【完結】国を追われた巫女見習いは、隣国の後宮で二重に花開く

gari@七柚カリン

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第一章 巫女見習い、追放される

6. 提案

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 面会から数日後、凜月は妃嬪の一人『欣怡シンイー妃』として後宮にひっそりと入内した。
 顔を見られぬように頭から薄い布をすっぽりと被り、人目につく前にそそくさと宮に入ったのだった。
 

 ◇◇◇


 宰相の提案は、こうだった。
 
「わたくし共は、凜月様の巫女としての力を求めております。この国は、まだまだ食料事情が安定しているとは言えません。ですので、あなたには月鈴国におられたときのように、豊穣神様へ祈りを捧げていただきたいのです」

「祈りを捧げる、ですか」

 食料事情の安定は、国の安定にも繋がる。宰相が最優先に考えるのは、至極当然のことだった。
 月鈴国では、これまで深刻な飢饉に陥ったことは一度もない。「やはり、豊穣神様のご加護があるからなのでしょう」と宰相は言う。

「妃嬪としてお願いしたい職務はそれだけですので、それ以外の時間は、凜月様のご希望通り後宮の庭園の管理の仕事をしていただけるよう手配いたします。ですが、庭園に関することは、掃除以外は女官ではなく宦官の担当でして」

 庭木の剪定や草むしりなどはできても、伐採や穴を掘ったり土砂の運搬などの力仕事は女では難しい。
 そのため、最初から宦官の担当と決められている。
 妃嬪の欣怡シンイーではなく宦官の子墨ズーモとして尚寝局に所属し、庭園管理の職務に従事されるのはどうか?とのこと。 
 凜月の希望も踏まえての提案であることは理解できた。
 しかし、宦官はともかく、なぜ巫女や女官ではなく後宮妃の必要があるのだろうか。
 
「女官では『祭祀』を行えないことが理由の一つ。それと、巫女様としてお迎えした場合は、いずれ地方へも出向いていただくことになります」

 月鈴国では巫女見習いが大勢居たため皆で交代して地方巡回を行っていたが、ここでは凜月一人しかいない。
 つまり、他の仕事をする時間がなくなるということ。
 
「妃嬪であれば、特別な事情でもない限りそう簡単に後宮の外へは出られません。それに、凜月様専用の宮をご用意できます」

 妃嬪と宦官に入れ替わるときに、相部屋では非常に都合が悪い。
 持ち物や衣裳も、二種類必要だ。

「凜月様には、妃嬪の一人として『祭祀』の一部の職務をお願いしたいのです。具体的には、月に一度、五穀豊穣を祈念した奉納舞を舞っていただくことですね」

 宰相によると、妃嬪たちにはその位によって果たすべき職務が定められているとのこと。
 凜月に求められているのは巫女としての仕事だけなので、真っ先に言われたことは「皇帝陛下のお通りはありませんので、ご安心ください」だった。
 どうやら、宰相は凜月と面会をする前に、皇帝へ話を通していたようだ。
 他国の人間を後宮に入れるのだから、当たり前と言えば当たり前のことだが。

「ただ、もし凜月様が陛下の寵愛を求められるのであれば、正式に遇することも可能でございます」

「いえいえ、そんな滅相もございません! 平民の私ごときが、畏れ多いです」

「そんな、ご謙遜を。あなたほどの器量でしたら、まったく問題はございません。後ろ盾もしっかりしておりますし……」

 お世辞だと思っていたが、宰相の目は意外と本気だった。
 凜月はついと視線をそらし、ホホホと笑ってごまかした。
 
 宰相から提示されたのは、正四品の『美人』という位。元孤児には高すぎる身分に、くらくらと眩暈めまいがした。
 もっと低い身分を!と言ってみたが、祭礼に携われるのは『美人』までであること。
 正五品以下だと個々の宮を賜れないとのことで、凜月はやむなく了承するしかない。
 
「宮には、口が堅く信用のおける者を配置いたします。宦官としての仕事のほうも、ご心配には及びません。尚寝局の尚寝(長官)には、上手く便宜を図らせますゆえ」

「よろしくお願いいたします」

(宰相様の権力って、すごい!)

 凜月は、今さらながら思ってしまった。
 何から何まで至れり尽くせりで、正直怖いくらいだ。

 
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