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第一章 異世界転移

EP002 1.2 フニオ

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 ――――ヤバい、ホントもうダメかも。誰か……助けて!!

 心の中で必死に叫ぶ。
 こんな夜の森で助けを求めたって――――。
 でも私はカナタを取り戻すために来たんだ。
 こんなところで、バッドエンディング迎えてらんない!

 ――――走れ! 限界まで! まだ行ける!!

 ひたすら走り続ける私。
 止まれば「死」。走るしか、ない。

 ――――花。――――優花。

 聞いたことのない低音のイケボ。誰か、呼んでる? てか今? 

「だれ? なに? 聞こえないよっ!」

 すると今度は脳内に直接、低音イケボ。しかも半端ない音量。
 ヘッドセットで音楽MAX。

『おい、これならどうだ? 聞こえるか?』

 適度な音量ならドキドキするイケボも、状況+大音量=ゼロ感動。

「聞こえましたよっ! てかデカすぎ! 脳みそ壊れる!」

『すまん。一応伝えるべきかと。この先は崖だ』

「なんですと――!!」

 拓けた道、数十メートル先は崖。
 二択だ。

 ①崖に落ちる ②逃げきれず喰われる

 異世界に来て速攻「バットエンド」って、どんな鬼畜設定なのよっ!

『優花、今すぐ俺の名を呼べ! 俺は、フニオだ!』
 
 まさかの第三の選択肢! ありがとう、フニオっていうだれか!
「助けて、フニオ!!」

 スカートのポケットの石が熱い。
 聖獣の石を取り出すと、石からは白い光が上空に放たれた。手の中は空っぽだ。
 崖を前にして、私は後ろを振り返る。

 直後、上空が煌めいたかと思うと四本の光が降り注ぐ。
 それは無音の白い稲妻。

 四頭の狼が目の前で倒れる。
 まばたきすらできない一瞬の出来事。

 しかし、後からもう一体。
 私のガウン玉を受けた一番大きなヤツ。
 涎をたらした口元。斜め下からいやらしく見上げる血走った赤黒い目。
 仲間が絶命しているにも関わらず、私という獲物しか見えていない。

 すぐに逃げ道を探す。右は崖。行くなら左だ。
 震える足に力を入れ直す。狼が飛びかかる瞬間に……。

「何をしている! よけろ!」

 天からの声に体が硬直する。
 あぁ、タイミングが。
 目の前の狼はすでに地面を蹴ったあとだ。

「しょうがないやつだな。優花、伏せろ!」

 真上の空が光る。え!? このままじゃ私まで……!
 とっさに両手で頭を抱えてその場にしゃがむ。

 「ギャウン!」という狼の声。ドゥと目の前に落ちる獣の体。

 見れば、狼は正面から白い稲妻を受けたのだろう。鼻先が焼け焦げている。
 
 ――――どういうこと? 

 白い稲妻が私に向かって落ちたと思ったのに……。直前で向きを変えた……?

 狼からは黒い靄のような煙が滲みでている。
 そうかと思うと、暗い色の石をその場に残してたちまち姿が消え失せる。
 気づけば周りの四体の狼も姿が消え、同じような色の石だけがその場に残っていた。

 私はペタンとその場に座り込んだ。

「た、助かった、の? ありがとうございます……。あれ?」

 辺りを見回しても救い主の姿が見えない。あれ?
 すると目の前で、白い光の粒子が集まって動物の姿が形成されていく。
 その形は少し大きめな小型犬くらいの大きさ。

 体長五十センチ程度のふさふさした白い毛並み、深い? 色の目。
 端正で凛々しい顔立ちをした、小型獣の姿が現れる。

 うん、小さくて可愛い。それでいてイケボな声を裏切らない姿ね!

「あなた、は……?」
「怯えなくていい。俺はフニオだ」
「フニオ……ってまさか……聖獣?」
「そうだ」

 前言撤回。ネーミング微妙すぎ。
 イケボとカッコいい登場が全部台無しすぎてガッカリ。
 なぜにフニオ。犬といえばとりあえずポチより残念。
 フニフニしてるから? あ、失礼?

「助けてくれてありがとう、ございます。」

 私は立ち上がり、ぺこりとお辞儀する。
 フニオは得意そうにフフンと鼻を鳴らす。

 うっ――――は。
 足が、痛い。それもかなりだ。麻痺していたのかな。

「礼には及ばん。それよりも、その足をなんとかしよう。とりあえず座ってくれ」
「あ、ありがとうございます」

 血まみれのルームシューズ、血が付きところどころ穴が開いたニーハイソックス。
 やっちゃったな。でも、こんな状態で走りきった自分、褒めてあげたい。

 地べたに足を出して座ると、フニオは私に向けて小さく咆哮する。
 白い光の霧が足全体を包み込む。わぁ。魔法だ。さっきの稲妻もそうだけど、こりゃ本物の魔法だ。

「持続的な回復になるが、十分くらいで元通りになるだろう。それまでじっとしていてくれ」

 そう言い終わると、フニオは狼たちが残した紫色の石を一つ一つ咥えて、なんかしてる。
「浄化しておいたぞ」と言いながら、私のスカートの上に落とす。全部で五つ。

「なにこれ?」

 私はその中で一番大きな石を手に取る。
 月明かりではよくわからないけれど、紫の中に別の色が混じってる気がする。

「魔獣核だ。後で人間の住む町に持って行くといい。む……?」
 
 フニオが私の足をじっと見つめている。

「え? どうしたの?」
「いや、治りが……速いな」

 言われてみると、確かに。
 もう十分たった? 体感だけど、まだカップラーメンすら出来てない!
 血まみれのルームシューズと穴だらけのニーハイソックスは変わらないけど、両足の傷は見えない。
 五つの石をポケットにしまって立ち上がる。痛くない。
 すごい。魔法みたいだ。いや、魔法だ。すごい。

「ありがとうございます、聖獣フニオさん!」

 初めての魔法体験に嬉しくなる。魔法は人類の永遠の憧れ! 
 そんな魔法ある世界に異世界転移! こりゃすごい。私も使えちゃう!?

「この程度でそんなに喜ばれてもな。これから長い付き合いになる、俺のことはフニオと呼べ」

 素直にうなずく私。

 私の中で、ポチから聖獣フニオに昇格確定。
 なんか偉そうなのがちょっと気になるけど……あ、聖獣だから偉いのか。
 突如現れたチート級の味方。
 
 なんだか、ちょっとだけ、落ち着く。
 そっか、私。一人で心細かったんだ……。
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