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第一部 聖剣とろくでなし
15、許してやらないでもない
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苦痛に満ちた旅はようやく終わり、二人は王都へと戻った。
レーヴェは以前より体力がつき、より俊敏に動けるようになり、観察眼も鋭くなっていた。ミルドが薬に詳しかったため、薬草などの知識も得た。食べられる野草、毒草なども教わった。
だが少しも感謝していない。はっきり言って疲弊していた。
(あんな生活、二度と御免だな)
ミルドが時折飲めと言って差し出す液体は、滋養がつくのか何なのか知らないが不味いし、決まって体調を崩す。ろくなものも食べてないし、厳しい自然の中では娯楽もない。
不便な暮らしはたくさんだった。
やはり人がいるところでなければ。金と女と食い物。そして、睡眠。これが自分には必要だ。
戻ってくるとすぐにエデルルークから使わされた者がやって来て、聖剣が無事であるか確認した。ご苦労なことである。いつも布でくるんで背負っていたし、素材が何なのか知らないが丈夫で、傷一つついていない。
このまま当分は安心して暮らせると思っていたが、ミルドはまた王都を出ると言い出した。
「冗談じゃねぇ。山暮らしはこりごりだぞ」
「山ではない。仕事だ。国をまたいで荷運びをする商人の護衛を頼まれている」
「あんた一人で行けばいいだろ!」
「お前が山で身につけたものは実戦に生かさねば意味がない」
出発は二週間後というから、それまで好きにさせてもらうことにした。
遊ぶ金はあった。アリエラを殴った時に引きちぎった宝石を売ったのだ。屋敷を出る前、どこへやったと問いつめられたが、窓から外に捨てたから知らないとしらを切り通したのだった。
本来の価値を考えれば二束三文で買い叩かれたのだが、まともなところで金に換えれば足がつくし、当面の資金にできればレーヴェとしては満足だった。
あの女の宝飾品が安く売り買いされていると思うと多少は溜飲が下がった。
「よお、レーヴェじゃねーか」
酒場で酒を飲んでいると、だらしのない格好をした連中が近寄ってきた。
レーヴェよりもいくつも年上の乱暴者だ。盗みや暴力ばかりしてこの辺りでのさばっている若者達で、何度かレーヴェも彼らと揉めている。
「相変わらず男前だな、イゴル。俺に感謝しろよ。俺が歯を折ってやったおかげで、凄みが出る顔になったんだからさ」
レーヴェはこのリーダー格のイゴルをこてんぱんにやっつけて、顔を殴った際に歯も折ってやった。イゴルはずっとそれを根に持っていて、やたらつきまとってきたが、レーヴェはイゴルなど眼中にない。今もこうして目の前に現れるまで、存在を忘れていたくらいだ。
「聞いたぜ、お前、あの騎士の貴族、エデルルークのところにいたんだってな。何かやらかして閉じこめられてたのか?」
この話しぶりだと、平民の間にはレーヴェが聖剣の使い手に選ばれたという話は知られていないようだ。というか、聖剣の存在も知る者はほとんどいないだろう。レーヴェだって王宮に引きずっていかれるまでは知らなかった。
「お前には関係のない話だな。さっさとどこかへ消えろよ、目障りだ」
一ヶ月以上酒を飲めなかったのだ。久しぶりなのだから気の済むまで飲みたい。こんなごろつきを相手にしていると酒が不味くなるではないか。
「そう言うなよ。俺達はお前と会いたくて首を長くして待ってたんだぜ」
ため息をついて、レーヴェはコップをテーブルに置いた。
「お前らなんかにモテたって嬉しかねーよ。失せな。こっちは鬱憤がたまってんだ。今日の俺は手が出るのが早いぞ」
「望むところだ。俺はな、お前も男前の仲間入りをさせてやりたいんだよ」
ああ、つまり、歯っ欠けになったお返しに歯っ欠けにしてやりたいと。
(くだらねぇ。なんだって帰ってきて早々、こんな馬鹿を相手にしなくちゃなんねーんだよ)
歯くらいで済んでよかった、ありがとう、と泣いて礼を言われてもいいほどだ。手加減してやったのがわからないのだろうか。中途半端に喧嘩をするのが悪かったのだろう。やはりやるなら、徹底的に打ちのめしてやって、力の差を見せつけてやらないとならないらしい。
(けど、だりぃな……。イゴルなんて殴ったって気なんか晴れない)
が、そこでふと、エデルルークのことを思い出した。もしここで大暴れして噂になれば、それは当然エデルルークの耳にも届くだろう。おそらくレーヴェの動向はそれとなく探っているはずだ。
ならばうんと派手にやれば、エデルルークの奴らは嫌がるということだ。
レーヴェはほくそ笑むと、空いている椅子の一つを蹴り倒した。
「イゴル。今床を舐めて謝れば、許してやらないでもないぞ。どうする?」
「そうやってほざいていられるのも今のうちだ」
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