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第十一章 結婚
4 チャップ
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「おめでとう、アル。」
キュールが冗談で言ったドレスはさすがに着ていないが、スーツを着て少しお洒落をしているアルと、ガチガチに緊張した元護衛のチャップが並んで座っていた。
派手な式はしなくていいよとアルは断ったけれど、幸せそうな二人を祝福させてと、キュールは親しい人達を招いてパーティーを開いた。
ソニーやイグナートも招待され、お祝いの言葉を掛けた。
「おめでとうアル君、チャップ。学院の件では本当に、すまなかったね。怪我をさせてしまって。」
「もう、気にせんとってぇな。ほら、この通り、ぴんぴんやし、かえって、ええきっかけもろたようなもんやし。なあ?」
「……も…申し訳ありません……」
「もー、いややわ。チャップ!顔上げてほら。イグナートはんも怒っとらんよ。」
「宰相様に……イグナートはんって……アル…それは…どうかと……」
「大丈夫だ。気にしないぞ?チャップ。」
そう言われても益々縮こまるチャップ。
「何、部下苛めてんだよ、宰相殿は。」
「苛めてません。失礼な。それに、あなたは、招待されていないのでは?」
「何?ケンカ売ってるのか?」
「テオ!」
ソニーが止めに入る。
「もうイグナートの部下じゃないからって、いちいち突っ掛からないでよ。それに、テオは俺が呼んだの。」
「ブラックな職場を辞められて清々しているのに、いやな顔を見たからさ……」
「テオ。」
「嫌なら来るなよ。」
「イグナートも…」
「あらあら、どうしたの?痴話喧嘩?」
「キュールさん……それはないですからぁ……」
「ん?」
キュールがソニーの顔をじっと見る。
「キ、キュールさん…?……」
「ちょっと屈んで、顔見せて。」
言われた通り顔を近付ける。
「何?俺の顔、変?」
見ているのは瞳…
「あっ!」
ソニーは以前アルに先読された時の事を思い出し、身体を起こしてキュールの視線から離れる。
……やばっ……キュールさんって……
「ふ~ん。」
なんだか納得したように頷くキュール。
「そうか、そうか。後でマックに聞こうっと…」
何が?何をです?とそこにいた人達はキュールの行動を不思議に思う。ソニーだけが渋い顔で去っていくキュールを見つめていた。
賑やかな人混みを避けて、ソニーは広い庭を歩く。一緒にテオもついてきた。コノセルギアから帰国してからのドタバタを振り返って考える。
「こんな日が来るなんて。」
「どうした?孫の結婚がそんなに嬉しいか?」
「ぶっ!」
「誰が聞いてるかわからないのに、やめろよ。」
「すまんな、口が軽くて。」
「お前も、色々あったんだよな。」
「ん……?どうした?泣いているのか?」
「泣いてないよ。」
ソニーは頭をポンポンと撫でられ、行き場のない感情をつい吐き出した。
「…俺は……このまま……ここにいて…いいのかな…」
「アーネスが即位するまでは見守るんだろ?その後は…そうだな俺と旅にでも出るか?…それに、寂しいなら、マックに言えばいいのに……お父さんと呼んでくれって。」
「言えないよ。」
「案外……」
「なに?」
「いや……なんでもない。」
案外……知ってるんじゃないの?とテオは言いかけた。しかし、これは言うべき言葉ではない………
実際マックはエミリアから聞いてソニーが自分の父、マークスであると知っている。だが、同時にエミリアと約束したのだ。マークスがソニーとして生きるなら、マークスは死んだものとして、親子の名乗りを上げないことを。
マックは、アル達の側からから少し離れた場所でテオと話すソニーを目で追っていた。
遠くから彼を見ながらマックは考える。
すぐそばに……死んだと思っていた実の父がいる…父に俺はマークスの子であると、マークスは既に死んだと聞かされた時も、エミリアにソニーがマークスであると聞かされた時も、感情が嵐のように渦をまいて、苦しかった。だが、黙って見つめるだけしかできない今も、辛い…何度も「お父さん!」と言って、抱きつきたいと思った。だが、全てを明らかにした時の周りに与える影響力を考えると自分一人の感情で、衝動で動くことはできない。
初めて会った日……まだ、マークスだとは知らされていなかった日。イグナートに頼まれソニーを探るために触れた感触を覚えている。あの時は知らなかった故に躊躇なく近寄れた。だが、父であることを知った今は、触れる事をためらう自分がいる。俺の行動が、全てをぶちまけ、争いの渦に大切な人達を巻き込みかねない………それはダメだよ………
先ほどはキュールがソニーに何か言っていたけど、何を言ったのかな?何か先読したのかな?と気になった。
「キュール、ちょっといい?」
マックは妻を連れて、キッチンへ行く。飲み物を追加したかったから、丁度いい。
「何?マック。」
「さっきソニーに何言ったの…」
「あ、あれ…前に話したことあったでしょ?金の輪。」
「ん?何だっけ?」
キュールはちょっと笑ってマックの腰に抱き付く。マックの半分の身長しかないので、百歳を越えた今も妻の抱き付く姿は子どものようである。自然と頭を撫で、抱き上げ、目線を合わせた。
「あなたと出会った時のことよ。」
「プロポーズの時は、指輪は持ってなかったはずだよ。」
「ううん。あなたは最初から金の輪をその瞳に持っていたの。」
「瞳……あ、思い出した。そうだ、ずいぶん前に、話してくれた…あれ、今も見えるの?」
「ええ。見える。……それでね、出会った時は、運命の人だから、私にだけ見えると、思っていたの。」
その話を聞いた時は、マックは自分の瞳を鏡で見詰めたが、全くそんなものは見えなかった。
「あれからね、他にも見えた人がいたの。」
マックはドキッっとした。
………他にもいるの?キュールの運命の人じゃなかったの俺?……
「え、え、…俺、キュールに振られちゃうのぉ……?」
「やだ、そんな訳ないわよ。運命とか、関係無かったのね、でも私はそう信じたかったし、マックを愛しているのは変わらないわ。」
ふふ、キュールは笑って言った。
「お、俺も、愛しているよ。」
少し、しまらないが、マックもキュールにささやいた。
「このままキスしたいところだけど、話をもどすわね。金の輪が見えた人、誰だと思う?」
「俺の知ってる人だよね?この流れなら、ソニーにも見えたとか……」
「そう。見えたの。それからね、ずいぶん前にね見えた人がもう一人います。」
「もう一人?」
マックは何となく想像がついた。
……俺、ソニーと来たら、そうだよな……でも……?キュールは会ったことある?……
「おじいちゃま。」
「……じぃじ?」
「違う。名前も知らないけど、公園で何度か会ったおじいちゃま。」
………やっぱり………グレイだよそれ………でも言えないよ……
「ふ……う~ん……公園のおじいちゃんじゃ、誰だかわからないね……」
明らかに、動揺しているマックに、キュールは分かってしまった。この三人は縁があるのだと。それが何かは言えないのだと。
「……ま、それでね、どうしてかなぁ~と思って、マックに聞こうと思っていたのよ。」
「え~あ~う~ん」
夫の不思議な言動を楽しみつつ、キュールは下に下ろしてもらう。
「ソニーが隠し子じゃ無さそうで、よかったわ。」
「か、隠し子!?ないないないぃぃ~い」
「だって、髪の色とか、目の色とか?」
「だって、ほら、それは、あの……」
「ふふふ、ばかね、冗談よ。だって、彼、あなたが生まれるより前に生まれてるのよ?百四十年前に二十歳だったって、よく考えたらあり得ないって分かる…………あ、逆なら、ありえる…のか……あれ…あれれ?」
ああ、あ、やっちまったな………動揺するマック。
「……!……」
頭を抱えて座り込む。その姿がもう、すでに肯定していた。それをキュールが呆然と眺めていた。
「ええ!?ホント?」
ここにいたのがイグナートなら、そんなことありません、と、さらっと流せたかもしれない。でも、マックにはそんな芸当できません。
「誰にも……言わないでね。」
プルプル涙目になったマックに約束させられたキュールでした。
キュールが冗談で言ったドレスはさすがに着ていないが、スーツを着て少しお洒落をしているアルと、ガチガチに緊張した元護衛のチャップが並んで座っていた。
派手な式はしなくていいよとアルは断ったけれど、幸せそうな二人を祝福させてと、キュールは親しい人達を招いてパーティーを開いた。
ソニーやイグナートも招待され、お祝いの言葉を掛けた。
「おめでとうアル君、チャップ。学院の件では本当に、すまなかったね。怪我をさせてしまって。」
「もう、気にせんとってぇな。ほら、この通り、ぴんぴんやし、かえって、ええきっかけもろたようなもんやし。なあ?」
「……も…申し訳ありません……」
「もー、いややわ。チャップ!顔上げてほら。イグナートはんも怒っとらんよ。」
「宰相様に……イグナートはんって……アル…それは…どうかと……」
「大丈夫だ。気にしないぞ?チャップ。」
そう言われても益々縮こまるチャップ。
「何、部下苛めてんだよ、宰相殿は。」
「苛めてません。失礼な。それに、あなたは、招待されていないのでは?」
「何?ケンカ売ってるのか?」
「テオ!」
ソニーが止めに入る。
「もうイグナートの部下じゃないからって、いちいち突っ掛からないでよ。それに、テオは俺が呼んだの。」
「ブラックな職場を辞められて清々しているのに、いやな顔を見たからさ……」
「テオ。」
「嫌なら来るなよ。」
「イグナートも…」
「あらあら、どうしたの?痴話喧嘩?」
「キュールさん……それはないですからぁ……」
「ん?」
キュールがソニーの顔をじっと見る。
「キ、キュールさん…?……」
「ちょっと屈んで、顔見せて。」
言われた通り顔を近付ける。
「何?俺の顔、変?」
見ているのは瞳…
「あっ!」
ソニーは以前アルに先読された時の事を思い出し、身体を起こしてキュールの視線から離れる。
……やばっ……キュールさんって……
「ふ~ん。」
なんだか納得したように頷くキュール。
「そうか、そうか。後でマックに聞こうっと…」
何が?何をです?とそこにいた人達はキュールの行動を不思議に思う。ソニーだけが渋い顔で去っていくキュールを見つめていた。
賑やかな人混みを避けて、ソニーは広い庭を歩く。一緒にテオもついてきた。コノセルギアから帰国してからのドタバタを振り返って考える。
「こんな日が来るなんて。」
「どうした?孫の結婚がそんなに嬉しいか?」
「ぶっ!」
「誰が聞いてるかわからないのに、やめろよ。」
「すまんな、口が軽くて。」
「お前も、色々あったんだよな。」
「ん……?どうした?泣いているのか?」
「泣いてないよ。」
ソニーは頭をポンポンと撫でられ、行き場のない感情をつい吐き出した。
「…俺は……このまま……ここにいて…いいのかな…」
「アーネスが即位するまでは見守るんだろ?その後は…そうだな俺と旅にでも出るか?…それに、寂しいなら、マックに言えばいいのに……お父さんと呼んでくれって。」
「言えないよ。」
「案外……」
「なに?」
「いや……なんでもない。」
案外……知ってるんじゃないの?とテオは言いかけた。しかし、これは言うべき言葉ではない………
実際マックはエミリアから聞いてソニーが自分の父、マークスであると知っている。だが、同時にエミリアと約束したのだ。マークスがソニーとして生きるなら、マークスは死んだものとして、親子の名乗りを上げないことを。
マックは、アル達の側からから少し離れた場所でテオと話すソニーを目で追っていた。
遠くから彼を見ながらマックは考える。
すぐそばに……死んだと思っていた実の父がいる…父に俺はマークスの子であると、マークスは既に死んだと聞かされた時も、エミリアにソニーがマークスであると聞かされた時も、感情が嵐のように渦をまいて、苦しかった。だが、黙って見つめるだけしかできない今も、辛い…何度も「お父さん!」と言って、抱きつきたいと思った。だが、全てを明らかにした時の周りに与える影響力を考えると自分一人の感情で、衝動で動くことはできない。
初めて会った日……まだ、マークスだとは知らされていなかった日。イグナートに頼まれソニーを探るために触れた感触を覚えている。あの時は知らなかった故に躊躇なく近寄れた。だが、父であることを知った今は、触れる事をためらう自分がいる。俺の行動が、全てをぶちまけ、争いの渦に大切な人達を巻き込みかねない………それはダメだよ………
先ほどはキュールがソニーに何か言っていたけど、何を言ったのかな?何か先読したのかな?と気になった。
「キュール、ちょっといい?」
マックは妻を連れて、キッチンへ行く。飲み物を追加したかったから、丁度いい。
「何?マック。」
「さっきソニーに何言ったの…」
「あ、あれ…前に話したことあったでしょ?金の輪。」
「ん?何だっけ?」
キュールはちょっと笑ってマックの腰に抱き付く。マックの半分の身長しかないので、百歳を越えた今も妻の抱き付く姿は子どものようである。自然と頭を撫で、抱き上げ、目線を合わせた。
「あなたと出会った時のことよ。」
「プロポーズの時は、指輪は持ってなかったはずだよ。」
「ううん。あなたは最初から金の輪をその瞳に持っていたの。」
「瞳……あ、思い出した。そうだ、ずいぶん前に、話してくれた…あれ、今も見えるの?」
「ええ。見える。……それでね、出会った時は、運命の人だから、私にだけ見えると、思っていたの。」
その話を聞いた時は、マックは自分の瞳を鏡で見詰めたが、全くそんなものは見えなかった。
「あれからね、他にも見えた人がいたの。」
マックはドキッっとした。
………他にもいるの?キュールの運命の人じゃなかったの俺?……
「え、え、…俺、キュールに振られちゃうのぉ……?」
「やだ、そんな訳ないわよ。運命とか、関係無かったのね、でも私はそう信じたかったし、マックを愛しているのは変わらないわ。」
ふふ、キュールは笑って言った。
「お、俺も、愛しているよ。」
少し、しまらないが、マックもキュールにささやいた。
「このままキスしたいところだけど、話をもどすわね。金の輪が見えた人、誰だと思う?」
「俺の知ってる人だよね?この流れなら、ソニーにも見えたとか……」
「そう。見えたの。それからね、ずいぶん前にね見えた人がもう一人います。」
「もう一人?」
マックは何となく想像がついた。
……俺、ソニーと来たら、そうだよな……でも……?キュールは会ったことある?……
「おじいちゃま。」
「……じぃじ?」
「違う。名前も知らないけど、公園で何度か会ったおじいちゃま。」
………やっぱり………グレイだよそれ………でも言えないよ……
「ふ……う~ん……公園のおじいちゃんじゃ、誰だかわからないね……」
明らかに、動揺しているマックに、キュールは分かってしまった。この三人は縁があるのだと。それが何かは言えないのだと。
「……ま、それでね、どうしてかなぁ~と思って、マックに聞こうと思っていたのよ。」
「え~あ~う~ん」
夫の不思議な言動を楽しみつつ、キュールは下に下ろしてもらう。
「ソニーが隠し子じゃ無さそうで、よかったわ。」
「か、隠し子!?ないないないぃぃ~い」
「だって、髪の色とか、目の色とか?」
「だって、ほら、それは、あの……」
「ふふふ、ばかね、冗談よ。だって、彼、あなたが生まれるより前に生まれてるのよ?百四十年前に二十歳だったって、よく考えたらあり得ないって分かる…………あ、逆なら、ありえる…のか……あれ…あれれ?」
ああ、あ、やっちまったな………動揺するマック。
「……!……」
頭を抱えて座り込む。その姿がもう、すでに肯定していた。それをキュールが呆然と眺めていた。
「ええ!?ホント?」
ここにいたのがイグナートなら、そんなことありません、と、さらっと流せたかもしれない。でも、マックにはそんな芸当できません。
「誰にも……言わないでね。」
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