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第一部 聖剣とろくでなし
18、聖剣の威力
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あれだけ痛めつけたし、数も減っているのだから二度目の襲撃はないだろうとレーヴェは決めつけていた。
だが最初の襲撃から三日後、二度目の騒ぎが起きた。
前回に比べれば人数は少ない。全て後方からやって来て、総勢は十人程度だろう。すぐに妙だなとレーヴェは感じた。
一度目の時より、遙かに腕の立つ者が揃っている。
(逃げた奴らが、強いのを引っ張ってきたのか?)
だとしたら、何故最初から連れて来なかったのだろう。
覆面で顔を隠しているからはっきりとは言えないが、あの時逃走した男達はいないように見えた。
余計な動きはなく、粗野な盗賊とは明らかに質が違う。繰り出される攻撃は素早くて、喉を狙っており、レーヴェは避けるのに苦労した。
二人がかりで狙われている。剣を弾いて後ずさると、背後に手がのびてきたので飛びすさった。
(向こうの方がガタイがいいし、押し合いすると負けるな)
なんとか隙をつこうと動いたが、もう一人がまた後ろからつかみかかってきた。
「……っ!」
ぐい、と背負っている剣をつかまれて、とっさに横によける。
(これは、まさか)
攻撃はさらに激しくなり、蹴りを入れられて倒れこんだレーヴェはすぐさま立ち上がったが、背中の剣を奪われそうになった。素早く剣を振るって制す。
(……聖剣が狙いか)
積み荷に意識は向かっていない。執拗に背後を取ろうとするのも、剣が目的だからなのだろう。二人を相手にしながら、レーヴェはミルドの方をうかがった。ミルドも二人ほど相手にしている。
一人ならともかく、二人となるとさすがにレーヴェも苦戦し、防戦一方になる。しかも相手は連携がとれていて、剣を奪おうと必死だ。
敵の刃先が頬や腕をかすめる。向こうより勝っているのはスピードなので、素早く動いて攪乱しようとするが限界があった。
二、三度危うく急所をやられそうになり、焦りが生じる。
「ミ……」
ミルドに応援を頼もうとして声が出そうになったが、唇を噛んだ。
(助けを求めるなんて、弱い奴がやることだ。みっともない。自分で解決しなけりゃ、勝ったって意味がねぇ)
(俺はこの先、)
(ずっと一人で生きていくんだから。誰かと争いながら)
レーヴェは手にしていた剣を捨てた。代わりに背中へと手を回す。
ミルド相手なら聖剣を使うのは卑怯だし、力をつけることに繋がらないから控えていた。だがこうして命の危機にさらされているなら別だろう。状況に応じて、使えるものは使わなければ。
大体、聖剣が狙われているなら、使ってしまった方が守りやすい。
くるんでいた布を乱暴にむいて、聖剣を鞘から勢いよく抜いた。男達が少々怯むのが空気で伝わってくる。
そしてレーヴェはその反応に気を良くし、俄然やる気がわいてきた。
男達はそれでもすぐに気合いを入れ直して向かってくる。レーヴェは剣を振った。
――軽い。
柄は手に馴染み、以前よりも更に重さを感じなくなっていた。羽のように軽い上に、通常よりも腕が早く動く気がした。これも、聖剣の力なのだろうか。
目を光らせ、レーヴェは敵の頸を狙った。
ほとんど手応えらしいものもなかった。
相手の頭部は、初めからよくくっついてなどいなったかのように綺麗に離れて、宙を舞う。鮮血が吹き出し、胴体もゆっくり傾ぐと倒れていった。
レーヴェは足を踏ん張って方向を変え、今度はもう一人の胴を狙う。躊躇いはなかった。
するりと、パンを切るより簡単に、刃は肉体へと食いこんでいった。肉も骨も容易に断つ。そして男は真っ二つになって、呆気なく絶命した。
レーヴェはぼんやりとそこに散らばる死体を眺め、次いでふつふつと気持ちが昂揚していくのを感じていた。体内で何かが煮えて、そこから立ち上るものが頭の中に充満して気分が良くなる。
聖剣の刀身には血の一滴もついておらず、美しさは少しも損なわれていなかった。今し方の仕事のことも感じさせない。観賞用の剣のようだ。
(いいねえ)
レーヴェはにやりと笑った。
人間に対して使うのは初めてだったが、想像以上に自分と相性が良いようだ。ミルドに鍛えられたおかげで、さらに剣を上手く扱えるようになっている。
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