上 下
115 / 159
お仕事の時間ですよ 3

+王宮騎士物語 第31話

しおりを挟む
  謁見の間にて、同盟国大使は自国の王からの書簡を取り出し、側付きに手渡す。王女は王弟と共に王の隣に静かに座り、微笑んでいた。王は書簡を確認し、目の前の大使に尋ねた。それに対して、自国の王子との婚約を考えてもらえないかとのこと。また、自国に招待しもてなしたいと。
「あ~すまない。」
  話の途中で、王弟が口を挟む。明らかにムッとした表情の大使であったが、目の前の王弟に何も言えず、会話を一旦止めて、黙った。
「王女の体調が優れない。」
王は心配そうに振り返り頷いた。
「ソフィーナ疲れただろう、もう後は良いから、退出しなさい。」
その声に侍女が駆け寄った。
「申し訳ない、日を改めさせて頂きます。」
同席していた王弟の声で、侍女が手を取り立ち上がる。
「ソフィーナ、手を。」
すかさず王弟も立ち上がり、王女を導き、優雅に歩き始める。
「お、お兄様……」
王弟がにっこりと頷き、手を引く。
  避暑地で王女は体調を崩して、しばらく城に戻らなかった。公務のある王は城から離れられず、心配して弟を迎えに出した。王弟と共に城に帰った王女の体調は不安定で、公務も制限している。
  謁見の間を出ると王弟が聞いた。
「エリーの様子はどうだい?」
「臥せったままですわ。」
城に戻る途中に原因不明の熱病にかかり、寝込んでしまったエリーは王宮の医師が治療にあたっている。
「エリーの両親が面会を求めておりますが、いかがなさいますか?」
「意識はなくとも、会いたいでしょう。私も同席いたしますので、手配をお願いします。」
王女が伏せ目がちに指示を出す。
「顔を上げて……」
王弟が耳元で、ささやく。はっとし、顔を上げ姿勢を正すソフィーナ。
「どこで誰が見ているかわからないからね。」
小さくささやく、その声に、頷く王女。
「はい。お兄様。」

  王女を救出し、避暑地で治療を続けたが、目を覚まさず眠り続け、医師達は王女の体に管を繋ぎ、延命措置を行った。マリーは、この世界にも医療技術があることに驚いたが、魔術師の少ないこの国は独自の医療技術が発達したという。まだまだ、一般には普及していない最先端の技術だ。マリーの前世の記憶からしたら、当たり前の医療技術や処置が、この世界では、誰も見たことのない技術であり、通用しないことが多い。それでも、王女の命をつなぐ不思議な装置を不審の目でみる近衛騎士達。王女に変なものをつけるな!と医師達に食って掛かった者もいた。だが、マリーの、王女を助けるためです、医師達に従って下さい。のお願いに納得しないながらも引き下がった。
「ソフィーナ様の様子はどうですか?」
医師は首を振る。
「大きな怪我はないのが幸い。だが、目が覚めない。」
「そうですか……」
王に知らせを出し、王弟が迎えに来た。王からの指示はマリーが王女の身代わりとなり、城まで戻るというもの。まだ、王女が目覚め無いことを秘密にするというのだ。

「エリー、辛くはないかい?身代わりなど頼んでしまったが、私は本当の事を発表した方がいいと思っているんだよ。」
王弟はマリーを気遣い、優しく声を掛ける。マリーは自分を全ての人がエリーと呼ぶ訳が解らなかったが、ドラマと違う行動を取った自分が、ストーリーに何らかの影響を与えたと、考えるようになった。夢の中にエリーは現れず何が起こっているのか聞けずにいた。
「いいえ、ソフィーナ様は目覚めます、必ず!信じています!」
「だが、いつまでも、騙せはしないよ。既に怪しんでいる貴族達もいるようだよ?」

  王女をいつまで演じればいいのか、どう決着するのか……クロードサイドは物語通りに進んでいるのか………ハンスはどこへ行ったのか。王弟の物語とは違った行動を不安に思うが、現状、城の中で頼れるのは彼なのである。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

男女比崩壊世界で逆ハーレムを

クロウ
ファンタジー
いつからか女性が中々生まれなくなり、人口は徐々に減少する。 国は女児が生まれたら報告するようにと各地に知らせを出しているが、自身の配偶者にするためにと出生を報告しない事例も少なくない。 女性の誘拐、売買、監禁は厳しく取り締まられている。 地下に監禁されていた主人公を救ったのはフロムナード王国の最精鋭部隊と呼ばれる黒龍騎士団。 線の細い男、つまり細マッチョが好まれる世界で彼らのような日々身体を鍛えてムキムキな人はモテない。 しかし転生者たる主人公にはその好みには当てはまらないようで・・・・ 更新再開。頑張って更新します。

美幼女に転生したら地獄のような逆ハーレム状態になりました

市森 唯
恋愛
極々普通の学生だった私は……目が覚めたら美幼女になっていました。 私は侯爵令嬢らしく多分異世界転生してるし、そして何故か婚約者が2人?! しかも婚約者達との関係も最悪で…… まぁ転生しちゃったのでなんとか上手く生きていけるよう頑張ります!

【全話挿絵】発情✕転生 〜何あれ……誘ってるのかしら?〜【毎日更新】

墨笑
ファンタジー
『エロ×ギャグ×バトル+雑学』をテーマにした異世界ファンタジー小説です。 主人公はごく普通(?)の『むっつりすけべ』な女の子。 異世界転生に伴って召喚士としての才能を強化されたまでは良かったのですが、なぜか発情体質まで付与されていて……? 召喚士として様々な依頼をこなしながら、無駄にドキドキムラムラハァハァしてしまう日々を描きます。 明るく、楽しく読んでいただけることを目指して書きました。

【完結】契約結婚は円満に終了しました ~勘違い令嬢はお花屋さんを始めたい~

九條葉月
ファンタジー
【ファンタジー1位獲得!】 【HOTランキング1位獲得!】 とある公爵との契約結婚を無事に終えたシャーロットは、夢だったお花屋さんを始めるための準備に取りかかる。 花を包むビニールがなければ似たような素材を求めてダンジョンに潜り、吸水スポンジ代わりにスライムを捕まえたり……。そうして準備を進めているのに、なぜか店の実態はお花屋さんからかけ離れていって――?

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

処理中です...