ねえ、センセ。―粘着系年下男子の憂鬱

哀しいほどの空回りの先_4

　成瀬くんは、すぐに自宅謹慎となったらしい。
　らしいというのは、どの先生に聞いてもごまかすように言うばかりで。

　スマホで連絡しても既読にはならず、それが成瀬くんの怒りを表しているみたいだった。
　総合職員室へ連れて行かれた成瀬くんがどんな状況にあるのか、当事者の１人である私に教えてくれる人はいなかった。

「先生、大丈夫ー？」

　2Cの教室に入ると、女子たちが駆け寄ってきた。

「かっこいいと思ってたのに、最低、成瀬先生」

　口々に、信じられないとか最悪とか、成瀬くんを罵る声があがった。

「待って、みんな落ち着いて。なに、どういうこと？」

　慌てて止めると、女子たちは目配せしあった。

「だって、……成瀬先生が、……その、杏ちゃん先生のことを閉じ込めて恋人になれって脅したとかって」

　想像以上に、成瀬くんがあらぬ誤解を受けている。
　
「違う！」

　思わず強く否定した。
　きっと女子たちのその嫌悪感の表情がすべて。
　でも違う。
　そんなの真実じゃない。

「でも杏ちゃん先生」

　心配げな声に頭を振った。
　なんて言えばいいのだろう。
　目の前の子たちの気持ちは嬉しいのに、成瀬くんを否定されるのがこんなに辛い。

　頭を振った。
　違うのだと、成瀬くんはいつだって、私のことを心配はかりで。

「杏ちゃん……？」

「先生どうしたの……？」

　女子たちが私をさらに取り囲んで。

「先生、泣かないで」

「泣かないでよ、杏ちゃん……」

　頭を振り続ける。

「……成瀬くんは」

　声を押し出した。
　女子たちがハッと息を飲むような気配がした。

「成瀬くんは悪くない、悪くないの、むしろ……」

　いつだって助けてくれてばかりで。
　涙が止まらなくて俯いた。

「悪く言わないで、お願い……」

　必死で止めようとしても、涙は止まらなかった。

「彼は全然、悪くない」

　そう言うのが精いっぱいだった。