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第二章 巫女と宦官
20. 裏側では……
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舞い終えた凛月の心の声だった。
◇◇◇
時は遡り、満月の日の早朝。
凛月は瑾萱が起こしにくる前に目を覚まし、すぐに鏡で自分の顔を確認した。
(やっぱり、変わっている……)
鏡には『銀髪・紫目』の女性が映っていた。
昨夜、就寝前から左手に違和感を覚えていたから、なんとなく予感はあった。
それでも一縷の望みをかけていたが、その願いも空しく終わる。
気持ちを切り替え、瑾萱と浩然にどう説明しようかと思案を始めたとき、扉の外に人の気配がした。
「凛月様、おはようございます! 失礼しま~す」
今朝も元気に瑾萱が部屋に入ってくる。しかし、いつもよりも時間が早い。
凛月が顔を隠す間など全くなかった。
「凛月様、今日も良いお天気……」
「おはよう。本当に良いお天気ね」
言葉を失っている瑾萱へ、まずは微笑みかける。
それから、普段通りに挨拶をした。
「驚かせて、ごめんなさい。見た目は変わってしまったけど──」
「誰!?」
事情を説明する前に、瑾萱の悲鳴に近い叫び声が宮中に響き渡った。
◇
叫び声で部屋に駆けつけてきた浩然は、寝台にいる凛月を鋭い目つきで凝視している。
同じ顔でも、髪色や瞳の色が変わるだけで印象は大きく変わる。
不審者だと排除されないよう、凛月は「浩然、私よ!」と声をかけた。
「その声は……凛月様ですか?」
「えっ、凛月様!?」
「そう、姿がこんなことになっているけどね」
幾分落ち着きを取り戻した従者二人へ、凛月は状況の説明を始める。
理由は不明だが、先月から満月の日にだけ髪と瞳の色が変化してしまうことを冷静に語った。
「月鈴国で神託を受けた巫女見習いは、皆この容姿なの。私一人だけが、違っていただけで」
「では、凛月様も本来の姿に戻られたということでしょうか?」
「う~ん、それがよくわからないから、困っているのよね」
前回とは違い、朝になっても元の姿に戻らない。手の証もくっきりとしたままだ。
やはり、師の言う通り巫女としての力がついに覚醒したのだろうか。
問題なのは、明日以降もこの姿のままなのか、また元に戻ってしまうのか。
それによって、今後の凛月の取るべき行動が変わってくる。
黒髪・黒目に戻った場合は、これまで通り。何も変わらない。
しかし、変化したままであれば、もう『宦官の子墨』には戻れない。
国民のほとんどが黒髪・黒目のこの国で、銀髪・紫目は非常に目立つ。目立ちすぎる。
欣怡は異国から嫁いできたことになっているから、問題はない。
子墨の見た目の変化を周囲へどう説明すればいいのか、上手い言い訳が思いつかない。
「まずは、旦那様へご報告をしておきましょう」
「至急の案件ということで、私が直接書簡を届けに参ります」
朝餉のあと、さっそく浩然は宰相へ書簡を届けにいく。
凛月と瑾萱は、今夜の奉納舞の儀式の準備に取り掛かったのだった。
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