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第七章 発展
EP188 7.33 姉弟
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ヴィクトス帝国領 リグレア島 アヴィー神殿
僕は暗い水槽の中で両足を抱えてうずくまっている姉イルガを見る。
目に見える外傷はひどくはないものの、
魔力の消耗は激しく何より精神に強いダメージを負っている。
――――私の……逆鱗が――――!
そういって飛び出し、半刻もしないうちにこのような姿で戻ってきた。
イルガがこんな状態になるなんて……。ガルシオン。まさか……。
その状況を知ったゴルガノスは、イルガを強化しろとメリーナに命じたようだ。
「ライガ様。お持ちの錫杖を使わせて頂きたく――――」
メリーナが僕が持つ錫杖を遣わせてほしいと告げてきた。
この錫杖の宝珠にイルガの本核があるからだ。
メリーナはイルガの強化のために
今ある漆黒の“魔力塊”とオリジナルコアを掛け合わせるつもりだ。
これを使わなきゃならないなんてな。
『ライガ』
姉さんの声。頭の中に直接響く。
僕が水槽に手を当てると、姉さんの感情が流れ込んできた。
『ワカラナイ』
『クルシイ』
『カナシイ』
『……アイシテル』
それをずっと繰り返してる。
今回損傷を受けたのは精神だ。
壊れた機械のように。
そんな状態なのに想うのはヤツのこと。
僕のこと――――じゃあ、ない。
ガルキウスのヤツ。
一つになったか……。
複製体では今のガルシオンに通用しなくなってしまった。
――――僕は姉さんを愛してるよ。
イルガは水槽の中から僕の手に自分の手を重ねる。
そして困ったように僕を見て開かれた口は――――
『しってる』
と告げた。
僕らにとって最高の愛情表現は“破壊”だ。
かつてそう教えた男がいた。
イルガがまた丸くなった。
♢♢♢
水晶玉には月明かりの元、微笑み合う男女が映し出される。
ひとりは長い黒髪のガルキウス、そして茶色の髪の星の救世主。
現世の想いを来世に繋げて成就を願う……
星巡りの伝承の幻想に酔いしれているふたり。
「くだらないな」
――――そう。くだらない。
星の番なんて単なる縁つなぎでしかないんだ。
いくら現世で想い合ったとしても、
来世でも想い合えるかなんて誰にもわからない。
星の番なんて美しい言葉に置き換えているけど、
運命って鎖で相互で相手を縛り付けるもの。
姉さんの愛を否定しておきながら、
やってることはガルキウスも同じってことだ。
「結局そういうもんだよね」
水晶玉のふたりを見つめながら僕は頬杖をつく。
もしも本当に現世での想いをそっくりそのまま
来世でも繋げられるとしたら――――
そんな幻想を抱けるいまが一番幸せかもしれない。
「まぁ、このままにしないけどね」
僕らは父親を同じくする姉弟。
ガルキウス……いまはガルシオンだっけ。
自分だけ幸せになろうなんて――――
僕は許さない。
僕は暗い水槽の中で両足を抱えてうずくまっている姉イルガを見る。
目に見える外傷はひどくはないものの、
魔力の消耗は激しく何より精神に強いダメージを負っている。
――――私の……逆鱗が――――!
そういって飛び出し、半刻もしないうちにこのような姿で戻ってきた。
イルガがこんな状態になるなんて……。ガルシオン。まさか……。
その状況を知ったゴルガノスは、イルガを強化しろとメリーナに命じたようだ。
「ライガ様。お持ちの錫杖を使わせて頂きたく――――」
メリーナが僕が持つ錫杖を遣わせてほしいと告げてきた。
この錫杖の宝珠にイルガの本核があるからだ。
メリーナはイルガの強化のために
今ある漆黒の“魔力塊”とオリジナルコアを掛け合わせるつもりだ。
これを使わなきゃならないなんてな。
『ライガ』
姉さんの声。頭の中に直接響く。
僕が水槽に手を当てると、姉さんの感情が流れ込んできた。
『ワカラナイ』
『クルシイ』
『カナシイ』
『……アイシテル』
それをずっと繰り返してる。
今回損傷を受けたのは精神だ。
壊れた機械のように。
そんな状態なのに想うのはヤツのこと。
僕のこと――――じゃあ、ない。
ガルキウスのヤツ。
一つになったか……。
複製体では今のガルシオンに通用しなくなってしまった。
――――僕は姉さんを愛してるよ。
イルガは水槽の中から僕の手に自分の手を重ねる。
そして困ったように僕を見て開かれた口は――――
『しってる』
と告げた。
僕らにとって最高の愛情表現は“破壊”だ。
かつてそう教えた男がいた。
イルガがまた丸くなった。
♢♢♢
水晶玉には月明かりの元、微笑み合う男女が映し出される。
ひとりは長い黒髪のガルキウス、そして茶色の髪の星の救世主。
現世の想いを来世に繋げて成就を願う……
星巡りの伝承の幻想に酔いしれているふたり。
「くだらないな」
――――そう。くだらない。
星の番なんて単なる縁つなぎでしかないんだ。
いくら現世で想い合ったとしても、
来世でも想い合えるかなんて誰にもわからない。
星の番なんて美しい言葉に置き換えているけど、
運命って鎖で相互で相手を縛り付けるもの。
姉さんの愛を否定しておきながら、
やってることはガルキウスも同じってことだ。
「結局そういうもんだよね」
水晶玉のふたりを見つめながら僕は頬杖をつく。
もしも本当に現世での想いをそっくりそのまま
来世でも繋げられるとしたら――――
そんな幻想を抱けるいまが一番幸せかもしれない。
「まぁ、このままにしないけどね」
僕らは父親を同じくする姉弟。
ガルキウス……いまはガルシオンだっけ。
自分だけ幸せになろうなんて――――
僕は許さない。
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