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黒の国の王子

王宮騎士物語 第60話 国境

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「その、従者がソリューシスなんだね?」
  ソリューシスは頷き、話を続ける。
  隣国へ逃れたソリューシスはクローディリアの双子の姉クレッセリアにクロードを預けるように指示されていた。しかし、どこに住んでいるとも聞かされず、落ち合う場所もわからない。見つからないように陽が落ちてから慎重に、しかし素早く移動した。赤子を連れての移動は難しいかと思ったが、クローディリアの用意した産衣にくるまれたクロードは泣きもせず、眠り続けた。
  国境を越えた時、ソリューシスが脱出するタイミングに合わせたように、クレッセリアが出迎えてくれた。不思議な事に、国境を越えた瞬間にクロードが泣き出し、クレッセリアが現れたのだ。クローディリアとクレッセリアの間に何らかの伝達方法があったのだろう。クレッセリアに抱かれたクロードは一頻り泣いた後、疲れたのか泣き声が徐々に弱まりすやすやと眠りについた。クレッセリアがその間、優しく声を掛け、よしよし、と身体を揺する。そして、国境に近い村に一先ず入った。
  国境沿いの幾つかの村には、シャノアから渡って来た者を保護し、手助けするために村に溶け込み生活している者がいる。偽の出生証明書と身分証を準備する間、ソリューシスは言葉や習慣を学んだ。
  言葉を教えてくれたキユと名乗る人は、シャノアから脱出してくる人は大体二通りで、いずれも普通に暮らしたいという願いを持って国境を越えるのだと、教えてくれた。魔力が全くない人も、魔力が多過ぎる人も。
  魔力の多さ強さで国王が決まってしまう国に、クレッセリアの様に強い力を持つ者がいれば争いを引き起こしただろう。過去、強い能力を持つ者が生まれた家系は、神殿で能力を調べる名付けの儀式の前に、こっそり魔道具を使って調べ、魔力の量によっては、見つかる前にこっそり隣国に逃がすのだ。彼女のように平民の中にたまに出てくる強い因子は刈り取られる。表に出てこないだけで、王族の命令で、捕らえられ、始末されてきた。
  脱出してきた人々は、少しずつ各地に移動して協力し合って暮らしている。
  そして、ソリューシスもまた、シャノアには戻れない。彼らと同じように村で生活するか、ほかの土地に旅立つか選ばねばならなかった。

「それで?」
クロードは尋ねたが、目の前の男が近衛騎士隊長であったことから、村に留まることはなかったのだろうと理解していた。
「クレッセリアと一緒に国境沿いの別の村へ移動すると、君を育てたホアンとシルバーアールが待っていたんだ。」
「シルバーアール!?」
第七部隊の上司の名前が出てきた事にビックリした。
「そう。シルバーアール。彼は私を王都へ連れて行ってくれた。」
  魔力持ちであるソリューシスはシルバーアールの実験に協力していたのか……とクロードは思う。
「強烈だよね、あの人……」
「彼はクレッセリアに頼まれて魔石を調達し、私のような訳ありの身元引き受けもしてくれた。おかげで騎士にもなれたし、恩人だよ。」
  クロードは、いつも身に付けていた石にシルバーアールが関わっていたと知った。
「じゃあ、シルバーアールは俺がシャノアから来たことも知っていたんだ……」
ソリューシスは頷いた。
「ただ、すぐには気が付かなかったそうだよ。よっぽど石の守りの力が強かったんだね………そうそう、一度だけ、守りの石を手放した事があったよね。」
ソリューシスの言葉に首を捻るクロード。
「十年くらい前……助けを呼んだろ?その時、君の膨大な魔力を感知され、この国に入っていた密偵がシャノアに報告した。」
「あ………石を……ハンスに………」
クロードは子どもの頃、ベルタを救いに行く時に狼避けに石をハンスの首にかけた事を思い出した。そうだ、あの時だ。
「じゃあ、あの時から、俺は監視されてた…?」
「障壁があるからすぐには手出しが出来なかったようだ。それに森の魔女が守っていたからね。」
「障壁……」
障壁…魔女…国境……何か記憶に引っ掛かる。
「そうか、あれは、国境に障壁を作っていたのか。」
  クロードが幼いとき、山中で森の魔女を見掛けた時、何か小さな物を地中に埋めていた。
「結界…維持していたのか。」
「そう。昔からシャノアを逃れて国境を越えた人々を守るため、力の強い者達が協力して作り上げてきた。特に、彼女の代になってからは強力な障壁が完成した。それは、君と娘を守るため…」
「娘…?」
「……その話はまた後で。」
「えー!魔女に娘がいるの!?」
クロードが叫んだ。

  
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