向かってくる。レーヴェは剣を振った。

 ――軽い。

 柄は手に馴染み、以前よりも更に重さを感じなくなっていた。羽のように軽い上に、通常よりも腕が早く動く気がした。これも、聖剣の力なのだろうか。
 目を光らせ、レーヴェは敵の頸を狙った。
 ほとんど手応えらしいものもなかった。

 相手の頭部は、初めからよくくっついてなどいなったかのように綺麗に離れて、宙を舞う。鮮血が吹き出し、胴体もゆっくり傾ぐと倒れていった。
 レーヴェは足を踏ん張って方向を変え、今度はもう一人の胴を狙う。躊躇いはなかった。

 するりと、パンを切るより簡単に、刃は肉体へと食いこんでいった。肉も骨も容易に断つ。そして男は真っ二つになって、呆気なく絶命した。
 レーヴェはぼんやりとそこに散らばる死体を眺め、次いでふつふつと気持ちが昂揚していくのを感じていた。体内で何かが煮えて、そこから立ち上るものが頭の中に充満して気分が良くなる。

 聖剣の刀身には血の一滴もついておらず、美しさは少しも損なわれていなかった。今し方の仕事のことも感じさせない。観賞用の剣のようだ。

(いいねえ)

 レーヴェはにやりと笑った。
 人間に対して使うのは初めてだったが、想像以上に自分と相性が良いようだ。ミルドに鍛えられたおかげで、さらに剣を上手く扱えるようになっている。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

イケメンチート王子に転生した俺に待ち受けていたのは予想もしない試練でした

和泉臨音
BL
文武両道、容姿端麗な大国の第二皇子に転生したヴェルダードには黒髪黒目の婚約者エルレがいる。黒髪黒目は魔王になりやすいためこの世界では要注意人物として国家で保護する存在だが、元日本人のヴェルダードからすれば黒色など気にならない。努力家で真面目なエルレを幼い頃から純粋に愛しているのだが、最近ではなぜか二人の関係に壁を感じるようになった。 そんなある日、エルレの弟レイリーからエルレの不貞を告げられる。不安を感じたヴェルダードがエルレの屋敷に赴くと、屋敷から火の手があがっており……。 * 金髪青目イケメンチート転生者皇子 × 黒髪黒目平凡の魔力チート伯爵 * 一部流血シーンがあるので苦手な方はご注意ください

魔性の大公の甘く淫らな執愛の檻に囚われて

アマイ
恋愛
優れた癒しの力を持つ家系に生まれながら、伯爵家当主であるクロエにはその力が発現しなかった。しかし血筋を絶やしたくない皇帝の意向により、クロエは早急に後継を作らねばならなくなった。相手を求め渋々参加した夜会で、クロエは謎めいた美貌の男・ルアと出会う。 二人は契約を交わし、割り切った体の関係を結ぶのだが――

モフモフになった魔術師はエリート騎士の愛に困惑中

risashy
BL
魔術師団の落ちこぼれ魔術師、ローランド。 任務中にひょんなことからモフモフに変幻し、人間に戻れなくなってしまう。そんなところを騎士団の有望株アルヴィンに拾われ、命拾いしていた。 快適なペット生活を満喫する中、実はアルヴィンが自分を好きだと知る。 アルヴィンから語られる自分への愛に、ローランドは戸惑うものの——? 24000字程度の短編です。 ※BL(ボーイズラブ)作品です。 この作品は小説家になろうさんでも公開します。

『これで最後だから』と、抱きしめた腕の中で泣いていた

和泉奏
BL
「…俺も、愛しています」と返した従者の表情は、泣きそうなのに綺麗で。 皇太子×従者

転生悪役令息、雌落ち回避で溺愛地獄!?義兄がラスボスです!

めがねあざらし
BL
人気BLゲーム『ノエル』の悪役令息リアムに転生した俺。 ゲームの中では「雌落ちエンド」しか用意されていない絶望的な未来が待っている。 兄の過剰な溺愛をかわしながらフラグを回避しようと奮闘する俺だが、いつしか兄の目に奇妙な影が──。 義兄の溺愛が執着へと変わり、ついには「ラスボス化」!? このままじゃゲームオーバー確定!?俺は義兄を救い、ハッピーエンドを迎えられるのか……。 ※タイトル変更(2024/11/27)

大好きな旦那様が愛人を連れて帰還したので離縁を願い出ました

昼から山猫
恋愛
戦地に赴いていた侯爵令息の夫・ロウエルが、討伐成功の凱旋と共に“恩人の娘”を実質的な愛人として連れて帰ってきた。彼女の手当てが大事だからと、わたしの存在など空気同然。だが、見て見ぬふりをするのももう終わり。愛していたからこそ尽くしたけれど、報われないのなら仕方ない。では早速、離縁手続きをお願いしましょうか。

君のことなんてもう知らない

ぽぽ
BL
早乙女琥珀は幼馴染の佐伯慶也に毎日のように告白しては振られてしまう。 告白をOKする素振りも見せず、軽く琥珀をあしらう慶也に憤りを覚えていた。 だがある日、琥珀は記憶喪失になってしまい、慶也の記憶を失ってしまう。 今まで自分のことをあしらってきた慶也のことを忘れて、新たな恋を始めようとするが… 「お前なんて知らないから」

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

処理中です...