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お仕事の時間ですよ 3
王宮騎士物語 30 黒の国 5
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シャノアの成人年齢は十五歳。ヨークラウデンは十五歳の誕生日に即位した。
何度も命を狙われたが、膨大な魔力量で自在に操る魔術により、護衛が必要ないほどの強さで襲撃者を撃退し、危なげなく即位の日を迎えた。
次はお妃をとの声に、候補選びに熱が入り、舞踏会が定期的に開かれる。
娘を売り込もうと挨拶の列が続き、始終穏やかな笑顔の若い王は名乗りを聞き多少の会話を交わすのみ。一度もダンスに参加しなかった。
その日も挨拶の長い列が消え、王が席を立った。
「飲み物を用意いたしましょう。」
「ああ、今日は少し歩きたい。庭園がいいな。」
侍女が下がり、王は侍従を連れて歩き出す。
つまらない……どうして皆、妃、妃と言うのだろう……ため息がでた。
「王、ご一緒してもよろしいでしょうか?」
馴染みの声が聞こえた。
「ああ、サアラ、来ていたのか。」
「今日も、いい娘はいなかったようだな。」
「そんなに、妃になりたいのかなあ。」
「そりゃ、そうでしょ。」
庭園に出ると涼しい風が吹いてきた。花の香りに、なつかしさがこみあげてくる。
「ソウジュ家の庭園は見事だったよな。」
「母が好きだったからな。この庭園も母が作らせたとか……」
「それで……」
懐かしく感じるのは、そのためか……小さいサアラと遊ぶ小さな自分。美しい花を時間を気にせず、いつまでも見ていた昔を思い出す。第一王子という肩書きはあれど、背負う物は今ほどなかった。一日遊んで、お腹一杯食べて、寝て……目の奥が熱い。まだ十五歳なのに……王とは、こんなに不自由なものなのか。この先こんな重苦しい日々が何十年続くのか。
「…何も…ない……」
心が冷えて、何もいらない。何もしたくない。このまま石にでもなって、風に揺れる花を見ていようか。心がざわついた。
「準…備ができました。こ…こちらへ…どうぞ。」
緊張しているのか辿々しく話す侍女が二人を四阿に導く。侍従は少し離れて控えている。侍女がポットから注ぐ紅茶の香りが届いた。
「……いい香り……」
「そうだろうとも。ソウジュ家から、持ってきた茶葉だよ。久しぶりだろう?楽しもう。」
「ああ、この香り。なつかしい。これは君の家でしか飲んだことがないな、特別なお茶なのか?」
「料理長がブレンドしたものだからな。馴れていない者はこの香りを引き出せない。」
「え?」
「うちの侍女しか、淹れられない。ほら、彼女は料理長の娘で、屋敷で働いてもらってる。母が亡くなって枯れてしまった庭園も彼女が来てから復活したよ。」
「お、おかわりを…?」
声の方を見たヨークラウデンは小さく声をあげる。
「あっ………」
黒い癖っ毛は結い上げられ、白い前掛けを着けた侍女……その顔に見覚えがあった。
一瞬にして、脳裏に浮かぶソウジュ家の庭園。風、香り、光、肌に感じる陽の暖かさ。そして、花の中にいる少女。
「とても美味しい紅茶です。ありがとう。……あなたには…一度、お会いしましたね。」
ニッコリ笑ってヨークラウデンが話しかけると、プルプル首を振った。
「クローディリア、失礼だぞ。」
「は、初めてお目にかかります。クローディリアと申します。」
……二度目の出会い。ヨークラウデンは彼女に惹かれ、サアラにまた彼女を連れてきて欲しいとこっそり、頼んだ。
何度も命を狙われたが、膨大な魔力量で自在に操る魔術により、護衛が必要ないほどの強さで襲撃者を撃退し、危なげなく即位の日を迎えた。
次はお妃をとの声に、候補選びに熱が入り、舞踏会が定期的に開かれる。
娘を売り込もうと挨拶の列が続き、始終穏やかな笑顔の若い王は名乗りを聞き多少の会話を交わすのみ。一度もダンスに参加しなかった。
その日も挨拶の長い列が消え、王が席を立った。
「飲み物を用意いたしましょう。」
「ああ、今日は少し歩きたい。庭園がいいな。」
侍女が下がり、王は侍従を連れて歩き出す。
つまらない……どうして皆、妃、妃と言うのだろう……ため息がでた。
「王、ご一緒してもよろしいでしょうか?」
馴染みの声が聞こえた。
「ああ、サアラ、来ていたのか。」
「今日も、いい娘はいなかったようだな。」
「そんなに、妃になりたいのかなあ。」
「そりゃ、そうでしょ。」
庭園に出ると涼しい風が吹いてきた。花の香りに、なつかしさがこみあげてくる。
「ソウジュ家の庭園は見事だったよな。」
「母が好きだったからな。この庭園も母が作らせたとか……」
「それで……」
懐かしく感じるのは、そのためか……小さいサアラと遊ぶ小さな自分。美しい花を時間を気にせず、いつまでも見ていた昔を思い出す。第一王子という肩書きはあれど、背負う物は今ほどなかった。一日遊んで、お腹一杯食べて、寝て……目の奥が熱い。まだ十五歳なのに……王とは、こんなに不自由なものなのか。この先こんな重苦しい日々が何十年続くのか。
「…何も…ない……」
心が冷えて、何もいらない。何もしたくない。このまま石にでもなって、風に揺れる花を見ていようか。心がざわついた。
「準…備ができました。こ…こちらへ…どうぞ。」
緊張しているのか辿々しく話す侍女が二人を四阿に導く。侍従は少し離れて控えている。侍女がポットから注ぐ紅茶の香りが届いた。
「……いい香り……」
「そうだろうとも。ソウジュ家から、持ってきた茶葉だよ。久しぶりだろう?楽しもう。」
「ああ、この香り。なつかしい。これは君の家でしか飲んだことがないな、特別なお茶なのか?」
「料理長がブレンドしたものだからな。馴れていない者はこの香りを引き出せない。」
「え?」
「うちの侍女しか、淹れられない。ほら、彼女は料理長の娘で、屋敷で働いてもらってる。母が亡くなって枯れてしまった庭園も彼女が来てから復活したよ。」
「お、おかわりを…?」
声の方を見たヨークラウデンは小さく声をあげる。
「あっ………」
黒い癖っ毛は結い上げられ、白い前掛けを着けた侍女……その顔に見覚えがあった。
一瞬にして、脳裏に浮かぶソウジュ家の庭園。風、香り、光、肌に感じる陽の暖かさ。そして、花の中にいる少女。
「とても美味しい紅茶です。ありがとう。……あなたには…一度、お会いしましたね。」
ニッコリ笑ってヨークラウデンが話しかけると、プルプル首を振った。
「クローディリア、失礼だぞ。」
「は、初めてお目にかかります。クローディリアと申します。」
……二度目の出会い。ヨークラウデンは彼女に惹かれ、サアラにまた彼女を連れてきて欲しいとこっそり、頼んだ。
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